新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第二章 第一部

ドワーフの矜持、そしてある転生者からの手紙

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 次にやって来たのは……金物屋? 雑貨屋? 武器屋?

「こんにちは。ここは……雑貨屋ですか?」
「おう、武器や防具、台所用品から農具まで、何でも置いてあるぞ」

 店主の親父さんはドワーフのようだ。

「大半は取り寄せたものだが、一部は俺が作っている。俺が作ってるやつの性能は保証する」

 そう言いながら自分の腕をポンポンと叩いた。セラとキラが僕の腕をポンポン叩く。コミュニケーション?

 こうやってたまにセラとキラから腕をポンポンと叩かれることがある。二人揃って叩いてくるんだよね。痛いわけでもないけど、意味があるのか、それとも単なる癖なのか。

 ドワーフに知り合いがいるわけではなく、他に顔を見たことがあるのは、王都で二人が石材を売りに行った商店の店員やその周辺にいた職人たちくらいだからね。

「ほほう、やるなあ。兄ちゃんには不要なものが多いかもしれんが、甲斐性があるならぜひ色々と買ってってくれ?」
「甲斐性って何ですか?」
「ん? 二人が兄ちゃんの腕を叩いてただろ?」
「はい、叩いてましたね」
「ああ、知らなかったのか。腕を叩くのは、腕のアピールだ」
「アピールですか? 店主が自分の腕を叩いたのも同じ意味ですか?」
「ああ、自分の腕を叩くのは、自分の腕前を自慢する時だな。俺たちドワーフにとっては、自分の腕が飯の種になる。技でも力でも。俺は鍛冶をしてるからな、こうやって腕をアピールするんだ」

 そう言って親父さんは左手で右手の肘あたりを叩いた。

「で、これを見た二人が兄ちゃんの腕を叩いただろ? 自分の連れの腕を叩く時は、叩かれた相手を自慢する時だな。経済力か腕力か愛情か、それはその時の話の流れで変わるけどな」

 思った以上に奥が深かった。

「二人とも、知っててやってたの?」
「そういうわけではないですが、なんとなく叩きたくなったです」
「本能?」
「嫁さんたちの言う通りだな。やろうと思ってやらなくても、自然と腕が動くもんだ」
「そういうものですか。そして、嫁さん?」
「おう、違うのか? 普通は夫婦以外にはこんなことはしないぞ。腕は大事なものだからな。他人に叩かせるなんて最高の愛情表現だぞ。女が男の腕を叩けば自慢の夫といういう意味だ。男が女の腕を叩けば自慢の妻という意味だ。腕はそれくらい大事なものだからな」

 ……知らない情報が次々と入ってきたけど、それで繋がった。王都の商店でセラとキラが僕の腕を叩いて、店員さんがそれを見て『永久就職』って言ってたけど、そういうわけか。ドワーフの習性なんて普通は知らないよ? セラとキラもよく分かっていなかったみたいだし。

「まあ兄ちゃんはエルフみたいだから知らなかったかもしれないが、俺らの中ではまあそういう話もあるってことだ。でもまあ、仲良くしてるんならちゃんと考えてやってくれや」

 また二人からポンポンと叩かれた。

 この二人は顔の表情はあまり豊かじゃないんだけど、目の感情表現は豊かというかなんというか。なんだろうね? 目で語る感じ? 押しは強くないし、ただそこにいるだけなんだけど。

 知り合った頃にOKと言われたけど、他のメンバーとは違ってがっついているわけではないし、いきなり何かをされるわけでもないからね。それから特になんとなく妹のような感じで接していて、恋愛対象とは考えにくいんだよ。うーん。また後で話し合いだね。

 あらためて店の方を見てみると、このあたりはキッチン用具、その向こうが庭や畑で使うもの、一番向こうが武器や防具。武器や防具は必要ないかな? でも武器屋に入ったことがないし、後でいいから見てみよう。

「先生、キッチン用品で足りないものはありましたか?」
「キッチン周りは揃ってるからね、二人が使いたい農具とかがあれば選んでいいよ」

 キッチンで使うものは以前よりももっと充実してきた。最近はミシェルがかなりお手伝いをしてくれている。みんなとよく話すようになったからか、舌っ足らずなところがなくなってきたように思う。

