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第十一章【受け継がれしもの】
第五十七節 喰神の烙印
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視界が真っ白に染まり、静寂を感じた世界――。
その静寂を感じていた世界で――、響き渡ってきた風が草や樹木の葉を撫でていく微かな音色。その優しい音をビアンカは聴いていた。
ビアンカはその身に――、温かい春風が頬を撫でていくのを感じる。
そんな中――、ビアンカは意識をぼんやりとさせたまま、薄く瞳を開いた。
池の畔にある樹木に寄り掛かり――、まるでうたた寝から目覚めたかのような感覚。
その感覚を感じ、ビアンカは自身の身体に起こっている出来事に、一つ不審感を抱いた。
「――あれ……?」
ビアンカは――、先ほどまで自分自身がその身に受けていた、息苦しさや背中に感じていた痛みの感覚が消えてなくなっていることに気付いたのだった――。
(――さっきまで、私は死ぬんだろうって思っていたのに……)
何が起こった――と、ビアンカは不審に思いつつ自身の腕を上げ、身体を動かしてみる。
つい先刻まで肩や腕など、身体を動かす毎に背に感じていた鋭い痛みは、ビアンカの身体から何一つ無くなっていた。
(背中に刺さっていた矢も……、無くなっている……?)
ビアンカは自らの背に腕を回し、矢が刺さっていたはずの右側の背の状態を確かめる。
だが、背に刺さっていたはずの矢も――、その存在を認めることができなかった。
ビアンカは眉を寄せて不思議に思いつつ、自身の身体の状態を確認する。
そこで、ビアンカは自身の左手の甲を目にし――、あるものを見つけ、ハッとした様を見せた。
「――これ……、ハルの……?」
ビアンカが死の間際――、朦朧とし掠れ始めた視界で目にした、ハルの左手の甲に刻まれていた不思議な模様をした赤黒い痣。死神が鎌を抱きかかえるように見える痣――。
それが今、ビアンカの左手の甲に赤黒い痣となって刻まれていたのだった。
「――ハル……っ?!」
ビアンカは自分自身の左手の甲に刻まれる痣を目にした瞬間、ハルの存在を思い出す。
そうしてビアンカは自身の周りを見渡すと――、自らの傍らでハルがぐったりとして倒れ込んでいるのが目に入った。
「ハルッ!!」
ビアンカは慌ててハルの身体を仰向けにさせ、必死に彼の名を呼び、声を掛ける。
「ハルッ!! ねえ、ハルってばっ!!」
幾度かビアンカが叫ぶようにハルに声を掛けると、ハルは薄っすらと赤茶色の瞳を開けた。
「ハル……っ!」
「……なんだよ、あの野郎。付き合い永かったからって、気を利かせたつもりなのか」
目を開けたハルは、消え入りそうな声で呟き、深く溜息を吐き出す――。
ビアンカは目覚めたハルを、自身が今まで寄り掛かっていた樹木に寄り掛からせるように静かに起き上がらせる。
だが――、ハルは身体を上手く動かすこともままならず、ビアンカに促されるまま漸くといった様子で樹木に寄り掛かった。
(――いったい何が起こったの……?)
ハルの顔色を目にして、ビアンカは混乱をしていた。
ビアンカが目にしたハルは、その顔色に生気がなく、その瞳も光を失いかけていたのだった。
それはまるで、死の間際の人間の様相で――、ビアンカはハルの身に起こった出来事を理解できずにいた。
「ごめんな、ビアンカ……」
ハルは呟くと、ビアンカの左手の甲に自身の左手を添える。
ハルの添えられた左手の甲を見て、ビアンカは再び眉を顰めた。
ビアンカの目にしたハルの左手の甲――。
その左手の甲からは、先ほどまであったはずの、赤黒い痣として刻まれた紋様が消え去っていたのだ。
「――お前に、俺の宿していた“喰神の烙印”の呪いを継承させた……」
「くいがみ……?」
ハルの言葉と状態に混乱しつつ、ビアンカはハルに聞き返す。
すると、ビアンカの言葉にハルは小さく頷いた。
「前にも言ったよな……。俺の宿していたこの呪いは――、宿主の近しい者に不幸を撒き散らし死に至らしめ、その魂を喰らいながら自らの糧とし、不老不死になって生き永らえるものだって……」
ハルの言葉を聞き、ビアンカは以前にハルの言っていた言葉を思い出す。
――あれは……、物語の登場人物の真似事なんかじゃなかったんだ……。
身近な人々を死に至らしめる呪い――。
ビアンカが全く信じていなかった、ある日――ハルの語った話だった。
「――この呪いは酷く残酷で悲しいものだ……」
ハルは掠れる声で、言葉を続ける。
「だけど、死にそうなお前を助けるためには――、この呪いの新しい宿主として、お前を選ばせる以外に方法がなかった……」
ハルは悔しげにして瞳をビアンカから外すように落とす。
「――こんな残酷な選択しかできなかった俺を、許してくれ……」
ハルは弱々しげに、苦しげに呟く。
(え……? つまり……、ハルは私を助けるために、ワザとこの“喰神の烙印”っていう痣を、私に継承させたっていうの……?)
