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第二章 第一部
歓迎会
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自分の魔力のことは、まあ意識しておけば問題にはならないだろう。とりあえずカローラさんの部屋が決まったので、家具を入れて……と思ったら自分で異空間から出し始めたので、足りないものがあれば出したらいいか。相変わらずピンクというか乙女というか……。
「カローラ様の部屋がこのような感じだとは想像していませんでした……」
「拗らせ腐女子ですからね~。推して知るべしですね~」
「無意識にマジックバッグに飛び込んだみたいだけど、持ってくるべき物は持ってきてたんだね」
「理性で準備を進めて~感情で行動した結果でしょうね~」
ピンクのフリフリだね。マリアンと気が合いそう。
「カローラさん、何か他に必要ですか?」
「そうですね……ここにいつもケネスさんがいれば完璧なのですが……」
「またエルボ~?」
「やめてください、カロリッタ。どうしてプロレス技なんですか?」
「カローラ様が~夜のプロレスとか~夜の取り組みとか~昔から言ってたからでしょうね~」
「私のせいでしたか……」
「ではカローラさん、後ほど歓迎会をしますから、また呼びに来ますね。暇なら下りてきてもいいですけど」
「分かりました。しばらくゆっくりさせてもらいますね」
「とりあえず料理を作るかな。ストックをセラとキラに減らされたからね。どれだけあって困ることはないだろうし」
「手伝います」
「私も~」
「よろしくね」
今まで大きな歓迎会というのはしていない。エリーとミシェルの時は二人だったけど、マイカもマリアンも一人だったしね。それが今回は三人。セラとキラとカローラさん。歓迎会と言ったけど、ほとんど食事会かな。
歓迎会ならやはり寿司だろうか。でも寿司を握るのは大変だと聞くし、軍艦巻きにしようか。あれならなんとかなりそうだし、魚以外もいけるからね。でもそのうち寿司を握る勉強もしよう。
和洋中を混ぜ合わせたオードブルを作っていく。もちろんミシェルが好きなものも入れて。
「今さらだけど、みんねあまり好き嫌いを言わないよね」
「マスターの料理は~どれも美味しいですから~」
「はい。栄養が摂取できておなかが膨れればいいと思っていた昔の自分を殴りたい気分です」
「まあ、僕だって自分一人の時はそうだったけどね」
男の一人暮らしなんて、外食するか買ってきて食べるか、それがもったいないと思うなら適当に作るか、そのどれかだろう。最初に道具と調味料さえ揃えてしまえば自炊の方が圧倒的に安い。自炊が面倒な理由って、食材を買いに行くのが面倒、買いに行く時間がない、残った食材をダメにしてしまうともったいない、同じ物ばかりになってしまう、このあたりだろうか。
どうしても自炊に慣れるまでは、これを作るのにあれとあれとあれが必要ってなって、買う物ばかりが増えてしまう。慣れてくると、あれはないけどこれで済ませるかとか、これとこれがあるからあれが作れるなとか、ある程度は応用が利くようになる。
オリーブオイルの代わりにサラダ油、ワインビネガーの代わりに普通のお酢、バルサミコ酢の代わりにお酢とウスターソース、ワインの代わりに清酒。それでいいと思う。卵の代用品はない。それは無理。
酒は安くてもいいから料理酒じゃなくて清酒を買った方がいい。二リットルのパックとかで売っているものね。味醂もそう。醸造アルコールじゃなくて焼酎が使われているもの。この二つを変えるだけで味が全然違うものになる。
味付けはめんつゆって手段もあるけど、あればっかりだと飽きるから、どうせ買うなら白だしの方がいいと個人的には思う。
料理は最初の『しばらく続けてみる』っていうところに到達できれば一気に楽になるけど、それがなかなかね。
ご飯をまとめて炊いている間に揚げ物を揚げていく。フライドポテトは基本。白身魚のフライと一緒にしてフィッシュ&チップスに。そして唐揚げと春巻きとチキンナゲット。
肉を使ったものとして、ジャーマンポテトとローストビーフ。ソーセージも茹でておく。
卵はスクランブルエッグとゆで卵にしておこうか。卵かけご飯が食べたいと言いそうなのはマイカくらいかな。生卵は[浄化]すれば大丈夫。
