異世界は流されるままに

椎井瑛弥

文字の大きさ
185 / 208
第8章:春、急カーブと思っていたらまさかのクランク

第20話:妊娠発覚

しおりを挟む
「レイ、子供ができました」
「え?」

 シーヴが差し出したステータスカードの状態欄には「妊娠」と表示されていました。
 この世界の女性は年頃になればいつの間にか妊娠できるようになっています。生理がありませんので、タイミングを測って妊娠することはできません。妊娠は運次第なので、子供が欲しければ純粋に頑張るしかありません。

「いずれはそうなると思ってたけど、いきなりだったな」
「ええ。さすがにこの時期ではステータスカードを見ないとわからないでしょうね」

 普通なら一週間や二週間でわかるはずはありませんが、この世界にはステータスカードがあります。そこに「妊娠」と表示されたのなら間違いないんです。

「俺はそこまで詳しくないんだけど、夜は控えたほうがいいよな?」
「どうでしょうね? 日本ならまず気づかない時期でしょうし、問題ない気もしますけどね」

 シーヴだけでなく、ここにいる元日本人組はそろって生涯独身でした。誰か一人でも妊娠と出産の経験があれば、的確なアドバイスができたでしょう。
 医学的な面から考えると、妊娠中の性行為そのものは胎児に影響はないと言われています。それでも、もし雑菌が入って感染症を引き起こせばどうなるかはわかりません。

「できる限り控える。するなら【浄化】を使って体をきれいにする。そんな感じか?」
「でしょうね。体調がどうなるかによりますけど、しないことでストレスになったら嫌ですし」
「様子を見ながらってことだな」
「とりあえずお酒はやめますね」
「飲みたくなったらアルコールを飛ばせばいいか」

 妊娠したら酒は控えるというのは日本では常識ですが、デューラント王国にはそのような考えはありません。子供は神からの授かり物です。特に酒の神の信者などは、たとえ何があっても酒を絶やしたりしません。

 ◆◆◆

 最初にシーヴが報告し、そこからサラ、ラケル、ケイトの順で報告が入りました。まだ報告がないのはシャロン、マイ、エリ、マルタ、シェリルです。シャロンは種族的にできにくいでしょう。マイとエリとマルタとシェリルの四人はもう少し恋人気分を味わいたいからということで【避妊】を使っています。使わなくてもエルフのエリは他種族との間に子供はできにくいでしょうが。

「結婚式の時に悪阻つわりがないといいなあ」

 サラが下腹部を撫でながらつぶやきます。

「姉さん、大丈夫。この世界に悪阻はない」
「え?」
「体の作りが違う」
「あ、そうだった」

 生理とは妊娠しなかったことで不要になった子宮内膜が血と一緒にはがれて排出されることで起きるものです。そもそも体の作りが違って生理がないこの世界では、妊娠のメカニズムさえも微妙に違うのです。妊娠前後で体調が変わることはありますが、悪阻のようなものは滅多にないと言われています。

「それよりも大きな問題がある」
「なに?」
「このままだとレイ兄の相手がいなくなる。そうなると別の女性を呼んでくる必要がある」
「俺が性欲を抑えられない男みたいな言い方はやめてくれないか?」
「でも、我慢できる?」

 この一年少々の間、レイの異性関係はわりと派手でした。娼館に行ったり酒場で女給に声をかけたりすることはありませんが、夜は常に誰かと一緒です。
 それ以前、シーヴとサラの二人と関係を持つまでは、むしろ性欲はほとんどなかったのです。風呂場でサラの裸を見ても、アレはほとんど反応しなかったくらいです。
 人間に発情期があるわけではありませんが、スイッチが入ることによって制欲が高まるのではないかとレイは考えています。

「マイ、いざとなればダーシーさんやメレディスさんを誘えばいいでしょう。あの二人は領主という地位よりもレイ個人に興味があるようですから」

 自分の性欲のことを考えていたレイの耳に、思ってもみなかった名前が飛び込んできました。

「待て待て。メレディスさんは怖いからやめてくれ。あれは捕食者の目だ」
「ではダーシーさんは?」
「あの人に興味があるわけじゃないからな」
「でもプレゼントで釣りましたよね?」

 レイは釣ったつもりはありませんが、結果として釣り上げてしまいました。当たり前のようにグレーターパンダの毛皮を手にしていたレイと、手にする機会すらなかったダーシーの価値観の違いです。

「とりあえず手は出さない。これ以上はいらない」

 あまり人数ばかり増やしてもどうしようもないとレイは考えています。ところが、はいくらでもいて、シーヴたちはその人たちをレイの相手にしてもいいと考えています。もちろん、人柄を重視してのことですが。

「でも身重になるなら今までどおりの生活はできないな」
「飛んだり跳ねたりはやめたほうがいいかな?」
「さすがにな。どうせ冒険者活動はしばらく休みだからな。そんな余裕もないけど」

 今後は領主とその家族としてこの町で暮らすわけで、のんびりと魔物を狩りに出かけることはできないでしょう。レイよりも強い人は滅多に現れないでしょうが、それでも可能性はゼロではありません。気をつけるに越したことはありません。レイはしばらくは大人しく町づくりに集中することになります。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...