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第二章 第二部
引き継ぎのために代官邸を訪ねる
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代官の屋敷に来ている。代官がいなくなったけどもちろん無人ではなく、当然ここで働いている人もいるはず。門衛だって二人立っているから。
「ご用件は?」
「仕事の引き継ぎに来ました。ケネスと言います」
「はい、確認いたしま……す? え? 代官様ではなく領主様……ですか?」
「はい、正式には年明けからユーヴィ市はユーヴィ男爵領の領都になります。この屋敷は引き続き領主邸として使う予定ですので、警備の方も引き続きお願いします」
「は、はい、かしこまりました」
「ちなみに今はここに何人いますか?」
「えー、警備が交代制で四人、屋敷の中には執事のイェルン、そして掃除や洗濯、食事などのために女性が四人となっています。他の門衛も中にいます。えっと、私が門衛としては一番長いレンスと言います。こちらがセースになります」
「分かりました。では二人とも門を閉めて付いてきてくれますか? 僕がいきなり入っても怪しまれるかもしれませんので」
「分かりました」
歩いていると、レンスがおずおずと話しかけてきた。
「一体何が起きているのでしょうか? 代官様の姿が見えなくなってかなり経ちますが」
「それを説明しにきたわけですよ。屋敷の中でゆっくり話しましょう」
「はっ」
屋敷の中に入ると、門衛のレンスがみんなを呼び集めてくれた。
「来年より、この町の領主になるケネスと言います」
「「「「領主様?」」」」
「疑問はあると思いますが、まずは一通り説明させてください。後でいくらでも質問を受け付けますので」
「承知しました」
上品なひげをたくわえた執事のイェルンがみんなを代表して返事をした。
まずはみんなの名前の確認。執事がイェルン、門衛がレンス、セース、ティース、マリウスの四人、女性がフェナ、フランカ、アレイダ、エルケの四人。レンスが警備隊長、フェナが女性のまとめ役。フェナは優しいおばあさんという雰囲気で、逃げた代官の前の前の代官の時から勤めているそうだ。
話を始める前にフェナがお茶を淹れてくれた。
「まず、この町の代官がいなくなった件ですが、伯父であるキヴィオ子爵に辞任を申し出て、その件は了承されています。現在は代官がいない状態です。ここは大丈夫ですね?」
みんなが順番に頷く。
「次に、来年からキヴィオ子爵領が分割されることになりました。パダ町までがキヴィオ子爵領、ユーヴィ市から西がユーヴィ男爵領になります。ユーヴィ市とナルヴァ村、ソルディ村、アルメ村、トイラ村、シラマエ村の五つの村が新しく独立する形です。人口は三〇〇〇人を切ってしまいます。ここはどうでしょうか?」
「領主様、人が減れば兵士も減りますが、それは大丈夫ですか? 先日も魔獣の暴走があったそうですが」
これは門衛のセース。表にいた門衛のうち、がっしり体型の人。
「ああ、それは大丈夫です。聞いたかもしれませんが、僕と三人だけで片付けました」
「あれは本当の話だったのですか? 討伐隊が何もせずに戻ってきたという話は聞いていたのですが」
「はい、本当ですよ。ギルドで聞いてもらっても構いません。信じがたい話だとは思いますが」
「それで、本題です。分割の話は昔からあったと聞いています。キヴィオ子爵領にとって、ナルヴァ村の麦は非常にありがたいものですが、暴走が起きるたびに討伐隊を編成する必要がありますし、もちろん兵士や冒険者は無傷ではありません。一方で切り離される側のユーヴィ市としても、この周辺だけで一つの領地になるにはあまりにも人が少な過ぎます。先ほどの話に出ましたが、領地全体で三〇〇〇人もいないのに、兵士がどれだけ雇えるかという話になります。お隣のキヴィオ市とは別領地になるわけですから、協力を要請するにはお金がかかりますし、状況によっては断られることもあるかもしれません」
みんなが頷く。
「でも、僕が暴走を止められるだけの力があることで色々変わります。キヴィオ子爵領はナルヴァ村の麦を失いますが、西側への配慮が必要なくなります。ユーヴィ市は僕たちがいれば大森林の魔獣は気にしなくてよくなります。そして、ナルヴァ村の麦については、当面はキヴィオ子爵領に融通するということで話が付きました。これによって双方が負担なく分かれることができるようになりました。そんなところですね」
