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第二章 第二部
帰って報告
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殿下とロシータさんに別れの挨拶をすると、離宮を少し離れたところからユーヴィ市に戻った。もちろん化粧品はドッサリ置いてきた。
最近は便利に使っている[転移]について殿下によく聞いたところ、部下が[転移]が使える場合、その部下が裏切ると寝首をかかれるから、そのような部下を持ちたがらない領主もいる、ということらしい。前にも聞いたけど、結界を張れば防げるから、それほど警戒する必要はないのだとか。でも急に建物の中からいなくなるとどこに行ったのかと騒ぎになるから、離宮を出てから移動することにした。
「「「お帰りなさいませ「お帰りなさいませ「お帰りなさいませ」」」
「旦那様、ものすごくお似合いですよ」
「あ、着替えるのを忘れてた」
「オーナー、格好いいですよ」
「そう?」
「はい!」
猫耳の店員からオーナーと言われたけど、そうか、オーナーか……ん?
「うっかり流しかけたけど、セニヤさん、なんでうちで働いてるの?」
「今後は薬剤師ギルドから交代でこちらに来ることになりました。商人ギルドからも来ていますよ」
「派遣ってこと?」
「はい、そうなります。お給金は現物支給ということになりました」
現物ね。
◆ ◆ ◆
「というわけで、年明けから領主になることになりました。これが証明書です」
「な? やっぱりそうなっただろ?」
「目論見通りという顔ですね」
「最初に会った時もそうだったが、お前は考えすぎなんだよ。力があるなら上に立つ、それでいいじゃねえか」
「それはそうですが、その気がないのに上に立たされるのもおかしな話でしょ」
「力があるのに上に立ちたくないという方が珍しいと思うぞ」
「……うーん、まあ堂々巡りになるからこれ以上は言いませんが、とりあえず年明けから領主になりますので、これからは遠慮せずに持ち込みますから」
「できれば解体してから持ち込んでほしいんだが」
「そのための人を雇えばいいんじゃないですか? お金は出しますから」
「まあ仕事があって金を稼げるとなれば集まるわな。そうすると近くの村から人がいなくなるぞ」
「そちらはそちらで考えていますよ。村は村で元からあった仕事で稼げるようにすればいいんです」
「元からあった仕事って、畑くらいしかないぞ」
「はい。高値で売れる作物がそこで作れるなら働いてくれますよ」
「なんだ、ちゃんと先のことまで考えてるじゃねえか」
「知っているやり方をこの土地に当てはめているだけなんですけどね」
もちろんプランテーションのような大規模な単一栽培ではない。それをしてしまうと村ごとに採れるものと採れないものができてしまうからね。
領主と領民の関係は、税を受け取る者と払う者。『この場所で暮らしたいならお金を払いなさい』『分かりました。その代わりに困った時はよろしくお願いします』というのがこの国の基本。
でも戦争がないから徴兵されることもなく、困ることは実はあまりない。それなら公営の農場を作り、そこで採れたものを売って村にお金を戻すことにしたら経済はもう少し回ると思う。
ナルヴァ村は麦があるから、その麦を積極的に作ってもらう。さらに農地を広げてもいいと思っている。ユーヴィ市は集積所として、また魔獣の解体所として活用しようと思う。
ユーヴィ市で集められた物資はキヴィオ市やもっと東の都市で売ることになる。この世界の文化を壊さない範囲でやれることはやろうと思う。
大事なのはユーヴィ市が周囲の村の富を吸い上げないこと。ユーヴィ市の周りには小さな村がいくつかあるけど、そこでの暮らしもユーヴィ市での暮らしも違いがないようにしたい。もちろんこの国全体で差をなくすことは無理だろうけど、僻地の男爵領なら可能だろう。
「お前の家族の力があればできるだろうが、その先は大丈夫か?」
「次の世代ということですよね? 大森林は時間をかければ少しずつ普通の森に近付きます。もちろん当分は魔獣がかなり多いと思いますけど、時間が経つにつれて強すぎる魔獣が減ります。いずれは魔獣の数が多くて広いだけの森になりますよ」
「それなら普通の冒険者でもある程度は大丈夫ということか」
「はい、その前に冒険者の育成は必要ですが」
「なるほどな。そっちはギルドの仕事か。今までみたいにすることがないよりもありがたい。お前のいいように進めてくれ」
「まだ二か月以上ありますので、順番にやってきますけど、進捗状況は伝えます」
「分かった。では以後よろしく」
◆ ◆ ◆
次はキヴィオ市の方。子爵の屋敷で説明することになる。昨日の今日どころか、今日一日の話だけど。
