元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第九部:教えることと教わること

会議の始まり

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 社会政策省の会議室に二〇人が集まった。アドニス王が集めてくれた役人たちだ。全員が元々王宮で働いていた役人だった。その中から若手を中心に、平民の生活を向上させるという目的に賛成できる者を集めてもらった。
 でも俺が最初に考えていた構成にはならなかった。そのそも役人に平民は少ないし、女性も少ない。平民の女性はゼロだった。
 まあそこに文句を言っても仕方がない。いずれは見つかるかもしれないし、人数自体も増やせるだろう。とりあえずこの人数でスタートしてほしいということだった。
 ちなみに俺は社会政策大臣という立場だけど、アドニス王に直接提言してもいいと言われた。逆に言えばヘタに提言すればこの国の制度を変えてしまうことになる。よく考えて実行しなければならない。

「それでシュウジ様、まずはどのような政策をお考えですか?」
 会議室で俺にそう聞いたのは副大臣になったシプリアン・ロッシュ。ロッシュという家名から分かるように、騎士隊長ナタン殿の弟だ。ナタン殿が三男で、シプリアン殿は一番下の六男だということだ。年齢は二五。俺よりも少し上だ。副大臣に抜擢したのは縁故採用だけど、父親と兄が信用できる人物だから、血筋的に問題ないだろう。
 これまでは下級役人をしていたけど、考えの方向性が俺に近いということで抜擢した。本人はまだ少し戸惑ってる感じだな。
「いくつか考えていることはある。だがこの国に合うかどうかを考えれば、全てを提言するわけにはいかない」
 俺も貴族の端くれとしてこの国のことを学んでいる。俺はこの国に召喚された部外者だけど、子供はこの国で生まれるわけだ。いずれはこの国の普通の貴族になるだろう。助言できるとすれば俺しかいない。
 ケントさんはそのあたりは消極的だ。俺としてはもう少し発言してもいいと思うけど、それは人それぞれだからな。あの人は少々エロ方面が得意な善人だ。そもそも貴族向きの性格じゃないんだろう。

 俺が提言を考えているのは、税、戸籍、家名、教育の四つ。四つとも繋がりがあるから難しい。
 まずは税について。ベックへの行き帰りで実際に見たから分かるけど、この国の町や村は麦畑が限られていた。これは麦畑の広さによって税の金額が変わるからだ。地租、つまり農地に対する固定資産税が集落に対して徴収される。
 一見するとおかしくはない。麦畑を広げれば広げるほど集落が払う税が高くなる。でも工業化はされてないから耕耘機こううんきやトラクターはない。一般的には牛や馬とすきが使われている。それとくわだ。農作業風景は昔のヨーロッパみたいだ。
 そのあたりを魔道具にできないのかと思うけど、出力的に大変らしい。ガソリンってすごいんだな。この国の燃料って、動物や魔物から採れる獣脂で、そもそも石油はない。魔物から取り出した魔石は魔道具に使われるけど、出力を上げようとすると大きな魔石を使うことになり、その魔石がかなり高価だ。オーブンなどは密閉型にして熱を逃さないからそこまで出力は必要ないそうだ。
 農地に話を戻すと、トラクターなどがないから土を起こすなら牛や馬に頑張ってもらうしかない。農地を広げても種蒔きや収穫、さらには普段の世話にも人手が必要になる。要するに人口の少ない農村は、農地を増やすことも収穫量を増やすことも難しい。しかもヘタに広げれば税が増える。だから小さな農村は細々ほそぼそとやるしかない。役人がチェックに来るからな。
 一方で王都などの大都市の近くなら人手は集まりやすい。畑仕事なら特殊な技術は必要ないから働き手はいくらでも集まる。農地が増えて税が増えても収穫量が増えれば十分ペイできる。さらに大都市なら土属性魔法の使い手を集めて耕すこともできなくない。土の中に混じった石を取り除くことも難しくないからな。
 大都市圏が豊かになりやすく地方は貧しくなりやすいのはこの国でも同じだ。金ができたら田舎でスローライフなんてことはできない。ヘタに畑を作れば怒られて追い出される。税が増えるだろって。
 そもそも人頭税はそこにいるだけで税を取られることになる。封建制と相性がいいけど、富の再分配という点では後ろ向きな税制だ。地球で人頭税を導入してる国ってあったか?
 それなら地租じゃなくて人頭税を取った方がまだマシだろう。集落の成人一人あたりいくら、もしくは麦をどれだけ。それも収穫量に応じて調整する必要はあるだろうけどな。不作の年には軽減しないとキツいだろう。
 でもそうするためにはその集落にどれだけ人がいるかを把握しないといけない。戸籍なんて貴族しかない。だから戸籍を作ることを考えた。
 でもそれも問題がある。同じ名前がいっぱいいるからだ。多いのは、男ならアラン、ジャン、ミシェル、パトリック、フィリップ、ピエール。女ならアンナ、シャルロット、イザベル、マリー、ナタリー、ヴァレリー。集落にこの名前がない方がおかしいくらいだ。
 しかも綴りは違うけど男女同じ発音ってのは多い。エメ、アンドレ、アリエル、ダニエル、ドミニク、フレデリック、ギャエル、ジョルジュ、ジョゼ、リオネル、マルセル、ミシェル、ノエル、パスカル、ポール、ラファエル、レネ、ヴァレリーなど。
 シプリアンの父親のクノー子爵の名前はパトリスで、うちの執事助手もパトリスだ。うちのメイドにドミニクがいるけど、彼女の親戚には彼女を含めて八人ドミニクがいるそうだ。男が四人と女が四人。だから「どのドミニク?」ってなることもあるらしい。うちのドミニクは「若い女で一番胸がないドミニクだと言われます」と、悲しそうな顔で説明してくれた。つい小遣いを渡してしまった。
 そういう事情もあって、個人を識別しやすくするために苗字でも姓でも家名でもいいけど付けたい。そうすることで、少しずつだけど地方から戸籍調査をして、いずれは王都にも広げていけばいいんじゃないかと思う。
 そのためには識字率を上げる必要がある。王都や大都市はそれなりに高いけど、地方は自を覚える前に畑を耕すことを覚えさせられる。読み書き計算ができれば、できる仕事の幅が一気に広がるんだけどな。
 戸籍を作りたいのは、人口の把握がされてないという事実を知ったからだけじゃない。スラムが広がりつつあるという恐ろしい事実を知ったからだ。生活に困った者たちが王都に集まり、さらにスラムに吸い込まれていく流れができていた。
 セーフティーネットがない社会だから、孤児院や救貧院を兼ねた教会に救いを求めなければスラムに住み着くしかない。何度も顔とステータスを変えて入ってみたけど、動けなくなってた子供も大勢いたからな。とりあえず孤児院に預けたけど、それもどうなることやら。
 孤児院や救貧院は国の施設だ。だから救いを求めれば助けてくれる。でも入れば好き勝手なことはできない。それぞれのルールがある。だからそれが嫌だと救いを求めないことが多い。そうしてスラムに溜まることになる。
 炊き出しを行って食事を与えるのもいいけど、根本的な解決にはならない。王都の仕事は限られている。地方で畑を耕したいけど税の関係で畑は増やせない。一度漏れてしまったら仕事がなくなる。
 順番が前後したけど、きっかけはスラムだった。そこで田舎を出て王都に来た理由を聞き、畑を増やせないという事実を知った。それをベックへの行き帰りで確認し、たまたま社会政策大臣なんて大層な役職を与えられたから何とかしたいと思った。きっかけはお忍びの散歩だ。でもバカにはできないな。こうやって役に立つ可能性があるんだから。
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