新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
7 / 278
第一章 第一部

森の仲間たち(ただし素材)

しおりを挟む
 昨日いつ寝たのか、まったく記憶にない。気が付いたらもう朝。この異空間は周囲に合わせて朝になれば明るくなるみたいで、そういえば昨日の夜もちゃんと暗くなってたなあ。

 よし、とりあえず朝食を作るか。パンにサラダ、ベーコンエッグ。サラダにはカリカリベーコンを追加しておこう。リゼッタはカリカリしたものが好きだし。食後に紅茶を淹れようか。

《予定では一週間ほどで森を抜けるのですよね。それまでに採れるものは採ってしまいましょう》
「了解了解」

 昨日歩いた距離を考えると、5日から7日くらいでこの森を抜けそうな感じ。ただ歩き続ければだけど。



◆ ◆ ◆



 リゼッタは朝食後にリスの姿に戻った。あの朝食はどこに入ったのか。重さも変わらない。ファンタジー的なアレと言われたらそれで終わりだけど、ものすごく不思議。

《あの、恥ずかしいので、あまりジロジロ見ないでください》
「それは分かってるんだけどね」

 そもそも肩に乗ってるんだから、ちょっと首を動かせば視界の端に入るんだけど……。

「あ、[索敵]で少し先に生き物らしい反応。そういえば昨日は全然見なかったね」
《昨日はカローラ様が何かしてくれいていたのかもしれませんね》

 [索敵]で分かるのは、生き物がいる大まかな方向と距離だけ。人か魔物かもはっきりとは分からないし、密集していれば数も分からない。

「まあ、ある程度近付いてから判断しよう」
《[地図]を使えば詳しく分かりませんか?》
「最初から全部分かると、旅の面白さがなくなる気がしてね」
《分からなくもないですが、それは安全が確保されていてこそでは?》

 それはそうなんだけど、最初に一から十まで知ってしまうのもね。別に無双したいわけでもないし。そう簡単には死なないとカローラさんには言われてるけど、さすがに命の危険があれば遠慮はしないよ。

「あっちの方に何かいるね。あれは……角のある兎?」
《ホーンラビットですね。長い角のある大型の兎です。かなり動きが速く、速度を活かした突進が攻撃手段です。金属鎧くらい簡単に穴が開きますね。下手をすれば背中まで突き抜けますよ》
「倒し方は?」
《太い木を背にして待ち、跳んできたらギリギリで避けます。角が木に深く刺されば動けなくなります》
「避けられる?」
《ひょっとして、避ける自信がないのですかー? 攻撃は直線的ですので、しっかり見ていれば問題ありませーん》

 昨日のことを根に持っているのか、少し言葉に棘がある。

 大きな木は……あれか。で、これを背にして……誘い出すには音を出したらいいかな。足元の石を向こうへ蹴飛ばして……よし、こっちを向いた……速っ!

 ガツッ!

 こわっ。突進というか、ほとんど飛んできて木にグッサリ。角が木に刺さって手足をバタバタ。

 なるほど、宙ぶらりんだから自分では抜けないのか。面白い絵面だけど、確かにこれが刺されば胴体に穴が開くなあ。

《上手くいきましたね。もう逃げられませんので首を落としてください。この場合は胴体を落とすでしょうか。解体は後でまとめてするとして、とりあえずマジックバッグに入れておきましよう。角も高く売れますので、頭を掴んで引っこ抜いてください》

 あ~そうか、こういうのにも慣れないとなあ。骨を断つ時の感触がね……。

《大丈夫そうですね。どんどん狩っていきましょう》

 一匹ならどうとでもなるけど、囲まれたらかなり危ないかも。前言撤回。森を抜けるまでは油断せず、[地図]を全力で使っていこう。

 [地図]に危険な魔獣を赤で表示させると、背景が白なので赤と白の市松模様になった。見た目はおめでたいけど全然おめでたくない。どれだけいるの? 昨日出会わなかったのが不思議なくらい。

 素材としてお金になるから、リゼッタのアドバイス通りに狩っていく。マジックバッグのお金があるけど、あまりあれを当てにするのも少し気が引けるというか。あれだけの金貨は正直引くというか。

 自分の食い扶持くらいは稼ぎたい。入っている食材とかはいいのか。いいんです。それはそれ、これはこれ。よそはよそ、うちはうち。



 スピアバード。見た感じは巨大なカワセミ。ホバリングはしない。高い木の枝に止まって獲物を狙い、槍の穂先のような長くて硬いくちばしで頭を潰しにくる。鉄の兜くらいでは防げない。避ければ地面に突き刺さるので首を落とす。

 ロックボア。岩のように硬くて巨大な猪。獲物を見つけるとものすごい勢いで突進してくる。土属性の[落とし穴]を使って地面を穴だらけにして待っていれば、足がはまって足が折れて転がっていく。最後はしめる。

