新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第一章 第三部

エリーとマリアンの夢、そして衣装室の改造

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 買えるだけ買ったという感じの女性陣の買い物だったけど、単に買いまくっただけではなく、一応市場調査も行っていたらしい。一応らしいけどね。

「旦那様、今のところはまだ構想段階なのですが、いずれは私とマリアン様で店を持ちたいと思っています」
「店というと、やっぱり衣類?」
「はい、衣類だけではなく、服飾雑貨なども考えています」
「もちろんやりたいなら応援するし資金も出すよ」
「お前様、資金に関してはワシが出そうと思うておる。何でも彼んでもお前様に負んぶに抱っこでは、年長者としての立場がないからのう。居候として世話になっておるからには勝手にはできぬし、店を出す際の許可だけもらおうと思うとる」
「分かった。その時が来たら開店準備とかは手伝うよ。ちなみに場所とかは考えてるの?」
「そこまではまだ考えていませんが、一ヶ所に留まるよりは行商に近い形がいいのではないかと」
「マリアンが商人ギルドに入っているから、それで露店を出すというのでもいいのかな?」
「それが一番無難じゃろうな。その際にはエリー殿にも商人ギルドに入ってもらおうと思うとるが、そもそもエリー殿の言った通り、まだ構想段階じゃ。いずれはそうしたいと二人で言うておるだけでのう、まだ何も決まっておらぬが、そういうつもりがあるとだけは覚えておいてくれるか?」
「じゃあその時になったらあらためて相談に乗るよ」
「ありがとうございます」

 マリアンにも色々考えるところはあるんだろう。ここのところエリーと揃って作業をしていたし、先日からは機織はたおり染色をエリーに教え始めたらしい。マリーさんに仕立てを教わった後は、満足のいく服を作るために機織はたおりと染色も学んだらしい。「時間だけはあったからのう」と言っていたけど、それだけで身に付くものではないと思うよ。

 露店なら行く先々で店を出せばいいだけなんだけど、店舗を持つとなればどこかの町に根を下ろすことになるからね。その点をどうすればいいか……。

「ひょっとするとお前様、店を作ればお前様の旅の邪魔になると思うてワシらが躊躇っておる、と考えてはおらぬか?」
「顔に出てた? それは今ふと思ったけど、マリアンにはなにか考えがあるんでしょ?」
「うむ、ワシは行ったことのある場所へなら一瞬にして移動できる魔法がある。それを使えばエリー殿一人くらいなら運べるからのう。でもお前様も使えるようになってくれれば随分と楽ができそうじゃが」
「やり方を教えてくれるなら頑張って覚えるよ」
「一つ気になるのが、覚える前に行ったところにも移動できるかどうか分からないのじゃ。さすがにワシも他に使える者を知らぬし、聞くに聞けぬしな」
「それは自分でなんとかするしかないね」

 結果として[転移]はその日のうちに使えるようになった。一度マリアンと手を繋いで彼女の家があった山に連れて行ってもらったら、僕のスキルに[転移]があった。マリアンが半目になっていたけど、仕方ないじゃない。そういう体質なんだから。

 マリアンの家の近くにマリーさんのお墓があったので花を供えて帰ってきた。帰りは僕が[転移]を使ったけど、問題なく移動できたね。



「のう、お前様よ、また少し頼みがあるのじゃが」
「ん? どんなこと?」
「うむ、衣装室のことでな。前から頼もうと思っておったんじゃが、忘れる前に言っておこうと思ってのう。天井を上げて四方を少し中央に寄せてほしいのじゃ。広すぎて奥まで探しに行くのが手間でのう」

 まあ大きい体育館くらいあるからね。

「いいけど、マリアンは時空間魔法が使えたでしょ? 荷物を入れて持ってきてたし。勝手にやってもよかったのに。別に怒らないから」
「いや、お前様、異空間を作るのと、作った後で調整するのは全然ちがうのじゃが。最初からサイズを決めて服を作るのと、作ってから全体的に大きくしたり小さくしたりするのは全然違うじゃろ。普通はあんなに簡単にはできぬわ」

