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第三章 第一部
職業訓練学校の開校に向けて
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「領主殿、こっちです」
「ゴルジェイさん、どれくらい集まりましたか?」
あれから三日経ち、王都へゴルジェイさんを迎えに来ている。魔法が得意だからって人集めが得意なわけじゃない。餅は餅屋。人材探しなら斡旋屋。ギルド長を任せられそうな人、ギルドや職業訓練学校で働けそうな人を探してもらっていた。
「全部で二五人ですな。ドワーフだけではなくて人間と獣人もおります」
「そうみたいですね。いや、人が来てくれるのは助かりますよ。人材不足で」
「みんな移住できるそうですが、夫婦も四組いるから多少は配慮をしてくれるとありがたい。ここにいるのは全員が読み書き計算ができます」
「助かりますよ。えーと、みなさん、向こうに住める場所は用意してあります。家具なども最低限のものは備え付けてあります。必要なものはこちらで準備しますので、向こうに着いてから言ってください」
「よし、では向こうに行きましょうか。領主殿、移動をよろしく頼みます」
「はいはい、ではみなさん、ここを通ってください」
◆ ◆ ◆
「これが我々の住居ですか?」
「はい、ここは単身用の住居です。家族用はこのもう一つ奥になります。家族のある方は集合住宅ではなく反対の区画にある戸建ての家も選べます」
「ものすごく綺麗な建物ですが……」
「完成したばかりですからね。ここはギルドや職業訓練学校の教職員のための宿舎になる予定です」
この区画には共同住宅を建てている。もちろんギルド職員は自宅通いの人もいるし、ここに住まなければいけないわけでもない。でも空きがあって希望すれば住める。でも、まずは町の外から来た人を優先し、空きがあればすでに町にいる人を入居させる形にする。
「まだこの町は独立して動き始めたばかりなので、何もないと言えば何もない状態です。みなさんにはかなり無理をお願いしますが、よろしくお願いします」
「領主殿、我々としても仕事を与えられるのが何よりもありがたい。みんなを頼みます」
「ゴルジェイさん、たしかに頼まれました。それで、どの場所に入居するかはとりあえず後にして、一度ギルドに移動したいと思います。役職や仕事の振り分けも必要ですから。慌ただしいですが、まずはあの建物まで移動します」
ギルドの建物はこの町のどの建物よりも高い。説明が非常に楽。
「こちらが冒険者ギルドのギルド長のルボルさんです。まあこの総合ギルドの総代表で、僕の不在時の領主代行とか、そのような人です」
「おい待て、そんな話はまったく聞いていない」
「そうですか? コーバスさんもルカスさんも、おそらくそう思っていますよ。まあそれくらい僕が信頼していると思ってください」
ギルドの会議室に入り、みんなにルボルさんを紹介する。顔は怖いし口も悪いけど人はいい。見た感じはとっつきにくいかもしれないけど、最初にどんな人か知っておけば非常に付き合いやすい人なんだよね、ルボルさんは。
「で、ゴルジェイ殿とアルカジー殿を土木と大工のギルド長にすると」
「そうですね。他の方たちは職業訓練学校の教員です。ご家族の方も全員読み書き計算ができるそうですので、即戦力としてギルドで働いてもらうのもありだと思います」
「そうだな、みなさんはそれでいいのか?」
みんながやや緊張した顔で頷く。右も左も分からない土地でルボルさんにじっと見られたらそうなるよね。見た感じが怖いから。でも慣れてもらわないと困る。
「開拓に参加している人たちの中で、何人か先生になってもらえそうな人がいます。開校する時には呼び寄せますね」
「教員だけじゃなく、ギルド職員や兵士になりたいやつも集めてくれ。なるべくたくさん」
「分かりました。ではそちらも確認します。それと、うちの妻たちも教員として働く予定でしたが、弟子たちの中でかなりの腕前になった人がいるようなので、おそらくそちらに任せるそうです」