ビアンカは考え――、はたと気付く。
「ハルは……? ハルは……、どうなるの……?」
ハルが以前に語っていた“喰神の烙印”の呪い――、それが不老不死となる呪いだというのならば、元の宿主であるハルがどうなるのか――と、ビアンカは思い至る。
(――確か、ハルはこの痣に対して、『俺の魂をお前にくれてやる』と言っていた……)
ビアンカは、継承の儀の際にハルが口にした言葉を思い出す。
ハルが口にした言葉――、それは、この継承の代償として、彼が自らの魂を“喰神の烙印”の呪いに差し出したということになるのではないかと。ビアンカは察した。
――それだと、ハルは……。
ビアンカの察した思いの通り――、ハルは弱々しく首を左右に振る。
ハルの悲しげな表情と共に見せた仕草。それは、もう助からない――、ということを意味させるものだった。
「――――っ!」
ビアンカはハルの無言の返答に絶句する。
「どうして――っ!?」
ハルの無言の返答に対して、ビアンカは信じられない――、と言いたげな声音で声を荒げていた。
「俺としては……、お前の魂を喰らうことはできなかった……」
浅い吐息を繰り返し、ハルは再びビアンカを見据えて口を開く。
「――だけど、“喰神の烙印”の呪いを宿したお前の一番初めに喰らう魂になれるなら本望だなって……、思ったんだ」
ビアンカを見つめ、ハルは微かな笑みを浮かべて言う。
――酷い。とても酷いことだと思う……。
ビアンカは言葉を発することもできず、心の中で思う。
ハルの考えは――、酷く自分勝手で身勝手な考え方だと。
そう思うと、ビアンカの翡翠色の瞳から――、涙が止めどなく零れ落ちていくのだった。
その静寂を感じていた世界で――、響き渡ってきた風が草や樹木の葉を撫でていく微かな音色。その優しい音をビアンカは聴いていた。
ビアンカはその身に――、温かい春風が頬を撫でていくのを感じる。
そんな中――、ビアンカは意識をぼんやりとさせたまま、薄く瞳を開いた。
池の畔にある樹木に寄り掛かり――、まるでうたた寝から目覚めたかのような感覚。
その感覚を感じ、ビアンカは自身の身体に起こっている出来事に、一つ不審感を抱いた。
「――あれ……?」
ビアンカは――、先ほどまで自分自身がその身に受けていた、息苦しさや背中に感じていた痛みの感覚が消えてなくなっていることに気付いたのだった――。
(――さっきまで、私は死ぬんだろうって思っていたのに……)
何が起こった――と、ビアンカは不審に思いつつ自身の腕を上げ、身体を動かしてみる。
つい先刻まで肩や腕など、身体を動かす毎に背に感じていた鋭い痛みは、ビアンカの身体から何一つ無くなっていた。
(背中に刺さっていた矢も……、無くなっている……?)
ビアンカは自らの背に腕を回し、矢が刺さっていたはずの右側の背の状態を確かめる。
だが、背に刺さっていたはずの矢も――、その存在を認めることができなかった。
ビアンカは眉を寄せて不思議に思いつつ、自身の身体の状態を確認する。
そこで、ビアンカは自身の左手の甲を目にし――、あるものを見つけ、ハッとした様を見せた。
「――これ……、ハルの……?」
ビアンカが死の間際――、朦朧とし掠れ始めた視界で目にした、ハルの左手の甲に刻まれていた不思議な模様をした赤黒い痣。死神が鎌を抱きかかえるように見える痣――。
それが今、ビアンカの左手の甲に赤黒い痣となって刻まれていたのだった。
「――ハル……っ?!」
ビアンカは自分自身の左手の甲に刻まれる痣を目にした瞬間、ハルの存在を思い出す。
そうしてビアンカは自身の周りを見渡すと――、自らの傍らでハルがぐったりとして倒れ込んでいるのが目に入った。
「ハルッ!!」
ビアンカは慌ててハルの身体を仰向けにさせ、必死に彼の名を呼び、声を掛ける。
「ハルッ!! ねえ、ハルってばっ!!」
幾度かビアンカが叫ぶようにハルに声を掛けると、ハルは薄っすらと赤茶色の瞳を開けた。
「ハル……っ!」
「……なんだよ、あの野郎。付き合い永かったからって、気を利かせたつもりなのか」
目を開けたハルは、消え入りそうな声で呟き、深く溜息を吐き出す――。
ビアンカは目覚めたハルを、自身が今まで寄り掛かっていた樹木に寄り掛からせるように静かに起き上がらせる。
だが――、ハルは身体を上手く動かすこともままならず、ビアンカに促されるまま漸くといった様子で樹木に寄り掛かった。
(――いったい何が起こったの……?)