サンドイッチも用意しよう。普通のものとフルーツサンド。他には野菜やチーズなどを使ってカナッペも。このあたりはリゼッタとカロリッタに任せる。
ご飯が炊けたので、一部は軍艦巻きに、一部はおにぎりに。長米はチャーハンにする。もう一度炊いておくか。どれだけあってもあって困るものではないし。
オードブルというか、ホテルのビュッフェのようになってきた。これならダイニングで立食パーティー形式でいいかな。
「旦那様、すみません。少しうとうとしていました」
「てつだうよー」
「料理指導で疲れてたんでしょ」
「体の方はともかく、頭を下げられるのには慣れていませんので」
「僕と同じだね」
「はい。それに体の方はしばらく夜伽がありませんでしたので、生活リズムが乱れてしまいました」
「いや、本来は規則正しくなるんじゃないの?」
「マスター。精魂尽き疲れ果てて~泥のように眠るから~熟睡できるんですよ~」
「あ、たしかにそうかも」
「マイカもそこで納得しない」
他のメンバーも下りてきて、なし崩し的に始めそうな雰囲気になってきた。特にセラとキラが。
「先生、準備はできてます?」
「こっちの胃袋は準備完了」
「一応カローラさんの歓迎会だからね。ある程度は遠慮するように」
「「はい」」
「やっぱりケネスさんの料理は美味しいですね」
「ありがとうございます……って、もう始めてる?」
「ほほう、これはロシータ殿に貰ったものじゃな。いい酒を飲んでおるのう」
「異母姉はお酒へのこだわりがありましたね」
準備も挨拶も何もあったもんじゃないけど、歓迎される本人が楽しくやってるならそれでいいか。
保温容器に入った料理を入れて並べていく。これも魔道具。ホテルのビュッフェの配膳係みたいだね。足りなくなったら持ってきて並べる。お酒も作ったものや買ってあったものを並べておく。
「ケネスもちゃんと食べてくださいね」
「ありがとう。味見もしてたからそれなりに食べてるよ」
料理を出したり片付けたりしながら適当に摘まんでるから大丈夫。
リゼッタには配膳をしてもらっている。他のメンバーにはカローラさんの相手をしてもらっている。セラとキラは黙々と食べてるね。以前のような雑な食べ方ではないから大丈夫。
「難しそうな顔をしてどうしたの?」
「どうすればこの味が出せるのか分析しているです」
「セラは凝り性」
「けっこう料理はしてたんだよね?」
「食材が少なかったので、それでどれだけおなかを膨らませるかという方が大切でした。でも味にもそれなりに気を使っていましたよ?」
「基本的には味よりも量。でも今は味も大切」
「今度教えるから、自分で作ってみたら? 野菜は好きに使ったらいいから」
「ではその時にはお願いします」
「おねがいします」
《我々も片付けるくらいはできるであります》
空になった皿はサランたちが運んでくれている。器用だね。彼女たちは家に入る時に[浄化]できれいなるから問題なし。それにサランが来てからは、移動しながら床を掃除してくれる掃除用の魔道具を作ったから家中が常にきれだからね。
「あ、先輩、こちらへどうぞ」
「パパ、こっち」
「ケネスさんもどうぞ」
「これはどうも」
カローラさんがお酒を注いでくれる。
「ケネスさんの料理はどれもこれも美味しくて、また太りそうです」
「また?」
「あ、いえ、あの……マジックバッグにたくさん入れてくれたじゃないですか。美味しいのでつい食べ過ぎたらいつの間にか。でもダイエットには成功しましたよ?」
「別に嘘を付いているとか思っていないですよ。でも無理なダイエットは体に悪いですからね」
「あんな食生活をしていて~いきなりマスターの料理に切り替わったら~それはぶくぶくですよ~」
「ブクブクではありません! それに、戻りました! それにあんな食生活ってなんですか?」
「自堕落な上に~料理の才能ゼロじゃないですか~。パンは黒い板ですし~目玉焼きは黒い円盤ですし~。投げたら刺さりますよ~」
「ゼロじゃありません! あケネスさんそんな顔をしないでください昔はそうでしたけど今はちゃんと作っていますよ本当です信じてくださいお願いします」
「そんなに焦らなくてもいいですよ」
「本当に料理の才能がゼロなんてあるんじゃのう」
「すごいですよね~。文字通りゼロなんですよ~」
「わたしでもパンケーキはやけるよ」
