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短編
引退
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「リゼッタ、もう引退でいいかな?」
「ケネスは十分にやったと思いますよ」
何を引退するのかと言うと、地上世界から引退ということ。ステータス的にもう限界になっていた。
◆ ◆ ◆
僕のステータスはこの世界に来る前から壊れかけていて、しばらくしたら完全に壊れた。文字化けばかりでまともに読めない。カンストしてくれたらよかったのに、際限なく上がっているみたいだから、普通は敵に向かって使う[筋力低下]を自分に向かって何百重にもかけてどうにか暮らしていた。でもそれって大変なんだよね。
うっかりと踏み込むと地面が吹き飛ぶ。下級の魔法でも森が吹き飛ぶ。そういう失敗を何度も経験して、自分にデバフを何重にもかけることを覚えたんだけど、デバフをかけるとそれが負荷訓練のようになってしまって、結果としてさらに成長してしまう。でもそうしないと大変なことになる。いたちごっこじゃないけど、デバフをかけて、デバフ効果のあるアクセサリーを付けて、そうやってなんとか暮らしていた世界からこのたび引退することになった。
「部屋は用意してくれるんだったっけ?」
「はい。筆頭上級管理者として恥ずかしくない建物を用意したとコンラートさんが言っていました」
「あの人も変わらないね」
元リゼッタの上司で元カローラの部下、そして元僕の上司で今は僕の同僚のコンラートさん。部下を育てるのが生き甲斐という中間管理職の鑑のような人で、信頼も信用もしている。
そのコンラートさんだけど、娘のように思っていたカローラが僕と結婚したことで、最初はようやく結婚相手が見つかった娘の父みたいな感じだったけど、いつのまにか僕を敬うような形になってしまった。そして気がつけば今の上級管理者の中で僕が一番上になった。
さすがにそうなってしまえば地上でのほほんと暮らすのもどうかと思って、ちょうど地上で暮らすのも大変になってきたから、この際引退してしまおうかと。
僕はカローラから地上で好きに暮らせばいいと言われていたから、管理者としての仕事をしつつ、基本的に地上にいた。だからこっちでずっと暮らすのは初めてになる。
「ああ、あれか」
そこには僕がかつて異空間の中に作ったような家があった。律儀に表札まである。
「なるほどね。それじゃあ近いうちにみんなを呼ぼうか」
「分かりました。準備をしておきます」
◆ ◆ ◆
準備とは何か。簡単に言うと、管理者にすること。いくら僕の妻でも、神の世界と思われているこの場所に簡単に呼ぶことはできない。それならどうしたらいいのか。管理者にすればいい。
もの凄い公私混同だと思うよ。でもそもそも新しい管理者って今の管理者が連れてくるわけだから、ほとんどが縁故採用。それなら家族を管理者にしてもいいとみんなが言った。僕の家族ならきちんと仕事はするだろうと。
そういうわけで妻の中で管理者だったカローラ、リゼッタ、ヴァウラ以外に、カロリッタとマリアン、エリーとミシェル、マイカとエレナ、マノンとセラとキラ、ジェナとアリソン、エルケとシルッカ、カリンとリーセ、アニエッタとシュチェパーンカ、フロレスタとマリー、このあたりを順番に呼んでくることになった。一度に呼んでも仕事を教える方が大変だからね。
「そういえば、地球の方からおかしな気配があるって言ってたね?」
僕はヴァウラに問いかける。彼女は元々地球やその周辺の担当者で、カローラが僕の妻になってからは僕がいたあたりの担当もしてくれていた。
「どうやら闇の向こうからも接触が多くなっているようです」
「あの向こうか……。どうしたものかなあ……」
闇の向こうというのは例えで、こちらからは接触することのできない相手のこと。
世界というのは無数にあって、僕たちが管理している範囲は僕たちの目が届く範囲に限られている。そして僕たちと同じように世界を管理している者も存在するはず。はずと言うのは、僕たちにはそれを知覚できないから。いるはずなのに接触できない。そういう相手もいる。僕たちに理解できるのは、僕たちがアクセスできないあいてが多いということ。
例えば僕たちがこのRにいるとする。Gにも同じように管理者がいるはずだけど、次元の違いとか諸々の理由があるらしくて会って話すことはできない。でもそこに存在するのは間違いない。
地球はRとGの間にある黄色い部分か、もしくはもっと中央よりも白い部分にあるらしく、僕たち以外からも何らかの影響を受けているらしい。