 半目で言われた。でもこれも体質なんだって。

「まあ今日買った分も入れるんでしょ? じゃあ今からパパッといじってくるけど、どれくらいにしたらいいか、エリート二人で指示してくれる?」
「うむ、エリー殿は今からでもいいかのう?」
「はい、問題ありません」
「じゃあみんな、ちょっと家に戻ってくるから」
「いってらっしゃーい」



 衣装室の天井の高さは他の部屋と同じ。部屋数は無駄に多いけど、一つ一つの部屋の高さはごく普通だから、二メートル四〇センチくらい。マリアンの部屋だけは天蓋付きベッドがつっかえそうだったから天井を上げたけど、他は最初のままなんだよね。

 とりあえず高さをマリアンの部屋と同じくらいまで上げた。五メートルくらいかな。そしてドアのある壁以外の三つの壁を、今度は引っ張る感じで引き寄せた。床面積を半分にしたから、壁の長さが七割程度になった。

 そこまでやってから、他にもドアを付ければいいと思って、三方の壁に一ヶ所ずつドアを付けることにした。これで奥に行くのも楽だろう。中で移動するよりも外から回った方が早いから。図書室の方も後でそうしておこう。

 とりあえずこれくらいで様子を見てもらおうか。そして部屋に合わせてパイプハンガーを変更することにした。

 これまでは一段のパイプハンガーがずらっと並んでいただけだったけど、上下二段のパイプハンガーに変更した。マリアンは魔力を紐のように伸ばして物を扱うことができるらしく、それを使えば上のハンガーの衣装を取ることができる。でもエリーにはそれは無理だから、ボタン操作で上下が回転して入れ替えられるようにした。怪我防止のために人がすぐ側にいると動かない。

 もっと高くすればもっと狭くても収納できるけど、それだと見上げるうちに首が痛くなるからね。無理せずに見上げられるのが二段だった。ハンガーを作りつつ、衣装を掛けていく。

 リゼッタは普通の服が多いけど、着物やセーラー服が増えてきたかな。

 カロリッタは普通の服以外を着ることはあまりない。たまにチャイナドレスと着物を着るかな。「私は中身で勝負ですよ~」と言ってるけど、頭の中身はおっさんなんだよね。

 エリーは着物(浴衣)に割烹着がほとんど。割烹着を着ている時には主人に手籠めにされる愛人の気分でいるらしい。それ以外の時は妻だと主張してるね。

 ミシェルは可愛らしいドレスを着ることもあるけど、森へ行ったり遊具で遊んだりすることが多いからシャツにズボンの動きやすい格好が好きみたい。たまに迷彩服を着ている。最近は身体能力がどんどん上がってきて普通の鉄棒でトカチェフをするようになったから、慌てて鉄棒の下をもっと柔らかくした。

 マイカはメイド服、たまに着物に割烹着。うちに来た直後にエリーが作った衣装を色々と試していたけど、最終的にはベーシックな黒のロングのメイド服に落ち着いた。

 マリアンはひらひらのドレス。昔は着物を着てたこともあったらしくて、個人的にはそっちの方が似合うと思うんだよね。いや、ドレスが似合わないわけではないよ。でも口調と外見とドレスが全体的に噛み合っていないと思う。

 烏の濡れ羽色のストレート。女性の顔について言及するのは失礼かもしれないけど、人間にすれば二〇代後半くらいの落ち着いた美人。その外見で『ですわ』口調ならしっくりくるのに。あくまで僕の感覚ではね。もしくは着物を着れば今の口調が似合うと思う。ただ他人の好みや外見についてどうこう言うのは無粋なので言わないけど、機会があれば着物を提案するくらいはしようかなと思う。

