新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第一章 第三部

異世界での定番とは

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 受粉を行う益虫としてよく知られているミツバチやマルハナバチやクマバチなどによく似た蜂がうちの森にいる。サイズはぜんぜん違うけど。うちの蜂は大きいものはゴルフボールくらいで、もう少し小さなものもいる。ステータスを見たら、種族はみんな[ハナバチ]だった。何種類かいるみたいなんだけど、分けなくていいの?

 家の裏にある畑に夜な夜なやってきては花粉を集めつつ受粉をしてくれるのがこのハナバチ。彼らは自分たちに受粉という役割があることを理解していて、そのためにわざわざ森から畑に飛んでくるらしい。ありがたい。

 彼らは僕が森にいるとたまに寄ってくる。あまりにも数が多いと栗を拾う邪魔になるから「少し離れてね」と言うと離れてくれる。最近は栗拾いを手伝ってくれる子もいる。だからある程度はこちらの言葉が分かるんだと思っていた。それがある程度じゃないと分かったのは、彼らからハチミツを時だった。

 そもそもハチミツと言えば普通はミツバチのもの。越冬のための保存食として溜めているものを奪う形になる。ところがうちのハナバチはなぜかうちまで巣をバケツに入れて持ってきた。バケツの取っ手に長い木の枝を通して、みんなでその枝を掴んで飛んできたんだよね。《おすそわけ》っていきなり念話が飛んできた時は正直びっくりした。解体で使うバケツを倉庫からいつの間にか持って行ったらしい。もちろん解体に使った後はきれいにしてたから大丈夫。

 彼らに「君たちはミツバチじゃないでしょ?」って聞いたら《でもできる》って言うんだよね。《もっとはこびやすく》って言うから彼ら専用の持ち手が付いた超軽量バケツを渡したら、たまに持ってきてくれるようになった。「こんなに持ってきて大丈夫?」って聞いたら《たべるぶんはある》って言ってたから大丈夫なんだろう。女王蜂が指示をしてるんだろうか? 巣の場所を確認に行ったら、森の反対側にある大きな木の太い枝にいっぱいぶら下がってた。ミシェルもあそこまでは行かないと思うけど、一応注意しておこう。迷惑をかけるといけないから。

 でもまあ貰ってばっかりも申し訳ないので、畑の横にちゃんと花畑を用意した。咲きっぱなしだからいつでも花粉が採れるようにね。ハチミツを催促してるわけじゃないよ。

 そうやって[念話]が使えると分かってからはいつの間にかうちの家族のペットみたいになってた。ペットがしゃべるかどうかは横に置いておいて。明らかにミツバチよりも大きいけど、ハチミツを持ってきてくれんだからもうミツバチでいいじゃないかってことで、今ではみんなミツバチと呼んでいる。残念ながら個別認識はできないけど。

 ミツバチの巣からハチミツを採るには、潰した巣をガーゼで漉せばいいんだけど、無理に搾ろうとすると蜜蝋などが混じってしまうから、時間はかかるけど自重で落ちきるのを待つ。そのためにハチミツを絞る台とかも作った。料理やお菓子に使ったり、紅茶に入れたり、使い道は多いから重宝してる。果物や野菜の蜂蜜漬けも作ったし。

 ところでみんな、そんなにミード蜂蜜酒を仕込んでどうするの? え? ハネムーン?



◆ ◆ ◆



 ミード蜂蜜酒を見ながら定番について考える。

 異世界でのスローライフで定番といえば豆腐と醤油と味噌だろうか。偏ってる? よく日本人が長期で海外に行くと一番口にしたくなるのは米だと言われるけど、僕は醤油と味噌だった。米は世界中にあるからね。

 どうしてそんなことを言っているかというと、この前ようやく大豆が採れたから。異空間の魔素量を区画ごとに調整して、野菜が食べごろで止まらないようにした区画を作った。そこでダイズを育てたり、野菜の種を採ったりしている。育つ速度は変わらないから、気を抜くとあっという間に種が落ちる。



 豆腐に使う苦汁にがりは海水から塩を取り除いた残りの部分。多いのは塩化マグネシウムだったかな。でもこのあたりは海が遠いから海水が手に入らない。苦汁にがりを使わなくても、海水から採った塩そのもので代用もできるし、レモンや酢を使うとおぼろ豆腐のような豆腐になる。今回は苦汁にがりの代用品として卵と酢を使った。

