異世界は流されるままに

椎井瑛弥

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第9章:夏、順調ではない町づくり

第13話:やって来る者たち(ケンタウロス)

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 スペンスリー男爵領は新しい領地です。つまり、ここに来れば仕事があると考え、はるばるこの町を訪ねる人がいるのです。
 情報の伝達が遅い世界なので、最初はゆっくりとした広がりでした。貴族から商人へ、商人から冒険者へ、冒険者から一般人へ。そして現在、レイは仕事があるかもと考えてやって来た人たちと話をしていました。

「領主様、ご足労いただいて申し訳ありません」

 マーシャが頭を下げますが、レイは気にしなくてもいいと手を振りました。

「いや、これは俺が来たほうが早いだろう。立派な騎馬武者が集まってくれたのは嬉しいな。でも、騎馬武者というのもおかしいか」

 レイは総合ギルドの前で、二〇人ほどの騎馬武者たちと対面していました。たしかに長槍と盾で武装していますが、騎馬武者というよりも馬武者でしょうか。彼らはケンタウロスだったのです。
 ケンタウロス、またはセントールとも呼ばれる種族は、人間の上半身と馬の下半身を持っています。

「どうしても人間の町では暮らしにくいのです」
「道が細くて曲がりにくいんすよ」
「あのような細い路地、一度入ると後ろを見ることすらできません。竿立ちになって体を無理やり逆にするしかありませんな」

 古い町ほど街中がむのは仕方ありません。昔は戦争に備えていましたからね。見通しがいいと、敵に侵入された場合に一巻の終わりです。まずは敵が攻めにくくすることを考えなければなりません。一直線に町の中心にたどり着けるなんてことは、普通ならありえません。
 意図的にまっすぐ進みづらくしている面もありますが、結果として入り組んでしまうこともよくあります。裏路地はどこにつながっているのかわからないほど曲がりくねっていますね。これは建てては壊し建てては壊しを繰り返したせいです。
 たまに領主や代官の命令があって、街区が強制的に取り壊されて再整備されることがあります。そのような場所はわりと道がまっすぐです。

「そう考えると、この町は移動が楽!」
「はい。とにかく道が広い! 裏路地でも広い! ラクラクと曲がれますし戻れます!」
「走りやすいっすね」

 そこはサラとマイの都市計画のおかげです。彼女たちは限られた範囲に都市を詰め込むことはしませんでした。
 普通なら、町は商業活動に使われるため、農地は町の近くの村に用意されます。つまり、「町=商工業」「村=農業」となります。町にも多少の農地はありますが、大規模に麦を作ることなどできません。
 グリーンヴィルはサラとマイが中心となって新しく作られた町です。そのため、町の中に農地を取り込むという、いわゆる「エルフ式」が導入されています。つまり、城壁の内側に領主の屋敷も住宅地も農地もあります。どうして他の町がこうなっていないのかというと、城壁を作るのが大変だからです。
 グリーンヴィルの町をぐるっと取り囲んでいる壁は、エルフたちが植物を成長させて作りました。一番上は人が歩けるようにもなっています。町が手狭になれば、もう一つ外に新しい城壁を作り、今の城壁を枯らせばいいのです。いくらでも広くできるので、メインストリートは幅一六メートルほどあります。四車線ですね。
 現在でも、まだあちこちに建設現場があります。石材だの木材だのレンガだの、建築資材を積んだ荷車が縦横無尽に走り回っていますが、渋滞など一度もありません。
 街区の中の通りは最低でも八メートルと定められました。裏路地でも四メートルあります。これよりも幅の狭い道を作ることは認められていません。また、決められた場所以外には領主の許可なく建てられないようになっています。それは通行を楽にするためでもありますが、万が一にも火事になったときに延焼しないようにするためです。
 このケンタウロスたちですが、レイに挨拶をしたかったわけではありません。彼らは仕事を求めてやって来ました。

「一つ確認したい」
「何でしょうか?」

 レイは代表のアルタンに問いかけます。最初はこれを聞いていいのかどうか、レイは悩みました。しかし、聞かずにモヤモヤするよりは聞いたほうがいいと思い、思い切って尋ねることにしました。

「荷車や馬車を引いたりするのは、やっぱり嫌だと思うか?」

 ケンタウロスに馬と同じような仕事を任せていいのかどうかとレイは思ったのです。

「いえ、特にそういうことは」
「そうなのか?」
「はい。そのような仕事もよくありますので。ただ、無理なこともあります」

 アルタンはきっぱりと言いきりました。馬の代わりをするのは嫌ではないと。ただし、完全に馬の代わりはできません。それは体格が違いすぎるからです。

「馬に比べると、我々は体が小さく、力も劣ります」

 この国で見かける馬は、クライズデールのような大型の馬です。力が強くて体力もあります。そこまで足は速くありませんが、加速がつくと大型だけあって、かなりの迫力です。
 一方で、ケンタウロスの下半身は馬ですが、サラブレッドよりもかなり小さく、ポニーよりも大きい程度です。そこから人間と同じような上半身が出ています。背筋を伸ばしたとき、普通の人間よりも頭一つくらい背が高い程度です。小柄なので小回りがきき、しかも両手が使えます。

「他には、荷車の引き手を体の前で手で持つと、いざというときに抜け出せません」
「ああ、それもそうだな」

 荷車の引き手が体の前にある、つまり体が荷車の内側に入る形では、いざというときに抜け出すのに手間がかかり、さらに武器を振り回せません。

「それなら、いざという場合に切り離すことのできるハーネスを使えばいけそうか?」
「それでしたら問題ないでしょう」

 何かがあったとき、連結を解除できるようにしておけば安心でしょう。

「というわけで、そのあたりはサラでもマイでもないし……」
「わたしわたし~」
「それならエリに頼もう。ケンタウロスが使いやすいハーネスだ」
「はいは~い」

 レイはエリに開発を任せることにしました。場合によっては魔道具化されそうです。

「もう一つ、ハーネスができるまでは、見回りや警備も頼みたい」
「わかりました」

 アルタンは胸を叩きます。ケンタウロスは足が早くて持久力があり、しかもそこそこ戦えます。彼らはハーネスが完成するまでは、衛兵をすることになりました。
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