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第十四部:それぞれの思惑
ある侯爵夫人の憂鬱(一)
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「シュウジ様、これをご覧ください」
あらたまった様子のリュシエンヌからそんな風に手紙を渡された。差出人はクローディーヌ・ルルー・レアンドル侯爵夫人とその娘のタイス。レアンドル侯爵夫人はお茶会における身分を撤廃するのに成功した人物だとされている。その名前は何度もリュシエンヌから聞いた。
身分の上下によって話しかけていいかどうかが変わるのは、お茶会でも舞踏会でも基本は同じだ。身分が高い者から話しかけるのが原則で、逆はマナー違反だとされていた。もちろん最初の挨拶の話だ。最後までじゃない。でもこれを面倒だと思ったレアンドル侯爵夫人は、自分が主催するお茶会では身分の上下に関係なく話しかけてもいいとし、現在のお茶会ではそれが主流になりつつある。
これはリュシエンヌから聞いたことで、それもあって彼女は侯爵夫人の娘のタイスと親しくなったと。引きこもりがなくなった今は頻繁に手紙のやり取りをしている。
「お茶会じゃないのか。俺を誘ってるってことは」
「お茶会以外でしょう。個人的なことなら私宛にタイスさんから届くはずでございます。おそらくは相談事かと」
「相談の内容には触れてないか」
手紙にはクローディーヌ殿とタイスの連名で、話をしたいから屋敷に遊びに来てほしいと書かれていた。
「この書き方でしたら私は単なる仲介役でございます」
「リュシエンヌが世話になった人なら一度きちんと会っておこうか」
パーティーでは顔を見ている。侯爵本人はいなかったけど、夫人とタイスの二人が来ていた。ゆっくりと話したことはないな。
「タイスはまだ家にいるんだな」
「はい。私よりも下ですので。まだ結婚していなくてもおかしくないですが、そろそろでしょう」
「俺にタイスを押し付けようってつもりじゃないよな?」
「いきなりは失礼になります。普通であれば親同士が親しくなり、それからうちの子をどうですか、という流れが普通です。ベランジェールさんのような場合は別ですが」
「ベラはな。でもその線もないか。まあとりあえず会うか。向こうの希望する日でいいな」
◆◆◆
「ラヴァル公爵様、リュシエンヌさん、本日はご足労をおかけしまして申し訳ございません」
「いやいや、クローディーヌ殿、今日は二人から何か相談があるんだろう。俺にできることなら相談に乗ろう。力になれるかどうかは分からないが」
「私にもできることがあればお手伝いいたします」
「いえ、ここに来ていただいたことだけで十分でございます」
クローディーヌ殿とタイスは深々と頭を下げた。
「俺たちをここに来させたかったのか?」
「はい、夫がいない間に」
夫不在の間に男を連れ込もうってことかと考えたけど、クローディーヌ殿も横で話を聞いているタイスも、真面目な表情だ。
「単に男を連れ込もうってことではないな?」
「あら、母娘揃って手を出していただいてもかまいませんよ。喜んで手を出されましょう」
「私も同じです。シュウジ様」
クローディーヌ殿は四〇過ぎ。豊満だけど弛んでるわけじゃない。肉感的で熟れきった、いい体をしている。
タイスは少し癖のある髪を綺麗に纏めている。リュシエンヌよりも下だけどメリハリのあるいい体つきだ。年齢以上に発育がいいんだろう。エミリア系だな。
「それは魅力的な提案だが、美しい花には棘があると言われるから、いきなり手を伸ばすのはやめておこう。それで本題は? それに近いことだとは推測できるが」
さすがにここでベッドに連れていけばスキャンダルになる。いくら女が好きでも揉め事はノーサンキューだ。
俺の言葉を聞くとクローディーヌ殿は覚悟を決めたような表情で口を開いた。
「公爵様は夫のエミールの顔を見たことはございませんでしょう?」
「……ないな。お亡くなりだとは聞いてはいないが」
「はい。王都には滅多に顔を見せません。領地の方に引きこもって今日も子作りに励んでいることでしょう」
その他人事のような言い方に、怒りとやるせなさを感じた。普通なら社交シーズンは王都に来るからな。
「子供ならタイス殿……ん? ひょっとして男児が欲しいと?」
「そうでございます。私が産んだ子は四人。二人は嫁ぎました。タイスの下にミラベルという七つの娘がおりますが、その子を産んだ時に体を壊しまして、もう子供は産めないと言われております」
貴族の妻は子供を産むのが仕事だと言われる。ここは日本と違ってガチガチの貴族社会だ。家系を途絶えさせないということには相当なプレッシャーもあるだろう。
「私だけではなく、愛人たちにも女児しか生まれておりません。おそらくそうなる運命ではないかと夫も口にしていたのですが……」
「状況が変わったと」
「はい。側室に迎えた子爵家の娘に男児が産まれました」
待望の男児が生まれた。そうなるとその子が跡取りか。クローディーヌ殿の立場がないな。
「私は我慢すればいいのですが、跡取り候補として残されていたタイスが哀れで」
「私は気にしないと言っているのですが、母はどうしてもと」
タイスは気遣わしげに母親を見た。優しい子なんだろうな。自分が一番の被害者なのに母親の方を気遣っているように見える。リュシエンヌと仲がいいのが分かるなあ。
