元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十四部:それぞれの思惑

日本人とカレー

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 町を作る。ただ一から全部やっていては時間がかかりすぎる。だから最初にできる範囲で用意しておく。
「五人は土を起こしてくれ」
「「「はい」」」
 俺がスキュラたちに頼んだのは、馬引きすきを使って農地の土を起こすことだった。役人とペアになって作業をさせる。
 彼女たちは下半身がそれぞれ六匹の大型犬だ。とにかくパワフル。ワウワウ言いながらすきを引いている。すきというレベルじゃなくてトラクターだな。
 トゥーリアは邪魔な木を抜いたり土魔法で土地を均したりしてくれる。魔力は俺より多いからな。
 俺は【石の壁】と【石工】を使って城壁を作る。ただし城門のあたりや上部をどうすればいいか分からないので、そのあたりだけは後ほど職人たちにやってもらうことになるだろう。
 石の壁を何枚も並べて接着。このサイズの石をくっつけられるって凄いな。とりあえず戦争はしないだろうから、高さ三メートル、厚さ三メートルにする。ブロックを積むわけじゃないから表面が平らだ。気になるなら適当に模様でも入れてもらうか。
 石の壁を出す時は魔力を消費するけど、くっつける際にはそれほど消費しない。魔力切れになることはないな。
 そうやって作業をするうちに昼になった。