以前からカロリッタがポロポロと個人情報を漏らしていたから、カローラさんの料理の腕前についても自動調理器以外は使えないと知っている。でもクッキーは作ってくれたよね。形がおかしいのあったけど、味は問題なかったよ。
「あのクッキーは美味しかったですけどね」
「どうせ~焼くだけのものを買ったんじゃないでしょうか~。それでもほとんど焦がして~大丈夫なものだけをマスターに贈ったんですよ~」
「どうしてそこまで分かるんですか? もうっ」
「見てませんけどぉ~それくらい分かりますぅ~」
これ、カローラさんもカロリッタも酔ってるな。
[カロリッタ、はいこれを飲んで」
「飲むなら~マスターの~白いガフッ――」
「はいはい」
とりあえずカロリッタには冷水を飲ませて酔いを覚まさせる。
「ケネスさん、私も料理を頑張ったんですよ? これでコーンフレークしか作れないって言わせませんからね?」
「い、いや、言いませんって、そんなこと」
「いえ、その目は疑っています。私には分かります。私のことを『カーボンメーカー』と馬鹿にしていた人たちと同じです」
「カーボンメーカー?」
「カーボンです、炭です、炭化物です。どうすれば目玉焼きが焦げるだけではなくて炭化するのかと不思議がられたことがありますけど、仕方ないじゃないですか! そうなるんですから!」
「カローラさん、まあ落ち着きましょう……」
「いいえ、落ち着きません! 落ち着いてあげません!」
駄々っ子ですか……。
「ケネス、カローラ様はストレスが溜まりすぎているのだと思います。今日は休ませてあげたらどうでしょうか?」
「そうだなあ。カローラさん、今日のところはもう部屋で休みましょう。話は明日でもできますから」
「……分かりました。明日はちゃんと聞いてもらいますよ。そして私が料理ができるようになったことも見てもらいますからね」
「では上へ行きますね。リゼッタはそっちを支えてくれる?」
「はい」
「お姫様抱っこはしてくれないのですか?」
「まだ歩けますよね? はい、行きますよ」
◆ ◆ ◆
「旦那様には申し訳ない気がしますが……」
「リゼッタさんが~あれだけやる気になっていれば~背中を押すのも~家族の仕事です~」
「リゼッタさんの目的を考えれば、このタイミングが一番ですけど」
「多少下衆なやり方ではあるがのう」
「げす?」
「ミシェルちゃんは~もっと大きくなってからね~」
「うん?」
「カローラ様の部屋がこのような感じだとは想像していませんでした……」
「拗らせ腐女子ですからね~。推して知るべしですね~」
「無意識にマジックバッグに飛び込んだみたいだけど、持ってくるべき物は持ってきてたんだね」
「理性で準備を進めて~感情で行動した結果でしょうね~」
ピンクのフリフリだね。マリアンと気が合いそう。
「カローラさん、何か他に必要ですか?」
「そうですね……ここにいつもケネスさんがいれば完璧なのですが……」
「またエルボ~?」
「やめてください、カロリッタ。どうしてプロレス技なんですか?」
「カローラ様が~夜のプロレスとか~夜の取り組みとか~昔から言ってたからでしょうね~」
「私のせいでしたか……」
「ではカローラさん、後ほど歓迎会をしますから、また呼びに来ますね。暇なら下りてきてもいいですけど」
「分かりました。しばらくゆっくりさせてもらいますね」
「とりあえず料理を作るかな。ストックをセラとキラに減らされたからね。どれだけあって困ることはないだろうし」
「手伝います」
「私も~」
「よろしくね」
今まで大きな歓迎会というのはしていない。エリーとミシェルの時は二人だったけど、マイカもマリアンも一人だったしね。それが今回は三人。セラとキラとカローラさん。歓迎会と言ったけど、ほとんど食事会かな。
歓迎会ならやはり寿司だろうか。でも寿司を握るのは大変だと聞くし、軍艦巻きにしようか。あれならなんとかなりそうだし、魚以外もいけるからね。でもそのうち寿司を握る勉強もしよう。
和洋中を混ぜ合わせたオードブルを作っていく。もちろんミシェルが好きなものも入れて。
「今さらだけど、みんねあまり好き嫌いを言わないよね」
「マスターの料理は~どれも美味しいですから~」
「はい。栄養が摂取できておなかが膨れればいいと思っていた昔の自分を殴りたい気分です」
「まあ、僕だって自分一人の時はそうだったけどね」
