異世界は流されるままに

椎井瑛弥

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第9章:夏、順調ではない町づくり

第12話: 地図を作る

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「実は、ダニエラたちの力を借りて、この近辺の地図を作成しました」
「ん? ハーピーなら空を飛べるけど、どうやって地図にしたんだ?」

 レイがそう思うのは当然です。ハーピーは人間の腕が翼に近い形になっています。鉤爪がありますので、ペンと紙は持てますが、そうすると飛べません。体の前に画板のようなものを置き、口に咥えたペンで描くのでない限りは。それでもインクをどうするかという問題もあります。
 様々な魔道具を作ってきたエリですら、筆記用具は開発していません。今の世界で使われている筆記用具は、字を書くときにペン先をインクに浸す「つけペン」か、その前身の羽根ペンがほとんどです。植物の茎などが使われることもあります。それで十分だからです。

「フレヤとリーサとサンナには、それぞれカゴを持って飛んでもらいました。その中に絵の上手なエルフが乗って、上から見た景色をつなげたものがこれになります」

 その三人が絵を描くエルフを運びました。ダニエラとエドラの二人は鳥を使役し、空飛ぶ防犯カメラのように周囲の警戒をさせました。

 ~~~

「今日みなさんに集まってもらったのは他でもありません。この領地の発展のために、みなさんの力がどうしても必要だからです」

 シェリルは五人のハーピーたちを前にして話を始めました。

「まず、みなさんはそれなりの重さが運べますね?」
「はい。自分の体重くらいまでなら」
「それでしたら、人をつり下げて運べますか?」
「人を運んだことはありませんが、できるかできないかなら、おそらくできます」

 ダニエラはそう言い切りました。自分とエドラは体が小さいので、どちらかというと速度を出すほうが楽です。しかし、フレヤとリーサとサンナは翼が大きいので、より重い荷物を運べますと。

「もう一つ聞きますが、二人で一つの荷物を運ぶとすると、もっと重い荷物が運べたりはしませんか?」
「二人で一つですか? できなくはないでしょうが、お互いの翼が当たらない距離をあけ、そこにロープでつるして運ぶとなると、かなり長いロープでぶら下げなければなりません」
「ああ、そうですね」

 シェリルは頭の中でイメージして納得しました。
 ハーピーの翼の骨は、人間が腕を真横に伸ばしたより少し長く程度ですが、そこから長い風切羽かざきりばねが出ています。最低でも二メートルは離れないと、翼同士が接触して危ないのです。
 さらに、ロープの位置も関係します。体のに荷物がある限りは翼の動きはそれほど影響を受けません。しかし、二人で一つの荷物を運ぼうとすると、相手側の翼にロープが当たります。当たらないように長くすると、深いV字に垂れ下がるくらい長くしなければなりません。飛び立つ瞬間に引きずる可能性があり、浮いたあとも揺れがひどくなるだろうと。飛んでいる間も、お互いの距離感に気をつけなければなりません。
 また、荷物のバランスが崩れると危険です。ハンモックに荷物を乗せるようなものなので、くるんと回って落ちる可能性がゼロではありません。

「荷物が落ちず、ロープが翼に当たらないようにするなら、四人で運ぶのがいいと思います。それでも、どうしてもロープは長くしなければなりませんが」
「それはやめておきましょう。無茶をして怪我でもしたら大変ですし」

 シェリルは一枚の紙を取り出して五人に見せました。そこには大まかな計画が書かれていました。

「私が考えているのは、この近辺の正確な地図を作ることです。そのためには、上から記録をするのが一番でしょう。ただ、魔物が寄ってくることもあるでしょうし、安全は確保したうえで進めたいのです」

 ハーピーは鳥を従えることができます。その鳥の目を通して先を見ることもできます。鳥は防犯カメラのようなものです。この鳥たちによる周辺警戒をダニエラとエドラに担当してもらいます。
 フレヤとリーサとサンナの三人には、小柄なエルフの女性をつり下げて空を飛んでもらいます。エルフの女性たちは画板とペンを持ち、上空から見た地図を描いてもらいます。一人なら誤差もあるでしょうが、三人の描いた地図を合わせれば、正確な地図に近づくでしょう。

「なるほど。フレヤとリーサとサンナには、地図を描いてもらう。私とエドラは三人が作業に集中できるように、鳥を使って周囲を警戒し、もし魔物が近づいてきたらすぐに逃げるように伝える。こういうことですか?」
「はい、そういうことです」

 シェリルはさらに説明します。この領地は周囲を森に囲まれています。かなり開けた土地なので、町を作ることはできますが、そのための資材がありません。どうにかして、どこかにつながる道を作りたいところですが、東はエルフの森、北も南もエルフの森の端の部分が伸びています。

「平らな土地はあります。畑は作れます。ですが、畑しかできません。これでは領地としては限度があります」

 農業を中心にしても悪いわけではありません。しかし、町を作るには木材が必要です。木を切るなら領地の端に行かなければなりません。レイの家族が頼めば、ダンジョンから木材でも石材でも出てきますが、それだけですべてをまかなえるわけではありません。どうせ森を切り拓くなら、何かの資源がありそうな場所を目指して拓いたほうがいい。そのためにも地図が欲しいのです。

 ~~~

「それにしても早くないか?」
「エルフたちには森の形などを記録してもらいました。実際の距離は五人が上を飛んで確認しています」
「そういうこともできるのか」

 大まかな距離はハーピーの移動速度からわかります。どこに何があるかをエルフたちが記録して、実際の距離感はハーピーたちが鳥と一緒に確認しています。複数の情報源からこの地図は起こされていました。

「何か問題は?」
「大きなトラブルはありません。小さなものならいくつか」
「どんなのだ?」
「この話が町で広がりまして、他のエルフたちが空を飛んでみたいと言い始めたそうです」
「遊覧飛行か」

 この世界で空を飛ぶことができるのは翼のある種族のみです。【飛翔】や【飛行】など、空を飛ぶ魔法は存在しますが、魔力切れを起こせば落ちます。翼があるなら滑空もできるでしょうが、誰でも紐なしバンジーをしたくはないでしょう。

「重さは一人あたり五、六〇キロくらいまでだよな?」
「それくらいです。それ以上重いと魔力の消費が激しいそうですね。特にダニエラとエドラは体が小さいので、他の三人よりは大変だそうです」

 ハーピーが一度に運べる重さの上限は、自分の体重くらいまでです。少し無理をすればもう少し運べますが、重すぎると魔力の消費が激しくなります。できれば体重までに抑えたいところです。

「そのカゴを一人一つ持つんじゃなくて、二人一組になって持ったらどうなんだ?」
「近すぎると翼が当たって危険だそうです。ロープもありますし」
「ああ、そうか」

 レイもシェリルと同じように考えました。そして、言われてみて問題点を理解できました。

「カゴを左右から吊り下げるとなると、バランスが難しいか」
「バランスを考えるなら一人のほうが楽だそうです」

 遊覧飛行は当分は無理でしょう。しかし、もし可能なら、それを名物にできるのではないかとレイは考えました。
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