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第二章 第二部
独白:ある国王の胸の内
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フェリン王国の現国王イザイアだ。国王である時は威厳のある話し方をしているが、いつもそれでは疲れるからな、普段はこれくらいの話し方だ。
この国は周辺国とも仲良くやっているので、外に対しての仕事はそれほど大変ではない。大変なのはむしろ貴族連中の調整だ。お互いの足を引っ張ることしか考えていない馬鹿が多い。その煽りを食ったのはレオンツィオだ。
レオンは三男だが、この国で国王になるには生まれた順番は関係がない。初代国王のフェリチアーノ王がそうしたように、王家から次期国王として相応しい者を選ぶのが王の仕事の一つとなっている。王家と言っても、そこは常識の範囲内での王家だ。何もなければ私はレオンを王太子に選ぶつもりだった。
あれは頭がいい、人柄もいい。だが少しのんびりしているので駆け引きは苦手だ。そのあたりを貴族たちに突かれた。結果としてレオンは妻と、そしていずれできるであろう子供の安全を考え、王位継承権を放棄することを選び、その貴族たちから距離を置くことになった。それがこの国の損失になると分かっていない馬鹿が本当に多い。
私としてはいずれ機会があればレオンに王位継承権を戻してもいいと思っている。だからまだ王太子を決めていなかったのだ。
ある時、レオンに友人ができたと小耳に挟んだ。周囲から常に一歩引いていた、あのレオンに。妻の妹が夫を連れて訪ねて来たらしいが、その夫と仲良くなったとか。レオンの妻のロシータはラクヴィ伯爵の娘で、結婚の時には一悶着あった。ラクヴィ伯爵の親馬鹿ぶりは有名だからな。その伯爵が認めたのだろうか。レオンの住んでいる離宮に泊まっていたそうだ。
ちょうどその頃だったか、レオンが私のところに訴えに来たことがあった。パルツィ子爵の運営する教会と孤児院が潰れかかっていると。他にも同じような教会と孤児院がないか調べてほしいと。そのパルツィ子爵だが、そのレオンの友人のケネスという人物に手を出そうとして反撃されたとか。聞いた話では、屋敷の周囲の土をごっそり掘られて出られなくなったらしい。
パルツィ子爵は……父親は有能だったが、今の息子はダメだ。ダメな方面で有能という、一番タチの悪い男だ。いつの間にやらおかしな連中を集めてそのまとめ役になり、あちこちを引っ掻き回していた。
国王なら子爵程度はどうにでもできると思うかもしれないが、直轄領の子爵は少し違う。直轄領の二重都市群の内側の輪の八つの町は、フェリチアーノ王を支えた八人に与えられた砦が町になったもの。領地が狭いために爵位こそ子爵だが、格式は伯爵を超える。伯爵を超えるということは、上には数の少ない公爵、侯爵、辺境伯しかいない。
それでそのパルツィ子爵だが、ケネスの策、ケネスとレオンが言うにはちょっとしたいたずらだそうだが、そのせいで気が滅入って寝込んでしまったそうだ。パルツィ子爵の取り巻きたちが何か言ってくる前に挿げ替えて僧院送りとし、急いでスーレ子爵の次男をパルツィ子爵代行に任命した。あの男なら若いが大丈夫だろう。
レオンの件ではパルツィ子爵には迷惑をかけられていたから、この際に少々風通しを良くさせてもらった。ラクヴィ伯爵がかなり張り切ってくれたので、二重都市群の領主がさらに五人ほど変わったが、他の貴族たちからは概ね好評だ。
◆ ◆ ◆
そんなある日、レオンを経由してキヴィオ子爵からの手紙が届いた。なぜレオンを通してなのかと思ったら、レオンの友人のケネスに関することだった。
先日キヴィオ子爵領の大森林で魔獣の暴走が発生した。ナルヴァ村からユーヴィ市に連絡が行き、ユーヴィ市からまず最初の討伐隊が出発し、キヴィオ市にも応援を要請という時になって、そのケネスと彼の家族が暴走を止めた。全部で四人だったそうだ。たった四人?