「あの~、この話を私たちが聞いてもよかったのですか~?」
栗色の髪を三つ編みにした一番若いエルケがおずおずと手を上げた。
「大丈夫ですよ。まだ公表されていないだけで、いずれは誰もが知ることです。多少早いか遅いかの違いだけですね。僕は領主の経験はありませんので、僕からみなさんに何か質問をすることも出てくると思います」
「旦那様、我々使用人はこれ以降も同じように雇っていただける、ということでよろしいでしょうか?」
これは執事のイェルン。
「はい。みなさん、これまでと同じように働いてください。待遇は今までより良くなることはあっても悪くなることはないので安心してください」
「使用人を増やしていただくことは可能でしょうか?」
「必要があるなら増やします。すでに家族のある人を雇うなら、そのための家も準備しますよ。それで、少しやっかいな話ですが、うちの妻たちはみんな自分のことは自分でするのが習慣になっていますので、領主の妻でも普通に掃除をしたり食事を作ったりすることがあると思ってください。何か他にありますか?」
「領主様はあの新しくできたお店の方ですか?」
これはアレイダ。お店に行ってくれたのかな? 少しつり目でキリッとした表情の女性。
「ええ、建物は僕の持ち物ですね。経営には関わっていませんが」
「働いているのはみんな領主様の奥様たちだと伺いましたが」
「いえ、立ち上げ時は妻たちだけでしたが、今は何人も雇っていますね。あの店もいずれは公営にすべきかどうか、少し考えどころです」
「奥様は何人いらっしゃるのですか?」
「九人です」
「「「「九人!」」」」
「領主様はいつこちらへ引っ越しをなさいますか?」
バッサリショートヘアのフランカ。既婚者で通いで働きに来ている。
「引っ越そうと思えばすぐですね。でも一度中を見て、直すべきところは直そうと思うので、これから屋敷の中と外を見て回ろうと思います。案内は……フェナにお願いできますか?」
「かしこまりました」
フェナがここでは一番長いと聞いたので、彼女の案内で見て回ることになった。
「ここが代官様の執務室でございます」
「床も壁も、全体的に傷んでるね」
「かなり古い建物でございますから」
「ここが台所でございます」
「ここは設備が古いね」
「おそらくこの屋敷の中でも一番古い場所なのではないでしょうか」
「ここが代官様の私室でございます」
「ほとんど何もないけど、やはり傷んでるね」
「窓がガタガタするといつもおっしゃっていました。ですが修理を頼むことはございませんでした」
「ちなみに、みんなは住み込み?」
「全員ではございません。使用人用の建物はここの裏にございます」
「差し支えない範囲でいいから見せてくれる?」
「承知いたしました。こちらでございます」
勝手口から外に出ると、なんとも壁が激しく傷んだ建物があった。
「これは……かなり古いよね。あの壁のあたりは穴が空きそう」
「隙間風はかなりございます。それほど寒くならないので助かっておりますが」
「直すよりも建て替えた方が早そうだなあ」
「修繕をお願いしたことはございましたが、金がないと断られておりました」
「本館を見た限りではそう言うだろうね」
中も見せてもらう。
ギー
ギー
「あまり言うのも気が引けるけど、床もひどいね」
「ここはまだマシでございますが、突き当たりは床が抜けましたので板を当てております。つまづかないようにお気を付けください」
「了解」
「ここは一番ひどい部屋で、現在は空き部屋になっております」
「うわ……」
床に板が何枚も当ててあるから歩きづらい……と言うか、これ床板が腐ってるね。適当な直し方をした上に閉めっぱなしだったからだろう。
「ありがとう。想像以上にひどかった。まずはここから直そう」
「直していただけるのですか?」
「修繕じゃなく建て直しね」
「そう言えば、ご領主様、先ほどから口調が少し違うようでございますが」
「あれは仕事用、これは普段用」
「今は普段でございますか?」
「二人で雑談してるのに、仕事も何もないでしょ? フェナもくだけた口調でいいよ」
「簡単に変えられるものではございません」
さて、屋敷の前に戻って、寮の場所をどこにするか考える。敷地は無駄に広いから、屋敷の横でいいんじゃないかな。まずは寮を建てる。それから屋敷を建て直す。最後に客用の離れを寮の反対側に建てる。屋敷を本館とすれば、寮が東館、離れが西館になるか。
「フェナ、一度戻ろうか」
「かしこまりました」
それほど長い時間ではなかったけど、みんなはそのまま待っていてくれたので、今後のことを話すことにした。