「早いですな」
「移動速度には自信がありまして」
「なるほど、[転移]ですか」
キヴィオ子爵にユーヴィ男爵就任の証明書と身分証明書を見せて説明した。
「大森林という大きな懸念はなくなりますな。ただ、勝手なことを言っているように思えるかもしれませんが、ナルヴァ村の麦についてはある程度の配慮をしてもらえると助かる、というのが本音です」
「もちろん、いきなり渡さないなんてことはありません」
これまでナルヴァ村が領主に渡していたのは、税だけではなく余剰分も含んでいた。村で消費する分、備蓄の分、税の分、それを除いて余った分は領主に無償で渡されていた。その代わりに商人を手配してもらったり、大森林で魔獣の暴走があると対処してもらったりしていた形だ。
「いきなり量が減ると困るでしょうから、これまでの税の分に少し上乗せした量は保証します。二〇年は無償で、というではどうでしょうか?」
「それは助かります」
「一つ話を聞いていただければ、もう少し伸ばしますよ」
「ほほう、それは何でしょうか?」
「実は、いずれユーヴィ市からキヴィオ市まで、まっすぐな街道を通したいと思っています。作業はこちらがしますので、僕が欲しいのはその許可ですね。キヴィオ市まで繋げたいと思っていますので」
かつてエリーとミシェルが熊に襲われたあの森。アルファベットのUに例えると、左上の始点がユーヴィ市、右上の終点の少し下がキヴィオ市、一番下の丸い部分の下がパダ町。ユーヴィ市からキヴィオ市までまっすぐ東南東に街道を通し、北の山から切り離してしまおうというのが僕の考え。
「そうなると南のパダ町は……人通りが減って困ることもそれほどないでしょうな」
「元々そこまで人通りが多い地域ではないと思いますし、あそこに街道を通せば北の山と切り離せます。パダ町の方に魔獣が出ることは減ると思いますよ。森は森で残りますから、生活に困ることはないと思います」
「たしかにあの森がなくなれば町の者は困るでしょうが、そうでないならうちには利点しかないでしょう」
細かい部分は僕がユーヴィ男爵になってからということで、とりあえず街道を通す許可は得た。それと、みんなへの説明だね。マイカからみんなに簡単に説明をしてくれるように頼んでおいたけど。
◆ ◆ ◆
「パパすごーい!」
ミシェルが飛びついてきた。朝に普通に店を出たのに戻ってきたら貴族だった、というのは普通はないね。しかも国王陛下に頭を下げられもしたから。
「それで今後はどうしますか?」
「旅は続けるのでしょうか~?」
リゼッタとカロリッタの疑問ももっともだ。
「とりあえず領主になるのは年明けからだから、個人としてやりたいことはそれまでに済ませようと思う。でもマノンとエリーの両親に会うのは領主になってからの方がいいかなと思うんだけど、二人はどう?」
「私の方はいつでも問題ありません。父としても、私の夫が貴族だというのは大きいと思いますから」
「私もいつでも構いません。いずれあなたを紹介したいというくらいです」
「それなら、残りは一つだけだから、多少は急ごうと思う」
「先輩、残り一つって何ですか?」
「ルジェーナ市にいるアシルさんのこと。近いうちに会って、他にも地球から来ている人がいることを教えておこうと思う」
「そうでした。コーラを持っていくんでしたね」
のんびり東へ向かえばいいと思っていたけど、領地経営の準備を考えれば、あまり時間は無駄にできない。とりあえずルジェーナ市まで急いで進み、そこで一度進むのはやめて、その先は領主になってからだね。
「とりあえずみんなは年明けから領主夫人ということになる。そして店の方も領主直営ということになるから、正式にギルドから人を出してもらうのもありだと思う。屋台の方は、さすがに領主夫人がクレープを焼いているのは問題にされそうだから、人を雇うことになるかな」
「お前様、そのあたりのことについて一つ頼みがあるのだが……」
「いいよ、できることなら」
「う……うむ……その……まあ、何と言ったらいいのか、ワシもお前様の……あの……妻に加えてくれぬだろうか?」
「……え? でも、興味ないって言ってなかった?」
「まあ……あの頃はそう思っておったのじゃが、最近はそうでもなくなってきたような……気がしないでもないというか……。それになんとなくワシだけ仲間外れにされているような気がしていて、少し寂しく思っておったというか……」
「う、うん、まあ、まったく知らない女性を妻にするのは抵抗があるけどね。マリアンとはこれまで仲良くしてきたと思ってるから、そう言うなら僕の方は問題ないよ」
「そ、そうか! ではこれからは妻としてよろしく頼む。ワシは子を産めるかどうかは分からぬが、頑張って励むから! これまで他人に体を許したことはないぞ!」
