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第二章 第二部
とりあえずルジェーナ市へ向かう
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この前はルジェーナ市の手前にあるコニー町のすぐ手前まで来ていた。ここからは先を急ぐことにする。コニー町からルジェーナ市までは五日ほどかかるけど、そこまで一日で移動した。本当はゆっくり旅をしたいけど、場合が場合だしね。
ルジェーナ市はディキリ町と東の端のヴァリガ市の中間あたりにあるルジェーナ男爵領の領都。この国の東西を結ぶ主街道からはかなり南に外れているけど、南のクルディ王国から王都の方へ物を運ぶルートの途中にあるのでそれなりに発展している。そこにアシルさんは住んでいるらしい。
まあホルスト市の雑貨屋にネタ武器を売りに来ていたくらいだから、訪ねていっても町にいないこともあるかもしれない。会えればラッキーというくらいに考えておこう。会えなくても、また[転移]で来たらいいしね。
それほど大きな町ではないので、城門のところで名前を出して聞いたらすぐに工房の場所を教えてもらえた。町の端に近いそうだ。
しばらく歩いて工房が見えた。看板に欠けたリンゴのマークが付いているね。工房の内部はネタばっかりかも。
「いらっしゃいませ」
「すみません。アシルさんはいらっしゃいますか?」
「はい。親方は奥にいますが、どのような用件ですか?」
「ホルスト市の雑貨屋で武器を拝見しましたので挨拶に来ました」
「少々お待ちください」
受付の女性は、「親方!」と呼びながら奥へ消えた。しばらくして出てきたのは気のよさそうな恰幅のいい中年から初老くらいの男性。
「おやおや、ようこそ」
「初めまして、ケネスと言います。ホルスト市でカシナートの剣を見てこちらに来ました」
「ハハハッ。あれが分かったのかい? どれだけ気付いてくれる人がいるかなと思ったけど。まあこちらへどうぞ」
店の奥へ案内してもらい、お茶をいただきながら話をすることになった。
「いくつかの町の武器屋や雑貨屋で、地球から来たことが分かるようなものを置いてもらってね。自由の女神像、エッフェル塔などの置物も作ったかな。なかなか反応はないけどね」
アシルさんは笑いながら、壁に飾ってある武器に目を向けた。
僕はマジックバッグからカシナートの剣を取り出した。
「少し実用的に改造してみました」
アシルさんの作ったカシナートの剣は、大きな鍔の先に四本のダガーの刃が付いているもので、鍔が回るようになっている。ただし手動というか、回すことができるだけ。僕はそれを[回転]を組み込むことで、魔道具にした。それだけだと壊れそうだから少し補強したけど。
「なかなかゲームと同じような強い武器にはなりませんでしたが、フードプロセッサーとしては使えますよ」
「これを知った上で改造してくれる人がいるとは……」
アシルさんは笑いながらカシナートの剣を受け取った。
「ところでケネス君はこれはいつプレイしていたわけ?」
カシナートの剣で遊びながらアシルさんが聞いてきた。
「二〇一〇年以降ですね。元ネタが日本でも知られるようになってからですね」
「ああ、ステイツの家電のブランドなんてそんなに知られてないだろうからねー」
「そうですね。当時は日本では展開していなかったそうで、元ネタが分からず、真面目な武器として解説されていたようです。名匠が鍛えた名剣とか」
「ハッハッハ! 英語と日本語で単語の意味は同じではないからねー」
「ええ、そもそも日本語にすると、カシナートのブレードではおかしいですし、カシナートの刃でもおかしいんですよね」
「僕の知っている日本人はみんな真面目だったね。あれを真面目なゲームと受け取ってしまえば、そうなってしまのか。ステイツではフードプロセッサーを構えて敵に突っ込むイメージが頭に浮かぶから、どうやっても真面目なゲームには思えないんだけどねー」
話が一段落した時にあのマークの付いたコーラの瓶を出した。
「お手製ですが、どうですか?」
「おお! コーク!」
「ポップコーンもありますよ」
「これはありがたい」
「いっぱいありますのでどうぞ」