 卵の殻を細かく砕いて酢に浸けておくと泡が出てくる。三日か四日したらガーゼで漉せば苦汁にがりの代用品ができる。これを使って豆腐を作った。おからも体にいいよ。



 醤油と味噌は似たようなものがすでに作られていたから、種麹を譲ってもらって作ってみた。醤油は淡口うすくちだけを作った。濃口醤油に近いものは町で売ってるし、出汁の風味が消えるから僕はほとんど使わないんだよね。味噌は豆麹を使って八丁味噌を作った。八丁味噌は火を通せば通すほどコクが出るから煮込み料理によく合う。カレーやシチューに入れるとグッと深みが出る。

 醤油も味噌も発酵と熟成に時間がかかるけど、そこはサラミと同じく[時間加速]を使った熟成樽を用意して楽をした。



 そしてお酒。エールとワインとシードルの三つ。さすがに僕もお酒の醸造方法は詳しくは知らなかったので、そこはマイカの存在がありがたかった。

 ミード蜂蜜酒はハチミツを水で薄めて置いておけば自然発酵するとは聞いていたからやってみたら完成した。エールはミード蜂蜜酒と並んでこの国の庶民の間でで最もよく飲まれているお酒の一つ。ワインやシードルは庶民には高すぎるので、上流階級しか飲まない。

 エールとワインとシードルについてはマイカが作り方を控えておいてくたのでそれでやってみた。いずれ僕のところに来ることを考え、役に立ちそうな、お金になりそうなものは「内助の功です」と胸を張っていたので頭を撫でた。

 前世の記憶が戻ってからは視察という名目で醸造所を巡っていたらしい。そのせいで酒好きと思われたらしいけど、本人は「嗜む程度ですよ」と言っていた。あれは強いね。日本人時代は飲み過ぎが原因で死んだらしいけど、犬人は強いらしい。

 それ以外にも彼女の読む漫画には醸造所を舞台にした話もあったので、その情報と突き合わせながらやってみた。

 エールはホップを使わないもの、ビールはホップを使うもの、という分け方も昔はあったそうだ。ビールの中では常温で上面発酵がエール、低温で下面発酵がラガー、という分け方が一般的。上面発酵で使う酵母を下面発酵に近いの温度で発酵させるケルシュのような中間的なビールもある。小麦を多く使って上面発酵で作ると白ビールになる。

 とりあえず色々な情報を得たので、作れるものは作っていく。え? ホップ? カローラさんから貰ったものもあるし、市場でも売っている。薬としても使われるからね。酵母についてはマイカが色々と仕込んでいたのでそれを使わせて貰うことにした。どの酵母が何に向いているのかは分からないから、試行錯誤あるのみ。



 ビールは発芽させた麦芽やデンプンの元になる米などを粉砕して温水に入れて糖化させる。これを濾過したらホップを加えて煮立てる。冷やしたら酵母を加えて発酵させる。発酵が終われば冷やして熟成させる。それが終われば濾過する。

 ワインはブドウの茎を取って潰して樽に入れ、酵母を加えて発酵させる。発酵が終われば自重でワインを出し、残った部分は圧搾する。前者はフリーランワイン、後者はプレスワインと呼ばれる。それをまた樽に入れて熟成してから濾過する。

 シードルはリンゴを熟成させてから搾ってリンゴジュースを作り、そこに酵母を加えて樽で熟成してから濾過する。

 日本酒も作ってみたけど、でき具合はなかなか厳しい。できただけでよしとしよう。酒母作りと温度管理が大変だった。



「枝豆と冷奴の組み合わせはビールによく合うのう」
「どちらかと言うと、枝豆よりも大豆の方をメインで作ってたんだけど、もっと枝豆を作った方がいい?」
「うむ、ぜひ頼む」

 マリアンが枝豆と冷奴で晩酌をしている。特には枝豆が気に入ったらしい。枝豆って食べる地域は限られているかもね。サヤごと茹でて口を付けるのはもしかしたら日本くらい?

 これまで大豆をメインにして枝豆はあまり作ってこなかった。料理に彩りを加えるのに使うくらいかな。モリモリと食べている。そう言う食べ方をするものではないと思うんだけど、気に入ってくれたのならいいか。蒔いて放っておけばいいだけだしね。
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