新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
278 / 278
短編

引退

しおりを挟む
「リゼッタ、もう引退でいいかな?」
「ケネスは十分にやったと思いますよ」

 何を引退するのかと言うと、地上世界から引退ということ。ステータス的にもう限界になっていた。



◆ ◆ ◆



 僕のステータスはこの世界に来る前から壊れかけていて、しばらくしたら完全に壊れた。文字化けばかりでまともに読めない。カンストしてくれたらよかったのに、際限なく上がっているみたいだから、普通は敵に向かって使う[筋力低下]を自分に向かって何百重にもかけてどうにか暮らしていた。でもそれって大変なんだよね。

 うっかりと踏み込むと地面が吹き飛ぶ。下級の魔法でも森が吹き飛ぶ。そういう失敗を何度も経験して、自分にデバフを何重にもかけることを覚えたんだけど、デバフをかけるとそれが負荷訓練のようになってしまって、結果としてさらに成長してしまう。でもそうしないと大変なことになる。いたちごっこじゃないけど、デバフをかけて、デバフ効果のあるアクセサリーを付けて、そうやってなんとか暮らしていた世界からこのたび引退することになった。

「部屋は用意してくれるんだったっけ?」
「はい。筆頭上級管理者として恥ずかしくない建物を用意したとコンラートさんが言っていました」
「あの人も変わらないね」

 元リゼッタの上司で元カローラの部下、そして元僕の上司で今は僕の同僚のコンラートさん。部下を育てるのが生き甲斐という中間管理職の鑑のような人で、信頼も信用もしている。

 そのコンラートさんだけど、娘のように思っていたカローラが僕と結婚したことで、最初はようやく結婚相手が見つかった娘の父みたいな感じだったけど、いつのまにか僕を敬うような形になってしまった。そして気がつけば今の上級管理者の中で僕が一番上になった。

 さすがにそうなってしまえば地上でのほほんと暮らすのもどうかと思って、ちょうど地上で暮らすのも大変になってきたから、この際引退してしまおうかと。

 僕はカローラから地上で好きに暮らせばいいと言われていたから、管理者としての仕事をしつつ、基本的に地上にいた。だからこっちでずっと暮らすのは初めてになる。

「ああ、あれか」

 そこには僕がかつて異空間の中に作ったような家があった。律儀に表札まである。

「なるほどね。それじゃあ近いうちにみんなを呼ぼうか」
「分かりました。準備をしておきます」



◆ ◆ ◆



 準備とは何か。簡単に言うと、管理者にすること。いくら僕の妻でも、神の世界と思われているこの場所に簡単に呼ぶことはできない。それならどうしたらいいのか。管理者にすればいい。

 もの凄い公私混同だと思うよ。でもそもそも新しい管理者って今の管理者が連れてくるわけだから、ほとんどが縁故採用。それなら家族を管理者にしてもいいとみんなが言った。僕の家族ならきちんと仕事はするだろうと。

 そういうわけで妻の中で管理者だったカローラ、リゼッタ、ヴァウラ以外に、カロリッタとマリアン、エリーとミシェル、マイカとエレナ、マノンとセラとキラ、ジェナとアリソン、エルケとシルッカ、カリンとリーセ、アニエッタとシュチェパーンカ、フロレスタとマリー、このあたりを順番に呼んでくることになった。一度に呼んでも仕事を教える方が大変だからね。

「そういえば、地球の方からおかしな気配があるって言ってたね?」

 僕はヴァウラに問いかける。彼女は元々地球やその周辺の担当者で、カローラが僕の妻になってからは僕がいたあたりの担当もしてくれていた。

「どうやら闇の向こうからも接触が多くなっているようです」
「あの向こうか……。どうしたものかなあ……」

 闇の向こうというのは例えで、こちらからは接触することのできない相手のこと。

 世界というのは無数にあって、僕たちが管理している範囲は僕たちの目が届く範囲に限られている。そして僕たちと同じように世界を管理している者も存在するはず。と言うのは、僕たちにはそれを知覚できないから。いるはずなのに接触できない。そういう相手もいる。僕たちに理解できるのは、僕たちがアクセスできないあいてが多いということ。

 例えば僕たちがこのRにいるとする。Gにも同じように管理者がいるはずだけど、次元の違いとか諸々の理由があるらしくて会って話すことはできない。でもそこに存在するのは間違いない。



 地球はRとGの間にある黄色い部分か、もしくはもっと中央よりも白い部分にあるらしく、僕たち以外からも何らかの影響を受けているらしい。

 でもまあ、生きていればいいこともあるのかもね。ここまで生きてきて本当にそう思ったよ。妻も子供もできたんだからね。そらじゃ、みんな、元気でね。



しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...