 そういうわけで、ミシェルが包丁を使わずに料理の手伝いができるように、僕が包丁に似た魔道具を作った。刃が付いていない包丁のような形で、野菜に当てるとその部分が切れるようになっている。人体には無効なので、手に当たったとしても安心。それでしばらく練習して、エリーのOKが出れば実際に包丁を使って料理をしてもいいと言ってある。

 エリーやマイカによると、今ではかなり任せるようになってきたとか。カローラさんとどちらが料理の腕が上かを競っているらしい。カローラさん……。

 それ以外にも、野菜をみじん切りができる魔道具を作った。例えば、ヘタを落としたタマネギを中に入れれば、縦と横に魔法でカットされ、みじん切りができあがる。幅は調節できるから、方向を間違えずにダイコンやニンジンを入れれば千切りや短冊切りも可能。

 キッチン用品については、必要だと思ったものをその都度作るようにしているから、自分でも何を作ったのか忘れそうになる。

 農具は基本的なものはあるけど、僕はそこまで農具を必要としない。何かあればマジックバッグに入れればいいし、多少のことは強引に魔法で済ませている。

 でもセラとキラがやり始めた農業は、一般のものとは収穫の早さが違うだけで、僕と比べればごく普通のやり方。ここでは二人が必要と思ったものを買ったらいいんじゃないかな。

「遠慮せずに必要なものを言うこと」
「分かりました。では、ピッチフォークとレイクを二本ずつ、手押し車を一台、ふるいを三種類、そのあたりをお願いします」
「このマチェーテも二本」
「他にはいい?」
「それだけあれば十分です」
「大丈夫」
「では以上でお願いします。持って帰りますのでお会計をお願いします」
「あいよ」

 支払いを済ませて農具はマジックバッグに入れ、一応武器も見せてもらうことにした。

 武器はカローラさんから貰ったものがあるし、ネタなのかどうか分からないけどトンファーなんてものもある。剣や槍などは一通りある。でもカローラさんから貰ってばかりだから、この世界の武器を実はあまり見ていなかったりする。せっかくの機会なので一通り見せてもらおう……って、え⁉

 壁に飾ってある武器……のようで武器に見えないものが目に入った。

「あの、あれは親父さんが作ったんですか?」
「あー、それは……去年だったか……いや、もう一昨年だな、ここへ売りに来た男がいてな、武器としては役に立ちそうにないが、面白いから買い取っただけだ。大した値段ではなかったからな」
「ひょっとして、これとこれもそうですか?」
「! よく分かったなあ。同じやつが持ち込んだものだ。全部まとめて銀貨一枚だったから、その金額でよければ売るが、どうだ?」
「ネタとしてはいいですね」
「先生、それは何です?」
「面白い形」
「これはカシナートの剣っていうネタ武器で、こっちは手裏剣といって、投げナイフの一種だね」
「兄ちゃん、よく知ってるな。売っていったやつはそんなことを言ってたな。そっちはムラサマブレードって名前の剣だ。普通に使えるのはこれだけだな」
「ちなみに、これを売った人を教えてもらうことはできますか?」
「これが分かるやつがいたら名前を教えていいと言っていたな。ちょっと待っててくれ」

 そう言うと親父さんは奥に引っ込んでいった。

 僕が見つけたのはカシナートの剣 BLADE CUSINARTという名前のネタ武器。あるRPGWizardryの第一作から出ている。知っている人は知っていると思うけど、とある家電メーカー CUISINARTのフードプロセッサーが元ネタ。綴りの中のiを取ってカシナート CUSINART。当時このメーカーの製品は日本に入ってきていなかったのでパロディが理解されず、伝説の名工カシナートが鍛えた剣、とされていたらしい。

 だから名前にあるBLADEは本来は剣ではなくてのこと。ここに飾ってあるものは四本の刃があるダガーの形。刃が円形のつばから垂直に出ていて、鍔がくるくる回るようになっている。無駄に細かい。見た目は野蛮なフードプロセッサーの部品。

 ムラサマブレードMURASAMA BLADEはもちろん村正の綴りを間違えたもの。これが使われてたのは一番初期くらいじゃないの? 僕が生まれるずっと前のゲームだけど。



「これだこれだ。アシルって男だ。そいつが書いたメモがこれだ」

 アシル? ルボルさんとミロシュ主教が言っていた斥候のアシルさん?