「そろそろ昼食にするか」
「「「わーい」」」
「「「わうわう」」」
 スキュラたちが喜ぶ。この子たちは普段は使用人たちと同じものを用意してもらい、それを自分たちの家で食べている。元々は森で採った果物とかを食べていたそうだけど、俺がシチューを食べさせてからは普通に食事をしている。そもそも扱いが微妙なんだけど、使用人よりは上、妻たちよりは下のようだ。ちなみに犬たちには肉が用意されている。
「私たちもよろしいのですか?」
「もちろんだ」
 役人たちが聞いてくるけど、まさか除け者にするつもりはない。みんなで食べるか食べないかだ。
 メインはタイカレーで、そこにサラダを添える。サラダはワインビネガーとオリーブオイルと塩を使ったスペイン風だ。相性がどうとかこの際は口にしない。
 タイカレーにはイエロー、グリーン、レッドなど色だけでも何種類もあって、今日用意したのはイエローカレー。タケノコがないから歯ごたえのあるカブの一種を焼いて入れている。
 もちろんタイではカレーとは呼ばない。あれはゲーンだ。エビのペースト、タマネギ、ニンニク、トウガラシなどを使ったスープで、ココナッツミルクを入れることが多い。そこに鶏肉を入れればゲーン・ガイになる。ガイは鶏肉のことだ。森のカレーという意味のゲーン・パーはココナッツミルクを使わないから、もっとサラサラしたスープになる。仕事関係での知り合いにはフィリピン人が多かったけど、タイ人もいた。そこから教えてもらったレシピが多いな。
 タイの女性は全般的に気が強い。店以外では頭を下げないことが多かった。聞けば自分の弱みを見せないためらしい。だから相手に迷惑をかけようが何をしようが気にしないというタイ人女性が多かったな。ちょっと迷惑だったけど、あれだけ自分を通せたらそれはそれで凄い。ベッドの中ではそんなに強気じゃなかったけどな。
「大臣、これはカレーなのですか?」
「よく見かけるカレーとはかなり違うのですが」
「ああ、俺の国とは違うタイという国のカレーの一種だ。ピトル伯爵がこっちに来る前に日本に入ってきていたかどうか微妙だな」
 ケントさんがこっちに来た時にはまだ日本ではそこまでエスニック料理の人気が高くなかったかもしれない。エニスニックブームはたしかバブルが終わってからだろう。タイカレーはあったかもしれないけど、誰もが口にするほどじゃなかったはずだ。
「それでですか。ピトル伯爵が広めたカレーとは見た目が違いましたので、違う料理かと思いました」
「内容的にはかなり違うが、呼び方は同じくカレーだな」
 俺はカレーという料理の奥深さを説明した。奥が深いというか懐が深いという感じだろうか。「これはカレーだ」と言ってしまえばカレーになる。それがカレーという不思議な食べ物だ。
 そもそもカレーって何種類もの香辛料を使って作った煮込み料理で、一緒に食べるものも米でもナンでも好きにすればいい。とりあえず炭水化物を一緒に口にするのがカレーだそうだ。汁気のあるなしも関係ない。だからカレーパンというのはカレー料理で間違いない。
「ピトル伯爵もそうでしたが、日本という国の国民はカレーに対してかなりの思い入れがあるようですね」
「あるぞ。元は他の国の料理だが、国民食と言っても過言じゃないな。むしろカレーを日本の料理と思っている外国人は多かった」
 カレーが嫌いという人間を俺は知らない。そりゃ世の中を探せばいるんだろうけど、カレーが嫌いで何の楽しみがあるのかってくらい日本はカレー味が好きだからな。普通のカレーだけじゃなく、ドライカレーにカレーパン、カレーうどんにカレーラーメン、カレー鍋にカレー煎餅。揚げ物だってカレー風味にするし、炒め物にもカレー粉を入れる。冷や奴にカレー粉を混ぜたツナマヨを乗せたり、まあ何でもありだな。日本のカレーチェーンがインドに進出したという話もあったな。
「そのような料理をこの国で作れないものでしょうか?」
「名物料理ってことか?」
「はい」
 たしかにこの国に名物はないな。むしろ料理に関してはレパートリーが貧相だ。結局きちんと料理すれば高くつくというのが理由だ。
「バウムクーヘンなんかはそこそこ売れてるようだが、甘味以外となるとなあ」
 結局は食材の流通の問題になる。生鮮食品が安く手に入らないのが原因だ。野菜に関しては地方の方がよっぽど簡単に口に入る。王都の近くには町じゃないけど小さな集落はある。そういうところに住んでいる者たちが野菜を作って王都の朝市などで売っている。そういう場合は税の代わりに場所代を払うようだな。だから野菜は王都でも買えるけど、値段は高いから庶民には高級品だ。だから買うのは中流以上の家になる。
「俺は料理が専門じゃないからな。でもまあ考えておこう」
 期待されてるのは分かるけど、難しいよなあ。名物って作ろうと思って作れるものじゃないし、意外なものがヒットすることもある。「なんでこれが名物に?」ってものは各地にあると思うぞ。京都のはもなんて、生きたまま運べるのがはもくらいしかいなかったって話だよな?
「あ、そうだ。トゥーリアにはバウムクーヘンと樽ババロアを用意した。これくらいでいいか?」
「うむ。何ごともほどほどじゃな」
 トゥーリアにはサン=フォアに行った帰りに乗せてもらったりと世話になっている。だから何か礼をしようと思ったけど何も思い付かない。ドラゴンが何が欲しいか分かるか? 彼女が【人化】が使えるならもっと色々と出てくると思うけど。そんなわけでせめて料理でもと思ったけど食事もほとんど必要ない。だから甘味になった。
 一緒に暮らすうちにトゥーリアは甘いものが好きだと分かった。でもあの体のサイズに合わせてケーキは作れない。だからバウムクーヘンとババロアだ。
「体を動かした後の甘味は最高じゃな」
 バウムクーヘンは樽に一〇本ほど挿しておいた。カットせずに丸ごとだけど、サイズ的には俺にとってのフライドポテトくらいだ。摘まんで口にポイ、摘まんで口にポイ。あっという間にあの大きな口の中に消えた。満足してくれたようで、「むふ~」という嬉しそうな声が聞こえた。
 ババロアは樽くらいのサイズの容器を作り、そこに流し込んである。普通なら浅い型に入れて固め、型から外して皿に盛り付けるものだと思うけど、サイズがサイズだから容器ごとになる。樽ババロアを手に持ったトゥーリアが上を向き、そのまま中身を口にポイ。すぐに次の容器を手にしてまたポイ。俺なら胸焼けしそうだ。
 最初はプリンを作ろうかと思った。日本人ならプリンだろう。でもトゥーリア用のプリンは使う卵の数がハンパない。一〇〇〇個単位で必要だ。だからババロアにした。ゼリーや寒天が簡単に作れるようになったし、ミルクはまだそこまで高くはない。それにトゥーリアが集めていた金貨や銀貨があるから、購入費用の一部にはそれを使っている。
 俺たちはしばらくの間、話をしながらスプーンとフォークを動かし続けた。
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