「えー、ざっと見た感じでは、おそらく近いうちに使用人寮が崩れます」
「「「「え?」」」」
「空き部屋と廊下の奥に穴を塞いでいる場所ありましたが、あのあたりを中心に床が抜けると思います」
「修理は無理ですか?」
「直すより建て直す方が早いので、今いるこの建物の東側に建て直します。それからこの建物も建て直し、西側に来客用の離れを建てます。それからすべて渡り廊下で繋げます」
「かなり時間がかかりませんか?」
「本来なら公共事業として人を集めて建ててもらうのがいいのでしょうが、今回は時間が惜しいので最速で建てます」
「何かお手伝いはできませんか?」
「そうですね……。まず、引き継ぎで必要な書類など、代官の部屋にあるものなどは、すべてどこか一ヶ所にまとめておいてください。それと代官の個室にあるものも一緒にしておいてください。基本的には、みなさんの個人的なもの以外で使えそうなものは、どこかの部屋にひとまとめでお願いします」
「「「「はい」」」」
建物を作り直すから、個室はワンルームマンションのようにすればいいか。
「建物についてですが、みなさんは使用人寮に何が必要ですか? みんなで使えるキッチン付きの談話室は当然用意しますし、みなさんの個室にはキッチン、お風呂、トイレなどは一通り揃えます。共用のものでも個人用のものでも、必要があれば言ってください」
「風呂まで用意していただけるのですか?」
「もちろん。気持ちよく仕事をするためには、まずは快適な生活環境でしょう」
「そこまで用意していただけるなら、他には特に必要ないと思います」
「何か意見はありませんか?」
なかなか言いにくいのかもしれないけど、誰も手を挙げないし、何も言わない。まあ必要があれば改築すればいいか。
「分かりました。使用人が増えることも考えて、部屋数は少し多めに作ります。みなさんで好きな部屋を選んでもらうことになりますね」
「ありがとうございます」
「それでは、明日また来ますから、その時に建てます」
「「「「え?」」」」
「明日また来て建てます」
「明日ですか?」
「ええ、明日です」
「建て直すのですよね?」
「建て直しますよ」
「お一人でですか?」
「二、三人くらい連れてくるかもしれません」
「「「「……」」」」
「まあ、そういうものだと思ってください」
うちの家族は僕が何をしようとも驚くことはないから、使用人のみんなにも慣れてもらわないとね。
「ご用件は?」
「仕事の引き継ぎに来ました。ケネスと言います」
「はい、確認いたしま……す? え? 代官様ではなく領主様……ですか?」
「はい、正式には年明けからユーヴィ市はユーヴィ男爵領の領都になります。この屋敷は引き続き領主邸として使う予定ですので、警備の方も引き続きお願いします」
「は、はい、かしこまりました」
「ちなみに今はここに何人いますか?」
「えー、警備が交代制で四人、屋敷の中には執事のイェルン、そして掃除や洗濯、食事などのために女性が四人となっています。他の門衛も中にいます。えっと、私が門衛としては一番長いレンスと言います。こちらがセースになります」
「分かりました。では二人とも門を閉めて付いてきてくれますか? 僕がいきなり入っても怪しまれるかもしれませんので」
「分かりました」
歩いていると、レンスがおずおずと話しかけてきた。
「一体何が起きているのでしょうか? 代官様の姿が見えなくなってかなり経ちますが」
「それを説明しにきたわけですよ。屋敷の中でゆっくり話しましょう」
「はっ」
屋敷の中に入ると、門衛のレンスがみんなを呼び集めてくれた。
「来年より、この町の領主になるケネスと言います」
「「「「領主様?」」」」
「疑問はあると思いますが、まずは一通り説明させてください。後でいくらでも質問を受け付けますので」
「承知しました」
上品なひげをたくわえた執事のイェルンがみんなを代表して返事をした。
まずはみんなの名前の確認。執事がイェルン、門衛がレンス、セース、ティース、マリウスの四人、女性がフェナ、フランカ、アレイダ、エルケの四人。レンスが警備隊長、フェナが女性のまとめ役。フェナは優しいおばあさんという雰囲気で、逃げた代官の前の前の代官の時から勤めているそうだ。
話を始める前にフェナがお茶を淹れてくれた。
「まず、この町の代官がいなくなった件ですが、伯父であるキヴィオ子爵に辞任を申し出て、その件は了承されています。現在は代官がいない状態です。ここは大丈夫ですね?」
みんなが順番に頷く。
