39 / 552
特別な人
特別な人 第38話
しおりを挟む
陽琥さんを待たせてるからって言って姉さんは笑顔でリビングから出て行ってしまった。僕は虎君の隣でそれを見送ったものの、虎君は嫌じゃないのかな? って考えてしまう。
僕だったら、自分のいない時に女の子が部屋に入るなんてちょっと嫌だって思っちゃうから。たとえそれが気心知れた幼馴染でも、嫌なものは嫌だった。
「……虎君は行かなくてよかったの?」
「え? だって葵、もう寝るだろ?」
尋ねたら、尋ね返された。着替え取りに家に戻ってたらその分寝るの遅くなるぞ? って。
その言葉に、僕がお願いしなくても虎君は一緒に寝てくれるつもりなんだって分かって嬉しくなる。
「虎君が帰ってくるまでなら頑張って待つよ?」
「強がってもすぐ嘘だってバレるぞ? 葵、今自分がどんな顔してるか分かってる?」
だから一緒に行っていいよってつもりで言ったんだけど、虎君は僕のほっぺたに手を添えると、
「今すぐにでも寝たいって顔してる」
って目尻を下げて笑って見せた。
お風呂上りで温まっている僕の身体。だから、顔も同じように熱い。火照ったほっぺたに虎君の手は冷たくて、気持ちよかった。
僕は虎君の掌に顔を預ける様に摺り寄せると、そのまま目を閉じて僕を誘う眠気に意識を傾けた。
「眠い?」
「うん……」
聞こえる笑い声。でも、目を開けることがもうできない。
このまま寝そうな僕に虎君は「もうちょっと頑張れ」って肩を抱いて歩き出す。
はっきりしない視界で歩くのは凄く危ないって分かってる。けど今は全然怖くない。だって虎君が傍にいてくれるから。
「葵、もう寝るの? ご飯食べてないでしょ?」
「明日食べる……」
半分寝そうになりながら歩く僕に届く母さんの声。そういえば僕、夕飯食べてなかったっけ。
でも、外で食事してきたのにわざわざ僕達の為に夕飯を用意してくれた母さんには申し訳ないけど、おなかは全然空いてなかった。
僕は重い瞼を持ち上げてぼんやりする視界に母さんを探す。そしたら、その顔があまりにも眠そうだったからか、母さんは「早く寝なさい」って笑い声を返してきた。
「うん……。おやすみ……」
僕は虎君の傍から離れてふらふらと母さんのもとに歩くと、その頬っぺたにちゅっとキスをする。母さんもいい夢を見てねってキスを返してくれて、そのままぎゅっと抱きしめてくれる。
お風呂上がりだからか母さんは良い匂い。眠くて回らない頭ながらも、ふわふわの毛布にくるまれてるみたいに心地よくて、やっぱり母さんは僕の母さんなんだなって思った。
「ちゃいにぃ、めのうもー!」
「んー。めのう、おやすみ」
「おやすみなさーい!」
ズボンを引っ張るめのうに、僕は母さんから身体を放して身を屈める。母さんにしたようにめのうのふにふにのほっぺたにチュッとキスすれば、母さんよりも唇寄りにキスを返してくる妹。
小さな体をぎゅっと抱きしめてやれば、めのうは幼いながらもぎゅーって抱きしめ返してきて、愛しい。
背中をポンポンって叩いてめのうも早く寝る様に促すのは妹がまだ小学生にもなっていないせい。返ってくるのは元気な声と頷きで、僕はそのままめのうから離れて目をこする、
「父さん……」
「分かった分かった」
そろそろ限界だよぉ……。って唸りながらも父さんを呼んだら、父さんは僕の額にチュッとキスを落としてくれる。「おやすみ」って安心できる声と一緒に。
僕は最後に父さんに抱き着いて、「おやすみなさい」って締まりない顔で笑う。
「虎、葵の事頼んだぞ」
「もちろん。……ほら、葵、行こうな?」
父さんに抱き着いて眠りに落ちそうな僕の肩に虎君の手が添えられて、僕はその手に抗うこともせず虎君の腕の中に戻ると何度も何度も目をこすった。気を抜くと今にも寝てしまいそうで。
「こら、そんなに擦るなよ。目が傷つくぞ」
「だって寝そうなんだもん……」
「分かったから、もう部屋行こうな?」
眠いと人は子どもに戻るのかもしれない。僕は赤ちゃんみたいに眠いとぐずって虎君にしがみつく。
虎君はそんな僕に笑いながら、部屋へと僕を促してくれる。
壁にぶつからないようにとか、階段を踏み外さないようにとか、至れり尽くせりで僕の面倒を見てくれる虎君は本当に優しい。
「ほら、葵。部屋着いたぞ」
「ベッドぉ……」
「はいはい。ちょっと我慢な」
僕の目はもう完全に閉じていた。だから部屋についても、ベッドに辿り着けない。
ベッドに連れてってと虎君にお願いしたら、また聞こえる笑い声。でも、笑いながらも虎君は僕を抱き上げてベッドに寝かせてくれる。
「おやすみ、葵」
「おやすみ、虎君……」
頭を撫でてくれる虎君の息遣いを間近に感じる。だから僕は虎君に抱き着いて、その頬っぺたに『ありがとう』って意味を込めてキスを贈るんだ。
僕だったら、自分のいない時に女の子が部屋に入るなんてちょっと嫌だって思っちゃうから。たとえそれが気心知れた幼馴染でも、嫌なものは嫌だった。
「……虎君は行かなくてよかったの?」
「え? だって葵、もう寝るだろ?」
