新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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短編

ある国王の悩み

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 クリストファーといいます。クリスでもかまいません。レス王国の国王をしています。二〇代で国王というのもそれほど多くはないと思いますし、国をより良くするという意味では非常にやり甲斐のある仕事です。仕事そのものには不満はありません。若干の不満があるとすれば、国王になった経緯くらいでしょうか。

 私は王太子として育てられました。父上からは国王になりたければなったらいいと言われいましたが、なりたくない理由もありません。なるつもりで勉強していました。隣のフェリン王国にいるレオンツィオさんのところへ勉強に行ったりもしました。ですがちょうど父上の在位二〇年目に入った頃、いきなりこう言われました。

「僕は今年で退位するから、クリスが来年から国王ね」

 そりゃまあ、王太子として勉強はしていますし、いずれは国王にと思っていましたが、こんなことでいいのでしょうかと不安になりました。

 母上にこのまま国王になっていいのかと聞けば、答えは予想通りでしたね。

「ケネスがいいと言えばいいのです。何か国王になるのに問題でもありますか?」

 ね?

 母上は王妃ではなくなるわけですが、それに関しては未練はないそうです。

「ケネスも私も、国王と王妃になりたくてなったわけではありませんので」
「では何のためですか?」
「この世の中を少し良くするためですね。記念館で見たでしょうが、私たちが来る前はひどい状態でした」
「はい。商人すらほとんど来なかったそうですね」
「ええ、そこで人とお金を使って森を切り拓き、街道を通し、特産品を作り、そうやって魅力のある土地にしたところ人が増え、しばらくしたら国王をしてほしい、となったわけです」
「領主はまだしも国王になってほしいというのはおかしくありませんか? 嘘でないのはレオンツィオさんにも聞きましたが」
「それだけ厄介な土地だったのですよ、ここは。大森林がありますからね。今では食肉の供給源ですが」

 私も修行として大森林に入りました。あの森で狩れる魔獣のお肉は美味しいですからね。私の場合はあの父上と母上の血を引いているお陰か、魔獣の攻撃を受けても、痛いことは痛いですが怪我一つしませんでした。人並み以上に頑丈にできているそうです。魔力も多いですからね。

 でも私も周りには私以上の力と魔力を持った人たちがゴロゴロいるせいで、あまり自分が強いという気がしません。例えばマイカさんの場合、普段はほとんど運動らしいことをしていませんが、手合わせをお願いしたら綺麗に吹っ飛ばされました。次元が違います。

 さすがにミシェル、カリン、リーセにはどうにか勝てますが、女の子に勝ってもね……。

 私といい勝負なのがマリーさんでした。私の叔母になるそうですが、おばさんと呼ぶと返事をしてくれないのでマリーさんと呼ぶようにしています。父とは血の繋がりがないと聞いています。種族も違いますしね。血のつながりがないせいか、父の妻の座を狙っているようです。相手にされていませんが。

 ちなみにマイカさんもマリーさんも私よりもずっと年上のはずなのですが、見た目は私よりも少し上にしか見えません。私も年齢よりは若く見られ、二〇歳を超えているのに一〇代半ばに見られます。どうやら多すぎる魔力のせいだそうです。

 まあそんなことが王太子時代にありまして、国王になってもそれでこれまで何とかやってきたわけです。

 それで少々悩みがありまして、それは妻たちのことです。あ、夫婦仲は良好です。レオンツィオさんの娘が正妻ですので、あの人は義父になりますね。お隣同士、仲良くしています。他に二人いまして、子供は全部で五人います。

 妻たちはみんな仲が良く、子供たちも可愛いのですが、妻たちはもっと家族を増やしたいようです。子供の数だけではなく私の妻の数も。

 父上の妻は今で一七人? 一八人だったかもしれません。愛人もいますね。今でも増えていますから。金銭的に全く困らない人ですから、妻も愛人もいくらでも持てばいいと思いますが、この国が父上の子供ばかりになりそうです。

 その愛人ですが、父上は愛人という言葉の響きが好きではないようです。ただ妻にすると継承だの何だのと厄介な問題がありましたので、名前だけ愛人という形で受け入れたようです。

 それでですね、どうやら私の妻たちは父上や母上たち見て、あのような大家族を目指したいと考えているようです。ええ、大家族です。

 父上の子供の中では私が一番上……いえ、厳密にはミシェルが一番上になるのかもしれませんが、彼女は父上の血を引いていませんので、やはり父上の妻の座を狙っているようです。いずれ私の義母になるかもしれません。そこは好きにすればいいと思いますが、父上にアピールするのに私をダシに使うのはやめてもらいたい。

 そうそう、兄弟姉妹の話です。妻と愛人で三〇人近くいる父上の子供ですので全部で軽く一〇〇人を超えています。それを私に求められても困ります。妻たちは父上に心酔しているので、私にも同じことを期待しているのだとか。

 父上のように出かけた先で困った女性を助けて次々と妻にするのは正直どうかと思いますが、マノンさんやセラさんやキラさんの話を聞けばそれもありかなと思ってしまいます。あの人たちにとっては英雄のような存在だそうですので。

 ですが私は残念ながらユーヴィ市からはあまり出ませんので、出会いが少ないといえば少ないですね。ですが正直なところ、妻はそんなにたくさんは必要ありません。することはしていますのでまたお腹が大きくなっていますが、妻は今の三人で十分だと思っていました。

 はい、過去形です。

 先日私のところに来客がありました。ええ、女性ばかり六人。クルディ王国から二人、ヴェリキ王国から二人、レトモ王国から二人。それぞれ有力貴族の娘だそうです。

 はい、謀られました。妻たちに。妹たちの中にはその三国の王族に嫁いだ子もいます。妻たちはどうやら妹たちに連絡を取って、僕の妻になる貴族の娘を集めたようです。父上経由で。

 とりあえず父上にはお願いしたい。知らない間に私の妻を増やすのはやめてほしいと。

「でも夜の生活は充実するでしょ?」
「それはそうですが、限度があります」
「僕ができるんだからできるって」
「……」
「クリス、男には女性の意見に逆らっちゃいけないこともあるんだよ。時には流されるだけってこともある。それを受け入れる度量ってものがある意味じゃ男の器の大きさってことにもなるよね」

 その時の父上の遠くを見る目は一生忘れられないでしょう。
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