それだけではない。今後は暴走が起きにくいように森に対策をすると言ったらしい。何をどうすればそんなことが可能なのかは分からないが、最初からすべてを知っているかのように森について語って手を貸してくれることになったと、そうユーヴィ市の冒険者ギルドのギルド長は言っていたと手紙には書かれていた。
そしてキヴィオ子爵の手紙には、子爵領を分割してケネスにユーヴィ市を任せたいと書かれていた。たしかにキヴィオ子爵領は歪な形をしている。キヴィオ市周辺の通常の領地と、そこから西へと延びる曲がりくねった新しい開拓地。なぜかその先にあった、たくさん麦が採れる土地。
かつてはキヴィオ子爵領を分割して、新しく開拓した土地を別の貴族領にしようという話もあったそうだが、今では話に上がることはそれほど多くはない。魔獣の暴走の頻度が五年から一〇年と比較的多く、その対策にかかる人員や予算を考えれば、領主になりたいものはほとんどいなくなった。そして代々のキヴィオ男爵とキヴィオ子爵も開拓者としての自負があるため、領地の分割には断固として反対してきた。それがここに来て分割してもいいという話だ。
ユーヴィ市周辺だけではどうしても人口が少ないため、そこだけ独立すると魔獣の対策ができない。そしてそのしわ寄せは必ず分割後のキヴィオ子爵領に来るからというのがこれまでの理由だった。領地が減り、ナルヴァ村の麦もなくなり、さらに独立したユーヴィ市から魔獣討伐の援軍を求められてはかなわないだろう。
しかし先ほどの話が本当で、ケネスが四人だけで暴走を止められるとなれば話は変わってくる。そこで私はレオンを呼び、そのケネスという人物について情報を集めることにした。多少は誇張もされているだろうが。
魔法が得意である。
これはパルツィ子爵の屋敷の周りを魔法で掘ったこと、また魔獣の暴走を魔法で止めたことから、並外れた魔力量があることが分かった。
魔道具を作ることが得意である。
これはレオンの馬車を改造したことや、レオンに作ってくれた指輪を見れば分かった。レオンの離宮には料理に使う魔道具を置いていったそうだ。あの馬車の改造方法は私も教えてもらった。今あるものを改造するのは不可能だと言われたので新しく作らせたが、それでもかなり大変だったそうだ。
料理が得意である。
彼が残してくれた多くのレシピを見せてもらったが、今までにないような調理方法ばかりだった。また菓子類も得意で、焼かない菓子のレシピも多くあった。ほろ苦いケーキを食べたが、あれは素晴らしかった。
妻が複数いる。
妻の一人はラクヴィ子爵の娘である。他にもいて、種族もバラバラ。全員が仲良くしているらしい。懐が深い人物だろう。前に会った時よりもさらに増え、八人いるらしい。……八人!
かなり裕福である。
多くの妻と旅をしていて、それでもまったく生活に困っていないどころか気前がいいそうだ。多くの魔道具やレシピを残していったが、まったく金を受け取らなかったそうだ。いずれ何かあれば手を貸してほしいという口約束だけで済ませたらしい。魔獣をたくさん狩っているから、そこからの収入もかなりあるのだろう。
度胸がある。
スーレ子爵領の近くで大規模な盗賊団を一網打尽にしてスーレ市で引き渡した。一人も殺さずに捕まえたそうだ。殺す方が楽だと思うが、捕まえた方が労働力として使えるから、ありがたいことはありがたい。実力差があるなら無駄な殺生はしたくないそうだ。
非常に穏やかで優しい人物である。
度胸があるのに優しい。魔獣の暴走を止めるような実力を持ちながら、戦うこと自体にはそれほど興味がないらしい。ただし家族に手を出されるようなことがあれば遠慮はしないだろうと。それ以外にも、潰れかけていたパルツィ子爵の教会と孤児院からシスター見習いと少女を引き取ったそうだ。なかなか簡単にできることではない。
古代竜を従えている。
シムーナ市の北の山に住む古代竜が彼に同行していると。かつて広間にかかっていた写真の中でヴェッツィオ王と一緒に写っていた女性は、その竜が人になった姿だとか。その竜がケネスのことをお前様と呼んで付き従っているらしい。
……
そういう大事なことはもっと早く言え! お前は少々のんびりしすぎだ!
そういうわけで、ケネスにユーヴィ市を任せることはほぼ決まった。問題はどのタイミングで彼を領主にするかだが……。
◆ ◆ ◆
そう思っていたら、レオンからケネスがやって来たと連絡があった。それなら急いだ方がいいということで、午後に略式の謁見を行うことにした。
『略式』というのは『臨時』と言い換えてもいい。あらかじめ準備をした大々的な式典として謁見ではなく、その時に王宮にいる一部の者たちを集めて行うものだ。国王、宰相、見届けの貴族が数名いればいい。
その中に渋い顔のラクヴィ伯爵もいるが、彼にすればよく自制をしているな。あの夫人は怖いからな。仮にも『狂犬』と呼ばれていた女傑だ。人前では夫を立てるが、裏では恐ろしいことを知っている。あるいは、少し前に悪徳貴族どもを相手に大立ち回りをしたから、それで落ち着いたのか。
「ケネス殿、入場」
おっと、係の者の言葉で謁見の間の扉が開き、彼が入って来た。入って来たのはいいが、あれがケネスか? 妙に神々しいのだが。着ている服のせいか、後光が差しているようにも見える。
彼が近付いてくる。エルフだと聞いていたが、大した美形だ。穏やかで柔らかい表情。
どうやらこの国にはない、吸い込まれそうな黒い服。肩や胸元などに金や白の装飾が付いている。背筋が伸びるというか、気分が引き締まるというか、恐れ多いものを見ているというか、これなら古代竜を従えているというのも頷ける。
その彼がレオンの横まで来て、こちらをじっと見た。彼と目が合う。心の奥まで見透かされそうな目。
ええと……見下ろしてしまってすみません!
