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4話
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翌日、榊の迅速な対応により蒼太の家に手紙を送りつけてきた犯人が判明した。犯人は碧人の会社の受付嬢だった。
犯人が見つかりラッキーとはならなかった。碧人は冷や汗をダラダラと流し、チラチラと何度も黙り込む榊の様子を伺う。あれほど社内の人間に手を出すなと言われきたのに手を出したことがバレてしまった。絶対に怒られる。
榊は地球の反対側に届きそうなほどの深く長いため息をついた。
「………だから言ったでしょ。面倒なことになるから社内の人間には手を出すなと……」
「ご、ごめんなさい‼︎」
「現に私だけではなく、佐々木くんにまで被害が及んでるじゃないですか」
「………おっしゃる通りです」
「………いい加減にしないと去勢しますよ」
「それだけは勘弁して下さい‼︎」
態とらしく泣き真似をする碧人を呆れたようにやれやれという目で見る榊。
「彼女は今日限りで解雇通知を出しました。警察にも被害届を出しましたが、念のため佐々木くんの安否確認もしてて下さい」
「わかった」
蒼太を脅迫していた女は解雇し、警察に被害届を提出した。これで一件落着したと思い込んでいた。
事件は夜起こった。一本の電話が社長室の内線に届いた。内容はエントランスで男が女に首を絞められて襲われたというものだった。一瞬、ヒヤリとした。そして、電話越しに「佐々木蒼太」の名前が出た。
慌ただしく電話を切ると急いでエントランスに向かう。碧人が向かったときには既に女は警備員に取り押さえられており、蒼太は薫に支えられながら咳き込んでいた。
碧人が駆け寄ろとすると、榊から引き留められた。
「あなたが出るとややこしくなります。ここにいて下さい」
女は何度も碧人の名前を呼んでいる。碧人は物影に隠れて様子を見ることにした。
「離しなさいよ‼︎」
「動くな。もうすぐ警察がくるから大人しくしときなさい」
「社長を出して‼︎ 私は社長と話がしたいの‼︎ 社長を愛してるのよ‼︎」
女は興奮していて、数人がかりの警備員で取り押さえられていた。
「私がこの会社に入るためにどれだけ努力したと思ってるのよ‼︎ なのに一方的に解雇なんて酷過ぎるじゃない‼︎」
女は普段穏やかな容姿を一変させ、怒りの表情を見せる。
「全部あんたのせいよ‼︎ あんたさえ現れなければ社長は私のものだったの‼︎ 鳳条碧人と結婚するのは私だったのに‼︎」
女は蒼太を睨みつける。
「こんな子供に……しかも男のくせに……‼︎」
女は蒼太に「泥棒」「貧乏人」「身内の不幸を利用する卑怯者」と罵声を浴びせる。大切な人が傷つけられて碧人までつらくなった。
しばらくしてサイレンの音がし、女は警察官に連行された。パトカーの音が遠くなってすぐに碧人は蒼太の元へ駆け寄った。
「蒼太。大丈夫?」
手を差し伸べるが蒼太はその手を掴まない。それどころか碧人の顔すら見ようとしなかった。
薫が締められた首を観察する。
「ちょっと赤くなってるわね。呼吸は平気?」
「はい」
「今日はもう帰りなさい。一人で帰れる?」
「大丈夫です」
「蒼太。俺が車で送るよ」
「いい。一人で帰れるって」
まただ。蒼太が碧人を拒否した。
「蒼太、家に帰ったら話がしたい」
「………俺も話がある」
蒼太は一度も碧人に目を向けないまま会社を後にした。
犯人が見つかりラッキーとはならなかった。碧人は冷や汗をダラダラと流し、チラチラと何度も黙り込む榊の様子を伺う。あれほど社内の人間に手を出すなと言われきたのに手を出したことがバレてしまった。絶対に怒られる。
榊は地球の反対側に届きそうなほどの深く長いため息をついた。
「………だから言ったでしょ。面倒なことになるから社内の人間には手を出すなと……」
「ご、ごめんなさい‼︎」
「現に私だけではなく、佐々木くんにまで被害が及んでるじゃないですか」
「………おっしゃる通りです」
「………いい加減にしないと去勢しますよ」
「それだけは勘弁して下さい‼︎」
態とらしく泣き真似をする碧人を呆れたようにやれやれという目で見る榊。
「彼女は今日限りで解雇通知を出しました。警察にも被害届を出しましたが、念のため佐々木くんの安否確認もしてて下さい」
「わかった」
蒼太を脅迫していた女は解雇し、警察に被害届を提出した。これで一件落着したと思い込んでいた。
事件は夜起こった。一本の電話が社長室の内線に届いた。内容はエントランスで男が女に首を絞められて襲われたというものだった。一瞬、ヒヤリとした。そして、電話越しに「佐々木蒼太」の名前が出た。
慌ただしく電話を切ると急いでエントランスに向かう。碧人が向かったときには既に女は警備員に取り押さえられており、蒼太は薫に支えられながら咳き込んでいた。
碧人が駆け寄ろとすると、榊から引き留められた。
「あなたが出るとややこしくなります。ここにいて下さい」
女は何度も碧人の名前を呼んでいる。碧人は物影に隠れて様子を見ることにした。
「離しなさいよ‼︎」
「動くな。もうすぐ警察がくるから大人しくしときなさい」
「社長を出して‼︎ 私は社長と話がしたいの‼︎ 社長を愛してるのよ‼︎」
女は興奮していて、数人がかりの警備員で取り押さえられていた。
「私がこの会社に入るためにどれだけ努力したと思ってるのよ‼︎ なのに一方的に解雇なんて酷過ぎるじゃない‼︎」
女は普段穏やかな容姿を一変させ、怒りの表情を見せる。
「全部あんたのせいよ‼︎ あんたさえ現れなければ社長は私のものだったの‼︎ 鳳条碧人と結婚するのは私だったのに‼︎」
女は蒼太を睨みつける。
「こんな子供に……しかも男のくせに……‼︎」
女は蒼太に「泥棒」「貧乏人」「身内の不幸を利用する卑怯者」と罵声を浴びせる。大切な人が傷つけられて碧人までつらくなった。
しばらくしてサイレンの音がし、女は警察官に連行された。パトカーの音が遠くなってすぐに碧人は蒼太の元へ駆け寄った。
「蒼太。大丈夫?」
手を差し伸べるが蒼太はその手を掴まない。それどころか碧人の顔すら見ようとしなかった。
薫が締められた首を観察する。
「ちょっと赤くなってるわね。呼吸は平気?」
「はい」
「今日はもう帰りなさい。一人で帰れる?」
「大丈夫です」
「蒼太。俺が車で送るよ」
「いい。一人で帰れるって」
まただ。蒼太が碧人を拒否した。
「蒼太、家に帰ったら話がしたい」
「………俺も話がある」
蒼太は一度も碧人に目を向けないまま会社を後にした。
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