「そちらは領主殿に丸投げだ。俺はギルドの方で手一杯だからな」
ギルド長を任せることになったゴルジェイさんとアルカジーさんをギルドに残し、残りのメンバーで宿舎の方に向かって歩く。宿舎の説明のために、レナーテさんに同行してもらうことになった。しばらく歩いたところで犬人のヴィートさんから質問があった。
「領主様は先ほどのルボルさんとは仲がよろしいのですか? お二人ともかなりくだけた話し方をされていましたが」
「もう一年近く前ですが、僕が当時は単なる冒険者で、この町に初めて来た時に知り合いました。その時は人手不足でルボルさんが受付に座っていましてね、あの人の前だけは誰も並んでいなかったので、冒険者になる手続きをしてもらって、それからですね」
「……ぷっ」
先ほどの厳つい顔が受付で真面目に座っているのを想像したらしい。一気に場が和んだ。
「たしかレナーテさんがお休みで、そこに座っていた時ですね」
「はい。私の休みの時に限ってそんな面白いことがあったようです」
レナーテさんがもしあそこにいたとしたら、ルボルさんは上にいたはずで、そうすれば普通に素材を渡して帰っただけの可能性もあるんだよね。レナーテさんがウサギの頭の山を見て悲鳴を上げた可能性はあるけど。
「ルボルさんは以前は服装がだらしなかったので、よく盗賊やチンピラだと勘違いされたり子供が顔を見た瞬間に泣いたりしたようですが、ギルドの制服を作ったら厳格な親父さんくらいになりました。顔は怖いですが、根はいい人ですよ」
「なるほど、見た目でかなり損をする人なんですね」
「それでも子供も孫もいますからね。ユーヴィ市の七不思議の一つと言われています。怖いのは見た目だけなので、積極的に話しかけてあげてください」
僕がユーヴィ市を離れてまた戻ってくる間に孫が生まれていた。もうすぐ孫ができると聞いたことはあったけど、いやビックリ。
最初は少しぎこちなかったみんなだけど、こうやって話をしているうちに少し気安い話し方になってくれた。僕は貴族で領主だけど、あまり分厚い壁を作るのはね……。
「では今から宿舎の方に入りましょう。ご夫婦の方は一戸建てと集合住宅が選べます。中身は変わりません。庭の代わりにベランダがあるくらいですね」
「できれば同郷が近い方がいいので、うちは集合住宅でお願いします」
「うちも同じで」
「分かりました。ではみなさん集合住宅ですね。なるべく近くに固めましょう。ではこちらは紹介用の予備として空けてある部屋です。とりあえず入ってください」
そう言うと単身用の部屋にまずは入ってもらった。
「単身用と家族用は部屋数が違うだけで、それ以外は何も変わりません。この宿舎ですが、照明、キッチン、お風呂、トイレは魔道具が設置されています」
順番に説明しながら宿舎の中を見て回る。
「魔道具ですが、魔石は使われていないのでしょうか?」
「あ、そこに気付きましたか。この集合住宅には魔石の代わりにこのような箱が設置されています」
「普通の箱ですね」
「普通の箱に見えますが、これは燃料箱(仮称)と呼ばれています。魔石の代わりだと思ってください。集合住宅でこれを一部屋ずつ設置すると大変ですので、一か所でまとめて管理されています。もちろん燃料ですので、生活をしていれば減ります。交換は彼女のような市民生活ギルドの職員が行います」
横を見るとレナーテさんが話を引き継ぐ。
「はい。この燃料箱(仮称)ですが、一戸建て住宅の方は自分で交換する必要があります。普通に使えば、一か月から二か月に一度くらいです。キッチンに設置してありますので、それを外して市民生活ギルドの窓口に持って行けば、いっぱいになったものと交換してもらえます。帰って同じ場所に置けばまた使えるようになります」
「便利そうですが、他では使われていないのですか?」
「先ほどみなさんが入った総合ギルドの建物ではこれが使われています。一般の住宅は、今後順番に燃料箱(仮称)が使えるような形に改修されます」