アシルさんはキンキンに冷やしたものを一気飲みして、それからもう一本も口に付けた。
「まさかこの世界でまた飲めるとは」
「カフェインは入れてありませんが、かなり本物に近付けたつもりです。お口に合いましたか?」
「合った合った、合ったとも! 思い出補正もあるかもしれないけど、美味いねー。この世界には炭酸がないんだよ」
アシルさんは二本目を飲みながらポップコーンとピザをもしゃもしゃと食べている。
「ああ、そうそう、忘れないうちに伝えますね。アシルさんが以前に組んでいたパーティーのメンバーと知り合いました。みなさんお元気ですよ」
「あー、懐かしいねー。みんなどうしてた? 僕は怪我をしてから臆病になってね、たしか王都あたりまではミロシュと一緒だったんだけど、そこで別れたきりだねー」
「ルボルさんはユーヴィ市の冒険者ギルドのギルド長、レオニートさんはキヴィオ市の冒険者ギルドのギルド長、ミロシュさんは王都の大聖堂で主教になっています」
「はー、みんな出世してるねー」
「アシルさんだって立派な工房を持っているじゃないですか」
「手先が器用だったから鍛冶の腕前はそこそこあったみたいでねー。こうやってのんびりやってるよ。ところでケネス君は?」
「僕は冒険者で、大森林から始めてここまで旅をしてきたのですが、ちょっと事情が変わりまして」
「大森林から始めてって、あの場所に来たの?」
「はい、僕は転移で来ました。ちょっと手違いがあったようで、大森林の中に出まして、そこから出るまで一〇日ほどかかりました」
「よく助かったねー」
「まあお供を付けてもらいましたから。一人では危なかったかもしれません」
魔獣の倒し方とかはリゼッタに教えてもらったからね。
「それで旅とは? 目的のない旅かい?」
「元々は目的のない旅だったんですが、その後はとりあえず妻の一人の故郷のヴァリガ市まで行こうということまで決めていました。それがつい先日、貴族になってしまいまして」
「普通は簡単になれるものじゃないけどねー。それと奥さんはいるんだ」
「なんだかんだで複数います。ひとりは僕と同じ日本出身の転生者です」
「縁だねー」
「ええ、縁の縁が縁を呼んで縁だらけでして、それでユーヴィ市の領主になりました」
「あれ? あそこはキヴィオ子爵の領地じゃなかったっけ?」
「ええ、ざっくり言いますと、管理が大変だからパダ町とユーヴィ市の間で分割することになりまして、来年から西側の部分の領主になります。年明けからはユーヴィ男爵ですね」
「しかし、さっきも言ったけどこれは縁だねー。僕の妻も日本人なんだよー」
「ええ?」
「今日はいないから紹介できないけどね」
するとアシルさんは顎に手を当てて考え始めた。
「来年以降ならケネス君にはユーヴィ市に行けば会えるってことだね?」
「はい」
「ユーヴィ市に行けばコークが飲める?」
「大々的に販売はしないと思いますが、少しくらいなら売るかもしれません」
「よし行こう!」
「いきなりですか?」
「地球出身者に出会った、コークが飲めた、他に理由はいる?」
「この工房はどうするのですか?」
「僕はもうそこまで関わってないんだよ。どちらかと言えば後進の指導でねー。息子たちに店を任せてもいい頃かな」
「息子さんが弟子ですか?」
「ああ、さっき呼びに来たのは長男の妻だねー」
「奥さんの許可を取らなくて大丈夫ですか?」
「妻は僕が出かける時はいつでも付いてくるから大丈夫。じゃあ少ししたら出かけるから、来年お邪魔するからねー。ネタを回収しつつ王都に寄ってミロシュに挨拶してから向かうから、少し時間はかかると思うけど」
「分かりました。コーラを用意しておきますよ」
アシルさんの工房を出たら、少し歩いて周辺の商店を見て回る。せっかくルジェーナ市まで来たからね。
南のクルディ王国から陸路で王都まで移動しようとすればルジェーナ市を通ることがほとんどなので、クルディ王国のものも売られている。ここからさらに北に向かって大動脈に合流し、西へ向かえば王都だね。
一方でヴァリガ市から西南西に進む街道も通っているので、東のレトモ王国のものも売られている。ヴァリガ市ほどではないけど多国籍感がある。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「こんにちは。何か珍しいもの、クルディ王国かレトモ王国のものは何かないでしょうか?」
