新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第一章 第一部

森の仲間たち(ただし素材)

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 昨日いつ寝たのか、まったく記憶にない。気が付いたらもう朝。この異空間は周囲に合わせて朝になれば明るくなるみたいで、そういえば昨日の夜もちゃんと暗くなってたなあ。

 よし、とりあえず朝食を作るか。パンにサラダ、ベーコンエッグ。サラダにはカリカリベーコンを追加しておこう。リゼッタはカリカリしたものが好きだし。食後に紅茶を淹れようか。

《予定では一週間ほどで森を抜けるのですよね。それまでに採れるものは採ってしまいましょう》
「了解了解」

 昨日歩いた距離を考えると、5日から7日くらいでこの森を抜けそうな感じ。ただ歩き続ければだけど。



◆ ◆ ◆



 リゼッタは朝食後にリスの姿に戻った。あの朝食はどこに入ったのか。重さも変わらない。ファンタジー的なアレと言われたらそれで終わりだけど、ものすごく不思議。

《あの、恥ずかしいので、あまりジロジロ見ないでください》
「それは分かってるんだけどね」

 そもそも肩に乗ってるんだから、ちょっと首を動かせば視界の端に入るんだけど……。

「あ、[索敵]で少し先に生き物らしい反応。そういえば昨日は全然見なかったね」
《昨日はカローラ様が何かしてくれいていたのかもしれませんね》

 [索敵]で分かるのは、生き物がいる大まかな方向と距離だけ。人か魔物かもはっきりとは分からないし、密集していれば数も分からない。

「まあ、ある程度近付いてから判断しよう」
《[地図]を使えば詳しく分かりませんか?》
「最初から全部分かると、旅の面白さがなくなる気がしてね」
《分からなくもないですが、それは安全が確保されていてこそでは?》

 それはそうなんだけど、最初に一から十まで知ってしまうのもね。別に無双したいわけでもないし。そう簡単には死なないとカローラさんには言われてるけど、さすがに命の危険があれば遠慮はしないよ。

「あっちの方に何かいるね。あれは……角のある兎?」
《ホーンラビットですね。長い角のある大型の兎です。かなり動きが速く、速度を活かした突進が攻撃手段です。金属鎧くらい簡単に穴が開きますね。下手をすれば背中まで突き抜けますよ》
「倒し方は?」
《太い木を背にして待ち、跳んできたらギリギリで避けます。角が木に深く刺されば動けなくなります》
「避けられる?」
《ひょっとして、避ける自信がないのですかー? 攻撃は直線的ですので、しっかり見ていれば問題ありませーん》

 昨日のことを根に持っているのか、少し言葉に棘がある。

 大きな木は……あれか。で、これを背にして……誘い出すには音を出したらいいかな。足元の石を向こうへ蹴飛ばして……よし、こっちを向いた……速っ!

 ガツッ!

 こわっ。突進というか、ほとんど飛んできて木にグッサリ。角が木に刺さって手足をバタバタ。

 なるほど、宙ぶらりんだから自分では抜けないのか。面白い絵面だけど、確かにこれが刺されば胴体に穴が開くなあ。

《上手くいきましたね。もう逃げられませんので首を落としてください。この場合は胴体を落とすでしょうか。解体は後でまとめてするとして、とりあえずマジックバッグに入れておきましよう。角も高く売れますので、頭を掴んで引っこ抜いてください》

 あ~そうか、こういうのにも慣れないとなあ。骨を断つ時の感触がね……。

《大丈夫そうですね。どんどん狩っていきましょう》

 一匹ならどうとでもなるけど、囲まれたらかなり危ないかも。前言撤回。森を抜けるまでは油断せず、[地図]を全力で使っていこう。

 [地図]に危険な魔獣を赤で表示させると、背景が白なので赤と白の市松模様になった。見た目はおめでたいけど全然おめでたくない。どれだけいるの? 昨日出会わなかったのが不思議なくらい。

 素材としてお金になるから、リゼッタのアドバイス通りに狩っていく。マジックバッグのお金があるけど、あまりあれを当てにするのも少し気が引けるというか。あれだけの金貨は正直引くというか。

 自分の食い扶持くらいは稼ぎたい。入っている食材とかはいいのか。いいんです。それはそれ、これはこれ。よそはよそ、うちはうち。



 スピアバード。見た感じは巨大なカワセミ。ホバリングはしない。高い木の枝に止まって獲物を狙い、槍の穂先のような長くて硬いくちばしで頭を潰しにくる。鉄の兜くらいでは防げない。避ければ地面に突き刺さるので首を落とす。

 ロックボア。岩のように硬くて巨大な猪。獲物を見つけるとものすごい勢いで突進してくる。土属性の[落とし穴]を使って地面を穴だらけにして待っていれば、足がはまって足が折れて転がっていく。最後はしめる。