「料金はどうなっていますか?」
「使用料は取りません。意図的に壊したのなら別ですが、例えば持ち運んでいる時に落として壊しても無償で交換できます」
「なぜ(仮称)が付いているのですか?」
「ええと、あれ? ケネス様、なぜでしたっけ?」
「ああ、それは説明に入れていなかったですね。名前をどうするかを決めていなくて、とりあえず仮で燃料箱としてただけです。(仮称)は取りましょう」
「では今後は燃料箱で説明することにします」
レナーテさんはこの度めでたく結婚が決まり、一戸建ての宿舎に引っ越している。そして燃料箱を使った住宅に不具合がないかの確認もしてもらっている。最新機能を取り付ける場合にはテストをしてもらうことになっている。
「そうそう、もう一つ説明しておくことがあります。ギルド職員はレナーテさんが着ているような制服を着ています。まもなく開校になる職業訓練学校の教員にも支給されることになっています。ギルド職員とは色違いで、このような色ですね」
ギルドの制服よりも淡い色で、藤色と呼べばいいだろうか。形は共通で、上着はダブルのジャケットになっている。胸のポケットには職業訓練学校の教員のバッジが付いている。
「これは支給されますので、意図的に破ろうとしない限りは無償で交換できます。また陶芸や鍛冶、左官など、どうしても汚れやすいものを教える場合はジャケットの代わりにこのようなものを羽織ってくれても構いません」
同じ色をした作業服を取り出してみんなに見せた。ポケットがあちこちに付いている機能的なものだ。
「それは着なければならないものですか?」
「必ずしも着なければいけないわけではありませんが、どうせ汚すなら自分の服よりも制服でしょう。少なくともこのバッジは見えるところに付けてください」
「いえ、綺麗な服なので汚すのがもったいないと思いまして」
「実はギルドや訓練学校の制服などは、染織と仕立てを学んでいる職人見習いたちが作っているものです。技術を身に付けるにはたくさん作るのが一番で、数をたくさん作っても困らないのが制服でした。ですので、たくさん教えてたくさん汚してください。そうしなければ作るべきものがなくなってしまいます」
「分かりました」
◆ ◆ ◆
「では明日より職業訓練学校を開校します。みなさんは教員として、この町の役人として働いてもらいます。いずれは自分たちの教え子たちがどこかで独立して働けるように、できる限りの技術を伝えてください」
「「「「はい!「はい!「はい!」」」」
朝礼で教員たちに訓示しているように、明日が開校となる。すでに市民生活ギルドで生徒の募集をしていて、明日から授業が始まることになっている。ここで学んだ人は必ずしもこの町で活躍しなくてもいい。他の町に出てもらって結構。でも、ユーヴィ市で学んでこれだけのものを身に付けたと宣伝してくれると嬉しい。
女性向けの訓練は店でしてきたのとほとんど同じで、礼儀作法、読み書き計算、化粧、染め、織り、仕立て、手芸。男性向けの訓練は、大工、左官、家具製作、彫刻、鍛冶、陶芸となった。性別で受けられる内容を制限することはないけど、教員がそうなっているのでざっくり分けているというだけの話。他に学びたいものがあれば市民生活ギルドに相談してもらい、可能なようであれば開講する。
ドワーフの職人が増えたことにより、同じ内容を常に最低二人は教えることが可能になった。そしてうちの妻たちは教えないことになった。店で鍛えた弟子たちが教えることになったからだ。まあ領主の妻が第一線で教えるというのもどうなのかということで、現在は店の経営に戻っている。
この学校で礼儀作法と読み書き計算の二つを学び終えた生徒は、ギルド職員か服飾美容店の店員に応募できる。ギルド職員の方が待遇はいい。服飾美容店は、それほど賃金は高くないけど働く場所を与えるという場に戻った。教員になる弟子たちの出来をエリーに聞いたら、グッと親指を突き立てた。まああの店で叩き込まれたのなら間違いないだろうと思う。カロリッタは相変わらず三本指の卑猥なジェスチャーを向けてきた。だから手は出さないって。
