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第十四部:それぞれの思惑
愛しい人
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俺が異世界から召喚されたということは大々的に発表されている。だからこの世界にはない意見や知識を求められることもある。アドニス王に経済の相談をされたのもその一つだ。もっとも俺は専門家じゃないから答えられることは限られている。
そしてつい先日、またそういう相談があった。俺はあくまで話を聞いただけで決断したのは当人だけど、その結果を知って気分的にかなり疲れた。ワンコは笑ってたけどな。
◆◆◆
「こんな手紙が届いたんだけどな……」
「ほほぉ。ああぁ、なるほどぉ」
「でも彼氏だろ?」
「ですねぇ。そっちの展開でしょうねぇ。シュウジくんもぉそっちに手を伸ばしますかぁ?」
「伸ばさねえよ。俺のことじゃねえって」
俺がワンコに相談したのはフーコー男爵の息子カミーユから届いた手紙だった。その内容をワンコに確認してもらっている。
カミーユとは以前に話をしたことがある。俺より年下で、大人しくて線の細い男だ。男で間違いない。
この国の言葉はフランス語っぽいんだけど、ヨーロッパの言葉にあるような男性名詞・女性名詞・中性名詞の区別はない。一般的には男女なし。でもパティシエとパティシエールのように男女で変えることはある。そういう意味では英語っぽいか。
彼氏や彼女、恋人、友人などを表す言葉はいっぱいある。そして恋愛関係の言葉は男女で分かれていることが多い。そこに明らかに違和感のある言葉が使われていた。
それでこの目の前にいるぽやんとした妻兼昔馴染みはそういうことにもわりと詳しいので確認してもらった。それに貴族生まれじゃないから社交に出かけてポロッと口にすることもない。
「新境地かもしれませんよぉ?」
「ねえよ」
どうして男を掘らせたがるんだ? リュシエンヌのBL小説でも読んだのか?
「相談したいことがあると書かれてるだけだしなあ」
「それならぁ化身を向かわせたらぁどうですかぁ?」
「そっちも俺だぞ」
俺本人が行かないというだけだ。化身でも複体でも分身でも、意識も感覚も共有できる。あくまで体が複数になるだけで中身は俺だ。多分化身も嫌がるだろ。
「そういやワンコは女同士の絡みってどうだ?」
こういう話はしたことがなかったな。それ以前に会ったらヤッてたからなあ。こいつが女に興味があるとは思えなかったけど。
「女性だけでというのはぁ興味ないですねぇ。でもぉその場にシュウジくんがいればぁ、それはそれでアリかなぁ。3Pでもぉ4Pでもぉ」
「そういうもんか」
こっちの世界では見かけないけど、日本じゃ女同士で手を繋いでるのはよく見るだろう。でも男同士というのはほとんど見かけないよな。やっぱりスキンシップも含めて男女ではかなり違うんだろう。
◆◆◆
「シュウジ様、いきなりお呼びして申し訳ありません」
「いやいや、時間があれば相談くらいには乗るさ」
相談があって呼ばれるのは今に始まったことじゃない。ちょっと忙しいと化身を向かわせることもある。
「誰にも話せずにずっと悩んでいたのですが、シュウジ様であれば元の世界で僕のように悩む人を見たことがあったのではないかと思いまして」
「あるなあ」
LGBTについては水商売に関われば一定数の知り合いはできるはずだ。レズビアンもゲイもバイセクシャルもトランスジェンダーも、あるいはもっと違うのも知り合いにはいた。俺はストレートだけど、俺に手を出そうとしない限りは仲良くやっていた。ゲイと飲んでるからって必ずしも尻を狙われるわけじゃないからな。
俺は友達がゲイだからって、それで友人関係をやめることはなかった。でもそいつが俺の尻を狙うのなら関係は絶つ。世の中にはそういうやつが多いんじゃないかと俺は思う。自分に影響がないなら好きにすればいいんじゃないかって考え方だ。
「男同士がいいとか、女物が着たいとか、多種多様になりかけていた時代だったな」
「それならシュウジ様の世界では、男性が男性を好きになった場合、周囲からどのような目で見られていましたか?」
これは繊細な問題だ。聞く相手が悪ければ広がることもあるだろう。そのせいで差別されることもある。俺はワンコには見せたけど、もちろん他言無用と言ってある。もし勝手に話せば二度と手を出さないと言った。あの時はワンコにしては珍しく頷くのが速かった。
「俺の生まれ育った国は、そのあたりは遅れていると言われていたな」
俺はそうやって自分の経験をカミーユに話した。
「それで、その相手ってのは聞いてもいいのか? 名前が分かる方が相談には乗りやすいからな」
「あ、はい。僕が気になっているのはアペール男爵の次男のリュカさんです」
「リュカって……近衛騎士団にいるあいつか」
俺はリュカの顔を思い浮かべた。近衛騎士隊長をしているナタン殿の部下で、たしか小隊長だったか。まだ二〇代半ばで、ゴリゴリの筋肉ダルマだ。二人揃うと暑苦しい。ていうか近衛騎士の男はみんなそんなんだ。イケメンが多いけどムッキムキのミッチミチだ。女性騎士はいい筋肉が付いたアスリートって感じだ。
近衛騎士にはもれなく騎士号が与えられる。騎士は貴族じゃなくて準貴族という扱いだけど、騎士号があれば仕事が見つけやすい。近衛騎士は腕に自信があるだけじゃなくて頭も良くないといけないから、文武両道の使い勝手のいい人材ということになる。だから貴族の跡取り以外なら役人になるか近衛騎士になるのが栄達への近道だ。商会は失敗することもないわけじゃない。
「はい。あの逞しい胸板を想像しますと……ハア、ハア」
「やめろ、鬱陶しい」
思わずハリセンでツッコミを入れた。
「それでリュカには伝えてないんだな?」
「はい、あの方に迷惑がかかるかもしれないと思いまして」
「でも言わなければ何にもならないだろう。直接言うのが難しいなら手紙を書けばいい」
ラブレターはこの国にもある。ファンレター的なものもな。俺のところにも届くけど、ダヴィドが中身をチェックして分類しておいてくれる。大半はちょっとした相談に託けて縁を持ちたいってものが多い。タイスみたいな大事になるのは珍しいけど。
「手紙を出すことすら怖がるようなら恋愛する意味はない。全ての結果は行動の先だ。何もしなければ何も始まらないぞ」
「何もしなければ何も始まりません……ですか。それは当然そうですね」
俺にアドバイスできるのはそこまでだった。後はカミーユがどうするか。そこから先は彼次第になる。俺は言えることだけ言うとフーコー男爵邸をお暇した。
◆◆◆
「シュウジくん、暑苦しいですよぉ、これはぁ」
「暑苦しいな」
しばらくしてカミーユから手紙が届いた。そこに写真が同封されていたので見てみると、リュカを中心に、向かって右に知らないガチムチ男、左にカミーユが立ち、三人で肩を組んでいた。暑苦しい。その写真をワンコに押し付けたところだ。
「それでぇ内容はどうなんですかぁ?」
「ええっとな……」
『拝啓、この度は僕のために貴重な時間を使っていただき、本当にありがとうございました』
『あれから思い切ってリュカさんを訪ねて話をしてみました。すると彼には恋人がいるということでした。しかしよく話を聞いてみるとリュカさんはゲイで、恋人も男性でした。その恋人がダニーという名前で、もう一人いるガチムチな方です』
『基本的にはリュカさんがタチ寄りのリバで、ダニーさんがウケ寄りのリバ——』
「ってそんなどうでもいい情報を書いてくるな‼」
「まあまあぁ」
手紙を破りそうになった。
『だそうです。そこに僕も加わってみないかということでした。そしてその翌日にさっそくお仲間に加えていただいて、それから咥えさせていただき——』
「……もう口に出すのはやめるぞ」
「シュウジくんが読むからぁ面白いんですよぉ」
「面白がられてもな。本人がよろしくやってるならそれでいい。続きを読みたければ勝手に読んでくれ」
ワンコに渡す前にざっと見たところ、カミーユは二人から可愛がられるようになったらしい。本人が喜んでるならそれでいい。
「ただフーコー男爵に怒られそうな気がするな」
「跡取りじゃないんですよねぇ?」
「さすがに違う。四男だ」
四男ならいいというわけでもないけど、跡取りの背中を押すよりはマシか。とりあえず俺とワンコがしたことは、カミーユが一年後にガチムチになっているかどうかを賭けたことだった。
そしてつい先日、またそういう相談があった。俺はあくまで話を聞いただけで決断したのは当人だけど、その結果を知って気分的にかなり疲れた。ワンコは笑ってたけどな。
◆◆◆
「こんな手紙が届いたんだけどな……」
「ほほぉ。ああぁ、なるほどぉ」
「でも彼氏だろ?」
「ですねぇ。そっちの展開でしょうねぇ。シュウジくんもぉそっちに手を伸ばしますかぁ?」
「伸ばさねえよ。俺のことじゃねえって」
俺がワンコに相談したのはフーコー男爵の息子カミーユから届いた手紙だった。その内容をワンコに確認してもらっている。
カミーユとは以前に話をしたことがある。俺より年下で、大人しくて線の細い男だ。男で間違いない。
この国の言葉はフランス語っぽいんだけど、ヨーロッパの言葉にあるような男性名詞・女性名詞・中性名詞の区別はない。一般的には男女なし。でもパティシエとパティシエールのように男女で変えることはある。そういう意味では英語っぽいか。
彼氏や彼女、恋人、友人などを表す言葉はいっぱいある。そして恋愛関係の言葉は男女で分かれていることが多い。そこに明らかに違和感のある言葉が使われていた。
それでこの目の前にいるぽやんとした妻兼昔馴染みはそういうことにもわりと詳しいので確認してもらった。それに貴族生まれじゃないから社交に出かけてポロッと口にすることもない。
「新境地かもしれませんよぉ?」
「ねえよ」
どうして男を掘らせたがるんだ? リュシエンヌのBL小説でも読んだのか?
「相談したいことがあると書かれてるだけだしなあ」
「それならぁ化身を向かわせたらぁどうですかぁ?」
「そっちも俺だぞ」
俺本人が行かないというだけだ。化身でも複体でも分身でも、意識も感覚も共有できる。あくまで体が複数になるだけで中身は俺だ。多分化身も嫌がるだろ。
「そういやワンコは女同士の絡みってどうだ?」
こういう話はしたことがなかったな。それ以前に会ったらヤッてたからなあ。こいつが女に興味があるとは思えなかったけど。
「女性だけでというのはぁ興味ないですねぇ。でもぉその場にシュウジくんがいればぁ、それはそれでアリかなぁ。3Pでもぉ4Pでもぉ」
「そういうもんか」
こっちの世界では見かけないけど、日本じゃ女同士で手を繋いでるのはよく見るだろう。でも男同士というのはほとんど見かけないよな。やっぱりスキンシップも含めて男女ではかなり違うんだろう。
◆◆◆
「シュウジ様、いきなりお呼びして申し訳ありません」
「いやいや、時間があれば相談くらいには乗るさ」
相談があって呼ばれるのは今に始まったことじゃない。ちょっと忙しいと化身を向かわせることもある。
「誰にも話せずにずっと悩んでいたのですが、シュウジ様であれば元の世界で僕のように悩む人を見たことがあったのではないかと思いまして」
「あるなあ」
LGBTについては水商売に関われば一定数の知り合いはできるはずだ。レズビアンもゲイもバイセクシャルもトランスジェンダーも、あるいはもっと違うのも知り合いにはいた。俺はストレートだけど、俺に手を出そうとしない限りは仲良くやっていた。ゲイと飲んでるからって必ずしも尻を狙われるわけじゃないからな。
俺は友達がゲイだからって、それで友人関係をやめることはなかった。でもそいつが俺の尻を狙うのなら関係は絶つ。世の中にはそういうやつが多いんじゃないかと俺は思う。自分に影響がないなら好きにすればいいんじゃないかって考え方だ。
「男同士がいいとか、女物が着たいとか、多種多様になりかけていた時代だったな」
「それならシュウジ様の世界では、男性が男性を好きになった場合、周囲からどのような目で見られていましたか?」
これは繊細な問題だ。聞く相手が悪ければ広がることもあるだろう。そのせいで差別されることもある。俺はワンコには見せたけど、もちろん他言無用と言ってある。もし勝手に話せば二度と手を出さないと言った。あの時はワンコにしては珍しく頷くのが速かった。
「俺の生まれ育った国は、そのあたりは遅れていると言われていたな」
俺はそうやって自分の経験をカミーユに話した。
「それで、その相手ってのは聞いてもいいのか? 名前が分かる方が相談には乗りやすいからな」
「あ、はい。僕が気になっているのはアペール男爵の次男のリュカさんです」
「リュカって……近衛騎士団にいるあいつか」
俺はリュカの顔を思い浮かべた。近衛騎士隊長をしているナタン殿の部下で、たしか小隊長だったか。まだ二〇代半ばで、ゴリゴリの筋肉ダルマだ。二人揃うと暑苦しい。ていうか近衛騎士の男はみんなそんなんだ。イケメンが多いけどムッキムキのミッチミチだ。女性騎士はいい筋肉が付いたアスリートって感じだ。
近衛騎士にはもれなく騎士号が与えられる。騎士は貴族じゃなくて準貴族という扱いだけど、騎士号があれば仕事が見つけやすい。近衛騎士は腕に自信があるだけじゃなくて頭も良くないといけないから、文武両道の使い勝手のいい人材ということになる。だから貴族の跡取り以外なら役人になるか近衛騎士になるのが栄達への近道だ。商会は失敗することもないわけじゃない。
「はい。あの逞しい胸板を想像しますと……ハア、ハア」
「やめろ、鬱陶しい」
思わずハリセンでツッコミを入れた。
「それでリュカには伝えてないんだな?」
「はい、あの方に迷惑がかかるかもしれないと思いまして」
「でも言わなければ何にもならないだろう。直接言うのが難しいなら手紙を書けばいい」
ラブレターはこの国にもある。ファンレター的なものもな。俺のところにも届くけど、ダヴィドが中身をチェックして分類しておいてくれる。大半はちょっとした相談に託けて縁を持ちたいってものが多い。タイスみたいな大事になるのは珍しいけど。
「手紙を出すことすら怖がるようなら恋愛する意味はない。全ての結果は行動の先だ。何もしなければ何も始まらないぞ」
「何もしなければ何も始まりません……ですか。それは当然そうですね」
俺にアドバイスできるのはそこまでだった。後はカミーユがどうするか。そこから先は彼次第になる。俺は言えることだけ言うとフーコー男爵邸をお暇した。
◆◆◆
「シュウジくん、暑苦しいですよぉ、これはぁ」
「暑苦しいな」
しばらくしてカミーユから手紙が届いた。そこに写真が同封されていたので見てみると、リュカを中心に、向かって右に知らないガチムチ男、左にカミーユが立ち、三人で肩を組んでいた。暑苦しい。その写真をワンコに押し付けたところだ。
「それでぇ内容はどうなんですかぁ?」
「ええっとな……」
『拝啓、この度は僕のために貴重な時間を使っていただき、本当にありがとうございました』
『あれから思い切ってリュカさんを訪ねて話をしてみました。すると彼には恋人がいるということでした。しかしよく話を聞いてみるとリュカさんはゲイで、恋人も男性でした。その恋人がダニーという名前で、もう一人いるガチムチな方です』
『基本的にはリュカさんがタチ寄りのリバで、ダニーさんがウケ寄りのリバ——』
「ってそんなどうでもいい情報を書いてくるな‼」
「まあまあぁ」
手紙を破りそうになった。
『だそうです。そこに僕も加わってみないかということでした。そしてその翌日にさっそくお仲間に加えていただいて、それから咥えさせていただき——』
「……もう口に出すのはやめるぞ」
「シュウジくんが読むからぁ面白いんですよぉ」
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