「いや、あまり励まなくてもいいよ」
もしかしたらマリアンには悪いことをしてたかな? これまで居候ということで、一歩引いた立場から意見を言ってもらっていたし、僕としては魔法の先生でご意見番のような人だと思っていたけど、それで疎外感を感じていたのなら申し訳なかった。
「話を戻すけど、先にルジェーナ市に向かってアシルさんと会う。これはなるべく急ごうと思う。そして二か月の間にできることは済ませておきたい。それは……」
まずユーヴィ市からキヴィオ市まで街道を通すための人員の確保。僕が一人で済ませてしまうとお金が動かないから、人を雇うことにする。これは王都から呼び寄せようと思う。商業地区にいたドワーフの職人たちに声をかける。
もちろん彼らにも都合があるだろうから無茶は言えない。ただ、力仕事は得意だろうから、一人でも多い方がいい。だから予約を入れる形だ。
次はユーヴィ市周辺の村の話。ユーヴィ市が忙しくなって、そのせいで村から出稼ぎに来てしまうと村が困るかもしれない。だから村を出なくても稼げるようにしたい。
考えているのは温室を使った農場。そこに[加熱]を組み込んだヒーターを備え付ければ、バナナなどの南方の果物が栽培できる。これを売りながら東に持って行く。加工食品にしてもいい。バナナチップスは手軽なおやつになると思う。
もちろんバナナだけを栽培してしまうといざという時に困るから、今まで栽培してきたものに追加してもらおうと考えている。
もう一つは魔獣の素材。これは大森林があるのでそこから取ってくる。今はまだ強い魔獣が多いから僕たちが行くけど、いずれ強い魔獣が減れば、ユーヴィ市の冒険者でも狩れるようになると思う。それまでにユーヴィ市の人口を増やし、冒険者を増やすことが大切になる。
魔獣の素材は王都に近付けば近付くほど高くなるから、なるべくたくさん狩って、売りながら持って行くことになると思う。
最後はナルヴァ村の麦。ナルヴァ村では麦がよく採れるから、今までよりも少し多く作ってもらう。もちろんそのためにお金はかける。村の環境も整備する。
このようなことをみんなに説明した。
「あなた、それではいずれユーヴィ男爵領が経済の中心地になりませんか?」
「そうなればいいし、できればそうしたいと思ってるよ。すぐには無理だろうけど、人が集まるようになれば経済が回るようになるからね。元々ユーヴィ市周辺は経済的に成功する素地はあるんだよ。ただそれを活かしきれていないだけで」
「先輩、素材などの運搬はどうするんですか?」
「そこはギルドと協力して運搬と販売を担当する人材を募集しようと思う。運搬は簡易なマジックバッグを用意すればいいと思っている。期限付きにすれば、万が一紛失しても困らないしね」
「王都にいるドワーフへの交渉には私も付いていっていいです?」
「それはお願いするよ。僕よりも同族の方が信頼されやすいからね」
「私も精一杯頑張る」
「頼んだよ」
「それならワシは……やはり店の方かのう」
「そうだね。僕とマイカが着ていた服だけど、かなり人目を引くようだからね。あれほどじゃなくていいけど、新しい形を生み出すのは必要だと思う。この国の庶民の服装は少し野暮ったいからね。流行になる服装を西から伝えていく形ができればいいね」
「でもご主人様、流行を広めるには、少し端過ぎませんか?」
「うん、流行の中心は難しいと思う。王都は明らかに人が多いからね。でもこの町が中心にならなくてもいいんだよ。あくまで全体的に上げることが目的だから」
そう、ユーヴィ市をこの国の中心にするつもりはない。そもそもできない。場所が悪すぎるからね。でもこんな辺境でもきちんと産業を作り、お金を稼ぎ、人を呼ぶことはできる。
そもそもお金を稼ぐだけなら大森林でバンバン魔獣を狩って王都で売りまくればいいだけの話だからね。でもそのお金をばらまいても何にもならない。今はまず底上げが大切。
みんなに方向性は伝えた。僕の領主就任までにみんなでできることをするだけ。
最近は便利に使っている[転移]について殿下によく聞いたところ、部下が[転移]が使える場合、その部下が裏切ると寝首をかかれるから、そのような部下を持ちたがらない領主もいる、ということらしい。前にも聞いたけど、結界を張れば防げるから、それほど警戒する必要はないのだとか。でも急に建物の中からいなくなるとどこに行ったのかと騒ぎになるから、離宮を出てから移動することにした。
「「「お帰りなさいませ「お帰りなさいませ「お帰りなさいませ」」」
「旦那様、ものすごくお似合いですよ」
「あ、着替えるのを忘れてた」
「オーナー、格好いいですよ」
「そう?」
「はい!」
猫耳の店員からオーナーと言われたけど、そうか、オーナーか……ん?