「見ていいんですか?」
「そいつが見せていいって言ってたからな。買う買わないは関係ない」
「いえ、まとめて買わせてもらいます。これはこれで面白そうなので。それでこれがメモですか……」

 紙を四つに折ってあって、外には『これが読めるなら足を運んでほしい』と書かれていた。やっぱりアメリカ人かな?



 『もしこの文章を読めるのなら、君は僕の祖国であるステイツか、それとも地球のどこかで生まれたということになるのだろう。そして僕が作ったものが何か分かるのなら、ある程度はビデオゲームに詳しいのだろう』

 『僕はこの世界ではアシルという名前を与えられて、若い頃は冒険者をしていた。それもステイツにいた頃はゲーム三昧だったから仕方ないね』

 『夢にまで見たゲームのような世界へ生まれ変われば、男なら冒険者になるのは当然だろう。でも残念ながら一流の冒険者にはなれなかった。そこそこまでは行けたと思うけど、魔術師にも僧侶にもなれなかったからね』

 『ひどい怪我をして、それがきっかけで引退することにしたんだ。引退してからは真面目に鍛冶をしているけど、たまにこういうジョークグッズも売っている』

 『僕は今はルジェーナ市で暮らしている。ルジェーナ男爵領の領都だ。この国ではかなり東の方になる。ここからは少し南に行くけど、西に行くよりはマシだろう。英語で南へ行くgo southは『状況が悪くなる』で、西へ行くgo westは『死ぬ』という意味だよ。ハハハ!』

 『MURASAMA BLADEの名前は正しいものにしようかとも考えたけど、オリジナルは尊重すべきだと思ってそのままにしておいた』

 『このジョークが分かるようならぜひ訪ねてきてほしい。そして僕が死んでからこれまでどのようなことがあったか教えてくれたら嬉しい』

 『それでは。BADIOS!』



 ……最後のはひょっとしてアディオスAdiosとかけてる?



 内容からすると、おそらくルボルさんたちと組んでいたアシルさんだね。

 アメリカンジョークと言っていいのか分からないけど、まあ愉快な人だと言うことだけは分かった。

「それが読めるのか?」
「ええ、読めますね。これが読めるなら会いに来てほしいという挨拶みたいなものです」
「そうか。ならその手紙も持ってってくれ。俺には読めないから意味がないしな」
「分かりました。ありがたくいただきます」

 親父さんに礼を言って店を出た。

 なんとも情報量の多い雑貨屋だったな。



 それからさらにいくつか店を覗いてから家に戻った。そしてあらためてセラとキラを呼んで、三人で話をすることにした。

二人は僕の妻になりたいの?」
「本当にです」
「本当」
「正直に言ってほしいんだけど、僕のどこかいいの?」
「はっきりとは分かりませんが、何かこう……この人でなければ、という気がしたです」
「ピンと来た」
「妻になるのはは急ぐ必要はある?」
「そういうわけではないですが、いずれは貰って欲しいです」
「その確証は欲しい」
「確証?」
「手付けともいいます」
「とりあえずキスでいい」

 今さらだけど、二人には僕の事情と考えを伝えておく。これはエリーたちに話したこととほとんど同じ。

 別の世界で死んでしまって、それからこちらの世界に移ってきたこと。目的のない旅をしていること。家族それぞれに事情があってこの家に集まってきたこと。僕は一夫一妻の国の生まれだから、たくさん妻を持つことに今でも戸惑いがあること。それでもいいなら、家族とみんなと仲良くできることを条件に受け入れること。でも手を出すのはもうしばらく待って欲しいこと。

「それでいいです。ではどうぞ」
「同じくどうぞ」

 そこまでされては引くに引けない。覚悟を決めて二人にキスをした。直後に抱きつかれたけど、それくらいはいいだろう。

 二人は小柄だし、全然がっついていないから、妹というか近所にいる子供のような感じで接してしまう。妻にと言われても、なかなかそういう気分になれないんだけど。
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