男の一人暮らしなんて、外食するか買ってきて食べるか、それがもったいないと思うなら適当に作るか、そのどれかだろう。最初に道具と調味料さえ揃えてしまえば自炊の方が圧倒的に安い。自炊が面倒な理由って、食材を買いに行くのが面倒、買いに行く時間がない、残った食材をダメにしてしまうともったいない、同じ物ばかりになってしまう、このあたりだろうか。
どうしても自炊に慣れるまでは、これを作るのにあれとあれとあれが必要ってなって、買う物ばかりが増えてしまう。慣れてくると、あれはないけどこれで済ませるかとか、これとこれがあるからあれが作れるなとか、ある程度は応用が利くようになる。
オリーブオイルの代わりにサラダ油、ワインビネガーの代わりに普通のお酢、バルサミコ酢の代わりにお酢とウスターソース、ワインの代わりに清酒。それでいいと思う。卵の代用品はない。それは無理。
酒は安くてもいいから料理酒じゃなくて清酒を買った方がいい。二リットルのパックとかで売っているものね。味醂もそう。醸造アルコールじゃなくて焼酎が使われているもの。この二つを変えるだけで味が全然違うものになる。
味付けはめんつゆって手段もあるけど、あればっかりだと飽きるから、どうせ買うなら白だしの方がいいと個人的には思う。
料理は最初の『しばらく続けてみる』っていうところに到達できれば一気に楽になるけど、それがなかなかね。
ご飯をまとめて炊いている間に揚げ物を揚げていく。フライドポテトは基本。白身魚のフライと一緒にしてフィッシュ&チップスに。そして唐揚げと春巻きとチキンナゲット。
肉を使ったものとして、ジャーマンポテトとローストビーフ。ソーセージも茹でておく。
卵はスクランブルエッグとゆで卵にしておこうか。卵かけご飯が食べたいと言いそうなのはマイカくらいかな。生卵は[浄化]すれば大丈夫。
サンドイッチも用意しよう。普通のものとフルーツサンド。他には野菜やチーズなどを使ってカナッペも。このあたりはリゼッタとカロリッタに任せる。
ご飯が炊けたので、一部は軍艦巻きに、一部はおにぎりに。長米はチャーハンにする。もう一度炊いておくか。どれだけあってもあって困るものではないし。
オードブルというか、ホテルのビュッフェのようになってきた。これならダイニングで立食パーティー形式でいいかな。
「旦那様、すみません。少しうとうとしていました」
「てつだうよー」
「料理指導で疲れてたんでしょ」
「体の方はともかく、頭を下げられるのには慣れていませんので」
「僕と同じだね」
「はい。それに体の方はしばらく夜伽がありませんでしたので、生活リズムが乱れてしまいました」
「いや、本来は規則正しくなるんじゃないの?」
「マスター。精魂尽き疲れ果てて~泥のように眠るから~熟睡できるんですよ~」
「あ、たしかにそうかも」
「マイカもそこで納得しない」
他のメンバーも下りてきて、なし崩し的に始めそうな雰囲気になってきた。特にセラとキラが。
「先生、準備はできてます?」
「こっちの胃袋は準備完了」
「一応カローラさんの歓迎会だからね。ある程度は遠慮するように」
「「はい」」
「やっぱりケネスさんの料理は美味しいですね」
「ありがとうございます……って、もう始めてる?」
「ほほう、これはロシータ殿に貰ったものじゃな。いい酒を飲んでおるのう」
「異母姉はお酒へのこだわりがありましたね」
準備も挨拶も何もあったもんじゃないけど、歓迎される本人が楽しくやってるならそれでいいか。
保温容器に入った料理を入れて並べていく。これも魔道具。ホテルのビュッフェの配膳係みたいだね。足りなくなったら持ってきて並べる。お酒も作ったものや買ってあったものを並べておく。
「ケネスもちゃんと食べてくださいね」
「ありがとう。味見もしてたからそれなりに食べてるよ」
料理を出したり片付けたりしながら適当に摘まんでるから大丈夫。
リゼッタには配膳をしてもらっている。他のメンバーにはカローラさんの相手をしてもらっている。セラとキラは黙々と食べてるね。以前のような雑な食べ方ではないから大丈夫。
「難しそうな顔をしてどうしたの?」
「どうすればこの味が出せるのか分析しているです」
「セラは凝り性」
「けっこう料理はしてたんだよね?」
「食材が少なかったので、それでどれだけおなかを膨らませるかという方が大切でした。でも味にもそれなりに気を使っていましたよ?」