 僕は普通の服がほとんどで、たまにみんなのコスプレに巻き込まれて着替えることになるくらい。その時に撮られた写真はカローラさんに渡り、代金としてエリーに布や素材が渡されることになっていると言うのは、もう僕は関わってないから。一体どんな布がエリーの手元にあってどんな衣装が作られているか、もう僕には分からない。

 さて、そんな我が家のメンバーが着る衣装がここにずらり。壮観だね。

「旦那様、そんなにじっと見つめて……『今夜はどのナイトウェアで僕の目を楽しませてくれるのだろう』と想像して「してないよ」



◆ ◆ ◆



 トゥーリ市で一泊して、さらに東へ。ここから一〇日ほど東南東へ向かえばスーレ市がある。もちろんその間にも町や村はいくつもあるから、タイミング次第では泊まることもあると思う。

 スーレ市は王都を中心とした二重都市群の外側の輪っかにある、人口七〇〇〇人ほどの都市。この町だからというほどの強い特徴はないらしい。

 二重都市群は全て直轄領にある物流拠点の働きをしているけど、運び込まれる物が多少は違う。運ぶルートがあるからね。南北と東は国境の向こうからも物が来る。でも西から運び込まれる物は残念ながら他の方向からも運び込まれている物ばかり。異国の物が欲しければ南北東に買い付けに行くそうだ。

「ヴァリガ市でも周辺の三国の物は手に入ります。水運が発達していますので」
「王都近辺で買うよりも安そうだね」
「確実に安いですね。自分で買いに行けるなら、ですが」
「移動に時間がかかるからね。ここまで途中の町で滞在していたとは言っても、王都までで五か月くらいか」

 [地図]で見てみると、キヴィオ市から王都までと、王都からヴァリガ市までがほぼ同じくらい。ユーヴィ市とキヴィオ市で泊まった日数などを引いても……最短で三か月くらいかな。キヴィオ市からヴァリガ市まで最短で六か月。

 正確な距離はわからないけど、その間だけでざっくりと六〇〇〇キロは歩くよね。日本からハワイが六〇〇〇キロって聞いたことがあるけど、この国はそれより広い。キヴィオ市の西を入れたらもっと広いよね。ひょっとしてアメリカ本土まで行ける?

「そう考えると広いなあ、この国」
「異国のものが手に入りやすいとは言ってもヴァリガ市は端ですからね。運搬中に破損したり、盗賊に襲われないように護衛を雇ったり、そうするくらいなら高くても王都で買うでしょうね」
「この広さを~マスターに分かりやすく例えるなら~アフリカ大陸を二回り小さくしたくらいですね~」
「めちゃくちゃ広いね。僕たちの歩くペースはそこそこ早めだけど、のんびり泊まりながら進むから、最終的にどれくらいになるかな?」

 僕とリゼッタとカロリッタなら、一時間あたり五キロで一日七時間から八時間くらい、一日あたり三五キロから四〇キロくらいを歩く。でも天気が悪いと家で過ごすこともあるから、毎日歩いているわけでもない。

 歩いた日数をきちんと数えてるわけじゃないけど、あの森の中から出るまでが一〇日かかった。そこからナルヴァ村に着くまでが四日、ナルヴァ村からユーヴィ市までが五日、ユーヴィ市からキヴィオ市までが一〇日ほど、キヴィオ市からラクヴィ市までが一か月ほど、ラクヴィ市からトゥーリ市までが一か月ほど。そのくらいだったはず。

 トゥーリ市から先は、スーレ市までが一〇日ほど、パルツィ市までがさらに五日ほど、そして王都ヴィリョンまでがさらに五日ほどらしい。

 ここまで歩いた日だけでほぼ四か月。合計で四〇〇〇キロを超えるはず。以前アラスカからアルゼンチンまで自転車で旅をした人の話を聞いて、僕ならひたすら歩くよね、とか想像したことがある。場所は違うけど、まさかこういう形で似たようなことが実現できるとは。
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