ハルの顔色を目にして、ビアンカは混乱をしていた。
ビアンカが目にしたハルは、その顔色に生気がなく、その瞳も光を失いかけていたのだった。
それはまるで、死の間際の人間の様相で――、ビアンカはハルの身に起こった出来事を理解できずにいた。
「ごめんな、ビアンカ……」
ハルは呟くと、ビアンカの左手の甲に自身の左手を添える。
ハルの添えられた左手の甲を見て、ビアンカは再び眉を顰めた。
ビアンカの目にしたハルの左手の甲――。
その左手の甲からは、先ほどまであったはずの、赤黒い痣として刻まれた紋様が消え去っていたのだ。
「――お前に、俺の宿していた“喰神の烙印”の呪いを継承させた……」
「くいがみ……?」
ハルの言葉と状態に混乱しつつ、ビアンカはハルに聞き返す。
すると、ビアンカの言葉にハルは小さく頷いた。
「前にも言ったよな……。俺の宿していたこの呪いは――、宿主の近しい者に不幸を撒き散らし死に至らしめ、その魂を喰らいながら自らの糧とし、不老不死になって生き永らえるものだって……」
ハルの言葉を聞き、ビアンカは以前にハルの言っていた言葉を思い出す。
――あれは……、物語の登場人物の真似事なんかじゃなかったんだ……。
身近な人々を死に至らしめる呪い――。
ビアンカが全く信じていなかった、ある日――ハルの語った話だった。
「――この呪いは酷く残酷で悲しいものだ……」
ハルは掠れる声で、言葉を続ける。
「だけど、死にそうなお前を助けるためには――、この呪いの新しい宿主として、お前を選ばせる以外に方法がなかった……」
ハルは悔しげにして瞳をビアンカから外すように落とす。
「――こんな残酷な選択しかできなかった俺を、許してくれ……」
ハルは弱々しげに、苦しげに呟く。
(え……? つまり……、ハルは私を助けるために、ワザとこの“喰神の烙印”っていう痣を、私に継承させたっていうの……?)
ビアンカは考え――、はたと気付く。
「ハルは……? ハルは……、どうなるの……?」
ハルが以前に語っていた“喰神の烙印”の呪い――、それが不老不死となる呪いだというのならば、元の宿主であるハルがどうなるのか――と、ビアンカは思い至る。
(――確か、ハルはこの痣に対して、『俺の魂をお前にくれてやる』と言っていた……)
ビアンカは、継承の儀の際にハルが口にした言葉を思い出す。
ハルが口にした言葉――、それは、この継承の代償として、彼が自らの魂を“喰神の烙印”の呪いに差し出したということになるのではないかと。ビアンカは察した。
――それだと、ハルは……。
ビアンカの察した思いの通り――、ハルは弱々しく首を左右に振る。
ハルの悲しげな表情と共に見せた仕草。それは、もう助からない――、ということを意味させるものだった。
「――――っ!」
ビアンカはハルの無言の返答に絶句する。
「どうして――っ!?」
ハルの無言の返答に対して、ビアンカは信じられない――、と言いたげな声音で声を荒げていた。
「俺としては……、お前の魂を喰らうことはできなかった……」
浅い吐息を繰り返し、ハルは再びビアンカを見据えて口を開く。
「――だけど、“喰神の烙印”の呪いを宿したお前の一番初めに喰らう魂になれるなら本望だなって……、思ったんだ」
ビアンカを見つめ、ハルは微かな笑みを浮かべて言う。
――酷い。とても酷いことだと思う……。
ビアンカは言葉を発することもできず、心の中で思う。
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