でもまあ、生きていればいいこともあるのかもね。ここまで生きてきて本当にそう思ったよ。妻も子供もできたんだからね。そらじゃ、みんな、元気でね。
完
「ケネスは十分にやったと思いますよ」
何を引退するのかと言うと、地上世界から引退ということ。ステータス的にもう限界になっていた。
◆ ◆ ◆
僕のステータスはこの世界に来る前から壊れかけていて、しばらくしたら完全に壊れた。文字化けばかりでまともに読めない。カンストしてくれたらよかったのに、際限なく上がっているみたいだから、普通は敵に向かって使う[筋力低下]を自分に向かって何百重にもかけてどうにか暮らしていた。でもそれって大変なんだよね。
うっかりと踏み込むと地面が吹き飛ぶ。下級の魔法でも森が吹き飛ぶ。そういう失敗を何度も経験して、自分にデバフを何重にもかけることを覚えたんだけど、デバフをかけるとそれが負荷訓練のようになってしまって、結果としてさらに成長してしまう。でもそうしないと大変なことになる。いたちごっこじゃないけど、デバフをかけて、デバフ効果のあるアクセサリーを付けて、そうやってなんとか暮らしていた世界からこのたび引退することになった。
「部屋は用意してくれるんだったっけ?」
「はい。筆頭上級管理者として恥ずかしくない建物を用意したとコンラートさんが言っていました」
「あの人も変わらないね」
元リゼッタの上司で元カローラの部下、そして元僕の上司で今は僕の同僚のコンラートさん。部下を育てるのが生き甲斐という中間管理職の鑑のような人で、信頼も信用もしている。
そのコンラートさんだけど、娘のように思っていたカローラが僕と結婚したことで、最初はようやく結婚相手が見つかった娘の父みたいな感じだったけど、いつのまにか僕を敬うような形になってしまった。そして気がつけば今の上級管理者の中で僕が一番上になった。
さすがにそうなってしまえば地上でのほほんと暮らすのもどうかと思って、ちょうど地上で暮らすのも大変になってきたから、この際引退してしまおうかと。
僕はカローラから地上で好きに暮らせばいいと言われていたから、管理者としての仕事をしつつ、基本的に地上にいた。だからこっちでずっと暮らすのは初めてになる。
「ああ、あれか」
そこには僕がかつて異空間の中に作ったような家があった。律儀に表札まである。
「なるほどね。それじゃあ近いうちにみんなを呼ぼうか」
「分かりました。準備をしておきます」
◆ ◆ ◆
準備とは何か。簡単に言うと、管理者にすること。いくら僕の妻でも、神の世界と思われているこの場所に簡単に呼ぶことはできない。それならどうしたらいいのか。管理者にすればいい。
もの凄い公私混同だと思うよ。でもそもそも新しい管理者って今の管理者が連れてくるわけだから、ほとんどが縁故採用。それなら家族を管理者にしてもいいとみんなが言った。僕の家族ならきちんと仕事はするだろうと。
そういうわけで妻の中で管理者だったカローラ、リゼッタ、ヴァウラ以外に、カロリッタとマリアン、エリーとミシェル、マイカとエレナ、マノンとセラとキラ、ジェナとアリソン、エルケとシルッカ、カリンとリーセ、アニエッタとシュチェパーンカ、フロレスタとマリー、このあたりを順番に呼んでくることになった。一度に呼んでも仕事を教える方が大変だからね。
「そういえば、地球の方からおかしな気配があるって言ってたね?」
僕はヴァウラに問いかける。彼女は元々地球やその周辺の担当者で、カローラが僕の妻になってからは僕がいたあたりの担当もしてくれていた。
「どうやら闇の向こうからも接触が多くなっているようです」
「あの向こうか……。どうしたものかなあ……」
闇の向こうというのは例えで、こちらからは接触することのできない相手のこと。
世界というのは無数にあって、僕たちが管理している範囲は僕たちの目が届く範囲に限られている。そして僕たちと同じように世界を管理している者も存在するはず。はずと言うのは、僕たちにはそれを知覚できないから。いるはずなのに接触できない。そういう相手もいる。僕たちに理解できるのは、僕たちがアクセスできないあいてが多いということ。
例えば僕たちがこのRにいるとする。Gにも同じように管理者がいるはずだけど、次元の違いとか諸々の理由があるらしくて会って話すことはできない。でもそこに存在するのは間違いない。
地球はRとGの間にある黄色い部分か、もしくはもっと中央よりも白い部分にあるらしく、僕たち以外からも何らかの影響を受けているらしい。
でもまあ、生きていればいいこともあるのかもね。ここまで生きてきて本当にそう思ったよ。妻も子供もできたんだからね。そらじゃ、みんな、元気でね。
完
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