元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十四部:それぞれの思惑

ある侯爵夫人の憂鬱(二)

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 侯爵の言い分は理解できる。跡取りを産んだ妻を正室にするというだけの話だ。俺はまだ結婚式を済ませてないから実は正室も側室もいない。でもこのままならミレーヌ、フラン、リュシエンヌ、ベラの順になるだろう。
 ミレーヌは女神だけどそうハッキリとは口にしていない。「女神が俺を守るために派遣した守護天使で女神本人でもある」のような曖昧な表現を使っている。とりあえず正室の候補だ。
 でも正室の実家の爵位が重要となるなら、場合によってはリュシエンヌを正室にすることもあり得るわけだ。順番なんて付けたくはないけど、結婚式や爵位の継承の時に揉めることがあるから付けなければならないそうだ。
 俺は正室と側室と愛人を一纏めにして妻と呼んでいる。俺の次にラヴァル公爵家を継ぐのは、今のところはミレーヌの産んだ男児になる。でもミレーヌが女児しか産まなければ、爵位は側室が産んだ男児の中で、母親の序列が一番上の子供に移る。
 クローディーヌ殿にも三人の愛人にも男児が生まれなかった。誰もが諦めていたところ、新しく迎えた側室があっさりと産んでしまった。
 これまで跡取りはタイスだと思われていた。女侯爵になるか、それとも夫を迎え入れることになるか。だから姉二人は嫁いだものの彼女は外へ出されずにいた。ところが跡取りができたからもう不要だと言われたわけだ。
 本人がそれほど気にしていないのは、おそらく背負ったものの重さの違いだろう。クローディーヌ殿にとっては実家のことや体面もある。でもタイスはそこまで重く感じていないんじゃないだろうか。俺の感想だけどな。
「クローディーヌ殿の実家はどこになるんだ?」
「バロワン伯爵家です」
「微妙な立ち位置だな」
 形としては伯爵家と子爵家が侯爵家を取り合ったというだけだ。俺も商会を持つようになったからそのあたりの繋がりも覚えた。
 バロワン伯爵家の商会は地味でも堅実な仕事を手広くする商会だと言われる。小売よりも卸をメインにして、頼りにしている商会は多いはずだ。元々は裕福な商家で、かつてこの国が飢饉になった時に食料となるものを放出し、それによって貴族に取り立てられた家系だと聞いた。今のバロワン伯爵の評価は凡庸ということらしいけど悪い話は聞かない。いい人なんだろう。そこにケンカを売るか。
 でもなあ、これまで男児が生まれなかったのにいきなり生まれるか? いや、娘が欲しいのに四人続けて男だったという知り合いがいるから、五人だろうが一〇人だろうが男が生まれないってこともあるかもしれないけど。もしかして仕組まれたのか?
「バロワン伯爵家とその新しい側室の実家の関係は?」
「メグレ子爵家とは商売敵ということになりましょう。どちらも手広く商売をしております」
 なるほどね。商売敵か。レアンドル侯爵家を取り合うバロワン伯爵家とメグレ子爵家という構図。分かりやすすぎる。ややこしければいいわけじゃないけど。それを焚きつけた、あるいはそうなるように仕組んだ者がいるかもしれない。いや、この話を聞く限りはいるだろうな、これは。
「やはり仕組まれたんじゃないのか?」
「私もそう思いました。バロワン伯爵家の力を削ぎつつメグレ子爵家をレアンドル侯爵家に近づけようと。その裏に別の貴族の影も見え隠れするのですが……」
 となると……レアンドル侯爵家、バロワン伯爵家、メグレ子爵家、それ以外にレアンドル侯爵家を蹴落としたい貴族とその手下にもう一人か二人くらいはいそうだ。
「しかしまあ、男児が欲しかったところにこのタイミングか」
「托卵ではないかと疑っています。夫もその可能性に気づいたはずです。ですので二人目三人目を欲しがったのでしょう。生まれれば自分に男児を産むことができるという証明にもなりますので」
 メグレ子爵家の娘が別の男の子供を妊娠しながらそれを隠し、侯爵に嫁いで産ませたと。よく不倫関係の話であることだ。父親は別だったって。
 そして侯爵も托卵には何となく気が付いている。でも信じたくはないからもう一人男児を作りたい。侯爵もまだ四〇代。勃たなくなる年じゃないからな。
 しかしうまく托卵できたとしても、それが男児か女児かは分からない。男女を産み分ける方法があるのか、それともそこは運に任せるのか、それとも他に何か方法でもあるのか。
 ステータスを見ても【状態:妊娠】までは分かる。でも男女は分からないはずだ。俺の知らない方法があるかもしれないけどな。
「生まれた子が女児ならどうしたんだろうな?」
「何か方法があるのかもしれません。生まれた瞬間にすり替えるか。いずれにせよ男児が生まれました。ですがそれで私たちが追い出されるのは話が違います」
「ん? 正室の入れ替えだけじゃないのか?」
「はい。離婚を申請すると。タイスとミラベルを連れていくようにということです」
「後を絶ったのか?」
自棄やけになったとも思えます」
 侯爵なら上から数えたほうが早いくらいの立場だ。自分の血を継いだ跡取りが欲しいよな。それは分かるけど、これまで連れ添った妻を追い出すか? でも実際にそうすることにしたわけだ。
 少し調べてみるか。いや、調べてもらうか。
「最終的にどうなるかは分からないが、リュシエンヌが手を貸したい相手なら俺に貸さない手はない」
「公爵様、よろしくお願いします」
「シュウジ様、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
 二人から頭を下げられ、俺とリュシエンヌは屋敷を出た。
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