「クルディ王国のものなら、今あるのはこのあたりくらいでしょうか?」
「それは、ひょっとしてサトウキビですか?」
「おや、知っていましたか。なかなかこの国では育たないみたいですが、もし上手く育てば砂糖で一儲けできますよ」
「そうですね。やってみる価値はあるかもしれませんね。ちなみにおいくらですか?」
「少し高いですが、これ一山で三〇〇フローリンですね。いかがですか?」
「そうですね。えっと、それは?」
「これはパラという植物の種ですね。写真はこれです」
「これは何に使う木ですか?」
「説明によると、表面に傷を付けるとネバネバした樹液が出るそうです。それを嫌がって野生動物が寄らなくなるそうですね。肌に付くとかぶれることもあると書かれています」
かぶれるけど、これは漆ではないね……。パラってことは、パラゴムノキかな? 硫黄があればゴムができる。
「ではそのパラも一緒に買います」
「ありがとうございます」
◆ ◆ ◆
「ケネス、今日はどうでしたか?」
「アシルさんに会えたよ。僕の中のアメリカ人そのものだった。それと奥さんが日本人らしい。そのうち二人でこちらに来ると言ってたけど、王都に寄ってから来るみたいだからしばらくかかるかもね」
「先輩の[転移]で連れてくるのはダメなんですか?」
「でもこれまでに売ったネタを回収しながら来るみたいだよ。それがどこかは僕には分からないから」
「あ、それなら仕方ないですね」
「こちらで何か仕事をしてもらいますか~?」
「鍛冶をしていたけど、今では息子さんや弟子たちの指導がほとんどだって。こっちで鍛冶をするなら工房を用意してもいいし、コーラが好きそうだから、製造を任せてもいいかな?」
「名産にします?」
「魔法以外で瓶の口を密閉する技術が普及していないから、そこを何とかしてからだけどね」
話した感じではものすごく気さくな人だから、この町でもナルヴァ村でも上手くやっていけると思う。
◆ ◆ ◆
とりあえず頭の中を整理しよう。予定が色々と変わってぐちゃぐちゃになったからね。自分のせいと言えば自分のせいだけど。
ユーヴィ市の領主への就任は年明けから。領地はユーヴィ市とナルヴァ村を含む五つの村。人口は全部で三〇〇〇人もいない。半分強がユーヴィ市にいる。
ユーヴィ市とキヴィオ市の間にある森を、まっすぐに切り拓いて街道を通す。それによって南のパダ町の方に魔獣が出ないようにする。これまでのように迂回すれば最短でも一〇日かかるけど、これで五日から六日程度で移動できるようになる。これは年が明けてからだけど、王都にいるドワーフたちが呼べるなら依頼する。
ナルヴァ村には引き続き麦の栽培を頑張ってもらう。ただし農地は広げることにする。今の城壁よりもさらに外側に新しい城壁を作る。ナルヴァ村以外の村には商品価値の高い果物も栽培してもらう。そのためには温室を使う。
この五つの村には公営の商店を置く。どの村もこれまで商人が来ているだけで、正式な店舗はなかった。このあたりは商人ギルドに協力してもらう。
魔獣はユーヴィ市のギルドに協力してもらって解体要員を集める。解体は保存庫のシステムを使った倉庫を用意し、解体中に傷まないようにする。いずれはこの解体倉庫はナルヴァ村に移すことも考える。魔獣は大森林で狩ってくることが多いからね。
魔獣の素材や服、化粧品、果物などは東へ向かう途中に売りつつ、ユーヴィ男爵領を宣伝する。当たり前だけど、現地が買う方が安いからね。なるべく多くの商人に来てもらえるようにする。
服などは真似をされるのを前提で作る。もちろん常に最新作は作るけど、それは飽きられないようにするため。全体的に野暮ったい服をもっとおしゃれなものにしたい。これは女性陣の考え。
この国で生まれたエリーとマノンに言わせると、僕たちが普段着ている服と比べると、この国で普通に見かける服は野暮ったく見えるそうだ。それに僕やミシェルがたまに履いているカーゴパンツは男の人に人気が出るだろうということだった。
クレープ屋は誰かやりたい人がいれば引き継いでもらおうと思う。あれも食をもっと豊かにしたいと思ったから始めただけだし、うちが続ける必要もない。高価な魔道具というわけでもないし、商人ギルドに手伝ってもらってレンタルにするのもいいかも。