「ゴルジェイさん、どれくらい集まりましたか?」
あれから三日経ち、王都へゴルジェイさんを迎えに来ている。魔法が得意だからって人集めが得意なわけじゃない。餅は餅屋。人材探しなら斡旋屋。ギルド長を任せられそうな人、ギルドや職業訓練学校で働けそうな人を探してもらっていた。
「全部で二五人ですな。ドワーフだけではなくて人間と獣人もおります」
「そうみたいですね。いや、人が来てくれるのは助かりますよ。人材不足で」
「みんな移住できるそうですが、夫婦も四組いるから多少は配慮をしてくれるとありがたい。ここにいるのは全員が読み書き計算ができます」
「助かりますよ。えーと、みなさん、向こうに住める場所は用意してあります。家具なども最低限のものは備え付けてあります。必要なものはこちらで準備しますので、向こうに着いてから言ってください」
「よし、では向こうに行きましょうか。領主殿、移動をよろしく頼みます」
「はいはい、ではみなさん、ここを通ってください」
◆ ◆ ◆
「これが我々の住居ですか?」
「はい、ここは単身用の住居です。家族用はこのもう一つ奥になります。家族のある方は集合住宅ではなく反対の区画にある戸建ての家も選べます」
「ものすごく綺麗な建物ですが……」
「完成したばかりですからね。ここはギルドや職業訓練学校の教職員のための宿舎になる予定です」
この区画には共同住宅を建てている。もちろんギルド職員は自宅通いの人もいるし、ここに住まなければいけないわけでもない。でも空きがあって希望すれば住める。でも、まずは町の外から来た人を優先し、空きがあればすでに町にいる人を入居させる形にする。
「まだこの町は独立して動き始めたばかりなので、何もないと言えば何もない状態です。みなさんにはかなり無理をお願いしますが、よろしくお願いします」
「領主殿、我々としても仕事を与えられるのが何よりもありがたい。みんなを頼みます」
「ゴルジェイさん、たしかに頼まれました。それで、どの場所に入居するかはとりあえず後にして、一度ギルドに移動したいと思います。役職や仕事の振り分けも必要ですから。慌ただしいですが、まずはあの建物まで移動します」
ギルドの建物はこの町のどの建物よりも高い。説明が非常に楽。
「こちらが冒険者ギルドのギルド長のルボルさんです。まあこの総合ギルドの総代表で、僕の不在時の領主代行とか、そのような人です」
「おい待て、そんな話はまったく聞いていない」
「そうですか? コーバスさんもルカスさんも、おそらくそう思っていますよ。まあそれくらい僕が信頼していると思ってください」
ギルドの会議室に入り、みんなにルボルさんを紹介する。顔は怖いし口も悪いけど人はいい。見た感じはとっつきにくいかもしれないけど、最初にどんな人か知っておけば非常に付き合いやすい人なんだよね、ルボルさんは。
「で、ゴルジェイ殿とアルカジー殿を土木と大工のギルド長にすると」
「そうですね。他の方たちは職業訓練学校の教員です。ご家族の方も全員読み書き計算ができるそうですので、即戦力としてギルドで働いてもらうのもありだと思います」
「そうだな、みなさんはそれでいいのか?」
みんながやや緊張した顔で頷く。右も左も分からない土地でルボルさんにじっと見られたらそうなるよね。見た感じが怖いから。でも慣れてもらわないと困る。
「開拓に参加している人たちの中で、何人か先生になってもらえそうな人がいます。開校する時には呼び寄せますね」
「教員だけじゃなく、ギルド職員や兵士になりたいやつも集めてくれ。なるべくたくさん」
「分かりました。ではそちらも確認します。それと、うちの妻たちも教員として働く予定でしたが、弟子たちの中でかなりの腕前になった人がいるようなので、おそらくそちらに任せるそうです」
「そちらは領主殿に丸投げだ。俺はギルドの方で手一杯だからな」
