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第十四部:それぞれの思惑
貴族と跡継ぎ問題
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「シュウジ様、どうにかなるでしょうか?」
帰りの馬車の中でリュシエンヌが聞いてきた。
「どうにかしたいところだけどなあ」
身分制度は国によって違うけど、爵位を継げるのは一人だけというのは貴族社会では共通だろう。侯爵家の跡取りなら侯爵という爵位を継ぐ。
国によっては複数の爵位を持つこともあるそうだ。例えば俺はラヴァル公爵なので公爵位を持っているわけだけど、例えばそこに恩賞として伯爵と子爵を一つずつ貰うとする。金や土地を与えるには元手が必要だ。でも国王なら爵位は実質上は無料で与えることができる。そうすると長男は跡を継いで公爵になり、次男には俺が別で持つ伯爵を渡し、三男には子爵を譲り、そうやって分家を作るわけだ。
残念ながらこの国には複数の爵位を持つ貴族はいない。俺はもう少し貴族の人数がいてもいいと思うんだけどな。要するに一領地に一人しかいない。例えばモラクス公爵のピエールさんは、あの広い領地に自分しか貴族がいないわけだ。領地内に町はいくつもあるけど、町や村の長は領主代行を務める代官であって貴族じゃない。領主の代わりに一時的にその町や村の管理を任されているだけだ。
俺には領地はないけど、もし広い領地があったとする。俺なら領地を中央と東西南北の五つくらいに分ける。そして領都を含む中央は俺が直接治め、東西南北の四つは俺より下の爵位の貴族にそれぞれ治めさせて税を徴収する。それでいいと思うんだけどな。そもそも代官は領主の子供やその家族が務めることが多く、実際には一族経営だ。何が変わるかと言えば爵位があるかないかの違いだけだろう。
それに何から何まで自分でやろうとするから何もできなくなるんだと思うと社会政策大臣として提言はしている。使用人がいても限度があると。でも今の制度になってから何百年も変わっていない。それを変えろというのは俺でも無理だ。
もし俺が国王だったとして、もし異世界からやって来た勇者が今の制度を変えた方がいいと言ったらどうするか。変えない可能性が高いな。勇者は全ての人の上に立つ存在だと言われても、ぽっと出の勇者に全て任せることはしたくない。俺ですらそうだからアドニス王だってそうだろう。だから俺は無茶は言わない。たまに提案をするだけだ。
レアンドル侯爵家について厄介なのは、跡取りが女性だったということだ。長女と次女はすでに嫁ぎ、少し年が離れた三女タイスが跡取りの第一候補、四女ミラベルが第二候補だった。タイスは女性侯爵になろうとしていたけど、跡取りが生まれたのでお役御免になった。なっただけではなく、近いうちに母親のクローディーヌ殿と妹のミラベルと一緒に屋敷を出なければいけなくなる。縁を切られたからだ。これは珍しい。
実は娘しかいない貴族というのは王家にとってはある意味では非常に価値がある存在だ。王子が婿養子としてその家を継ぐことができるからだ。
普通なら王太子以外が独立すれば大公なり公爵なり、それなりの爵位を与えられて貴族の一員になるはずだ。いきなり放り出したりはしない。王族ならそれくらいされてもいいだろう。でもこの国ではその制度がない。一時期貴族を増やしすぎて大変なことになったので、それ以降新しい家はできていないそうだ。だから王族であってもある程度の年齢になれば家名持ちの平民になってしまう。そういう場合に跡取りがいない貴族はその受け皿になり、王子が養子か婿養子になる。逆に考えれば、王家にとっては王子が平民にならずに済み、貴族にとっては王家と強い繋がりができる。そういう王子がいるならという話だけど。
そもそも子供がいない貴族の場合は王子をそのまま跡取りとすることもある。息子がいる場合はそれは禁じられている。あくまで息子がいない貴族の救済策みたいなものだ。
他には娘を養子に貰うというのも一つの方法だ。領内で比較的格式の高い家の娘を義理の娘として迎え入れるというのはよくあったらしい。今は比較的落ち着いた時代なのでそれほど養子縁組というのは多くないけど、荒れた時代には養子縁組を駆使した派閥強化が頻繁に行われていたそうだ。
ただ王子を迎え入れるためだけに貴族の養子にされた平民の娘がどういう気分なのかまでは俺には分からない。よく昔話やそれをモチーフにしたアニメなどでは貧しい家の娘が王子様に見初められてめでたしめでたしって感じで話が終わるけど、その後は大変だろうなって俺は思っていた。冷めてると言われればそうなんだろうけど、身分の違いってのは大きいからな。
日本時代は片親だったということで多少は可哀想な子扱いをされた。そして母さんが水商売をしていたということであまり親しくしちゃいけません的な、ちょっと腫れ物扱いもされた。そんな中でも友達はいたし抱いた女もいた。お互いにガキだった。若かったな。
そんなことはあったけど、それでも日本は平民ばっかりだ。金持ちはいたけど貴族はいなかった。でもこの国では明らかな違いがある。うちの妻たちを見ていても、貴族生まれかそうでないかでかなり考え方が違う。ただ【愛の男神シュウジの眷属】を持つ者同士は多少仲が良くなるので揉め事は起きていない。でも妻たちでさえそうだから、世間一般の考えの違いというのはもっと大きい。
しかしまあ、レアンドル侯爵家の話をどうすべきか。何かが頭の中で引っかかっている。気になるのはどこだ?
