異世界は流されるままに

椎井瑛弥

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第8章:春、急カーブと思っていたらまさかのクランク

第20話:妊娠発覚

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「レイ、子供ができました」
「え?」

 シーヴが差し出したステータスカードの状態欄には「妊娠」と表示されていました。
 この世界の女性は年頃になればいつの間にか妊娠できるようになっています。生理がありませんので、タイミングを測って妊娠することはできません。妊娠は運次第なので、子供が欲しければ純粋に頑張るしかありません。

「いずれはそうなると思ってたけど、いきなりだったな」
「ええ。さすがにこの時期ではステータスカードを見ないとわからないでしょうね」

 普通なら一週間や二週間でわかるはずはありませんが、この世界にはステータスカードがあります。そこに「妊娠」と表示されたのなら間違いないんです。

「俺はそこまで詳しくないんだけど、夜は控えたほうがいいよな?」
「どうでしょうね? 日本ならまず気づかない時期でしょうし、問題ない気もしますけどね」

 シーヴだけでなく、ここにいる元日本人組はそろって生涯独身でした。誰か一人でも妊娠と出産の経験があれば、的確なアドバイスができたでしょう。
 医学的な面から考えると、妊娠中の性行為そのものは胎児に影響はないと言われています。それでも、もし雑菌が入って感染症を引き起こせばどうなるかはわかりません。

「できる限り控える。するなら【浄化】を使って体をきれいにする。そんな感じか?」
「でしょうね。体調がどうなるかによりますけど、しないことでストレスになったら嫌ですし」
「様子を見ながらってことだな」
「とりあえずお酒はやめますね」
「飲みたくなったらアルコールを飛ばせばいいか」

 妊娠したら酒は控えるというのは日本では常識ですが、デューラント王国にはそのような考えはありません。子供は神からの授かり物です。特に酒の神の信者などは、たとえ何があっても酒を絶やしたりしません。

 ◆◆◆

 最初にシーヴが報告し、そこからサラ、ラケル、ケイトの順で報告が入りました。まだ報告がないのはシャロン、マイ、エリ、マルタ、シェリルです。シャロンは種族的にできにくいでしょう。マイとエリとマルタとシェリルの四人はもう少し恋人気分を味わいたいからということで【避妊】を使っています。使わなくてもエルフのエリは他種族との間に子供はできにくいでしょうが。

「結婚式の時に悪阻つわりがないといいなあ」

 サラが下腹部を撫でながらつぶやきます。

「姉さん、大丈夫。この世界に悪阻はない」
「え?」
「体の作りが違う」
「あ、そうだった」

 生理とは妊娠しなかったことで不要になった子宮内膜が血と一緒にはがれて排出されることで起きるものです。そもそも体の作りが違って生理がないこの世界では、妊娠のメカニズムさえも微妙に違うのです。妊娠前後で体調が変わることはありますが、悪阻のようなものは滅多にないと言われています。

「それよりも大きな問題がある」
「なに?」
「このままだとレイ兄の相手がいなくなる。そうなると別の女性を呼んでくる必要がある」
「俺が性欲を抑えられない男みたいな言い方はやめてくれないか?」
「でも、我慢できる?」

 この一年少々の間、レイの異性関係はわりと派手でした。娼館に行ったり酒場で女給に声をかけたりすることはありませんが、夜は常に誰かと一緒です。
 それ以前、シーヴとサラの二人と関係を持つまでは、むしろ性欲はほとんどなかったのです。風呂場でサラの裸を見ても、アレはほとんど反応しなかったくらいです。
 人間に発情期があるわけではありませんが、スイッチが入ることによって制欲が高まるのではないかとレイは考えています。

「マイ、いざとなればダーシーさんやメレディスさんを誘えばいいでしょう。あの二人は領主という地位よりもレイ個人に興味があるようですから」

 自分の性欲のことを考えていたレイの耳に、思ってもみなかった名前が飛び込んできました。

「待て待て。メレディスさんは怖いからやめてくれ。あれは捕食者の目だ」
「ではダーシーさんは?」
「あの人に興味があるわけじゃないからな」
「でもプレゼントで釣りましたよね?」

 レイは釣ったつもりはありませんが、結果として釣り上げてしまいました。当たり前のようにグレーターパンダの毛皮を手にしていたレイと、手にする機会すらなかったダーシーの価値観の違いです。

「とりあえず手は出さない。これ以上はいらない」

 あまり人数ばかり増やしてもどうしようもないとレイは考えています。ところが、はいくらでもいて、シーヴたちはその人たちをレイの相手にしてもいいと考えています。もちろん、人柄を重視してのことですが。

「でも身重になるなら今までどおりの生活はできないな」
「飛んだり跳ねたりはやめたほうがいいかな?」
「さすがにな。どうせ冒険者活動はしばらく休みだからな。そんな余裕もないけど」

 今後は領主とその家族としてこの町で暮らすわけで、のんびりと魔物を狩りに出かけることはできないでしょう。レイよりも強い人は滅多に現れないでしょうが、それでも可能性はゼロではありません。気をつけるに越したことはありません。レイはしばらくは大人しく町づくりに集中することになります。
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