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特別な人
特別な人 第37話
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自分が思ってた以上に疲れていたのか、お風呂上がりで暖かくなった身体とリラックスした心はすぐに睡魔を呼び出してくれた。
茂斗が僕の髪を乾かし始めて僅か数分後、僕は重い瞼を持ち上げることができず、半分寝入りそうになっていた。
きっとそんな僕の様子は鏡のせいで茂斗にはバレバレなんだろうな。ドライヤーの温風に混じって何か話しかけられてる気がするもん。
(うぅ……眠いぃ……)
かろうじて意識を保ってるけど、今すぐベッドに横になってこの心地よい睡魔に身を任せたい。だって今なら最高に気持ちよく眠れそうだから。
でもそう思ってもここはお風呂場。心地よい眠気を保ったままベッドにたどり着くにはちょっと距離がありすぎる。
(ここで寝たら部屋まで連れて行ってくれないかなぁ……)
茂斗は無理でも、虎君か父さんを呼んできてくれる気がするしこのまま寝てもいいかも?
なんて、そんなこと考えるけど、座ったまま眠るなんて器用なことはできなくて生殺し状態。
それでもうとうとしてる僕だけど、止まった送風に至福の時間が終わったことを知った。
「起きろ、葵」
ぽんぽんって頭を叩いて僕に覚醒を促す茂斗。僕はそれに目を閉じたまま「うー……」って唸り声を返してみる。
眠気はピーク。もう耐えられない。
「おい、起きろって」
洗面台に突っ伏す様に頭を下げる僕は、このまま寝たいってアピールしてみる。
でも茂斗はやっぱり茂斗で、「甘えんな」って僕の髪を撫でていた手で頭を叩いてきた。
大して力は入ってなかったけど、全身から力が抜けてる僕はその反動で洗面台におでこをぶつけてしまって……。
「いたい……」
ゴンって音がして、鈍い痛みに少しだけ意識が戻る。
おでこを擦りながら起き上がると、茂斗は「眠いならさっさと部屋行けよ」ってドアを開けて僕を追い出すスタンスを取ってくれる。
きっとさっきまでならそれに噛みついちゃってただろうけど、今は腹立たしさより眠気の方が上だから、茂斗の言葉に従ってふらふらとした足取りで脱衣所を後にした。
「壁、ぶつかるなよ」
「んー……」
背中から聞こえる言葉に唸り声で返事をして、僕は殆ど開いていない目で廊下を歩く。
きっと昨日までならこのまま部屋に直行してただろうけど、どんなに眠くてもリビングに向かうのは、やっぱり不安だから。
(虎君にも断られたらソファで寝よ……)
自分の部屋で眠りたくない。一人で眠りたくない。
だから、もし虎君に添い寝を断れたら僕はリビングのソファで眠ろうと一人頷いた。きっと日付が変わるまで父さんは起きてるし、お弁当の準備で母さんは早く起きてくるに違いないから、数時間耐えれば部屋よりもずっと安心して眠れると思ったから。
(でも、虎君なら絶対『いいよ』って言ってくれるよね?)
絶対的な信頼。僕が虎君に持っている感情は、そうたとえるのが一番しっくりしてる気がする。
(早く虎君の部屋に行って眠りたいな……)
そんなことを考えならも壁伝いに歩いていれば、程なくしてたどり着いたリビング。僕は力の入らない手で何とかドアを開けた。
すると、そこには珍しい光景が。
「今日の着替えだけでいいから」
「明日の授業の準備はいいの?」
「それは明日の朝取りに寄るからいい」
「あっそ。分かったわ。なら本当に着替えだけでいいのね」
何故かコートに袖を通す姉さんと、そんな姉さんに鍵を手渡している虎君。
その様子は昔みたいに仲がよさそうで、何してるのかな? ってちょっとだけ目が覚めた。
「悪いな。頼んだ」
「別にいいわよこれぐらい。ただし『約束』は守りなさいよ?」
「念を押されなくても分かってる。ほら、さっさと行けよ。陽琥さん車回してくれてんだろ」
姉さんを邪険にしながらも、でも虎君の声は朗らか。きっと笑ってるんだろうなって顔を見なくても分かった。
そんな虎君に姉さんも昔みたいに笑い返してて、踵を返して玄関へと向かおうとした。
「! あ、葵!」
リビングを出て行こうとした姉さんだけど、僕を見つけて手を振ってれる。それに虎君は僕を振り返って、「ちゃんと温まったか?」って笑いかけてくれた。
僕は眠い目を擦りながら頷いて、虎君と姉さんのもとに歩いて行く。何処か行くの? って聞きながら。
「虎、今日泊まりなんでしょ? 着替え持ってきてないって言うから取りに行くのよ」
「え? 二人で?」
「そうよ。私と陽琥さんとで行ってくるわね」
僕は『姉さんと虎君』って意味で『二人』って聞いたのに、姉さんから返ってくるのは陽琥さんと一緒にと言う言葉。虎君の家に着替えを取りに行くのにどうして虎君が入ってないんだろう? って僕が不思議に思うのは、まぁ当然だった。
茂斗が僕の髪を乾かし始めて僅か数分後、僕は重い瞼を持ち上げることができず、半分寝入りそうになっていた。
きっとそんな僕の様子は鏡のせいで茂斗にはバレバレなんだろうな。ドライヤーの温風に混じって何か話しかけられてる気がするもん。
(うぅ……眠いぃ……)
かろうじて意識を保ってるけど、今すぐベッドに横になってこの心地よい睡魔に身を任せたい。だって今なら最高に気持ちよく眠れそうだから。
でもそう思ってもここはお風呂場。心地よい眠気を保ったままベッドにたどり着くにはちょっと距離がありすぎる。
(ここで寝たら部屋まで連れて行ってくれないかなぁ……)
茂斗は無理でも、虎君か父さんを呼んできてくれる気がするしこのまま寝てもいいかも?