 ハウルベア。巨大な熊。敵を見つけると喉の奥が見えるほど大きく口を開けて威嚇してくる。この威嚇には獲物を動けなくさせたり怯えさせたりする効果があるらしい。動きは遅いので、口を開けた瞬間に中に魔法を打ち込む。素材を傷つけないためには[氷矢]あたりがおすすめ。

 バックスネーク。鋭い牙のある長さ三メートルほどの太い毒蛇。地面の中に潜み、獲物が通り過ぎたら伸び上がってお尻バックに噛み付こうとする。なぜ足ではなくお尻なのかは誰にも分からないらしい。お尻に剣山のような防具を付けておけば勝手に刺さる。ただ刺さった瞬間の感触が……後ろからズムッて来るんだよ、ズムッて……



「この森の魔獣って、大半が自滅型?」
《一般的にはどれもこれも倒すのが難しい魔獣です。巨大なものばかりですから。[地図]で居場所が分かっている上に、ケネスが上手に避けるからです》
「その度に耳がくすぐったいけどね」
《くすぐったいくらい問題ありません。嫌なら場所を変えますが、落ちないように髪を掴むことになります。耳がくすぐったいのと髪が抜けるのと、どちらがいいですか?》
「肩から降りるつもりはないのかな?」
《敵を警戒するには肩の上が一番です》

 ふんす、と肩の上でふんぞり返って言うリゼッタ。まあいいけどね。可愛いし。

 エルフになったせいか、それともカローラさんの力のおかげか、動体視力が上がって身のこなしも軽くなった。冗談みたいな倒し方で魔獣を狩ったけど、普通ならかなり手こずるそうだ。

 鳥を警戒して上を見ていると、地面から蛇が飛び出てきて噛まれる。地面を警戒しすぎると鳥に頭をやられる。熊が吠えたのに驚いて固まると兎に貫かれる。魔獣同士はお互いのことを餌としてしか見てないはずなんだけどね。たまに猪と熊が戦っているのを見るし。でも妙なチームワークがあるんだよね。

 それにしても……どんどん狩るのはいいけど、帰ってからはこれを全部解体するのか……。



◆ ◆ ◆



 家の横に作った小屋は解体道具一式を入れておく小屋になった。さすがにマジックバッグも自動では解体してくれないから仕方がない。そこはもうちょっと頑張ってほしかった。

 小屋の横に頑丈な物干し台のようなものを作り、そこに魔獣を頭を下にしてぶら下げる。頭がないのはそのままぶら下げる。魔獣のサイズに合わせて大中小と三つ作った。下に桶や樽を置いてまずは血抜き。次に腹を割って内臓を抜く。注意するのは内臓を傷つけないこと。中身が飛び散って肉が汚れるからね。

 内臓は[浄化]をかければホルモンとして食べられなくはないと思うけど、肉食獣だから心臓以外はほとんど処分した。ハツ、いいよね。

 心臓は食材としても使えるけど、実は魔石が張り付いている。マジックバッグに入っていた宝石の一部は魔石だった。

 魔力は生命力とも関係があり、血液の流れに沿うようにして体の中を流れる。結果として体の中心に近い心臓付近が一番多くなる。その場所に魔石ができ、少しずつ大きくなっていく。大きいものほど価値が高い。あっても困らないみたいなものらしい。

 魔石は魔法使いが魔力の補充に使ったり、魔道具の動力源としても使える。空になっても充填して再利用できる。もっとも充填に時間はかかるし、何度も充填するとそのうち割れてしまうらしい。

 魔石はこの世界における充電池みたいなもの。質が悪いと数回で割れるらしい。空になった瞬間や充填しきった瞬間が壊れやすいそうで、その少し前に補充をすれば長持ちするらしい。



 さばいた肉に[浄化]をかけてマジックバッグに収納。他に保存するのは角、骨、皮や毛皮、羽など。

 解体せずに魔法鞄に入れっぱなしでもいいけど、「絶対に面倒くさがって放置しますから、こういうのは早めに終わらせた方がいいですよ」と言ったのはうちの委員長。

《まだ半分も終わっていませんよー。このままでは日が暮れますよー。これが終われば美味しいご飯と温かいお風呂ですよー》
「作るのは主に僕だけどね」

 なかなか終りが見えない。今日だけでこれなら、何日も続けば嫌になりそう。早く森を抜けないかな。いや、上を飛べば早いとは思うんだけどね。山は歩いて登ることに意味があるから。頂上までヘリで送ってもらっても意味がないから。

 でもさすがに全部は無理だったので、一部はマジックバッグにそのまま入れておくことにした。



 夕食後、リビングでリゼッタと話しながら今後の方針を決める。昨日と今日が違いすぎた。今日はかなり進むのが遅かった。森を出るまで五日から七日くらいだと考えていたけど、それよりは長くなるね。

 そして森にいる間は狩猟と採集をできる限り行う。森で昼食を取るのは難しそうなので、昼食は異空間に戻って取る。その間にリゼッタを愛でたり撫でたり。ただしやり過ぎると怒るので程々に。
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