新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第二章 第一部

プロローグ、そして新たなるトラブルの予感

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 さて、一度ここで頭を整理しよう。



 日本で社会人をしていた時に死んでしまった。

 OK。

 カローラさんの力で生き返ってこの世界に転移してきた。

 OK。

 リゼッタがお供になって、途中でカロリッタも合流した。

 OK。

 エリーとミシェルを助けた。

 OK。

 かつて部下だったマサキさんがマイカとして転生していた。

 OK。

 マリアンがやってきて居候になった。

 OK。

 盗賊を退治して、そこにいたサランがペットのような部下のような存在になった。

 OK。

 王都でセラとキラの腹ぺこドワーフ二人を引き取った。

 OK。

 マジックバッグからカローラさんが出てきた。

 NO!



 ……こんなところでノーと言ってどうなる。現実として受け止めないと……。



 さて、我が家に戻ってきて、みんなには少しゆっくりしてもらうことにした。セラとキラにはそれぞれ部屋を選んでもらうことになるけど、それはリゼッタとカロリッタに任せることにしよう。そして僕はカローラさんと応接室で少し話すことにする。正直なところ僕も気疲れはしているけど。

 リゼッタは礼儀正しいし、細かなことでは動じない性格をしている。

 カロリッタはのほほんとしているから大丈夫だろう。

 エリーは料理の指導で少し疲れたみたいだけど、ミシェルは元気いっぱいだった。

 マイカは上流階級の生活に慣れているし、マリアンはまったく気にしていない。

 セラとキラはご飯のことくらいしか考えてないんじゃないかな。

 僕は小市民だから、王族の離宮に滞在するのはそれなりに疲れた。離宮の使用人たちから頭を下げられるとすごく疲れる。他にはセラとキラの相手が大変だったかな。

 最近はだいぶ慣れたけど、そもそもエルフというだけで『なんでこんなところに?』的な見られ方をするからね。以前リゼッタから聞いていたほどにはエルフに対する偏見はないことには安心したけどね。

 とりあえず数日は家でゆっくりして、それからまた東へ向かって移動しようということにしている。



◆ ◆ ◆



「ではカローラさんの部屋を用意しましょうか」
「いえ、私はケネスさんと同じ部屋ですよ?」
「『何を今さら?』という顔をされても困るんですが、部屋は別に用意しますからね」
「どうして部屋を分ける必要があるのですか?」
「そりゃ、個室は必要でしょう」
「いえ、同衾するなら最初から同じ部屋でいい「エルボ~」
「げふっ!」



天井近くからカロリッタが降ってきた。気に入ったのかな?

「どうやら~まだ戻りきっていないようですね~」
「どういう状況?」
「おそらくですが~テンションが上がりっぱなしなんですよ~。たまに落ち着きますが~高止まりしていますね~」
「それって治るの?」
「手っ取り早く治すなら~今日一晩マスターと~すればいいと思いますね~」
「それはパスで」
「それなら~対抗馬ですね~」
「対抗馬?」
「はい~リゼッタさんです~」
「気後れするんじゃない?」
「いえ~、今のリゼッタさんなら大丈夫ですよ~。ほら~」



「よっ……」
「へぐっ!」

 肩甲骨と肩甲骨の間に膝を当ててグッと。あれって痛みを与えて強引に起こすだけだって聞いたことがあるけど……。

「カローラ様、大丈夫ですか?」
「ああ、リゼッタ。すみません、気を失っていたようで……」
「ではカローラ様、今からこの家でのルールを説明します」
「え? は、はい」
「まず、この家ではケネスが家長です。ケネスの指示に従ってください」
「はい」
「次に、この家での妻の序列の話です」
「当然私が一番上で「違います」……え?」
「ここでは私が正妻なので一番です。第二夫人がカロリッタさん。第三夫人がマイカさん。第四夫人から第八夫人までは今のところは流動的になっていますが、この五つはすでに予約済みです。カローラ様はその次の第九夫人となります」
「そんなに下なのですか?」
「はい。エリーさんは妻と愛人を兼任していますので序列は不定となります。本来なら第三夫人となるはずですが、マイカさんにその座を譲りました。ミシェルちゃんは一〇年ほど経てば入ってくるでしょう。マリアンさんは今のところはそこまで興味がないようですが、エリーさんは抱き込むつもりのようです。セラさんとキラさんも間違いなく入ってきます。この五人が第四夫人から第八夫人の中に入ります」

「ねえカロリッタ、不穏な単語が聞こえてるんだけど、口を挟んだらまずいよね」
「はい~。ここはそっとしておきましょう~。穏やかな生活をおくりたければ~。もう大丈夫なはずです」

 小声でカロリッタに聞いてみた。一応僕もこの場にいるんだけどね。

「でもケネスさんを生き返らせてこの世界に送り込んだのは私ですよ? あなたの上司でもありますし」
「はい、たしかにカローラ様は私の上司です。それは間違いありません。そして私自身の失態によってケネスがこの世界にやって来たことも間違いありません。ですがここでは上司と部下の関係はありません。そもそもカローラ様は本来は休暇でにいるはずです。それがマジックバッグに入ってしまってに来てしまった、というのはずです。それが実はとバレれば大問題ですよね」
「……はい」
「そこはケネスが引き留めたという形にするように頼んでいますので問題ではなくなるはずです。カローラ様がまず考えるべきことは、どうすればケネスに迷惑をかけないかということです。お分かりですか?」
「……はい」

