元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十六部:領主になること

王都と領地の話し合い

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「ダヴィド殿、ご無沙汰しております」
「エルネスト殿も元気そうで」
 俺は化身アバターをエウロードの屋敷に残し、トゥーリアに乗って王都に戻った。そこで異空間を使って使用人たちを一度王都に集めた。
「ふわ~、大きいです」
 クラリスが驚いている。その後ろからも「お~」とか「凄いなあ」と聞こえてくる。
 敷地に関してはエウロードもかなり広い。でも屋敷の大きさが違う。最初から屋敷の中に案内するのも考えたけど、一度敷地を見せておこうと思って屋敷の前に出るようにした。
「ダヴィド、一度ブランシュやパトリス、セリア、エルネストと一緒に、使用人をどのように回すかを一度話し合ってくれ。俺はそこで決まったことについては文句は言わない」
「畏まりました。それでは他の使用人についてはどうなさいますか?」
「残りは俺が屋敷の外と中を案内する」
「承知しました。ではエルネスト殿はこちらへ」
「はい。では旦那様、また後ほど」
 エルネストはダヴィドと一緒に屋敷の中に入っていった。
「それじゃあ屋敷の外から案内する。まずはあちらの端だ」
 最初は庭の端、トゥーリアのねぐらのあるあたりだ。ここにいるのはエルネスト以外の使用人ということになる。
 馬番の夫婦と門番五人は王都で働くつもりは全くないそうなので、単なる見学会ということになっている。ちなみに門番たちは兵士を引退した者たちが務めるらしく、日本で例えるなら定年後の再雇用制度のようなものだった。
 それでよくこれまで屋敷を守れたものだと思ったら、優秀な門番は悪いことについても優秀だったらしく、子爵と一緒に捕縛されたそうだ。だから残った彼らは真面目に勤め上げた者たちで、善良なのは間違いないそうだ。
 その門番たちは今日のところは家族同伴でやって来ている。王都で仕事をすることがないなら、なかなかこの屋敷を見る機会はない。それくらいはいいだろうと俺が提案した。
「旦那様、この穴は?」
「これは先ほどいたトゥーリアのねぐらだ。彼女はこうやって穴を掘るのが好きで、こうやって穴の中で寝るか、たまに外に出てそのあたりで寝ている」
「女の子だったんですね」
「女の子というか女性だ。たしか六〇〇歳は超えていたはずだ」
 そのまま敷地の西際を歩き、屋敷の横を通って裏に回る。このあたりには従魔たちの家がある。
「手前からスキュラたちの家、アラクネたちの家、そしてセイレーンたちの家になる。食事は使用人たちと同じもので、運ぶのはそこにいるナディアだ」
 ちょうどナディアがこっちに向かって来たので紹介することにした。
「ナディア、領地の方から来た使用人とその家族だ」
 俺がそう説明するとナディアは頭を下げた。
「ナディアです。この屋敷でメイドをしながら旦那様の従魔をしています」
「旦那様の従魔ですか?」
 ナディアの言葉を聞いてシビーユが理解できないという顔をした。他のみんなもそうだ。まあそうだろうな。
「ナディアが人間なのは間違いないが、魔物の血を引いている。だからうっかり間違って俺の従魔になってしまった。だから使用人と従魔の繋ぎ役という立場を与えている」
「そんなことがあるんですね」
「それがあるらしい。珍しいケースらしいな」
「私はレアケースなのです」
 ナディアは胸を張るけど、いい話ではないからな。
「俺がエウロードを生活拠点にすれば従魔たちも向こうに行くからナディアも向こうに行くことになる。顔を合わせることになるから覚えてやってくれ」

「それでナディアは何をしていたんだ?」
「そうですそうです。アシュリーちゃんたちが大きくなったので報告をしておこうと。見てびっくりするかもしれませんので」
「大きくなった……ってあれか?」
「そうですそうです。五〇センチを超えました」
 俺たちが話しているのが聞こえたのか、スキュラとアラクネたちがぞろぞろと集まってきた。そしてプールの方からはタコが飛んできた。全部で五匹。間違いなくアシュリーたちだ。
「大きくなったな。この前まで親指くらいだったのに」
「「「(コクコク)」」」
 さすがに喋るのは無理か。そう思っていたらアリエーナがアシュリーを手に止まらせた。
「マスター、アシュリーたちはスミを吐けるようになりました。そのスミが染め物にちょうどいいことが分かりましたので報告いたします」
「スミ? ということは黒く染まったのか?」
「はい。これまでは私たちが黒い糸を出して、それを使って黒い布を織っていましたが、彼女たちのスミは後からでも染めることができました」
「ほほう、黒は難しいからな」
 糸や布を染めるにしても色々な染め方がある。ただここでは天然素材を使って染めているから、真っ黒に染めるというのはほぼ不可能に近い。だから何度も何度も染めてできるだけ濃くする。その分だけ手間暇がかかるから値段も当然高くなる。だから濃い色ほど値段が高くなる。だから貴族しか着ない。
 庶民が着るのは染めてないものが多く、染めてあってもせいぜい一回か二回、軽めに染めた布で仕立てた服が多い。薄いピンクや緑、青など、植物を使って染められたものばかりだ。しかも洗えば自然と色が抜ける。そのうちほとんど生成りの色に戻る。
「それはどんな素材でも染められるのか?」
「いくつかアシュリーたちと試してみましたが、木綿、麻、亜麻、絹、羊毛は染まりました。染めてから彼女たちが吐き出した透明な液体で洗うと落ちなくなりました。どうも色止め効果があるようです」
 そう言いながらアリエーナが出したのは真っ黒な布。たしかに全部手触りが違う。どれもアリエーナたちが出したいとじゃない。アラクネの糸は非常になめらかで肌触りがいい。
「それなら……アシュリーたちは今後は布を染める仕事をしてほしい」
「「「(コクコク)」」」
 頷きながら赤くなった。やるべきことがあって嬉しいんだろう。一方で少し浮かない表情をしているのがスキュラたちだ。何となく理由は分かる。
「アルベルティーヌ」
「はい」
「お前たち五人には領地の方に引っ越したらやってもらいたいことがある」
「「「‼‼‼‼‼」」」
 アラクネたちには糸を出して布を織るという仕事がある。セイレーンたちもこの屋敷ではやることがないのは同じだけど、アラクネたちには特に固有スキルが少ない。
「まずは定期的にダンジョンを散策して魔物を狩ること。これによってセレンの町の被害が減らせる」
「前に潜った時と同じですね」
「まああの時は暴走スタンピードの最中だったから魔物が多かった。普段はそこまで多くはないはずだけど、たまに一番底まで掻き回さないと魔素マナが澱む。俺と一緒にダンジョンに潜る。なかなか大変だからお前たちに任せたい」
「「「はい‼」」」
 声が元気になった。この子たちはアラクネたちやセイレーンたちに比べると若い。セイレーンたちとはせいぜい二つか三つだけど、幼く感じる。今後もこうやってやる気を出させる必要があるだろう。
「他にもあるが、それはその都度伝える」
「「「分かりました」」」
 とりあえずスキュラたちはやる気を出すと家の方に戻っていった。アラクネたちもマダコたちと一緒にプールの方へ行った。まさかあそこで染めていないだろうな。
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