なんて、そんなこと考えるけど、座ったまま眠るなんて器用なことはできなくて生殺し状態。
それでもうとうとしてる僕だけど、止まった送風に至福の時間が終わったことを知った。
「起きろ、葵」
ぽんぽんって頭を叩いて僕に覚醒を促す茂斗。僕はそれに目を閉じたまま「うー……」って唸り声を返してみる。
眠気はピーク。もう耐えられない。
「おい、起きろって」
洗面台に突っ伏す様に頭を下げる僕は、このまま寝たいってアピールしてみる。
でも茂斗はやっぱり茂斗で、「甘えんな」って僕の髪を撫でていた手で頭を叩いてきた。
大して力は入ってなかったけど、全身から力が抜けてる僕はその反動で洗面台におでこをぶつけてしまって……。
「いたい……」
ゴンって音がして、鈍い痛みに少しだけ意識が戻る。
おでこを擦りながら起き上がると、茂斗は「眠いならさっさと部屋行けよ」ってドアを開けて僕を追い出すスタンスを取ってくれる。
きっとさっきまでならそれに噛みついちゃってただろうけど、今は腹立たしさより眠気の方が上だから、茂斗の言葉に従ってふらふらとした足取りで脱衣所を後にした。
「壁、ぶつかるなよ」
「んー……」
背中から聞こえる言葉に唸り声で返事をして、僕は殆ど開いていない目で廊下を歩く。
きっと昨日までならこのまま部屋に直行してただろうけど、どんなに眠くてもリビングに向かうのは、やっぱり不安だから。
(虎君にも断られたらソファで寝よ……)
自分の部屋で眠りたくない。一人で眠りたくない。
だから、もし虎君に添い寝を断れたら僕はリビングのソファで眠ろうと一人頷いた。きっと日付が変わるまで父さんは起きてるし、お弁当の準備で母さんは早く起きてくるに違いないから、数時間耐えれば部屋よりもずっと安心して眠れると思ったから。
(でも、虎君なら絶対『いいよ』って言ってくれるよね?)
絶対的な信頼。僕が虎君に持っている感情は、そうたとえるのが一番しっくりしてる気がする。
(早く虎君の部屋に行って眠りたいな……)
そんなことを考えならも壁伝いに歩いていれば、程なくしてたどり着いたリビング。僕は力の入らない手で何とかドアを開けた。
すると、そこには珍しい光景が。
「今日の着替えだけでいいから」
「明日の授業の準備はいいの?」
「それは明日の朝取りに寄るからいい」
「あっそ。分かったわ。なら本当に着替えだけでいいのね」
何故かコートに袖を通す姉さんと、そんな姉さんに鍵を手渡している虎君。
その様子は昔みたいに仲がよさそうで、何してるのかな? ってちょっとだけ目が覚めた。
「悪いな。頼んだ」
「別にいいわよこれぐらい。ただし『約束』は守りなさいよ?」
「念を押されなくても分かってる。ほら、さっさと行けよ。陽琥さん車回してくれてんだろ」
姉さんを邪険にしながらも、でも虎君の声は朗らか。きっと笑ってるんだろうなって顔を見なくても分かった。
そんな虎君に姉さんも昔みたいに笑い返してて、踵を返して玄関へと向かおうとした。
「! あ、葵!」
リビングを出て行こうとした姉さんだけど、僕を見つけて手を振ってれる。それに虎君は僕を振り返って、「ちゃんと温まったか?」って笑いかけてくれた。
僕は眠い目を擦りながら頷いて、虎君と姉さんのもとに歩いて行く。何処か行くの? って聞きながら。
「虎、今日泊まりなんでしょ? 着替え持ってきてないって言うから取りに行くのよ」
「え? 二人で?」
「そうよ。私と陽琥さんとで行ってくるわね」
僕は『姉さんと虎君』って意味で『二人』って聞いたのに、姉さんから返ってくるのは陽琥さんと一緒にと言う言葉。虎君の家に着替えを取りに行くのにどうして虎君が入ってないんだろう? って僕が不思議に思うのは、まぁ当然だった。
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