「次に、来年からキヴィオ子爵領が分割されることになりました。パダ町までがキヴィオ子爵領、ユーヴィ市から西がユーヴィ男爵領になります。ユーヴィ市とナルヴァ村、ソルディ村、アルメ村、トイラ村、シラマエ村の五つの村が新しく独立する形です。人口は三〇〇〇人を切ってしまいます。ここはどうでしょうか?」
「領主様、人が減れば兵士も減りますが、それは大丈夫ですか? 先日も魔獣の暴走があったそうですが」
これは門衛のセース。表にいた門衛のうち、がっしり体型の人。
「ああ、それは大丈夫です。聞いたかもしれませんが、僕と三人だけで片付けました」
「あれは本当の話だったのですか? 討伐隊が何もせずに戻ってきたという話は聞いていたのですが」
「はい、本当ですよ。ギルドで聞いてもらっても構いません。信じがたい話だとは思いますが」
「それで、本題です。分割の話は昔からあったと聞いています。キヴィオ子爵領にとって、ナルヴァ村の麦は非常にありがたいものですが、暴走が起きるたびに討伐隊を編成する必要がありますし、もちろん兵士や冒険者は無傷ではありません。一方で切り離される側のユーヴィ市としても、この周辺だけで一つの領地になるにはあまりにも人が少な過ぎます。先ほどの話に出ましたが、領地全体で三〇〇〇人もいないのに、兵士がどれだけ雇えるかという話になります。お隣のキヴィオ市とは別領地になるわけですから、協力を要請するにはお金がかかりますし、状況によっては断られることもあるかもしれません」
みんなが頷く。
「でも、僕が暴走を止められるだけの力があることで色々変わります。キヴィオ子爵領はナルヴァ村の麦を失いますが、西側への配慮が必要なくなります。ユーヴィ市は僕たちがいれば大森林の魔獣は気にしなくてよくなります。そして、ナルヴァ村の麦については、当面はキヴィオ子爵領に融通するということで話が付きました。これによって双方が負担なく分かれることができるようになりました。そんなところですね」
「あの~、この話を私たちが聞いてもよかったのですか~?」
栗色の髪を三つ編みにした一番若いエルケがおずおずと手を上げた。
「大丈夫ですよ。まだ公表されていないだけで、いずれは誰もが知ることです。多少早いか遅いかの違いだけですね。僕は領主の経験はありませんので、僕からみなさんに何か質問をすることも出てくると思います」
「旦那様、我々使用人はこれ以降も同じように雇っていただける、ということでよろしいでしょうか?」
これは執事のイェルン。
「はい。みなさん、これまでと同じように働いてください。待遇は今までより良くなることはあっても悪くなることはないので安心してください」
「使用人を増やしていただくことは可能でしょうか?」
「必要があるなら増やします。すでに家族のある人を雇うなら、そのための家も準備しますよ。それで、少しやっかいな話ですが、うちの妻たちはみんな自分のことは自分でするのが習慣になっていますので、領主の妻でも普通に掃除をしたり食事を作ったりすることがあると思ってください。何か他にありますか?」
「領主様はあの新しくできたお店の方ですか?」
これはアレイダ。お店に行ってくれたのかな? 少しつり目でキリッとした表情の女性。
「ええ、建物は僕の持ち物ですね。経営には関わっていませんが」
「働いているのはみんな領主様の奥様たちだと伺いましたが」
「いえ、立ち上げ時は妻たちだけでしたが、今は何人も雇っていますね。あの店もいずれは公営にすべきかどうか、少し考えどころです」
「奥様は何人いらっしゃるのですか?」
「九人です」
「「「「九人!」」」」
「領主様はいつこちらへ引っ越しをなさいますか?」
バッサリショートヘアのフランカ。既婚者で通いで働きに来ている。
「引っ越そうと思えばすぐですね。でも一度中を見て、直すべきところは直そうと思うので、これから屋敷の中と外を見て回ろうと思います。案内は……フェナにお願いできますか?」
「かしこまりました」
フェナがここでは一番長いと聞いたので、彼女の案内で見て回ることになった。
「ここが代官様の執務室でございます」
「床も壁も、全体的に傷んでるね」
「かなり古い建物でございますから」
「ここが台所でございます」
「ここは設備が古いね」
「おそらくこの屋敷の中でも一番古い場所なのではないでしょうか」
「ここが代官様の私室でございます」
「ほとんど何もないけど、やはり傷んでるね」
「窓がガタガタするといつもおっしゃっていました。ですが修理を頼むことはございませんでした」
「ちなみに、みんなは住み込み?」