しかしややこしい……いや、ややこしくはないか。単なる跡取り問題だ。でも面倒な問題に関わってしまったな。
あらたまった様子のリュシエンヌからそんな風に手紙を渡された。差出人はクローディーヌ・ルルー・レアンドル侯爵夫人とその娘のタイス。レアンドル侯爵夫人はお茶会における身分を撤廃するのに成功した人物だとされている。その名前は何度もリュシエンヌから聞いた。
身分の上下によって話しかけていいかどうかが変わるのは、お茶会でも舞踏会でも基本は同じだ。身分が高い者から話しかけるのが原則で、逆はマナー違反だとされていた。もちろん最初の挨拶の話だ。最後までじゃない。でもこれを面倒だと思ったレアンドル侯爵夫人は、自分が主催するお茶会では身分の上下に関係なく話しかけてもいいとし、現在のお茶会ではそれが主流になりつつある。
これはリュシエンヌから聞いたことで、それもあって彼女は侯爵夫人の娘のタイスと親しくなったと。引きこもりがなくなった今は頻繁に手紙のやり取りをしている。
「お茶会じゃないのか。俺を誘ってるってことは」
「お茶会以外でしょう。個人的なことなら私宛にタイスさんから届くはずでございます。おそらくは相談事かと」
「相談の内容には触れてないか」
手紙にはクローディーヌ殿とタイスの連名で、話をしたいから屋敷に遊びに来てほしいと書かれていた。
「この書き方でしたら私は単なる仲介役でございます」
「リュシエンヌが世話になった人なら一度きちんと会っておこうか」
パーティーでは顔を見ている。侯爵本人はいなかったけど、夫人とタイスの二人が来ていた。ゆっくりと話したことはないな。
「タイスはまだ家にいるんだな」
「はい。私よりも下ですので。まだ結婚していなくてもおかしくないですが、そろそろでしょう」
「俺にタイスを押し付けようってつもりじゃないよな?」
「いきなりは失礼になります。普通であれば親同士が親しくなり、それからうちの子をどうですか、という流れが普通です。ベランジェールさんのような場合は別ですが」
「ベラはな。でもその線もないか。まあとりあえず会うか。向こうの希望する日でいいな」
◆◆◆
「ラヴァル公爵様、リュシエンヌさん、本日はご足労をおかけしまして申し訳ございません」
「いやいや、クローディーヌ殿、今日は二人から何か相談があるんだろう。俺にできることなら相談に乗ろう。力になれるかどうかは分からないが」
「私にもできることがあればお手伝いいたします」
「いえ、ここに来ていただいたことだけで十分でございます」
クローディーヌ殿とタイスは深々と頭を下げた。
「俺たちをここに来させたかったのか?」
「はい、夫がいない間に」
夫不在の間に男を連れ込もうってことかと考えたけど、クローディーヌ殿も横で話を聞いているタイスも、真面目な表情だ。
「単に男を連れ込もうってことではないな?」
「あら、母娘揃って手を出していただいてもかまいませんよ。喜んで手を出されましょう」
「私も同じです。シュウジ様」
クローディーヌ殿は四〇過ぎ。豊満だけど弛んでるわけじゃない。肉感的で熟れきった、いい体をしている。
タイスは少し癖のある髪を綺麗に纏めている。リュシエンヌよりも下だけどメリハリのあるいい体つきだ。年齢以上に発育がいいんだろう。エミリア系だな。
「それは魅力的な提案だが、美しい花には棘があると言われるから、いきなり手を伸ばすのはやめておこう。それで本題は? それに近いことだとは推測できるが」
さすがにここでベッドに連れていけばスキャンダルになる。いくら女が好きでも揉め事はノーサンキューだ。
俺の言葉を聞くとクローディーヌ殿は覚悟を決めたような表情で口を開いた。
「公爵様は夫のエミールの顔を見たことはございませんでしょう?」
「……ないな。お亡くなりだとは聞いてはいないが」
「はい。王都には滅多に顔を見せません。領地の方に引きこもって今日も子作りに励んでいることでしょう」
その他人事のような言い方に、怒りとやるせなさを感じた。普通なら社交シーズンは王都に来るからな。
「子供ならタイス殿……ん? ひょっとして男児が欲しいと?」
「そうでございます。私が産んだ子は四人。二人は嫁ぎました。タイスの下にミラベルという七つの娘がおりますが、その子を産んだ時に体を壊しまして、もう子供は産めないと言われております」
貴族の妻は子供を産むのが仕事だと言われる。ここは日本と違ってガチガチの貴族社会だ。家系を途絶えさせないということには相当なプレッシャーもあるだろう。
「私だけではなく、愛人たちにも女児しか生まれておりません。おそらくそうなる運命ではないかと夫も口にしていたのですが……」
「状況が変わったと」
「はい。側室に迎えた子爵家の娘に男児が産まれました」
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「私は我慢すればいいのですが、跡取り候補として残されていたタイスが哀れで」
「私は気にしないと言っているのですが、母はどうしてもと」
タイスは気遣わしげに母親を見た。優しい子なんだろうな。自分が一番の被害者なのに母親の方を気遣っているように見える。リュシエンヌと仲がいいのが分かるなあ。
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