タイスが跡取りでなくなったとしても、侯爵からすれば利用価値はあるはずだ。さっきの例のように王子の相手にするとか。
現在アドニス王には息子が二人いる。長男ジェラールが王太子なので次男シメオンは家を出るだろう。その際には家名持ちの平民になるか、それとも養子や婿養子としてどこかの貴族の家に入るか。侯爵くらいの立場ならシメオン王子を婿養子としてタイスの夫にという選択肢もあったはずだ。
侯爵家なら王子が養子に入るには十分だろう。でも侯爵はどうしても自分の息子に継がせたくてそれを断ったのか、それともシメオン王子が断ったのか。王子は魔法研究をしたいらしいので、貴族になるよりも王宮で魔法研究の方がいいのかもしれない。
しかし俺が考えてもいい答えは浮かばない。こういうのは専門家に任せるべきだ。
「俺ではどうしようもない。帰ってさっそく相談するか」
「お願いいたします」
帰りの馬車の中でリュシエンヌが聞いてきた。
「どうにかしたいところだけどなあ」
身分制度は国によって違うけど、爵位を継げるのは一人だけというのは貴族社会では共通だろう。侯爵家の跡取りなら侯爵という爵位を継ぐ。
国によっては複数の爵位を持つこともあるそうだ。例えば俺はラヴァル公爵なので公爵位を持っているわけだけど、例えばそこに恩賞として伯爵と子爵を一つずつ貰うとする。金や土地を与えるには元手が必要だ。でも国王なら爵位は実質上は無料で与えることができる。そうすると長男は跡を継いで公爵になり、次男には俺が別で持つ伯爵を渡し、三男には子爵を譲り、そうやって分家を作るわけだ。
残念ながらこの国には複数の爵位を持つ貴族はいない。俺はもう少し貴族の人数がいてもいいと思うんだけどな。要するに一領地に一人しかいない。例えばモラクス公爵のピエールさんは、あの広い領地に自分しか貴族がいないわけだ。領地内に町はいくつもあるけど、町や村の長は領主代行を務める代官であって貴族じゃない。領主の代わりに一時的にその町や村の管理を任されているだけだ。
俺には領地はないけど、もし広い領地があったとする。俺なら領地を中央と東西南北の五つくらいに分ける。そして領都を含む中央は俺が直接治め、東西南北の四つは俺より下の爵位の貴族にそれぞれ治めさせて税を徴収する。それでいいと思うんだけどな。そもそも代官は領主の子供やその家族が務めることが多く、実際には一族経営だ。何が変わるかと言えば爵位があるかないかの違いだけだろう。
それに何から何まで自分でやろうとするから何もできなくなるんだと思うと社会政策大臣として提言はしている。使用人がいても限度があると。でも今の制度になってから何百年も変わっていない。それを変えろというのは俺でも無理だ。
もし俺が国王だったとして、もし異世界からやって来た勇者が今の制度を変えた方がいいと言ったらどうするか。変えない可能性が高いな。勇者は全ての人の上に立つ存在だと言われても、ぽっと出の勇者に全て任せることはしたくない。俺ですらそうだからアドニス王だってそうだろう。だから俺は無茶は言わない。たまに提案をするだけだ。
レアンドル侯爵家について厄介なのは、跡取りが女性だったということだ。長女と次女はすでに嫁ぎ、少し年が離れた三女タイスが跡取りの第一候補、四女ミラベルが第二候補だった。タイスは女性侯爵になろうとしていたけど、跡取りが生まれたのでお役御免になった。なっただけではなく、近いうちに母親のクローディーヌ殿と妹のミラベルと一緒に屋敷を出なければいけなくなる。縁を切られたからだ。これは珍しい。
