新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第二章 第一部

三歩進んで二歩下がる

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 明日か明後日あたりからはまた東へ向かうとして、今後はたまに戻ることもありかなと思った。王都でマイカが、父と兄がいない時に実家の戻りたいと言っていたのを思い出したからだけど。ナルヴァ村、ユーヴィ市、キヴィオ市、ラクヴィ市、スーレ市、王都あたりは行ってもいいかと思う。

 今日のところはリゼッタとカロリッタと一緒に、一度ナルヴァ村へ戻ってみることにした。サランは部隊の訓練中だったから同行してない。



 さて……ナルヴァ村の少し東のあたりに[転移]で移動してみたんだけど……魔獣に囲まれてるね。

「これは魔獣の暴走スタンピードってやつかな? めちゃくちゃ多いね」
「タイミングバッチリですね~。まるで主人公ですよ~」
「別に主人公にならなくてもいいよ」

 ナルヴァ村は高い城壁に囲まれてるからすぐにどうなるものでもないだろうけど……。以前アニセトさんが、魔獣に襲われることは五年に一度もないって言ってたね。その際にはユーヴィ市へ早馬を出した後で門を閉じてひたすら耐えると。

 そう言えば、大森林からナルヴァ村までは草原になっていたけど、あれって魔獣の通り道だったのかな? 

「これは駆除した方がいいよね」
「お手伝いします」

 さて、魔獣は熊と猪が多め。兎もいる。他にも見たことのない犬っぽいのとか虎っぽいのとか。あの鳥もいるけど、足場がないからそれほど威力はないだろうし。ただし数は多いね。一〇〇〇どころじゃないと思う。[地図]で見ると……[魔獣✕三三四〇]か。

 ではやりますか。



 以前は森の中で戦ったからそれなりに大変だったけど、森から出た魔獣は大きいだけでそれほど怖くはない。猪は単に走っているだけだし、熊は動きが遅いし。鳥は足場があってこそのあの急降下だから、足場がなければ単に大きな鳥でしかない。蛇はここまでは来ていないみたいだね。

 [飛翔]で地面にいる魔獣から狙われない位置に留まり、三人で魔法と矢で倒していく。できれば素材としれ売れる部分を回収したいけど、調整が難しいね。僕は矢を射るか[氷矢]を使っている。

 [火矢]や[火弾]も練習したんだけど、僕は魔力量が多いから微調整が難しくって。バースデーケーキの蝋燭に火を点けるのに火炎放射器を持ち出すようなもの。下手をすると被害だけが大きくなる。そんなに戦うのは好きじゃないから、練習もあまりしていないし、上達した気がしない。村の周囲をボコボコにするわけにもいかないから、あまり威力の大きくない魔法ばかりで対処している。

 そうして少しずつナルヴァ村へ近付く。ある程度近付いたところで、門の上に立っていた人がこちらに気付いたらしい。[遠見]で見ると前に東門にいた人だね。

 しばらく三人で魔獣を減らしていると、向こうからこちらに手を振っているのがはっきりと分かった。

「こっちが味方だというのはさすがに分かるよね」
「それは大丈夫でしょう」
「カロリッタは向こうへ行って、城壁の上から援護してくれる? [転移]で来たというのは隠しておいてね。もし聞かれたら空を飛んできたって言っておいて」
「分かりました~」
「こちらが減りますが、大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど……時間がかかりそうだね。助っ人を呼ぼうか」

《マリアン、少しいい?》
《うむ。今は手が空いておるぞ》
《ナルヴァ村ってところに来たんだけど、周りを魔獣に囲まれててね。駆除中なんだけど、少し魔法で手伝ってくれない?》
《人の姿では魔法を使うのはあまり得意とは言えぬが、それでもよいかの?》
《それは大丈夫。[火弾]とか[火矢]とか細かい魔法で数を減らしてほしいんだよ》
《それなら大丈夫じゃ。ではすぐに向かう》

