悪人ゴロシ

mine

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三人目

協力者

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 正光は、この前のコンビニにいた。昼飯の調達のためだ。自分も狙われているのではないかという恐怖心からか正光は、何度も振り向いたり辺りを見回している。買い物が終わり、家の目の前についたとき、後ろから肩をたたかれた。
「誰だ」
 驚き、つい大声を出してしまう。
「そんな大声出さないで」
 そこには、口の前に人差し指を添えた女が立っていた。小柄で整った顔をしている。二十才前半だろう。
「誰だ、お前」
 正光は、後ろにいた人物がフードの男でないと分かると、安堵の表情で尋ねる。
「まあ、立ち話だと落ち着かないし近くのカフェにでも...」
 女がそう言うと、正光は
「わざわざカフェまで行くのか?目の前に俺ん家があるんだ。上がれよ」
 と、家を指差し言う。
「家じゃ駄目なの。だから、カフェに行きましょ」
 女がそう言うと正光は、いかにも疑問が残っているような顔で頷いた。カフェに着くと、人目につかない席に座る。そして、二人共ブラックコーヒーを店員に注文した。女が話し出す。   カンドリアスカ
「初めまして。私は、神取飛鳥。あなたは、藤堂正光ね」
「確か、今も捕まっていない極悪人の一人...」
「俺のこと、どこまで知ってる」
 飛鳥のことを怪訝そうな顔で見つめ、聞く。
「極悪人で、まだ捕まっていないことぐらい」
 一息置いて、また話し出す。
「この前、ニュースが突然砂嵐になってフードの男が出てきたでしょ」
 正光は頷いた。
「あなた、その男に狙われてるわよ」
 は?と、正光が素っ頓狂な声を出す。
「狙われてるって、どういうことだ」
「そのままの意味。あなたも気をつけないと、他の人たちみたいになっちゃうわよ」
「そこで提案なんだけど、私と協力しない?」
「協力?」
「そう。私があなたに情報を流してあげる。そしたらあなたは殺されることもなく、怯えることもない。ただ、私のことは探らないで。私も、あなたのことは探らない」
「どう?あなたに損は無いと思うけど...」
 正光は数秒考えたあと、こう言った。
「分かった。協力しよう」
 飛鳥は微笑み、交渉成立と呟いた。

 正光と飛鳥は、正光の自宅で息を潜めながら歩いている。飛鳥の手には、何やら機械が握られていた。テレビに近付くと、機械のランプが点灯する。テレビ台の裏に飛鳥が入り込み、何かを探している。少しすると、テレビ台の裏から出てきて
「あった」
 と、正光に耳打ちした。その後も、家中見て回る。全ての部屋を調べ終えると、飛鳥が言う。
「もう、喋っていいよ」
 正光は、驚いたような顔で
「まさか本当に盗聴器があるなんてな。驚いた」
 そう、飛鳥が手に持っていたのは盗聴器の探知機だったのだ。
「とりあえず、これで全部だね。でも、これは全部元の位置に戻すから。フードの男にバレたらまずいからね。だから、重要なことは話さないで」
 正光は頷く。その後、全て元の位置に戻した。そして、今日はもう遅いから、と飛鳥は帰って行った。外の空気を吸おうと窓をあけ、昨日の路地裏を見る。すると、血だらけの女が倒れていた。飛鳥ではない。もう、正光は分かっていた。また、フードの男によって人が殺されたのだ。ただの人ではない。そう、未だ捕まっていない極悪人だ。
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