新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第一章 第一部

計略、お礼とお礼、そしてある上級管理者の近況

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 宿に戻って部屋へ。少し休んだら食堂へ行って夕食。この町での最後の夕食は少し豪勢なものを選んだ。リゼッタとカロリッタが店員さんにお酒のことを聞いていたんだけど、飲み過ぎなければ大丈夫だと思ったんだよね。これまでも飲んでるしね。

 ただ、この店での最後の夕食だと思って、二人が飲みたい物を選んだんだけど、それが失敗だった。



「リゼッタ君」
「はい」
「カロリッタ君」
「はい~」
「昨日君たちが選んだお酒が何なのかを正直に言いなさい」



 昨日の夜、部屋に戻って二人と話を始めたと思ったら、おかしな方向に話が進んで、目が覚めたら三人が同じベッド寝ていた。完全なだ。昨日のことを思い出しながら二人を見たら、揃ってベッドの上で正座をした。そして今に至る。

「あれは飲むと心も口も軽くなる効果があるお酒です。俗に自白酒と呼ばれています」
「飲んでしばらくの間は~口当たりのいい普通のお酒ですが~時間が経つと効き目が現れるものです~」
「思っていないことは決して口にしないと店員さんは言っていました」
「飲ませて本心を聞き出して~問題がなさそうならそのままベッドに連れ込んで~って流れに持っていく使い方がありますね~」
「最初はカロリッタさんからケネスの好みを聞いたりしてたんですが、直接聞きたくなりまして」
「やっぱり~好きな異性の好みは誰でも知りたいものですよ~」

 そりゃ僕も男ですから、色々と考えることはありますよ。でもねえ……急にこの二人が仲良くなってきたなと思ってたら、まさか企んでたとか……はあ……。



 町を出てからのことを二人と話そうと思ってたんだけど、部屋に戻った途端に二人が壊れた。

「ケネスはカロリッタさんをどうするつもりですか? このまま放っておくんですか? 私はたびたび可愛がってもらってますけど、そろそろカロリッタさんがかわいそうですよ」
「そうですよ~マスター。そろそろ私もくださいよ~。どれだけリゼッタさんとのを見せつけられたと思ってるんですか~。せっかく体も大きくしてるのに~」
「いやいや、どれだけって、勝手に頭の中を覗いてただけでしょ。それにそろそろって言っても、まだこっちに来てから数日じゃない。なんでそんなに急ぐの? ……いや……あれ? 別に急いだっていいのかな?」
「急いでも大丈夫です。むしろ急ぐべきです。カロリッタさんは可愛いですから、他の人に取られたらどうするのですか?」
「そうだね……そりゃカロリッタは可愛いし、僕だっていずれ受け入れるつもりはあったし、ちゃんと責任も取るから、じゃあそろそろいいかな」

 あれ?

「ほらほら、ケネスだって前向きじゃないですか。さあさあカロリッタさん、はいバーンとどうぞ!」
「はいはい~そうですよ~私がいいって言ってるんですからら~バッチコイですよ~。それじゃ~今からパパッといきますね~」
「そうだね。遅らせてもいいことはないよね。よーし、じゃあカロリッタ、おいで。リゼッタも」

 あれ? 何か……まあいいか。



 そして最初に戻る。思い出すと頭が痛い……。

 リゼッタとカロリッタが注文したお酒はほとんど。聞かれたことに素直に答えるお酒らしい。思い返せばペラペラ喋ってたねー。そして喋ったことにもほとんど違和感を持たなかったねー。判断力が全然なかったねー。物が物だけにかなり高いお酒なんだって。だから高級店にしか置いてないとか。

 この際カロリッタに手を出したことについてはお酒のせいだと弁解はしない。遅かれ早かれそうなるんじゃないかと思ってたよ。ずっとアピールされてれば、そりゃ情が移るよ。

 ただリゼッタとくっついてすぐにカロリッタに手を出すのはさすがにどうなの? 節操なさすぎない? 二人が気にしてないならいいの? 一夫多妻は珍しくないならいいの? 悩んでいるのはそういうこと。あのお酒のせいとは言ってもね。でもまあ開き直るよ、カロリッタについては。



「よし、悩むのは終わり。でもあのお酒は今後は禁止ね。飲むのも買うのもダメ。いいね二人とも」
「「……」」
「ちゃんとこちらを向きなさい。どうして目を逸らすの?」



◆ ◆ ◆



「予定通り今朝のうちにこの町を出ようと思うけど、それでいい?」
「はい、大丈夫です」
「買うものは買いましたしね~」

 君たちツヤツヤだね……。

 買ったのは食材を中心。それ以外にもアクセサリーや生活雑貨、衣類など。服を作る布も買っておいた。服を買う時はひたすらファッションショーに付き合わされたけど、それはどの世界でも同じ。逃げ出しちゃいけないのも同じ。逃げたら後が怖いよ?