 申し訳ないけどマリアンにも外へ出てもらった。

 マリアンは本来は竜だから、人間の姿で魔法を使うのはあまり得意ではないそうだ。僕と一緒なんだけど、魔力量が多すぎて微調整が難しい。それでもマリアンの方が経験が長いから上手だね。火魔法をマシンガンのように撃っている。。

 [飛行]で浮いたマリアンが合流し、しばらく魔獣狩りを続けた。

 それなりに数が減ったのか、魔獣の群れからの圧力が減ってきたので、一度西へ押し返すことにした。[火壁]を使いながら魔物が東へ行かないようにしつつ、僕とリゼッタとマリアンは少しずつ西へ進む。そうこうしているうちに残った魔獣たちは森の方へ戻っていった。



 魔獣の死体をマジックバッグに放り込んでいると、城壁の方から何人か近付いてきた。

「おーい、大丈夫か?」

 聞き覚えのある声はアニセトさんか。

「お久しぶりです。大丈夫ですよ。村の方に被害はありませんか?」
「こっちは大丈夫だ。いつものように門を閉じていただけだからな」
「それはよかったです。たまたま戻ってきたらこういう状況だったので」
「その『たまたま』に感謝だな。とりあえず中に来るか?」
「はい。一度顔を見せようと思ってきたところだったので、回収したら行きますね」

 マリアンが魔力を紐のように伸ばして魔獣の死体を捕まえて僕が渡したマジックバッグに入れていた。ああいう使い方もあるんだね。次までに覚えよう。

 東門まで行ってカロリッタと合流し、村の人たちの歓迎の中、村の広場まで行くことになった。



「いやあ、あの森を抜けてきたというだけはあるな。待ってりゃ応援は来るが、早い方が気分は楽になるからな。とりあえず助かった」
「いえ、こちらも久しぶりにまとめて狩りができましたから」

 アニセトさんと歩きながら話をしていると、以前酒場で会った人たちが続々と集まってきた。

 魔獣が去ったことが知れ渡ったから、酒場の前にある広場で火を焚いてお祭りが始めるみたいだね。真っ昼間だけど。

 エーギルさんが樽を運んでいるから、僕も手持ちのミード蜂蜜酒やエールを提供しよう。さっきの猪や鳥も。熊はすぐには食べられないかも。ついでに焼き肉のタレも渡しておこうか。

 村の女性陣が肉や野菜を焼きはじめた。男性陣は城壁に登って警戒していたみたいだから、一度着替えてきたみたいだね。



「おう、エルフの兄ちゃん。たしかケネスって名前だったな。元気だったか?」
「はい、元気ですよ。特に問題もなく」
「また美人の連れを増やしてるなあ。魔法もすごかったしな」
「だそうだよ、マリアン、カロリッタ」
「悪い気はせんのう」
「美人妻集団です~」
「ワシは妻ではないぞ?」

 以前ここに来た時にはリゼッタと二人だけだったから、その頃から考えたら増えたよね、うちの家族。

「よーし、じゃあいつものように乾杯といくか!」
「「「「かん「乾杯!」カ「か「乾杯!」ーイ!」乾杯!」」」」

 今回もいきなり? またジョッキがあちこちから回ってきた。リゼッタは……。

「さすがに同じことを何度もしませんよ」
「だよね」
「同じこととはなんじゃ?」
「マスターと~……」
「それは言わなくていいです!」
「お酒はほどほどがいいって話だね。それはそうと、アニセトさん」
「おう、どうした?」
「ユーヴィ市まで応援を呼んでますよね。そちらは大丈夫ですか?」
「ああ、今日か明日あたりには来るんじゃねえかと思っててな。んで、音が聞こえたから来たかと思ったらお前さんらだったと。無駄足にはなるが、援軍だって怪我したり死んだりするよりはいいだろ」
「そうですけどね。獲物を横取りしたような感じになってしまったので」
「それは気にしすぎじゃねえか? もうお前さんが追い返したというのは早馬で伝えに行かせてあるから、来ないかもしれないな。確認で何人かは来るかもしれんが」