「全員ではございません。使用人用の建物はここの裏にございます」
「差し支えない範囲でいいから見せてくれる?」
「承知いたしました。こちらでございます」
勝手口から外に出ると、なんとも壁が激しく傷んだ建物があった。
「これは……かなり古いよね。あの壁のあたりは穴が空きそう」
「隙間風はかなりございます。それほど寒くならないので助かっておりますが」
「直すよりも建て替えた方が早そうだなあ」
「修繕をお願いしたことはございましたが、金がないと断られておりました」
「本館を見た限りではそう言うだろうね」
中も見せてもらう。
ギー
ギー
「あまり言うのも気が引けるけど、床もひどいね」
「ここはまだマシでございますが、突き当たりは床が抜けましたので板を当てております。つまづかないようにお気を付けください」
「了解」
「ここは一番ひどい部屋で、現在は空き部屋になっております」
「うわ……」
床に板が何枚も当ててあるから歩きづらい……と言うか、これ床板が腐ってるね。適当な直し方をした上に閉めっぱなしだったからだろう。
「ありがとう。想像以上にひどかった。まずはここから直そう」
「直していただけるのですか?」
「修繕じゃなく建て直しね」
「そう言えば、ご領主様、先ほどから口調が少し違うようでございますが」
「あれは仕事用、これは普段用」
「今は普段でございますか?」
「二人で雑談してるのに、仕事も何もないでしょ? フェナもくだけた口調でいいよ」
「簡単に変えられるものではございません」
さて、屋敷の前に戻って、寮の場所をどこにするか考える。敷地は無駄に広いから、屋敷の横でいいんじゃないかな。まずは寮を建てる。それから屋敷を建て直す。最後に客用の離れを寮の反対側に建てる。屋敷を本館とすれば、寮が東館、離れが西館になるか。
「フェナ、一度戻ろうか」
「かしこまりました」
それほど長い時間ではなかったけど、みんなはそのまま待っていてくれたので、今後のことを話すことにした。
「えー、ざっと見た感じでは、おそらく近いうちに使用人寮が崩れます」
「「「「え?」」」」
「空き部屋と廊下の奥に穴を塞いでいる場所ありましたが、あのあたりを中心に床が抜けると思います」
「修理は無理ですか?」
「直すより建て直す方が早いので、今いるこの建物の東側に建て直します。それからこの建物も建て直し、西側に来客用の離れを建てます。それからすべて渡り廊下で繋げます」
「かなり時間がかかりませんか?」
「本来なら公共事業として人を集めて建ててもらうのがいいのでしょうが、今回は時間が惜しいので最速で建てます」
「何かお手伝いはできませんか?」
「そうですね……。まず、引き継ぎで必要な書類など、代官の部屋にあるものなどは、すべてどこか一ヶ所にまとめておいてください。それと代官の個室にあるものも一緒にしておいてください。基本的には、みなさんの個人的なもの以外で使えそうなものは、どこかの部屋にひとまとめでお願いします」
「「「「はい」」」」
建物を作り直すから、個室はワンルームマンションのようにすればいいか。
「建物についてですが、みなさんは使用人寮に何が必要ですか? みんなで使えるキッチン付きの談話室は当然用意しますし、みなさんの個室にはキッチン、お風呂、トイレなどは一通り揃えます。共用のものでも個人用のものでも、必要があれば言ってください」
「風呂まで用意していただけるのですか?」
「もちろん。気持ちよく仕事をするためには、まずは快適な生活環境でしょう」
「そこまで用意していただけるなら、他には特に必要ないと思います」
「何か意見はありませんか?」
なかなか言いにくいのかもしれないけど、誰も手を挙げないし、何も言わない。まあ必要があれば改築すればいいか。
「分かりました。使用人が増えることも考えて、部屋数は少し多めに作ります。みなさんで好きな部屋を選んでもらうことになりますね」
「ありがとうございます」
「それでは、明日また来ますから、その時に建てます」
「「「「え?」」」」
「明日また来て建てます」
「明日ですか?」
「ええ、明日です」
「建て直すのですよね?」
「建て直しますよ」
「お一人でですか?」
「二、三人くらい連れてくるかもしれません」
「「「「……」」」」
「まあ、そういうものだと思ってください」
うちの家族は僕が何をしようとも驚くことはないから、使用人のみんなにも慣れてもらわないとね。
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