実は娘しかいない貴族というのは王家にとってはある意味では非常に価値がある存在だ。王子が婿養子としてその家を継ぐことができるからだ。
普通なら王太子以外が独立すれば大公なり公爵なり、それなりの爵位を与えられて貴族の一員になるはずだ。いきなり放り出したりはしない。王族ならそれくらいされてもいいだろう。でもこの国ではその制度がない。一時期貴族を増やしすぎて大変なことになったので、それ以降新しい家はできていないそうだ。だから王族であってもある程度の年齢になれば家名持ちの平民になってしまう。そういう場合に跡取りがいない貴族はその受け皿になり、王子が養子か婿養子になる。逆に考えれば、王家にとっては王子が平民にならずに済み、貴族にとっては王家と強い繋がりができる。そういう王子がいるならという話だけど。
そもそも子供がいない貴族の場合は王子をそのまま跡取りとすることもある。息子がいる場合はそれは禁じられている。あくまで息子がいない貴族の救済策みたいなものだ。
他には娘を養子に貰うというのも一つの方法だ。領内で比較的格式の高い家の娘を義理の娘として迎え入れるというのはよくあったらしい。今は比較的落ち着いた時代なのでそれほど養子縁組というのは多くないけど、荒れた時代には養子縁組を駆使した派閥強化が頻繁に行われていたそうだ。
ただ王子を迎え入れるためだけに貴族の養子にされた平民の娘がどういう気分なのかまでは俺には分からない。よく昔話やそれをモチーフにしたアニメなどでは貧しい家の娘が王子様に見初められてめでたしめでたしって感じで話が終わるけど、その後は大変だろうなって俺は思っていた。冷めてると言われればそうなんだろうけど、身分の違いってのは大きいからな。
日本時代は片親だったということで多少は可哀想な子扱いをされた。そして母さんが水商売をしていたということであまり親しくしちゃいけません的な、ちょっと腫れ物扱いもされた。そんな中でも友達はいたし抱いた女もいた。お互いにガキだった。若かったな。
そんなことはあったけど、それでも日本は平民ばっかりだ。金持ちはいたけど貴族はいなかった。でもこの国では明らかな違いがある。うちの妻たちを見ていても、貴族生まれかそうでないかでかなり考え方が違う。ただ【愛の男神シュウジの眷属】を持つ者同士は多少仲が良くなるので揉め事は起きていない。でも妻たちでさえそうだから、世間一般の考えの違いというのはもっと大きい。
しかしまあ、レアンドル侯爵家の話をどうすべきか。何かが頭の中で引っかかっている。気になるのはどこだ?
タイスが跡取りでなくなったとしても、侯爵からすれば利用価値はあるはずだ。さっきの例のように王子の相手にするとか。
現在アドニス王には息子が二人いる。長男ジェラールが王太子なので次男シメオンは家を出るだろう。その際には家名持ちの平民になるか、それとも養子や婿養子としてどこかの貴族の家に入るか。侯爵くらいの立場ならシメオン王子を婿養子としてタイスの夫にという選択肢もあったはずだ。
侯爵家なら王子が養子に入るには十分だろう。でも侯爵はどうしても自分の息子に継がせたくてそれを断ったのか、それともシメオン王子が断ったのか。王子は魔法研究をしたいらしいので、貴族になるよりも王宮で魔法研究の方がいいのかもしれない。
しかし俺が考えてもいい答えは浮かばない。こういうのは専門家に任せるべきだ。
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「お願いいたします」
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