他には、何かあるかな? まあ実際に年明けになってみなければ分からないことも多いと思うけど、その前に現状を把握しないとね。まずは住む場所かな。
ルジェーナ市はディキリ町と東の端のヴァリガ市の中間あたりにあるルジェーナ男爵領の領都。この国の東西を結ぶ主街道からはかなり南に外れているけど、南のクルディ王国から王都の方へ物を運ぶルートの途中にあるのでそれなりに発展している。そこにアシルさんは住んでいるらしい。
まあホルスト市の雑貨屋にネタ武器を売りに来ていたくらいだから、訪ねていっても町にいないこともあるかもしれない。会えればラッキーというくらいに考えておこう。会えなくても、また[転移]で来たらいいしね。
それほど大きな町ではないので、城門のところで名前を出して聞いたらすぐに工房の場所を教えてもらえた。町の端に近いそうだ。
しばらく歩いて工房が見えた。看板に欠けたリンゴのマークが付いているね。工房の内部はネタばっかりかも。
「いらっしゃいませ」
「すみません。アシルさんはいらっしゃいますか?」
「はい。親方は奥にいますが、どのような用件ですか?」
「ホルスト市の雑貨屋で武器を拝見しましたので挨拶に来ました」
「少々お待ちください」
受付の女性は、「親方!」と呼びながら奥へ消えた。しばらくして出てきたのは気のよさそうな恰幅のいい中年から初老くらいの男性。
「おやおや、ようこそ」
「初めまして、ケネスと言います。ホルスト市でカシナートの剣を見てこちらに来ました」
「ハハハッ。あれが分かったのかい? どれだけ気付いてくれる人がいるかなと思ったけど。まあこちらへどうぞ」
店の奥へ案内してもらい、お茶をいただきながら話をすることになった。
「いくつかの町の武器屋や雑貨屋で、地球から来たことが分かるようなものを置いてもらってね。自由の女神像、エッフェル塔などの置物も作ったかな。なかなか反応はないけどね」
アシルさんは笑いながら、壁に飾ってある武器に目を向けた。
僕はマジックバッグからカシナートの剣を取り出した。
「少し実用的に改造してみました」
アシルさんの作ったカシナートの剣は、大きな鍔の先に四本のダガーの刃が付いているもので、鍔が回るようになっている。ただし手動というか、回すことができるだけ。僕はそれを[回転]を組み込むことで、魔道具にした。それだけだと壊れそうだから少し補強したけど。
「なかなかゲームと同じような強い武器にはなりませんでしたが、フードプロセッサーとしては使えますよ」
「これを知った上で改造してくれる人がいるとは……」
アシルさんは笑いながらカシナートの剣を受け取った。
「ところでケネス君はこれはいつプレイしていたわけ?」
カシナートの剣で遊びながらアシルさんが聞いてきた。
「二〇一〇年以降ですね。元ネタが日本でも知られるようになってからですね」
「ああ、ステイツの家電のブランドなんてそんなに知られてないだろうからねー」
「そうですね。当時は日本では展開していなかったそうで、元ネタが分からず、真面目な武器として解説されていたようです。名匠が鍛えた名剣とか」
「ハッハッハ! 英語と日本語で単語の意味は同じではないからねー」
「ええ、そもそも日本語にすると、カシナートのブレードではおかしいですし、カシナートの刃でもおかしいんですよね」
「僕の知っている日本人はみんな真面目だったね。あれを真面目なゲームと受け取ってしまえば、そうなってしまのか。ステイツではフードプロセッサーを構えて敵に突っ込むイメージが頭に浮かぶから、どうやっても真面目なゲームには思えないんだけどねー」
話が一段落した時にあのマークの付いたコーラの瓶を出した。
「お手製ですが、どうですか?」
「おお! コーク!」
「ポップコーンもありますよ」
「これはありがたい」
「いっぱいありますのでどうぞ」
アシルさんはキンキンに冷やしたものを一気飲みして、それからもう一本も口に付けた。
「まさかこの世界でまた飲めるとは」
「カフェインは入れてありませんが、かなり本物に近付けたつもりです。お口に合いましたか?」