 まあ領主に絡まれるのはパルツィ子爵だけで十分だから、何もなければいいな。

 お酒をいではがれ、肉を焼いては食べ、お酒が足りなくなれば出し、肉が足りなくなったら急いで解体し……広場での宴会は暗くなっても続いていた。



◆ ◆ ◆



 そろそろお開きになりそうだね。

「エーギルさん、部屋はありますよね」
「ああ、今日は好きに泊まってってくれ」

 そう言うと僕に鍵をポンと渡した。最初から持っていたらしい。

「おお、今回は三人か。さすが若いとが違うんだろうなあ」
「そりゃ戦いの後でたかぶってるんだろ。あれだけ暴れりゃ三人でも少ないって」
「おーい、だれか年頃の娘を二、三人呼んでこいや」

 酔っ払いたちが笑いながら好き勝手に言い始めた。前もこんなんだったよね。

「いや、呼ばなくていいですって」
「そうか? 遠慮しなくていいぞ。ここは若い男がどうしても少ないからな。ほれ」

 酔っ払いの一人が顔を向けた方を見ると、肉食獣の表情をした娘さんたちが近付いてきた。怖い。

「じゃあ、お休みなさい!」

 急いで宿屋へ避難した。



「お前様はみなに好かれるようじゃのう」
「マスターは~人当たりがいいですからね~」
「ケネスの人徳ですね」
「好かれているというか、遊ばれている感じはするけどね。まあ以前は人当たりを良くするのは基本だったからね」

 社会人時代に教えられたのは、第一印象と人当たりの重要性。

 よく『人は内面』と言われるけど、初対面で内面なんか分からないからね。そして能力が同じくらいなら、人当たりが悪い人よりも良い人が選ばれるのは当然。同じ部署で長々と一緒に働いていれば性格も分かってくるけど。

 だからまずは清潔感。ネクタイは締めるならきちんと締める。シャツはアイロンをかけるのが面倒ならノンアイロンのを選ぶ。膝が出たズボンは履かない。靴は汚れていないかチェックする。

 別にいいスーツを着ろとか高い時計やカバンを持てとか言われたわけじゃないよ。社会人として、仕事をしてお金をもらうならそれ相応の格好をしなさいと教えられた。

 ものすごく有能だとしても、スーツもシャツもシワシワで、ネクタイをだらしなく結んで、靴はいつも泥が付いているような人は評価をされないと。

 人当たりはそのままだね。仕草とかマナーとかも入ってくるのかな。上司や社外の人と話をするのに足を組まないとか腕組みをしないとか、そういった基本的なこと。

「それはそうと、ここで泊まることになったけど、マリアンは家の方で用事はなかった?」
「大丈夫じゃ。特に急いで仕立てる服もないしのう。のんびりではなかったが、こうやってお前様と旅をして宿屋に泊まるというのも悪くはないのう」
「そうやってマスターの魅力にはまっていくんですよ~」
「お前様が『人』として魅力的なのは分かってはいるのじゃが、ワシは『人』ではないからのう……。どれだけ魅力的に見えても、異性として惹かれないのではさすがに無理じゃ。例えばカロリッタ殿は岩を相手に恋愛できると言い切れるかの?」
「無理ですね~。でも~マスターの形に削って~ゴーレムにしてしまえば~ちょっとくらいは~……」
「私も無理ですね。岩に命を宿らせれば恋愛対象にできなくはないかもしれませんが」
「どうやって動かすかって話になってない?」
「まあそういうことじゃ。女としてお前様に抱かれることはできるじゃろうが、それが恋愛になるかどうかはまた別じゃのう」
「お~それでも一歩前進ですね~」
「こらこら。興味がないって言ってるんだから、勧めないように」
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