特別な人

鏡由良

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大切な人

大切な人 第24話

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「ほんと、ラブラブでよかったね。……ムカつく」
「本音駄々洩れだな、慶史」
 振り返れば、ムスッとした表情の慶史が。
 その隣でそんな不機嫌になるなよって宥めてる悠栖が居て、僕は苦笑交じりながらも「みんなのおかげだよ」って笑った。
「みんなが僕の間違いに気づかせてくれたから」
「間違いって言うか、『勘違い』な」
「そうだね。勘違い、だね。……茂斗」
「ん? なんだ?」
「慶史も、悠栖も朋喜も、ありがとう。みんなが居てくれたから、僕、今凄く幸せだよ」
 改めて思う。
 僕を支えてくれた親友達、そして、僕のフォローに徹してくれた茂斗が居なかったら、僕はきっと今こうやって笑っていられなかっただろう。
 だから、改めて感謝の気持ちを伝えないとと思ったんだ。
 僕は4人に向かって頭を下げ、本当にありがとう。って伝えた。『ありがとう』としか言えないことが歯がゆいって思いながら。
「お礼なんて要らないよ。葵君に笑顔が戻っただけで僕達は嬉しいんだから。ね?」
「おう! 正直男同士ってところはまだ引っかかってるけど、でもマモが幸せならそれでいい!」
「葵には能天気にへらへら笑っててもらわないとこっちの調子が狂うんだよね」
 慶史は僕の頬っぺたを両手で挟むと、そのままむにむに頬っぺたを摘んで遊んでくる。
 痛くはないけど喋り辛いから僕は何も言わず慶史にされるがままだ。
「泣かされたら、すぐに言いなよ? ううん、泣かされなくても、少しでも辛いって感じたらすぐに報告すること!」
「う、うん。分かった」
「絶対だからね?」
 不安に思うことがあったら全部相談して。
 そう言ってくる慶史の圧に押されて頷いたら、朋喜は「何するつもりなの……」って呆れ声を出してた。
「どうせお兄さんに報復とか考えてるんだろうけど、そう言うの余計なお世話だからね?」
「報復何てしないし。ただ葵が傍にいて当然とか思いあがった考え抱きやがったら分からせてやるだけだよ」
「分からせるだけにしては凶悪な顔して……。全然説得力無いからね?」
 怖いから何をするつもりかは聞かない。
 朋喜は僕の肩を叩くと、相談する内容と相手は良く選んでね。とアドバイスをくれた。
「ありがとう、朋喜。……本当は瑛大にもお礼、言いたかったんだけどな……」
 お礼を言う前に帰ってしまった大切な幼馴染。幸せになるための切欠を作ってくれたのは瑛大なのに、僕は未だにお礼も何も言えていない。
 それが悲しくてうまく笑えない僕。
 悠栖と朋喜は僕の心情を察してかかける言葉を探すように黙ってしまって……。
「結城のことは放っておけって言ったでしょ」
「! でも―――」
「どうせ茂斗や先輩がフォローしてるだろうし、葵は気にしなくていいの」
「藤原の言う通り、今は瑛大のことは放っておいてやれよ。……でも藤原、さっきも言ったけどお前はもう少し瑛大に優しくしてやれ。あいつ、お前のことめちゃくちゃ好きだから」
「はぁ? 何処が!?」
 顔を合わせば顰め面で嫌味ばっかりなんですけど!?
 そう噛みつく慶史に茂斗は深い溜息を吐いた。全然わかってねぇーな。と。
「あいつがなんでゼウスに戻ってこなかったか、ちょっとは考えろ」
「? 何その言い方。俺のため、とでも言いたいの?」
「それ以外ねぇーだろうが。葵がゼウスに戻ってくるはずだったから、虎は瑛大にクライストからの外部受験の面倒見るって提案してたんぞ」
 茂斗の話は僕も初耳だ。
 慶史と同じく驚く僕に、茂斗は話を続ける。瑛大は虎君からの提案に感謝しつつもクライストに残ると言い、その理由は口にしなかったらしい。
「っ、理由言ってないのに想像しすぎでしょ」
「そうだな。これは全部俺の想像だな」
 慶史は信じないと頑な。茂斗はそれに押しても無駄だと察したのか、肩を竦ませ引いた態度を見せた。
「それでも、瑛大は瑛大なりに必死なんだってことは分かっとけよ。……元親友だろう?」
「っ―――、その顔、ムカつく」
「罵倒の語録が貧相になってんぞ」
 茂斗の言葉は慶史の、僕の胸に突き刺さる。
 僕達が持つどうしても言えない『秘密』と、その秘密により傷ついた『幼馴染』。
 壁を作り去ったと思っていた『親友』は、本当は去ってなどいなかったのかもしれない……。
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