「合った合った、合ったとも! 思い出補正もあるかもしれないけど、美味いねー。この世界には炭酸がないんだよ」
アシルさんは二本目を飲みながらポップコーンとピザをもしゃもしゃと食べている。
「ああ、そうそう、忘れないうちに伝えますね。アシルさんが以前に組んでいたパーティーのメンバーと知り合いました。みなさんお元気ですよ」
「あー、懐かしいねー。みんなどうしてた? 僕は怪我をしてから臆病になってね、たしか王都あたりまではミロシュと一緒だったんだけど、そこで別れたきりだねー」
「ルボルさんはユーヴィ市の冒険者ギルドのギルド長、レオニートさんはキヴィオ市の冒険者ギルドのギルド長、ミロシュさんは王都の大聖堂で主教になっています」
「はー、みんな出世してるねー」
「アシルさんだって立派な工房を持っているじゃないですか」
「手先が器用だったから鍛冶の腕前はそこそこあったみたいでねー。こうやってのんびりやってるよ。ところでケネス君は?」
「僕は冒険者で、大森林から始めてここまで旅をしてきたのですが、ちょっと事情が変わりまして」
「大森林から始めてって、あの場所に来たの?」
「はい、僕は転移で来ました。ちょっと手違いがあったようで、大森林の中に出まして、そこから出るまで一〇日ほどかかりました」
「よく助かったねー」
「まあお供を付けてもらいましたから。一人では危なかったかもしれません」
魔獣の倒し方とかはリゼッタに教えてもらったからね。
「それで旅とは? 目的のない旅かい?」
「元々は目的のない旅だったんですが、その後はとりあえず妻の一人の故郷のヴァリガ市まで行こうということまで決めていました。それがつい先日、貴族になってしまいまして」
「普通は簡単になれるものじゃないけどねー。それと奥さんはいるんだ」
「なんだかんだで複数います。ひとりは僕と同じ日本出身の転生者です」
「縁だねー」
「ええ、縁の縁が縁を呼んで縁だらけでして、それでユーヴィ市の領主になりました」
「あれ? あそこはキヴィオ子爵の領地じゃなかったっけ?」
「ええ、ざっくり言いますと、管理が大変だからパダ町とユーヴィ市の間で分割することになりまして、来年から西側の部分の領主になります。年明けからはユーヴィ男爵ですね」
「しかし、さっきも言ったけどこれは縁だねー。僕の妻も日本人なんだよー」
「ええ?」
「今日はいないから紹介できないけどね」
するとアシルさんは顎に手を当てて考え始めた。
「来年以降ならケネス君にはユーヴィ市に行けば会えるってことだね?」
「はい」
「ユーヴィ市に行けばコークが飲める?」
「大々的に販売はしないと思いますが、少しくらいなら売るかもしれません」
「よし行こう!」
「いきなりですか?」
「地球出身者に出会った、コークが飲めた、他に理由はいる?」
「この工房はどうするのですか?」
「僕はもうそこまで関わってないんだよ。どちらかと言えば後進の指導でねー。息子たちに店を任せてもいい頃かな」
「息子さんが弟子ですか?」
「ああ、さっき呼びに来たのは長男の妻だねー」
「奥さんの許可を取らなくて大丈夫ですか?」
「妻は僕が出かける時はいつでも付いてくるから大丈夫。じゃあ少ししたら出かけるから、来年お邪魔するからねー。ネタを回収しつつ王都に寄ってミロシュに挨拶してから向かうから、少し時間はかかると思うけど」
「分かりました。コーラを用意しておきますよ」
アシルさんの工房を出たら、少し歩いて周辺の商店を見て回る。せっかくルジェーナ市まで来たからね。
南のクルディ王国から陸路で王都まで移動しようとすればルジェーナ市を通ることがほとんどなので、クルディ王国のものも売られている。ここからさらに北に向かって大動脈に合流し、西へ向かえば王都だね。
一方でヴァリガ市から西南西に進む街道も通っているので、東のレトモ王国のものも売られている。ヴァリガ市ほどではないけど多国籍感がある。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「こんにちは。何か珍しいもの、クルディ王国かレトモ王国のものは何かないでしょうか?」
「クルディ王国のものなら、今あるのはこのあたりくらいでしょうか?」
「それは、ひょっとしてサトウキビですか?」