ギルド長を任せることになったゴルジェイさんとアルカジーさんをギルドに残し、残りのメンバーで宿舎の方に向かって歩く。宿舎の説明のために、レナーテさんに同行してもらうことになった。しばらく歩いたところで犬人のヴィートさんから質問があった。
「領主様は先ほどのルボルさんとは仲がよろしいのですか? お二人ともかなりくだけた話し方をされていましたが」
「もう一年近く前ですが、僕が当時は単なる冒険者で、この町に初めて来た時に知り合いました。その時は人手不足でルボルさんが受付に座っていましてね、あの人の前だけは誰も並んでいなかったので、冒険者になる手続きをしてもらって、それからですね」
「……ぷっ」
先ほどの厳つい顔が受付で真面目に座っているのを想像したらしい。一気に場が和んだ。
「たしかレナーテさんがお休みで、そこに座っていた時ですね」
「はい。私の休みの時に限ってそんな面白いことがあったようです」
レナーテさんがもしあそこにいたとしたら、ルボルさんは上にいたはずで、そうすれば普通に素材を渡して帰っただけの可能性もあるんだよね。レナーテさんがウサギの頭の山を見て悲鳴を上げた可能性はあるけど。
「ルボルさんは以前は服装がだらしなかったので、よく盗賊やチンピラだと勘違いされたり子供が顔を見た瞬間に泣いたりしたようですが、ギルドの制服を作ったら厳格な親父さんくらいになりました。顔は怖いですが、根はいい人ですよ」
「なるほど、見た目でかなり損をする人なんですね」
「それでも子供も孫もいますからね。ユーヴィ市の七不思議の一つと言われています。怖いのは見た目だけなので、積極的に話しかけてあげてください」
僕がユーヴィ市を離れてまた戻ってくる間に孫が生まれていた。もうすぐ孫ができると聞いたことはあったけど、いやビックリ。
最初は少しぎこちなかったみんなだけど、こうやって話をしているうちに少し気安い話し方になってくれた。僕は貴族で領主だけど、あまり分厚い壁を作るのはね……。
「では今から宿舎の方に入りましょう。ご夫婦の方は一戸建てと集合住宅が選べます。中身は変わりません。庭の代わりにベランダがあるくらいですね」
「できれば同郷が近い方がいいので、うちは集合住宅でお願いします」
「うちも同じで」
「分かりました。ではみなさん集合住宅ですね。なるべく近くに固めましょう。ではこちらは紹介用の予備として空けてある部屋です。とりあえず入ってください」
そう言うと単身用の部屋にまずは入ってもらった。
「単身用と家族用は部屋数が違うだけで、それ以外は何も変わりません。この宿舎ですが、照明、キッチン、お風呂、トイレは魔道具が設置されています」
順番に説明しながら宿舎の中を見て回る。
「魔道具ですが、魔石は使われていないのでしょうか?」
「あ、そこに気付きましたか。この集合住宅には魔石の代わりにこのような箱が設置されています」
「普通の箱ですね」
「普通の箱に見えますが、これは燃料箱(仮称)と呼ばれています。魔石の代わりだと思ってください。集合住宅でこれを一部屋ずつ設置すると大変ですので、一か所でまとめて管理されています。もちろん燃料ですので、生活をしていれば減ります。交換は彼女のような市民生活ギルドの職員が行います」
横を見るとレナーテさんが話を引き継ぐ。
「はい。この燃料箱(仮称)ですが、一戸建て住宅の方は自分で交換する必要があります。普通に使えば、一か月から二か月に一度くらいです。キッチンに設置してありますので、それを外して市民生活ギルドの窓口に持って行けば、いっぱいになったものと交換してもらえます。帰って同じ場所に置けばまた使えるようになります」
「便利そうですが、他では使われていないのですか?」
「先ほどみなさんが入った総合ギルドの建物ではこれが使われています。一般の住宅は、今後順番に燃料箱(仮称)が使えるような形に改修されます」
「料金はどうなっていますか?」
「使用料は取りません。意図的に壊したのなら別ですが、例えば持ち運んでいる時に落として壊しても無償で交換できます」
「なぜ(仮称)が付いているのですか?」
