新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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短編

増える種族

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「クォーターが新たに認定されました」
「ハーフよりも少し遅かったね」
「そもそも概念としてこのあたりの世界にはありませんでしたからね。地球あたりから流れてきたのでは?」
「あまり地球を元ネタのようにするもの問題だと思いますよ」

 今さらだけど、新しい種族が認定されつつある。それがクォーター何々という種族。ある種族が四分の三、他の種族が四分の一。厳密に三対一じゃないけど、それに近い血を持っている種族ということになる。

 この世界圏にはそもそもハーフやクォーターという概念がなかった。その体の中には色々な種族の血が混じっていても、種族としてはその中のどれかとして生まれてきた。そのシステムがおかしと思ったから、本来あるべき状態に直した。それからしばらくはハーフだけだったけど、ようやく結果が現れ始めたかな。

 日本人として地球に生まれ、ちょっとしたトラブルで死んでしまい、この世界でエルフとして生まれ変わって……どれくらい経ったっけ? まあいいか。

 少し前に生まれた子供がどの種族になるかというシステムを元に戻した。これで両親が持つ血のの種族になるということはなくなり、両親が持つ血を引くという、地球ではごく普通の状態になった。

 仮にAとBという二つの種族の血を持つ父がいて、CとDという二つの種族を持つ母がいるとする。地球ならその子供はABCDの血を四分の一ずつ受け継いだ子供が生まれる。日本人とアメリカ人のハーフとタイ人とフランス人のハーフの間に生まれれば、その四つの国の特徴を持った子供が生まれるはず。

 でもこの世界圏では、として生まれた。ここが少し厄介。血の中にはそれぞれの種族の特徴がある。でもハーフやクォーターという概念がなかったから、どれかの種族として生まれた。それが崩れてきたのはうちの子供たち。

 長男のクリスは[栗鼠人?/エルフ?(ハーフ?)]というわけの分からない種族だった。妻のリゼッタは[デュオ(人間/リス)]という、人間かリスかを切り替えられるデュオという種族だ。僕はエルフ。厳密には[エルフ?]だったけど。その間に生まれたのがクリス。おそらくこの世界で生まれた初めてのハーフになるはず。

 クリス以降、僕の子供としてこの世界圏にはいなかったハイエルフ、ハイドワーフ、ハイセリアンスロープ、ハイフェアリー、ハーフエルフ、天人、始祖竜なんて種族が生まれた。どうも僕の魔力量が多すぎて管理システムがバグを起こしたらしい。

 そういうこともあって、その世界圏の調査を行っていたところ、ずっとずっと前の管理者たちが人口増加を防ぐために色々な制限を行っていたというのが分かった。それが一〇年ほど前。ああ、思い出した。コンラートさんに相談したら管理者たちが集まって、いつの間にか僕の指示に従って本来あるべき姿に戻そうとしたんだったかな。

 血というのは代々受け継がれたものになると思う。それが好きでも好きでなくても、自分の中には代々の血が流れている。だけを表に出すのがかつてのこの世界圏。のが新しい方法。地球と同じだね。

 そういう経緯があって、少し前から新しい種族が認定され始めている。どうして分かるかといえば、ステータスを見れば表示されているから。

 ステータスを見ることは普通ならできない。これは管理者に限定されたスキルになる。でも日本のラノベとかゲームとかではステータスってわりと一般的だったよね? だから[ステータス]というスキルを管理者限定ではなくて一般的なスキルにしようと提案した。それで何か不利益があるわけでもないからね。

 他にも[地図]なんかも一般のスキルとして使えるように設定し直した。僕が。

 ステータスってのは不思議なもので、その能力を実際に得ていなければ有効化されない。例えば[剣術]は管理者が与えることはできるけど、与えられた本人が訓練して身に付けるまではグレーアウト状態になる。そもそも以前はステータスを見ることができなかったから、グレーアウトかどうかすら分からなかった。それをもう少しユーザーフレンドリーな感じにしようというのがここのところの変化。

 自分がどんなスキルを持っているかとか、自分がどんな魔法が使えるかとか、それくらいは自分で見ることができてもいいと思った。だから[ステータス]を一般的なスキルにした。

 例えば冒険者なら自分の能力は自分で確認できてもいいと思ったんだよね。そうすれば今の挑戦が無理なものか可能なものかくらいの判断はできると思ったから。冒険者が死ぬのは防げないけど、その前に踏みとどまる可能性を持たせたかった。

「ケネス、カサンドラが離島に作ったアスレチックのレベルを上げてくれと言っていますが、どうしますか?」
「カサンドラか……。あの子はどうして中身と見た目があんなに違うんだろうね?」

 僕は孫の一人を思い浮かべた。人数が多いから思い出すのも大変だけどね。

 カサンドラは僕とジェナの孫になる。僕とよく似たノンビリとした外見をしているのに中身はかなりヤンチャ。性格的にはミシェルに近いかな? とりあえずアクティブ。普通の鉄棒でトカチェフもできる。誰が教えたんだろうね? ミシェルだね。

 カサンドラが生まれたのはシステムを切り替える前だったか後だったか、その境目あたりか。彼女はエルフとして生まれたはずだけど、その血には色々と入っているだろうからね。だからエルフの外見をしつつも他の種族の特徴があってもおかしくない。母方に妖精が入ってるはずだからね。

 両親が持つ血のどれかとして生まれるというのは、種族を判断する方法としては簡単ではあるけど、それが正しいとは思えなかったんだよね。他の血が否定されているような気がして。

 クリスなら僕とリゼッタの血を半分ずつ持っているはずだけど、僕個人としては半々で継いでもらいたいとは思うよ。僕の血だけとかリゼッタの血だけとかじゃなくてね。だから本来あるべき姿に戻した。それは間違いじゃないと思いたい。

 管理者って何でもできる万能な人たちって感じがするけど、場合によっては取捨選択が必要で、その結果として悩むこともある。だから病んで転生することで辞める人もいる。そのあたりを何とか変えたい。

 僕が変えたいからって変えられるわけじゃないけど、コンラートさんとかは僕ならできると思っているふしがある。期待されれば応えたいとは思うけど、何でもかんでも期待するのはおかしいと思うよ。
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