「おや、知っていましたか。なかなかこの国では育たないみたいですが、もし上手く育てば砂糖で一儲けできますよ」
「そうですね。やってみる価値はあるかもしれませんね。ちなみにおいくらですか?」
「少し高いですが、これ一山で三〇〇フローリンですね。いかがですか?」
「そうですね。えっと、それは?」
「これはパラという植物の種ですね。写真はこれです」
「これは何に使う木ですか?」
「説明によると、表面に傷を付けるとネバネバした樹液が出るそうです。それを嫌がって野生動物が寄らなくなるそうですね。肌に付くとかぶれることもあると書かれています」
かぶれるけど、これは漆ではないね……。パラってことは、パラゴムノキかな? 硫黄があればゴムができる。
「ではそのパラも一緒に買います」
「ありがとうございます」
◆ ◆ ◆
「ケネス、今日はどうでしたか?」
「アシルさんに会えたよ。僕の中のアメリカ人そのものだった。それと奥さんが日本人らしい。そのうち二人でこちらに来ると言ってたけど、王都に寄ってから来るみたいだからしばらくかかるかもね」
「先輩の[転移]で連れてくるのはダメなんですか?」
「でもこれまでに売ったネタを回収しながら来るみたいだよ。それがどこかは僕には分からないから」
「あ、それなら仕方ないですね」
「こちらで何か仕事をしてもらいますか~?」
「鍛冶をしていたけど、今では息子さんや弟子たちの指導がほとんどだって。こっちで鍛冶をするなら工房を用意してもいいし、コーラが好きそうだから、製造を任せてもいいかな?」
「名産にします?」
「魔法以外で瓶の口を密閉する技術が普及していないから、そこを何とかしてからだけどね」
話した感じではものすごく気さくな人だから、この町でもナルヴァ村でも上手くやっていけると思う。
◆ ◆ ◆
とりあえず頭の中を整理しよう。予定が色々と変わってぐちゃぐちゃになったからね。自分のせいと言えば自分のせいだけど。
ユーヴィ市の領主への就任は年明けから。領地はユーヴィ市とナルヴァ村を含む五つの村。人口は全部で三〇〇〇人もいない。半分強がユーヴィ市にいる。
ユーヴィ市とキヴィオ市の間にある森を、まっすぐに切り拓いて街道を通す。それによって南のパダ町の方に魔獣が出ないようにする。これまでのように迂回すれば最短でも一〇日かかるけど、これで五日から六日程度で移動できるようになる。これは年が明けてからだけど、王都にいるドワーフたちが呼べるなら依頼する。
ナルヴァ村には引き続き麦の栽培を頑張ってもらう。ただし農地は広げることにする。今の城壁よりもさらに外側に新しい城壁を作る。ナルヴァ村以外の村には商品価値の高い果物も栽培してもらう。そのためには温室を使う。
この五つの村には公営の商店を置く。どの村もこれまで商人が来ているだけで、正式な店舗はなかった。このあたりは商人ギルドに協力してもらう。
魔獣はユーヴィ市のギルドに協力してもらって解体要員を集める。解体は保存庫のシステムを使った倉庫を用意し、解体中に傷まないようにする。いずれはこの解体倉庫はナルヴァ村に移すことも考える。魔獣は大森林で狩ってくることが多いからね。
魔獣の素材や服、化粧品、果物などは東へ向かう途中に売りつつ、ユーヴィ男爵領を宣伝する。当たり前だけど、現地が買う方が安いからね。なるべく多くの商人に来てもらえるようにする。
服などは真似をされるのを前提で作る。もちろん常に最新作は作るけど、それは飽きられないようにするため。全体的に野暮ったい服をもっとおしゃれなものにしたい。これは女性陣の考え。
この国で生まれたエリーとマノンに言わせると、僕たちが普段着ている服と比べると、この国で普通に見かける服は野暮ったく見えるそうだ。それに僕やミシェルがたまに履いているカーゴパンツは男の人に人気が出るだろうということだった。
クレープ屋は誰かやりたい人がいれば引き継いでもらおうと思う。あれも食をもっと豊かにしたいと思ったから始めただけだし、うちが続ける必要もない。高価な魔道具というわけでもないし、商人ギルドに手伝ってもらってレンタルにするのもいいかも。
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