とりあえず下りて頭を下げよう。
◆ ◆ ◆
気が付けば謁見が終わっていた。宰相には何が起きたのかと聞かれたが、そもそも何があった? ケネスの顔を見たあたりから背筋が凍るような思いをしたことだけは覚えているが……。
ふむ、いきなり階段を下りたら彼に向かって頭を下げたまま固まったと。周りがざわつき始めたので、彼が気を利かせて話を進めてくれたら戻ったと。しかしほとんどの段取りをすっ飛ばして謁見の間を出てしまったと。
自分でも何があったのかはまったく覚えていないが……。
宰相にケネスのことをどう思ったかと聞いたら、やはり神々しかったと返ってきた。彼は何者なのだろう。いや、エルフなのは分かっているが。
この王宮にもエルフはいた。エルフは寿命が長いので、様々な部門で指導者を育てるための指導者をしてくれている。あの謁見の間にも何人もいたから、あの時のケネスを見た感想を聞いてみた。
あれはエルフではあるがエルフではない。
自分たちとはまったく違う存在だ。
あれは神々しい何かだ。
自分たちと同じだとは恐れ多くて口にできない。
少し漏らした。
そのような感想が返ってきた。やはり同じか……。いや、私は漏らしてはいないぞ。
どうしてレオンが彼と仲良くできるのか分からないが、せめて彼を怒らせることだけはないようにしよう。あの目を見ていると、若い頃のやんちゃまで知られているのではないかと思ってしまう。
そうだな、彼がレオンと仲良くしてくれるのであれば、レオンを彼の庇護者にして、実質的には彼がレオンの庇護者になるように頼めないだろうか。そうすればレオンを王太子に指名できるのだが……。
この国は周辺国とも仲良くやっているので、外に対しての仕事はそれほど大変ではない。大変なのはむしろ貴族連中の調整だ。お互いの足を引っ張ることしか考えていない馬鹿が多い。その煽りを食ったのはレオンツィオだ。
レオンは三男だが、この国で国王になるには生まれた順番は関係がない。初代国王のフェリチアーノ王がそうしたように、王家から次期国王として相応しい者を選ぶのが王の仕事の一つとなっている。王家と言っても、そこは常識の範囲内での王家だ。何もなければ私はレオンを王太子に選ぶつもりだった。
あれは頭がいい、人柄もいい。だが少しのんびりしているので駆け引きは苦手だ。そのあたりを貴族たちに突かれた。結果としてレオンは妻と、そしていずれできるであろう子供の安全を考え、王位継承権を放棄することを選び、その貴族たちから距離を置くことになった。それがこの国の損失になると分かっていない馬鹿が本当に多い。
私としてはいずれ機会があればレオンに王位継承権を戻してもいいと思っている。だからまだ王太子を決めていなかったのだ。
ある時、レオンに友人ができたと小耳に挟んだ。周囲から常に一歩引いていた、あのレオンに。妻の妹が夫を連れて訪ねて来たらしいが、その夫と仲良くなったとか。レオンの妻のロシータはラクヴィ伯爵の娘で、結婚の時には一悶着あった。ラクヴィ伯爵の親馬鹿ぶりは有名だからな。その伯爵が認めたのだろうか。レオンの住んでいる離宮に泊まっていたそうだ。
ちょうどその頃だったか、レオンが私のところに訴えに来たことがあった。パルツィ子爵の運営する教会と孤児院が潰れかかっていると。他にも同じような教会と孤児院がないか調べてほしいと。そのパルツィ子爵だが、そのレオンの友人のケネスという人物に手を出そうとして反撃されたとか。聞いた話では、屋敷の周囲の土をごっそり掘られて出られなくなったらしい。
パルツィ子爵は……父親は有能だったが、今の息子はダメだ。ダメな方面で有能という、一番タチの悪い男だ。いつの間にやらおかしな連中を集めてそのまとめ役になり、あちこちを引っ掻き回していた。
国王なら子爵程度はどうにでもできると思うかもしれないが、直轄領の子爵は少し違う。直轄領の二重都市群の内側の輪の八つの町は、フェリチアーノ王を支えた八人に与えられた砦が町になったもの。領地が狭いために爵位こそ子爵だが、格式は伯爵を超える。伯爵を超えるということは、上には数の少ない公爵、侯爵、辺境伯しかいない。