 ハウルベア。巨大な熊。敵を見つけると喉の奥が見えるほど大きく口を開けて威嚇してくる。この威嚇には獲物を動けなくさせたり怯えさせたりする効果があるらしい。動きは遅いので、口を開けた瞬間に中に魔法を打ち込む。素材を傷つけないためには[氷矢]あたりがおすすめ。

 バックスネーク。鋭い牙のある長さ三メートルほどの太い毒蛇。地面の中に潜み、獲物が通り過ぎたら伸び上がってお尻バックに噛み付こうとする。なぜ足ではなくお尻なのかは誰にも分からないらしい。お尻に剣山のような防具を付けておけば勝手に刺さる。ただ刺さった瞬間の感触が……後ろからズムッて来るんだよ、ズムッて……



「この森の魔獣って、大半が自滅型?」
《一般的にはどれもこれも倒すのが難しい魔獣です。巨大なものばかりですから。[地図]で居場所が分かっている上に、ケネスが上手に避けるからです》
「その度に耳がくすぐったいけどね」
《くすぐったいくらい問題ありません。嫌なら場所を変えますが、落ちないように髪を掴むことになります。耳がくすぐったいのと髪が抜けるのと、どちらがいいですか?》
「肩から降りるつもりはないのかな?」
《敵を警戒するには肩の上が一番です》

 ふんす、と肩の上でふんぞり返って言うリゼッタ。まあいいけどね。可愛いし。

 エルフになったせいか、それともカローラさんの力のおかげか、動体視力が上がって身のこなしも軽くなった。冗談みたいな倒し方で魔獣を狩ったけど、普通ならかなり手こずるそうだ。

 鳥を警戒して上を見ていると、地面から蛇が飛び出てきて噛まれる。地面を警戒しすぎると鳥に頭をやられる。熊が吠えたのに驚いて固まると兎に貫かれる。魔獣同士はお互いのことを餌としてしか見てないはずなんだけどね。たまに猪と熊が戦っているのを見るし。でも妙なチームワークがあるんだよね。

 それにしても……どんどん狩るのはいいけど、帰ってからはこれを全部解体するのか……。



◆ ◆ ◆



 家の横に作った小屋は解体道具一式を入れておく小屋になった。さすがにマジックバッグも自動では解体してくれないから仕方がない。そこはもうちょっと頑張ってほしかった。

 小屋の横に頑丈な物干し台のようなものを作り、そこに魔獣を頭を下にしてぶら下げる。頭がないのはそのままぶら下げる。魔獣のサイズに合わせて大中小と三つ作った。下に桶や樽を置いてまずは血抜き。次に腹を割って内臓を抜く。注意するのは内臓を傷つけないこと。中身が飛び散って肉が汚れるからね。

 内臓は[浄化]をかければホルモンとして食べられなくはないと思うけど、肉食獣だから心臓以外はほとんど処分した。ハツ、いいよね。

 心臓は食材としても使えるけど、実は魔石が張り付いている。マジックバッグに入っていた宝石の一部は魔石だった。

 魔力は生命力とも関係があり、血液の流れに沿うようにして体の中を流れる。結果として体の中心に近い心臓付近が一番多くなる。その場所に魔石ができ、少しずつ大きくなっていく。大きいものほど価値が高い。あっても困らないみたいなものらしい。

 魔石は魔法使いが魔力の補充に使ったり、魔道具の動力源としても使える。空になっても充填して再利用できる。もっとも充填に時間はかかるし、何度も充填するとそのうち割れてしまうらしい。

 魔石はこの世界における充電池みたいなもの。質が悪いと数回で割れるらしい。空になった瞬間や充填しきった瞬間が壊れやすいそうで、その少し前に補充をすれば長持ちするらしい。



 さばいた肉に[浄化]をかけてマジックバッグに収納。他に保存するのは角、骨、皮や毛皮、羽など。

 解体せずに魔法鞄に入れっぱなしでもいいけど、「絶対に面倒くさがって放置しますから、こういうのは早めに終わらせた方がいいですよ」と言ったのはうちの委員長。

《まだ半分も終わっていませんよー。このままでは日が暮れますよー。これが終われば美味しいご飯と温かいお風呂ですよー》
「作るのは主に僕だけどね」

 なかなか終りが見えない。今日だけでこれなら、何日も続けば嫌になりそう。早く森を抜けないかな。いや、上を飛べば早いとは思うんだけどね。山は歩いて登ることに意味があるから。頂上までヘリで送ってもらっても意味がないから。

 でもさすがに全部は無理だったので、一部はマジックバッグにそのまま入れておくことにした。



 夕食後、リビングでリゼッタと話しながら今後の方針を決める。昨日と今日が違いすぎた。今日はかなり進むのが遅かった。森を出るまで五日から七日くらいだと考えていたけど、それよりは長くなるね。

 そして森にいる間は狩猟と採集をできる限り行う。森で昼食を取るのは難しそうなので、昼食は異空間に戻って取る。その間にリゼッタを愛でたり撫でたり。ただしやり過ぎると怒るので程々に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...