「ええと、あれ? ケネス様、なぜでしたっけ?」
「ああ、それは説明に入れていなかったですね。名前をどうするかを決めていなくて、とりあえず仮で燃料箱としてただけです。(仮称)は取りましょう」
「では今後は燃料箱で説明することにします」
レナーテさんはこの度めでたく結婚が決まり、一戸建ての宿舎に引っ越している。そして燃料箱を使った住宅に不具合がないかの確認もしてもらっている。最新機能を取り付ける場合にはテストをしてもらうことになっている。
「そうそう、もう一つ説明しておくことがあります。ギルド職員はレナーテさんが着ているような制服を着ています。まもなく開校になる職業訓練学校の教員にも支給されることになっています。ギルド職員とは色違いで、このような色ですね」
ギルドの制服よりも淡い色で、藤色と呼べばいいだろうか。形は共通で、上着はダブルのジャケットになっている。胸のポケットには職業訓練学校の教員のバッジが付いている。
「これは支給されますので、意図的に破ろうとしない限りは無償で交換できます。また陶芸や鍛冶、左官など、どうしても汚れやすいものを教える場合はジャケットの代わりにこのようなものを羽織ってくれても構いません」
同じ色をした作業服を取り出してみんなに見せた。ポケットがあちこちに付いている機能的なものだ。
「それは着なければならないものですか?」
「必ずしも着なければいけないわけではありませんが、どうせ汚すなら自分の服よりも制服でしょう。少なくともこのバッジは見えるところに付けてください」
「いえ、綺麗な服なので汚すのがもったいないと思いまして」
「実はギルドや訓練学校の制服などは、染織と仕立てを学んでいる職人見習いたちが作っているものです。技術を身に付けるにはたくさん作るのが一番で、数をたくさん作っても困らないのが制服でした。ですので、たくさん教えてたくさん汚してください。そうしなければ作るべきものがなくなってしまいます」
「分かりました」
◆ ◆ ◆
「では明日より職業訓練学校を開校します。みなさんは教員として、この町の役人として働いてもらいます。いずれは自分たちの教え子たちがどこかで独立して働けるように、できる限りの技術を伝えてください」
「「「「はい!「はい!「はい!」」」」
朝礼で教員たちに訓示しているように、明日が開校となる。すでに市民生活ギルドで生徒の募集をしていて、明日から授業が始まることになっている。ここで学んだ人は必ずしもこの町で活躍しなくてもいい。他の町に出てもらって結構。でも、ユーヴィ市で学んでこれだけのものを身に付けたと宣伝してくれると嬉しい。
女性向けの訓練は店でしてきたのとほとんど同じで、礼儀作法、読み書き計算、化粧、染め、織り、仕立て、手芸。男性向けの訓練は、大工、左官、家具製作、彫刻、鍛冶、陶芸となった。性別で受けられる内容を制限することはないけど、教員がそうなっているのでざっくり分けているというだけの話。他に学びたいものがあれば市民生活ギルドに相談してもらい、可能なようであれば開講する。
ドワーフの職人が増えたことにより、同じ内容を常に最低二人は教えることが可能になった。そしてうちの妻たちは教えないことになった。店で鍛えた弟子たちが教えることになったからだ。まあ領主の妻が第一線で教えるというのもどうなのかということで、現在は店の経営に戻っている。
この学校で礼儀作法と読み書き計算の二つを学び終えた生徒は、ギルド職員か服飾美容店の店員に応募できる。ギルド職員の方が待遇はいい。服飾美容店は、それほど賃金は高くないけど働く場所を与えるという場に戻った。教員になる弟子たちの出来をエリーに聞いたら、グッと親指を突き立てた。まああの店で叩き込まれたのなら間違いないだろうと思う。カロリッタは相変わらず三本指の卑猥なジェスチャーを向けてきた。だから手は出さないって。
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