それでそのパルツィ子爵だが、ケネスの策、ケネスとレオンが言うにはちょっとしたいたずらだそうだが、そのせいで気が滅入って寝込んでしまったそうだ。パルツィ子爵の取り巻きたちが何か言ってくる前に挿げ替えて僧院送りとし、急いでスーレ子爵の次男をパルツィ子爵代行に任命した。あの男なら若いが大丈夫だろう。
レオンの件ではパルツィ子爵には迷惑をかけられていたから、この際に少々風通しを良くさせてもらった。ラクヴィ伯爵がかなり張り切ってくれたので、二重都市群の領主がさらに五人ほど変わったが、他の貴族たちからは概ね好評だ。
◆ ◆ ◆
そんなある日、レオンを経由してキヴィオ子爵からの手紙が届いた。なぜレオンを通してなのかと思ったら、レオンの友人のケネスに関することだった。
先日キヴィオ子爵領の大森林で魔獣の暴走が発生した。ナルヴァ村からユーヴィ市に連絡が行き、ユーヴィ市からまず最初の討伐隊が出発し、キヴィオ市にも応援を要請という時になって、そのケネスと彼の家族が暴走を止めた。全部で四人だったそうだ。たった四人?
それだけではない。今後は暴走が起きにくいように森に対策をすると言ったらしい。何をどうすればそんなことが可能なのかは分からないが、最初からすべてを知っているかのように森について語って手を貸してくれることになったと、そうユーヴィ市の冒険者ギルドのギルド長は言っていたと手紙には書かれていた。
そしてキヴィオ子爵の手紙には、子爵領を分割してケネスにユーヴィ市を任せたいと書かれていた。たしかにキヴィオ子爵領は歪な形をしている。キヴィオ市周辺の通常の領地と、そこから西へと延びる曲がりくねった新しい開拓地。なぜかその先にあった、たくさん麦が採れる土地。
かつてはキヴィオ子爵領を分割して、新しく開拓した土地を別の貴族領にしようという話もあったそうだが、今では話に上がることはそれほど多くはない。魔獣の暴走の頻度が五年から一〇年と比較的多く、その対策にかかる人員や予算を考えれば、領主になりたいものはほとんどいなくなった。そして代々のキヴィオ男爵とキヴィオ子爵も開拓者としての自負があるため、領地の分割には断固として反対してきた。それがここに来て分割してもいいという話だ。
ユーヴィ市周辺だけではどうしても人口が少ないため、そこだけ独立すると魔獣の対策ができない。そしてそのしわ寄せは必ず分割後のキヴィオ子爵領に来るからというのがこれまでの理由だった。領地が減り、ナルヴァ村の麦もなくなり、さらに独立したユーヴィ市から魔獣討伐の援軍を求められてはかなわないだろう。
しかし先ほどの話が本当で、ケネスが四人だけで暴走を止められるとなれば話は変わってくる。そこで私はレオンを呼び、そのケネスという人物について情報を集めることにした。多少は誇張もされているだろうが。
魔法が得意である。
これはパルツィ子爵の屋敷の周りを魔法で掘ったこと、また魔獣の暴走を魔法で止めたことから、並外れた魔力量があることが分かった。
魔道具を作ることが得意である。
これはレオンの馬車を改造したことや、レオンに作ってくれた指輪を見れば分かった。レオンの離宮には料理に使う魔道具を置いていったそうだ。あの馬車の改造方法は私も教えてもらった。今あるものを改造するのは不可能だと言われたので新しく作らせたが、それでもかなり大変だったそうだ。
料理が得意である。
彼が残してくれた多くのレシピを見せてもらったが、今までにないような調理方法ばかりだった。また菓子類も得意で、焼かない菓子のレシピも多くあった。ほろ苦いケーキを食べたが、あれは素晴らしかった。
妻が複数いる。
妻の一人はラクヴィ子爵の娘である。他にもいて、種族もバラバラ。全員が仲良くしているらしい。懐が深い人物だろう。前に会った時よりもさらに増え、八人いるらしい。……八人!