「うっかり流しかけたけど、セニヤさん、なんでうちで働いてるの?」
「今後は薬剤師ギルドから交代でこちらに来ることになりました。商人ギルドからも来ていますよ」
「派遣ってこと?」
「はい、そうなります。お給金は現物支給ということになりました」
現物ね。
◆ ◆ ◆
「というわけで、年明けから領主になることになりました。これが証明書です」
「な? やっぱりそうなっただろ?」
「目論見通りという顔ですね」
「最初に会った時もそうだったが、お前は考えすぎなんだよ。力があるなら上に立つ、それでいいじゃねえか」
「それはそうですが、その気がないのに上に立たされるのもおかしな話でしょ」
「力があるのに上に立ちたくないという方が珍しいと思うぞ」
「……うーん、まあ堂々巡りになるからこれ以上は言いませんが、とりあえず年明けから領主になりますので、これからは遠慮せずに持ち込みますから」
「できれば解体してから持ち込んでほしいんだが」
「そのための人を雇えばいいんじゃないですか? お金は出しますから」
「まあ仕事があって金を稼げるとなれば集まるわな。そうすると近くの村から人がいなくなるぞ」
「そちらはそちらで考えていますよ。村は村で元からあった仕事で稼げるようにすればいいんです」
「元からあった仕事って、畑くらいしかないぞ」
「はい。高値で売れる作物がそこで作れるなら働いてくれますよ」
「なんだ、ちゃんと先のことまで考えてるじゃねえか」
「知っているやり方をこの土地に当てはめているだけなんですけどね」
もちろんプランテーションのような大規模な単一栽培ではない。それをしてしまうと村ごとに採れるものと採れないものができてしまうからね。
領主と領民の関係は、税を受け取る者と払う者。『この場所で暮らしたいならお金を払いなさい』『分かりました。その代わりに困った時はよろしくお願いします』というのがこの国の基本。
でも戦争がないから徴兵されることもなく、困ることは実はあまりない。それなら公営の農場を作り、そこで採れたものを売って村にお金を戻すことにしたら経済はもう少し回ると思う。
ナルヴァ村は麦があるから、その麦を積極的に作ってもらう。さらに農地を広げてもいいと思っている。ユーヴィ市は集積所として、また魔獣の解体所として活用しようと思う。
ユーヴィ市で集められた物資はキヴィオ市やもっと東の都市で売ることになる。この世界の文化を壊さない範囲でやれることはやろうと思う。
大事なのはユーヴィ市が周囲の村の富を吸い上げないこと。ユーヴィ市の周りには小さな村がいくつかあるけど、そこでの暮らしもユーヴィ市での暮らしも違いがないようにしたい。もちろんこの国全体で差をなくすことは無理だろうけど、僻地の男爵領なら可能だろう。
「お前の家族の力があればできるだろうが、その先は大丈夫か?」
「次の世代ということですよね? 大森林は時間をかければ少しずつ普通の森に近付きます。もちろん当分は魔獣がかなり多いと思いますけど、時間が経つにつれて強すぎる魔獣が減ります。いずれは魔獣の数が多くて広いだけの森になりますよ」
「それなら普通の冒険者でもある程度は大丈夫ということか」
「はい、その前に冒険者の育成は必要ですが」
「なるほどな。そっちはギルドの仕事か。今までみたいにすることがないよりもありがたい。お前のいいように進めてくれ」
「まだ二か月以上ありますので、順番にやってきますけど、進捗状況は伝えます」
「分かった。では以後よろしく」
◆ ◆ ◆
次はキヴィオ市の方。子爵の屋敷で説明することになる。昨日の今日どころか、今日一日の話だけど。
「早いですな」
「移動速度には自信がありまして」
「なるほど、[転移]ですか」
キヴィオ子爵にユーヴィ男爵就任の証明書と身分証明書を見せて説明した。
「大森林という大きな懸念はなくなりますな。ただ、勝手なことを言っているように思えるかもしれませんが、ナルヴァ村の麦についてはある程度の配慮をしてもらえると助かる、というのが本音です」
「もちろん、いきなり渡さないなんてことはありません」
これまでナルヴァ村が領主に渡していたのは、税だけではなく余剰分も含んでいた。村で消費する分、備蓄の分、税の分、それを除いて余った分は領主に無償で渡されていた。その代わりに商人を手配してもらったり、大森林で魔獣の暴走があると対処してもらったりしていた形だ。
「いきなり量が減ると困るでしょうから、これまでの税の分に少し上乗せした量は保証します。二〇年は無償で、というではどうでしょうか?」
「それは助かります」
「一つ話を聞いていただければ、もう少し伸ばしますよ」
「ほほう、それは何でしょうか?」
「実は、いずれユーヴィ市からキヴィオ市まで、まっすぐな街道を通したいと思っています。作業はこちらがしますので、僕が欲しいのはその許可ですね。キヴィオ市まで繋げたいと思っていますので」
かつてエリーとミシェルが熊に襲われたあの森。アルファベットのUに例えると、左上の始点がユーヴィ市、右上の終点の少し下がキヴィオ市、一番下の丸い部分の下がパダ町。ユーヴィ市からキヴィオ市までまっすぐ東南東に街道を通し、北の山から切り離してしまおうというのが僕の考え。
「そうなると南のパダ町は……人通りが減って困ることもそれほどないでしょうな」
「元々そこまで人通りが多い地域ではないと思いますし、あそこに街道を通せば北の山と切り離せます。パダ町の方に魔獣が出ることは減ると思いますよ。森は森で残りますから、生活に困ることはないと思います」
「たしかにあの森がなくなれば町の者は困るでしょうが、そうでないならうちには利点しかないでしょう」
細かい部分は僕がユーヴィ男爵になってからということで、とりあえず街道を通す許可は得た。それと、みんなへの説明だね。マイカからみんなに簡単に説明をしてくれるように頼んでおいたけど。
◆ ◆ ◆
「パパすごーい!」
ミシェルが飛びついてきた。朝に普通に店を出たのに戻ってきたら貴族だった、というのは普通はないね。しかも国王陛下に頭を下げられもしたから。
「それで今後はどうしますか?」
「旅は続けるのでしょうか~?」
リゼッタとカロリッタの疑問ももっともだ。
「とりあえず領主になるのは年明けからだから、個人としてやりたいことはそれまでに済ませようと思う。でもマノンとエリーの両親に会うのは領主になってからの方がいいかなと思うんだけど、二人はどう?」
「私の方はいつでも問題ありません。父としても、私の夫が貴族だというのは大きいと思いますから」
「私もいつでも構いません。いずれあなたを紹介したいというくらいです」
「それなら、残りは一つだけだから、多少は急ごうと思う」
「先輩、残り一つって何ですか?」
「ルジェーナ市にいるアシルさんのこと。近いうちに会って、他にも地球から来ている人がいることを教えておこうと思う」
「そうでした。コーラを持っていくんでしたね」
のんびり東へ向かえばいいと思っていたけど、領地経営の準備を考えれば、あまり時間は無駄にできない。とりあえずルジェーナ市まで急いで進み、そこで一度進むのはやめて、その先は領主になってからだね。
「とりあえずみんなは年明けから領主夫人ということになる。そして店の方も領主直営ということになるから、正式にギルドから人を出してもらうのもありだと思う。屋台の方は、さすがに領主夫人がクレープを焼いているのは問題にされそうだから、人を雇うことになるかな」
「お前様、そのあたりのことについて一つ頼みがあるのだが……」
「いいよ、できることなら」
「う……うむ……その……まあ、何と言ったらいいのか、ワシもお前様の……あの……妻に加えてくれぬだろうか?」
「……え? でも、興味ないって言ってなかった?」
「まあ……あの頃はそう思っておったのじゃが、最近はそうでもなくなってきたような……気がしないでもないというか……。それになんとなくワシだけ仲間外れにされているような気がしていて、少し寂しく思っておったというか……」
「う、うん、まあ、まったく知らない女性を妻にするのは抵抗があるけどね。マリアンとはこれまで仲良くしてきたと思ってるから、そう言うなら僕の方は問題ないよ」