 ギルドで素材を売って、稼いだお金を町中で使う。もちろん僕一人が買い物したからってそれほど影響はないだろうけど、溜め込んでも仕方がないし、無駄遣いはしないけど、ある程度は使う方針で。

 朝から非常に疲れたけど、朝食を取ったら宿を出るからね。片付けしてから部屋を出よう。



 そういえば、マジックバッグに入れておいたカローラさんへの手紙とブローチが消えてた。その代わりに色々なものが増えててびっくりしたけど。

 その中でも調理用の魔道具が一番ありがたかったかな。挽肉を作るミンサーとパスタマシン。ハンドミキサーはなんとか自分でそれっぽいものを作れたけど、やっぱり専門家じゃないし、どうしても作りが甘くなるんだよね。

 [魔道具制作]というスキルのおかげで形だけは作れることは作れるんだけど、まともに使えるものができない。このスキルって素材を加工したり術式の書き込んだりするのに役立つけど、どこをどう加工すればいいか、どのような術式を書き込めばいいかまでは教えてくれない。

 魔道具作成に関して、ものすごく器用になるだけ。だから知識がなければ意味がない。『米粒に写経できるくらい器用なんだから外科手術もできるでしょ』って言われる感じ。どこをどう切ったらいいか全然分かりません。

 パスタは蕎麦やうどんのように生地を薄く伸ばして折り返して包丁で切るのが普通。だから太さも長さもバラバラ。ミンサーとパスタマシンはなくてもなんとかなるけど、あるとかなり楽。

 他には手縫いっぽいハートの刺繍のハンカチに包まれたクッキーとか。少し形が歪んだものもあったけど美味しかった。カローラさんの手作りかな?



 今回増えたものの中で少し扱いに困ったのが、カローラさんの写真。L判とかではなくてA4サイズ。しかも一枚一枚サイン入り。かなりの枚数が入ってた、というか、アルバムごと入ってた。むしろ手作りの写真集? ご丁寧に『(秘)まるひケネス専用』って書いてある。ものすごいアピール。

 このあたりは仕事風景。棚のファイルに手を伸ばしたり、机のところで頬に手を当てながら考えごとをしたり、机に片手をついて足をクロスさせたり。三脚を使った自撮りかな。

 次はプライベートショット。ちょっとお茶目な表情をしたり、キッチンでお菓子を作ったり、ベッドで体育座りをしたり。

 このハートマークのインデックスから、かなり際どいのもあるんですけど。目元を隠した自撮りであちこち隠しきれてないとか、そもそも隠すつもりすらないとか、このあたりは全部アウトでしょ。SNSで流出して大問題になるやつですよ。

 つまり全部見たんですけどね。ありがとうございます。



◆ ◆ ◆



 これはケネスがカローラにお礼を贈り、お返しの写真集を受け取った頃の話。



 ベッドから這い出る。まるでゾンビのようにキッチンに向かい、自動調理器を開ける。あらかじめ食材をセットしておけば、指定の時間に自動で調理してくれる優れものだ。取り出したのはベーコンエッグとトースト。自動調理器を使うまでもないかもしれない。

 コーヒーメーカーからもかぐわしい香りが漂ってくる。完全自動タイプで自動清掃機能付き。必要なのは、小型カプセルの入ったカートリッジを交換するだけ。それも月に一度。

 半目のままもそもそと朝食を取る。今にもテーブルに張り付いてしまいそうなほど顔がテーブルに近い。

 これが多くの管理者から尊敬の念を抱かれている上級管理者カローラの、朝の様子である。



 カロリッタがケネスたちに話したように、基本的にカローラは私生活がだらしない。カロリッタの言い方はだが大きく外れてはいない。しかしこのだらしなさっぷりが悪化したのはつい先日、ケネスという若者をある世界に送り出してからである。

 部下が壊した魂を修復して、それからさらに肉体を作り直せば、目の前にいるのはまさに自分の理想の男性。肉体を作り直したということは、つまりそこに寝ているのは彼女好みの男性の姿。彼女がのぼせ上がるのも無理はない。実際はのぼせ上がるどころではなかったが、なんとかなったのでセーフ、と考えている。



 自分の分身であるカロリッタが見たものはカローラも見ることができる。録画機能がないのでリアルタイムで見るしかなく、ちょっと手元に戻して録画機能付きに改造しようかと思ったら拒否されてしまった。仕方がないので暇を見ては映像をチェックしている。隠しカメラ扱いである。途中から隠れなくなったが。

 彼が何をしているのか、何を見ているのか、何を食べているのか、何を考えているのか、カローラには気になって仕方がない。カロリッタがケネスの頭の中にいれば彼の考えていることが分かるが、最近は外にいるので、彼が何を考えているかまでは分からない。

 彼女がケネスに渡したマジックバッグ、あれは元々彼女の私物だったが、その中身を調べ、減っているものがあれば追加し、彼が欲しがりそうなものがあれば入れておいた。もちろん全て彼女の自腹。まさには世界を超える。

 しかもかつて自分が身に付けていたリュックやウェストバッグが今は彼の体に……ぐへへ……などと考えて口元がだらしなく開いているのも今さらである。

 彼女にとっては彼が初めての男性である。だからといってそれで彼を縛ろうとは考えていない。お供に付けたリゼッタと夜は頑張っているようだが、それを応援するのも女性。まさにケネスファースト。ここまでくればいっそ清々すがすがしい。でも夜中に色々と想像しては布団の中でもぞもぞし、ここのところ寝不足気味なのはどうなのか。



 そんなある日、ケネスのマジックバッグをチェックしていると、入口近くには『カローラさん、これはいつものお礼です ケネス』と書かれた手紙、そしてその手紙に乗っていたブローチ。木の枝と小鳥をモチーフにしたそのブローチは、ケネスが彼女のために選んでくれたもの。

 それを手にした瞬間のカローラの表情は誰にでも想像できるだろう。



 女性が絶対にしてはいけない顔である。



 これ以降、彼女の執務室や自室には、カメラや三脚、照明などの撮影機材が置かれるようになったが、それが何のために使われているかを知っているのは、彼女自身ともう一人だけである。
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