かなり裕福である。
多くの妻と旅をしていて、それでもまったく生活に困っていないどころか気前がいいそうだ。多くの魔道具やレシピを残していったが、まったく金を受け取らなかったそうだ。いずれ何かあれば手を貸してほしいという口約束だけで済ませたらしい。魔獣をたくさん狩っているから、そこからの収入もかなりあるのだろう。
度胸がある。
スーレ子爵領の近くで大規模な盗賊団を一網打尽にしてスーレ市で引き渡した。一人も殺さずに捕まえたそうだ。殺す方が楽だと思うが、捕まえた方が労働力として使えるから、ありがたいことはありがたい。実力差があるなら無駄な殺生はしたくないそうだ。
非常に穏やかで優しい人物である。
度胸があるのに優しい。魔獣の暴走を止めるような実力を持ちながら、戦うこと自体にはそれほど興味がないらしい。ただし家族に手を出されるようなことがあれば遠慮はしないだろうと。それ以外にも、潰れかけていたパルツィ子爵の教会と孤児院からシスター見習いと少女を引き取ったそうだ。なかなか簡単にできることではない。
古代竜を従えている。
シムーナ市の北の山に住む古代竜が彼に同行していると。かつて広間にかかっていた写真の中でヴェッツィオ王と一緒に写っていた女性は、その竜が人になった姿だとか。その竜がケネスのことをお前様と呼んで付き従っているらしい。
……
そういう大事なことはもっと早く言え! お前は少々のんびりしすぎだ!
そういうわけで、ケネスにユーヴィ市を任せることはほぼ決まった。問題はどのタイミングで彼を領主にするかだが……。
◆ ◆ ◆
そう思っていたら、レオンからケネスがやって来たと連絡があった。それなら急いだ方がいいということで、午後に略式の謁見を行うことにした。
『略式』というのは『臨時』と言い換えてもいい。あらかじめ準備をした大々的な式典として謁見ではなく、その時に王宮にいる一部の者たちを集めて行うものだ。国王、宰相、見届けの貴族が数名いればいい。
その中に渋い顔のラクヴィ伯爵もいるが、彼にすればよく自制をしているな。あの夫人は怖いからな。仮にも『狂犬』と呼ばれていた女傑だ。人前では夫を立てるが、裏では恐ろしいことを知っている。あるいは、少し前に悪徳貴族どもを相手に大立ち回りをしたから、それで落ち着いたのか。
「ケネス殿、入場」
おっと、係の者の言葉で謁見の間の扉が開き、彼が入って来た。入って来たのはいいが、あれがケネスか? 妙に神々しいのだが。着ている服のせいか、後光が差しているようにも見える。
彼が近付いてくる。エルフだと聞いていたが、大した美形だ。穏やかで柔らかい表情。
どうやらこの国にはない、吸い込まれそうな黒い服。肩や胸元などに金や白の装飾が付いている。背筋が伸びるというか、気分が引き締まるというか、恐れ多いものを見ているというか、これなら古代竜を従えているというのも頷ける。
その彼がレオンの横まで来て、こちらをじっと見た。彼と目が合う。心の奥まで見透かされそうな目。
ええと……見下ろしてしまってすみません!
とりあえず下りて頭を下げよう。
◆ ◆ ◆
気が付けば謁見が終わっていた。宰相には何が起きたのかと聞かれたが、そもそも何があった? ケネスの顔を見たあたりから背筋が凍るような思いをしたことだけは覚えているが……。
ふむ、いきなり階段を下りたら彼に向かって頭を下げたまま固まったと。周りがざわつき始めたので、彼が気を利かせて話を進めてくれたら戻ったと。しかしほとんどの段取りをすっ飛ばして謁見の間を出てしまったと。
自分でも何があったのかはまったく覚えていないが……。
宰相にケネスのことをどう思ったかと聞いたら、やはり神々しかったと返ってきた。彼は何者なのだろう。いや、エルフなのは分かっているが。
この王宮にもエルフはいた。エルフは寿命が長いので、様々な部門で指導者を育てるための指導者をしてくれている。あの謁見の間にも何人もいたから、あの時のケネスを見た感想を聞いてみた。
あれはエルフではあるがエルフではない。
自分たちとはまったく違う存在だ。
あれは神々しい何かだ。
自分たちと同じだとは恐れ多くて口にできない。
少し漏らした。
そのような感想が返ってきた。やはり同じか……。いや、私は漏らしてはいないぞ。
どうしてレオンが彼と仲良くできるのか分からないが、せめて彼を怒らせることだけはないようにしよう。あの目を見ていると、若い頃のやんちゃまで知られているのではないかと思ってしまう。
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