尋ねたら、尋ね返された。着替え取りに家に戻ってたらその分寝るの遅くなるぞ? って。
その言葉に、僕がお願いしなくても虎君は一緒に寝てくれるつもりなんだって分かって嬉しくなる。
「虎君が帰ってくるまでなら頑張って待つよ?」
「強がってもすぐ嘘だってバレるぞ? 葵、今自分がどんな顔してるか分かってる?」
だから一緒に行っていいよってつもりで言ったんだけど、虎君は僕のほっぺたに手を添えると、
「今すぐにでも寝たいって顔してる」
って目尻を下げて笑って見せた。
お風呂上りで温まっている僕の身体。だから、顔も同じように熱い。火照ったほっぺたに虎君の手は冷たくて、気持ちよかった。
僕は虎君の掌に顔を預ける様に摺り寄せると、そのまま目を閉じて僕を誘う眠気に意識を傾けた。
「眠い?」
「うん……」
聞こえる笑い声。でも、目を開けることがもうできない。
このまま寝そうな僕に虎君は「もうちょっと頑張れ」って肩を抱いて歩き出す。
はっきりしない視界で歩くのは凄く危ないって分かってる。けど今は全然怖くない。だって虎君が傍にいてくれるから。
「葵、もう寝るの? ご飯食べてないでしょ?」
「明日食べる……」
半分寝そうになりながら歩く僕に届く母さんの声。そういえば僕、夕飯食べてなかったっけ。
でも、外で食事してきたのにわざわざ僕達の為に夕飯を用意してくれた母さんには申し訳ないけど、おなかは全然空いてなかった。
僕は重い瞼を持ち上げてぼんやりする視界に母さんを探す。そしたら、その顔があまりにも眠そうだったからか、母さんは「早く寝なさい」って笑い声を返してきた。
「うん……。おやすみ……」
僕は虎君の傍から離れてふらふらと母さんのもとに歩くと、その頬っぺたにちゅっとキスをする。母さんもいい夢を見てねってキスを返してくれて、そのままぎゅっと抱きしめてくれる。
お風呂上がりだからか母さんは良い匂い。眠くて回らない頭ながらも、ふわふわの毛布にくるまれてるみたいに心地よくて、やっぱり母さんは僕の母さんなんだなって思った。
「ちゃいにぃ、めのうもー!」
「んー。めのう、おやすみ」
「おやすみなさーい!」
ズボンを引っ張るめのうに、僕は母さんから身体を放して身を屈める。母さんにしたようにめのうのふにふにのほっぺたにチュッとキスすれば、母さんよりも唇寄りにキスを返してくる妹。
小さな体をぎゅっと抱きしめてやれば、めのうは幼いながらもぎゅーって抱きしめ返してきて、愛しい。
背中をポンポンって叩いてめのうも早く寝る様に促すのは妹がまだ小学生にもなっていないせい。返ってくるのは元気な声と頷きで、僕はそのままめのうから離れて目をこする、
「父さん……」
「分かった分かった」
そろそろ限界だよぉ……。って唸りながらも父さんを呼んだら、父さんは僕の額にチュッとキスを落としてくれる。「おやすみ」って安心できる声と一緒に。
僕は最後に父さんに抱き着いて、「おやすみなさい」って締まりない顔で笑う。
「虎、葵の事頼んだぞ」
「もちろん。……ほら、葵、行こうな?」
父さんに抱き着いて眠りに落ちそうな僕の肩に虎君の手が添えられて、僕はその手に抗うこともせず虎君の腕の中に戻ると何度も何度も目をこすった。気を抜くと今にも寝てしまいそうで。
「こら、そんなに擦るなよ。目が傷つくぞ」
「だって寝そうなんだもん……」
「分かったから、もう部屋行こうな?」
眠いと人は子どもに戻るのかもしれない。僕は赤ちゃんみたいに眠いとぐずって虎君にしがみつく。
虎君はそんな僕に笑いながら、部屋へと僕を促してくれる。
壁にぶつからないようにとか、階段を踏み外さないようにとか、至れり尽くせりで僕の面倒を見てくれる虎君は本当に優しい。
「ほら、葵。部屋着いたぞ」
「ベッドぉ……」
「はいはい。ちょっと我慢な」
僕の目はもう完全に閉じていた。だから部屋についても、ベッドに辿り着けない。
ベッドに連れてってと虎君にお願いしたら、また聞こえる笑い声。でも、笑いながらも虎君は僕を抱き上げてベッドに寝かせてくれる。
「おやすみ、葵」
「おやすみ、虎君……」
頭を撫でてくれる虎君の息遣いを間近に感じる。だから僕は虎君に抱き着いて、その頬っぺたに『ありがとう』って意味を込めてキスを贈るんだ。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
リンドグレーン大佐の提案
高菜あやめ
BL
軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部のカリスマ軍師リンドグレーン大佐から持ちかけられた『ある提案』に応じ、一晩その身をゆだねる。
一夜限りの関係かと思いきや、大佐はそれ以降も執拗に彼に構い続け、次第に独占欲をあらわにしていく。
叩き上げの下士官と、支配欲を隠さない上官。上下関係から始まる、甘くて苛烈な攻防戦。
【支配系美形攻×出世欲強めな流され系受】
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる