元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

文字の大きさ
206 / 273
第十四部:それぞれの思惑

愛しい人

しおりを挟む
 俺が異世界から召喚されたということは大々的に発表されている。だからこの世界にはない意見や知識を求められることもある。アドニス王に経済の相談をされたのもその一つだ。もっとも俺は専門家じゃないから答えられることは限られている。
 そしてつい先日、またそういう相談があった。俺はあくまで話を聞いただけで決断したのは当人だけど、その結果を知って気分的にかなり疲れた。ワンコは笑ってたけどな。

 ◆◆◆

「こんな手紙が届いたんだけどな……」
「ほほぉ。ああぁ、なるほどぉ」
「でも彼氏だろ?」
「ですねぇ。そっちの展開でしょうねぇ。シュウジくんもぉそっちに手を伸ばしますかぁ?」
「伸ばさねえよ。俺のことじゃねえって」
 俺がワンコに相談したのはフーコー男爵の息子カミーユから届いた手紙だった。その内容をワンコに確認してもらっている。
 カミーユとは以前に話をしたことがある。俺より年下で、大人しくて線の細い男だ。男で間違いない。
 この国の言葉はフランス語っぽいんだけど、ヨーロッパの言葉にあるような男性名詞・女性名詞・中性名詞の区別はない。一般的には男女なし。でもパティシエとパティシエールのように男女で変えることはある。そういう意味では英語っぽいか。
 彼氏や彼女、恋人、友人などを表す言葉はいっぱいある。そして恋愛関係の言葉は男女で分かれていることが多い。そこに明らかに違和感のある言葉が使われていた。
 それでこの目の前にいるぽやんとした妻兼昔馴染みはそういうことにもわりと詳しいので確認してもらった。それに貴族生まれじゃないから社交に出かけてポロッと口にすることもない。
「新境地かもしれませんよぉ?」
「ねえよ」
 どうして男を掘らせたがるんだ? リュシエンヌのBL小説でも読んだのか?
「相談したいことがあると書かれてるだけだしなあ」
「それならぁ化身アバターを向かわせたらぁどうですかぁ?」
「そっちも俺だぞ」
 俺本人が行かないというだけだ。化身アバターでも複体でも分身でも、意識も感覚も共有できる。あくまで体が複数になるだけで中身は俺だ。多分化身アバターも嫌がるだろ。
「そういやワンコは女同士の絡みってどうだ?」
 こういう話はしたことがなかったな。それ以前に会ったらヤッてたからなあ。こいつが女に興味があるとは思えなかったけど。
「女性だけでというのはぁ興味ないですねぇ。でもぉその場にシュウジくんがいればぁ、それはそれでアリかなぁ。3Pでもぉ4Pでもぉ」
「そういうもんか」
 こっちの世界では見かけないけど、日本じゃ女同士で手を繋いでるのはよく見るだろう。でも男同士というのはほとんど見かけないよな。やっぱりスキンシップも含めて男女ではかなり違うんだろう。

 ◆◆◆

「シュウジ様、いきなりお呼びして申し訳ありません」
「いやいや、時間があれば相談くらいには乗るさ」
 相談があって呼ばれるのは今に始まったことじゃない。ちょっと忙しいと化身アバターを向かわせることもある。
「誰にも話せずにずっと悩んでいたのですが、シュウジ様であれば元の世界で僕のように悩む人を見たことがあったのではないかと思いまして」
「あるなあ」
 LGBTについては水商売に関われば一定数の知り合いはできるはずだ。レズビアンもゲイもバイセクシャルもトランスジェンダーも、あるいはもっと違うのも知り合いにはいた。俺はストレートだけど、俺に手を出そうとしない限りは仲良くやっていた。ゲイと飲んでるからって必ずしも尻を狙われるわけじゃないからな。
 俺は友達がゲイだからって、それで友人関係をやめることはなかった。でもそいつが俺の尻を狙うのなら関係は絶つ。世の中にはそういうやつが多いんじゃないかと俺は思う。自分に影響がないなら好きにすればいいんじゃないかって考え方だ。
「男同士がいいとか、女物が着たいとか、多種多様になりかけていた時代だったな」
「それならシュウジ様の世界では、男性が男性を好きになった場合、周囲からどのような目で見られていましたか?」
 これは繊細な問題だ。聞く相手が悪ければ広がることもあるだろう。そのせいで差別されることもある。俺はワンコには見せたけど、もちろん他言無用と言ってある。もし勝手に話せばと言った。あの時はワンコにしては珍しく頷くのが速かった。
「俺の生まれ育った国は、そのあたりは遅れていると言われていたな」
 俺はそうやって自分の経験をカミーユに話した。

「それで、その相手ってのは聞いてもいいのか? 名前が分かる方が相談には乗りやすいからな」
「あ、はい。僕が気になっているのはアペール男爵の次男のリュカさんです」
「リュカって……近衛騎士団にいるあいつか」
 俺はリュカの顔を思い浮かべた。近衛騎士隊長をしているナタン殿の部下で、たしか小隊長だったか。まだ二〇代半ばで、ゴリゴリの筋肉ダルマだ。二人揃うと暑苦しい。ていうか近衛騎士の男はみんなそんなんだ。イケメンが多いけどムッキムキのミッチミチだ。女性騎士はいい筋肉が付いたアスリートって感じだ。
 近衛騎士にはもれなく騎士号が与えられる。騎士は貴族じゃなくて準貴族という扱いだけど、騎士号があれば仕事が見つけやすい。近衛騎士は腕に自信があるだけじゃなくて頭も良くないといけないから、文武両道の使い勝手のいい人材ということになる。だから貴族の跡取り以外なら役人になるか近衛騎士になるのが栄達への近道だ。商会は失敗することもないわけじゃない。
「はい。あの逞しい胸板を想像しますと……ハア、ハア」
「やめろ、鬱陶しい」
 思わずハリセンでツッコミを入れた。
「それでリュカには伝えてないんだな?」
「はい、あの方に迷惑がかかるかもしれないと思いまして」
「でも言わなければ何にもならないだろう。直接言うのが難しいなら手紙を書けばいい」
 ラブレターはこの国にもある。ファンレター的なものもな。俺のところにも届くけど、ダヴィドが中身をチェックして分類しておいてくれる。大半はちょっとした相談にかこつけて縁を持ちたいってものが多い。タイスみたいな大事おおごとになるのは珍しいけど。
「手紙を出すことすら怖がるようなら恋愛する意味はない。全ての結果は行動の先だ。何もしなければ何も始まらないぞ」
「何もしなければ何も始まりません……ですか。それは当然そうですね」
 俺にアドバイスできるのはそこまでだった。後はカミーユがどうするか。そこから先は彼次第になる。俺は言えることだけ言うとフーコー男爵邸をおいとました。

 ◆◆◆

「シュウジくん、暑苦しいですよぉ、これはぁ」
「暑苦しいな」
 しばらくしてカミーユから手紙が届いた。そこに写真が同封されていたので見てみると、リュカを中心に、向かって右に知らないガチムチ男、左にカミーユが立ち、三人で肩を組んでいた。暑苦しい。その写真をワンコに押し付けたところだ。
「それでぇ内容はどうなんですかぁ?」
「ええっとな……」

『拝啓、この度は僕のために貴重な時間を使っていただき、本当にありがとうございました』
『あれから思い切ってリュカさんを訪ねて話をしてみました。すると彼には恋人がいるということでした。しかしよく話を聞いてみるとリュカさんはゲイで、恋人も男性でした。その恋人がダニーという名前で、もう一人いるガチムチな方です』
『基本的にはリュカさんがタチ寄りのリバで、ダニーさんがウケ寄りのリバ——』

「ってそんなどうでもいい情報を書いてくるな‼」
「まあまあぁ」
 手紙を破りそうになった。

『だそうです。そこに僕も加わってみないかということでした。そしてその翌日にさっそくお仲間に加えていただいて、それから咥えさせていただき——』

「……もう口に出すのはやめるぞ」
「シュウジくんが読むからぁ面白いんですよぉ」
「面白がられてもな。本人がよろしくやってるならそれでいい。続きを読みたければ勝手に読んでくれ」
 ワンコに渡す前にざっと見たところ、カミーユは二人からようになったらしい。本人が喜んでるならそれでいい。
「ただフーコー男爵に怒られそうな気がするな」
「跡取りじゃないんですよねぇ?」
「さすがに違う。四男だ」
 四男ならいいというわけでもないけど、跡取りの背中を押すよりはマシか。とりあえず俺とワンコがしたことは、カミーユが一年後にガチムチになっているかどうかを賭けたことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...