「そ、そうか! ではこれからは妻としてよろしく頼む。ワシは子を産めるかどうかは分からぬが、頑張って励むから! これまで他人に体を許したことはないぞ!」
「いや、あまり励まなくてもいいよ」
もしかしたらマリアンには悪いことをしてたかな? これまで居候ということで、一歩引いた立場から意見を言ってもらっていたし、僕としては魔法の先生でご意見番のような人だと思っていたけど、それで疎外感を感じていたのなら申し訳なかった。
「話を戻すけど、先にルジェーナ市に向かってアシルさんと会う。これはなるべく急ごうと思う。そして二か月の間にできることは済ませておきたい。それは……」
まずユーヴィ市からキヴィオ市まで街道を通すための人員の確保。僕が一人で済ませてしまうとお金が動かないから、人を雇うことにする。これは王都から呼び寄せようと思う。商業地区にいたドワーフの職人たちに声をかける。
もちろん彼らにも都合があるだろうから無茶は言えない。ただ、力仕事は得意だろうから、一人でも多い方がいい。だから予約を入れる形だ。
次はユーヴィ市周辺の村の話。ユーヴィ市が忙しくなって、そのせいで村から出稼ぎに来てしまうと村が困るかもしれない。だから村を出なくても稼げるようにしたい。
考えているのは温室を使った農場。そこに[加熱]を組み込んだヒーターを備え付ければ、バナナなどの南方の果物が栽培できる。これを売りながら東に持って行く。加工食品にしてもいい。バナナチップスは手軽なおやつになると思う。
もちろんバナナだけを栽培してしまうといざという時に困るから、今まで栽培してきたものに追加してもらおうと考えている。
もう一つは魔獣の素材。これは大森林があるのでそこから取ってくる。今はまだ強い魔獣が多いから僕たちが行くけど、いずれ強い魔獣が減れば、ユーヴィ市の冒険者でも狩れるようになると思う。それまでにユーヴィ市の人口を増やし、冒険者を増やすことが大切になる。
魔獣の素材は王都に近付けば近付くほど高くなるから、なるべくたくさん狩って、売りながら持って行くことになると思う。
最後はナルヴァ村の麦。ナルヴァ村では麦がよく採れるから、今までよりも少し多く作ってもらう。もちろんそのためにお金はかける。村の環境も整備する。
このようなことをみんなに説明した。
「あなた、それではいずれユーヴィ男爵領が経済の中心地になりませんか?」
「そうなればいいし、できればそうしたいと思ってるよ。すぐには無理だろうけど、人が集まるようになれば経済が回るようになるからね。元々ユーヴィ市周辺は経済的に成功する素地はあるんだよ。ただそれを活かしきれていないだけで」
「先輩、素材などの運搬はどうするんですか?」
「そこはギルドと協力して運搬と販売を担当する人材を募集しようと思う。運搬は簡易なマジックバッグを用意すればいいと思っている。期限付きにすれば、万が一紛失しても困らないしね」
「王都にいるドワーフへの交渉には私も付いていっていいです?」
「それはお願いするよ。僕よりも同族の方が信頼されやすいからね」
「私も精一杯頑張る」
「頼んだよ」
「それならワシは……やはり店の方かのう」
「そうだね。僕とマイカが着ていた服だけど、かなり人目を引くようだからね。あれほどじゃなくていいけど、新しい形を生み出すのは必要だと思う。この国の庶民の服装は少し野暮ったいからね。流行になる服装を西から伝えていく形ができればいいね」
「でもご主人様、流行を広めるには、少し端過ぎませんか?」
「うん、流行の中心は難しいと思う。王都は明らかに人が多いからね。でもこの町が中心にならなくてもいいんだよ。あくまで全体的に上げることが目的だから」
そう、ユーヴィ市をこの国の中心にするつもりはない。そもそもできない。場所が悪すぎるからね。でもこんな辺境でもきちんと産業を作り、お金を稼ぎ、人を呼ぶことはできる。
そもそもお金を稼ぐだけなら大森林でバンバン魔獣を狩って王都で売りまくればいいだけの話だからね。でもそのお金をばらまいても何にもならない。今はまず底上げが大切。
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