「基本的には味よりも量。でも今は味も大切」
「今度教えるから、自分で作ってみたら? 野菜は好きに使ったらいいから」
「ではその時にはお願いします」
「おねがいします」
《我々も片付けるくらいはできるであります》
空になった皿はサランたちが運んでくれている。器用だね。彼女たちは家に入る時に[浄化]できれいなるから問題なし。それにサランが来てからは、移動しながら床を掃除してくれる掃除用の魔道具を作ったから家中が常にきれだからね。
「あ、先輩、こちらへどうぞ」
「パパ、こっち」
「ケネスさんもどうぞ」
「これはどうも」
カローラさんがお酒を注いでくれる。
「ケネスさんの料理はどれもこれも美味しくて、また太りそうです」
「また?」
「あ、いえ、あの……マジックバッグにたくさん入れてくれたじゃないですか。美味しいのでつい食べ過ぎたらいつの間にか。でもダイエットには成功しましたよ?」
「別に嘘を付いているとか思っていないですよ。でも無理なダイエットは体に悪いですからね」
「あんな食生活をしていて~いきなりマスターの料理に切り替わったら~それはぶくぶくですよ~」
「ブクブクではありません! それに、戻りました! それにあんな食生活ってなんですか?」
「自堕落な上に~料理の才能ゼロじゃないですか~。パンは黒い板ですし~目玉焼きは黒い円盤ですし~。投げたら刺さりますよ~」
「ゼロじゃありません! あケネスさんそんな顔をしないでください昔はそうでしたけど今はちゃんと作っていますよ本当です信じてくださいお願いします」
「そんなに焦らなくてもいいですよ」
「本当に料理の才能がゼロなんてあるんじゃのう」
「すごいですよね~。文字通りゼロなんですよ~」
「わたしでもパンケーキはやけるよ」
以前からカロリッタがポロポロと個人情報を漏らしていたから、カローラさんの料理の腕前についても自動調理器以外は使えないと知っている。でもクッキーは作ってくれたよね。形がおかしいのあったけど、味は問題なかったよ。
「あのクッキーは美味しかったですけどね」
「どうせ~焼くだけのものを買ったんじゃないでしょうか~。それでもほとんど焦がして~大丈夫なものだけをマスターに贈ったんですよ~」
「どうしてそこまで分かるんですか? もうっ」
「見てませんけどぉ~それくらい分かりますぅ~」
これ、カローラさんもカロリッタも酔ってるな。
[カロリッタ、はいこれを飲んで」
「飲むなら~マスターの~白いガフッ――」
「はいはい」
とりあえずカロリッタには冷水を飲ませて酔いを覚まさせる。
「ケネスさん、私も料理を頑張ったんですよ? これでコーンフレークしか作れないって言わせませんからね?」
「い、いや、言いませんって、そんなこと」
「いえ、その目は疑っています。私には分かります。私のことを『カーボンメーカー』と馬鹿にしていた人たちと同じです」
「カーボンメーカー?」
「カーボンです、炭です、炭化物です。どうすれば目玉焼きが焦げるだけではなくて炭化するのかと不思議がられたことがありますけど、仕方ないじゃないですか! そうなるんですから!」
「カローラさん、まあ落ち着きましょう……」
「いいえ、落ち着きません! 落ち着いてあげません!」
駄々っ子ですか……。
「ケネス、カローラ様はストレスが溜まりすぎているのだと思います。今日は休ませてあげたらどうでしょうか?」
「そうだなあ。カローラさん、今日のところはもう部屋で休みましょう。話は明日でもできますから」
「……分かりました。明日はちゃんと聞いてもらいますよ。そして私が料理ができるようになったことも見てもらいますからね」
「では上へ行きますね。リゼッタはそっちを支えてくれる?」
「はい」
「お姫様抱っこはしてくれないのですか?」
「まだ歩けますよね? はい、行きますよ」
◆ ◆ ◆
「旦那様には申し訳ない気がしますが……」
「リゼッタさんが~あれだけやる気になっていれば~背中を押すのも~家族の仕事です~」
「リゼッタさんの目的を考えれば、このタイミングが一番ですけど」
「多少下衆なやり方ではあるがのう」
「げす?」
「ミシェルちゃんは~もっと大きくなってからね~」
「うん?」
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