「頼まれてないんだけど」
「シッ」

「ではこれからの話です。先ほど序列と言いましたが、これは上下関係ではありません。普段は意識する必要はありません。誰かと何かを相談して、その内容をケネスに聞いてもらいたい場合、を決めておくための順番です。ケネスとしても何度も同じ話は聞きたくないでしょう。私がいれば私、私がいなければカロリッタさん、私もカロリッタさんもいなければマイカさん、という順番になります。絶対そうでなければならない決まりはありませんので、あくまで目安です」
「……リゼッタも強くなりましたね」
「はい。自分の至らなさを思い知らされたこの半年弱でした」
「分かりました。私もわがままは言いません。ここでのルールに従います。では名前の呼び方も変えた方がいいですか?」
「そこまでする必要はないと思います。みなさんも普段から好きなように呼び合っていますから」
「ではこれまでと同じように呼ぶことにしますが、新人のつもりで頑張りますね」
「こちらこそよろしくお願いします」



「なんとかなったね」
「リゼッタさんは元々かなりしっかりしていますからね~。開き直れば強いですよ~」
「まあね。ところで、あの二人の部屋選びは?」
「広さに違いがあるわけでもありませんし~『どこでもいいです』『私も』で終わりました~。それで空いているところに順番に入ってもらって戻ってきたらあの状態で~」
「いやあ、助かったよ」
「お礼はよ~。うっふっふ~」



「ではカローラ様、部屋を選びましょうか」
「お願いします」
「僕とカロリッタも上に行くよ」
「はい~」

 部屋は東西南北の壁に沿って並んでいる感じになる。衣装室や図書室、洗面所やトイレなどは中央よりになる。先ほどカロリッタが言ったように、部屋の広さは全部同じ。一応四方の角部屋は二面に窓があるけど、それほど風景に違いもないしねえ。

 東西南北は一応決めているけど、太陽が昇るわけじゃないから、あくまで家の向きを基準に玄関がある方を南としている。

 僕は南西角部屋、その東がリゼッタの部屋で、さらにその東がカロリッタの部屋。

 僕の部屋から廊下を挟んで北側がエリーとミシェルの部屋、その北がセラの部屋、さらにその北がキラの部屋。

 キラの部屋から廊下を挟んで北側が北西角部屋になっているマイカの部屋。

 エリーの部屋から廊下を挟んで東が衣装室で、キラの部屋から廊下を挟んで東が図書室。

 マリアンは角部屋がいいと言って南東角部屋。

「空いている部屋はこんな感じですね。カローラさん、どれにします?」
「ケネスさんから一番近いのはここでしょうか」

 建物の案内図を見ながら選んだ部屋はマリアンの二つ西。

「それにしてもこの家は広いですね。最初からこれでしたか?」
「そうですね。マリアンの部屋以外はそのままです。衣装室と図書室は広げていますけど」
「これまでカロリッタの目を通して見てきて、ずいぶん広いと思っていましたが、思った以上に広かったですね。ケネスさん、何かおかしくないですか?」
「僕を作ったカローラさんがそれを言いますか?」
「ケネスの魔力量がおかしいのは今さらですが、やはりカローラ様もおかしいと思いますよね?」
「明らかにおかしいですね。私が力を与えたとは言ってもここまでは……あっ」
「おや~。何かあやしい『あっ』が出ましたよ~」
「もう何を聞いても驚きませんので正直に言ってもらえますか?」
「おそらくですが……」



 カローラさんの言い方が生々しすぎたので少し言葉を濁すとこうなる。

 僕の魂はリゼッタに潰されたので、処置室という場所に置かれていた。そこは管理者が細かな作業をするために使われる場所。僕の魂の修復と肉体の再生が行われたのは第一処置室という場所で、そこは要するに手術室とか受験室とか保管室とか、そのような使い方をする部屋だそうだ。

 処置室は集中力を必要とする繊細な作業を行う場所なので、常に魔素が満ちあふれている。途中で魔力切れになったら困るからね。カローラさんはその膨大な魔素を取り込みながら僕を治してくれたらしい。

 問題はその後だ。カローラさんは目が覚めていない僕に一晩中あれこれしたらしいけど、僕の魂と肉体はお互いに馴染みきっていない不安定な状態だった。実際には目が覚めた後でもまだ馴染んでいなかったようだし、かなり時間がかかるものらしい。

 その状態でカローラさんから搾り取られて、文字通り精も根も尽き果てた。そして処置室のサポートを得たカローラさんによって、すぐに回復させられた。また搾り取られ、空になったら回復、搾り取られ、空になったら回復、これを一晩中繰り返した。

 言ってみれば、寝ている間に疲労感ゼロで超過酷なトレーニングを延々と繰り返したようなもの。不安定な魂と肉体はそれを全てを受け入れて吸収し、自分のものにしてしまった。

 かつてカロリッタが言っていた『軽く枯れた状態』というのは、最後に空になった後でカローラさんに回復してもらっていなかったらしい。

 説明されても分かるような分からないような、できれば分かりたくない感じだけど、そういうことだそうだ。

「魔力もどんどんすごいことになっていると思っていたのですが、場所が処置室でしたね。うっかりしていました」
「死ななかったからよかったですけどね……ちなみに僕の魔力をカローラさんと比べると、どれくらいになるんですか?」
「指先一つで私をプチッと潰せますよ。カロリッタやマリアンさんでも吹けば消し飛ぶと思います」



─────────────────────

 カローラの部屋を加えた部屋割りです。

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