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大切な人
大切な人 第25話
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瑛大の気持ちを考えると、心が痛くなって泣きそうになる。
それでも今この場で泣くわけにはいかないから唇を噛みしめ痛みに耐え顔を上げれば、綺麗な顔を歪める慶史が居て、慶史も僕と同じ気持ちなのかもしれないと思った。
「ま、俺の言いたいことはそんだけだ」
「! ど、何処行くの?」
「庭で花見してる。母さん達が帰ってきたら戻って来るから」
言いたいことを言えてスッキリしたと茂斗。
そのまま凪ちゃんの手を引いてリビングを後にする後ろ姿を眺め、ドアがバタンと閉まると同時に慶史が「ムッカツク……」とその場に蹲る。
「慶史……」
「分かってるし。結城の態度は、当然だって分かってるしっ……」
突っかかって行ってるのはむしろ自分の方だということも分かっている。
そう声を絞り出す慶史に、僕は「そうだね」って力なく笑った。
「マモと慶史と結城ってかなり訳ありっぽいな?」
「付き合いが長いとそういう事もあるんじゃない?」
「そういうもんなのか?」
「そういうものじゃない? 悠栖だって『色々』あるでしょ?」
深く追求をしてこない悠栖と朋喜に救われる思いだ。
朋喜の意味深な言葉に悠栖は「色々?」ときょとんとした声を返す。僕ですら朋喜が明言しなかった『色々』が何を指すか分かったのに、当の本人は墓穴をいそいそと掘るように「何それ?」と明言を求めた。
「本当に知りたい?」
「え? 何? こえぇんだけど」
「お前の幼馴染は誰だよ? 朋喜と、ん? 誰だ?」
すくっと立ち上がった慶史は通常運転。いや、気まずさを隠したくて悠栖に突っかかってるからちょっと違うか……。
「え、それ、は……」
「上野。あいつ、お前の幼馴染だろ? 今も仲良しこよしか? 言ってみ?」
「ち、違う……」
慶史の容赦ない問いかけに古傷を抉られて悶絶する悠栖。
幼馴染だからといって何年たっても仲が良いなんて絶対じゃない。傍にいる時間が長いからこそのわだかまりだってあるというものだ。
そう。例えば、相手にどうしても言えない秘密を抱えてしまったり、相手を好きになってしまったり。と。
「あー……、くっそ、茂斗のせいでめちゃくちゃ気持ちが滅入った!」
「俺はお前のせいで滅入った……」
綺麗に梳かれた髪を掻きむしって荒れる慶史と、胃が痛いと身を屈める悠栖。
僕と朋喜は顔を見合わせ苦笑いだ。
「はいはい。滅入った気持ちも胃が痛い思いも今日は全部聞いてあげるよ。なんと言っても今日は楽しいお泊り会なんだから」
「そうだね。いっぱい、いっぱい喋ろう」
手を叩いてこの場の空気を変えてくれる朋喜は頼りになる。
僕は朋喜の声に頷きを返し、楽しいことも悲しいこともいっぱい喋って良い一日にしようと笑った。
「……分かったよ。四人で集まって喋るのもこれが最後かもしれないしね!」
「慶史君って本当、嫌なこと言うよね」
「本当だよ! クラスが離れても僕はみんなのところに遊びに行くからね!?」
「あああっ、そっか! クラス替えかっ! くっそ! ヒデとはクラス離れますようにっ!!」
中学三年間は運よく四人とも同じクラスだったけど、次も一緒かは分からない。むしろ三年間ずっと一緒だったから離れる方が可能性は高いと思う。
僕は離れても親友だからね! って三人に訴える。だから三人も僕の友達でいてね? と。
「大丈夫だよ、葵と朋喜と俺は一緒のクラスで、悠栖は上野と一緒のクラスだよ」
「! 止めろ! マジで止めろ! 洒落になんねぇーよ!」
教室に居辛いとか不登校になるぞ!
悠栖はそう言うけど、寮生が不登校になるのはちょっと難しいんじゃないかなぁ……。
「そんなに嫌なの? 上野君とクラスメイトになるの」
「あからさまに目を背けられたり無視されたりするのを耐え続けろって言うのかよ!? ただでさえ部活で顔合わすだろうから憂鬱なのに!」
そんなの無理だ! 拷問だ!!
そう打ちひしがれる悠栖だけど、拷問だと思うのはむしろ上野君の方じゃ……? なんて思ってしまう僕。
「いや、自分を振った相手と四六時中一緒に居なくちゃいけない上野の方が悲劇でしょ、どう考えても」
(だよね)
慶史の突っ込みは的確で、朋喜もそれに同意とばかりに「振った相手にウジウジ気にされてるとかフラれた方は本当に惨めだよね」と追い打ちをかけた。
それでも今この場で泣くわけにはいかないから唇を噛みしめ痛みに耐え顔を上げれば、綺麗な顔を歪める慶史が居て、慶史も僕と同じ気持ちなのかもしれないと思った。
「ま、俺の言いたいことはそんだけだ」
「! ど、何処行くの?」
「庭で花見してる。母さん達が帰ってきたら戻って来るから」
言いたいことを言えてスッキリしたと茂斗。
そのまま凪ちゃんの手を引いてリビングを後にする後ろ姿を眺め、ドアがバタンと閉まると同時に慶史が「ムッカツク……」とその場に蹲る。
「慶史……」
「分かってるし。結城の態度は、当然だって分かってるしっ……」
突っかかって行ってるのはむしろ自分の方だということも分かっている。
そう声を絞り出す慶史に、僕は「そうだね」って力なく笑った。
「マモと慶史と結城ってかなり訳ありっぽいな?」
「付き合いが長いとそういう事もあるんじゃない?」
「そういうもんなのか?」
「そういうものじゃない? 悠栖だって『色々』あるでしょ?」
深く追求をしてこない悠栖と朋喜に救われる思いだ。
朋喜の意味深な言葉に悠栖は「色々?」ときょとんとした声を返す。僕ですら朋喜が明言しなかった『色々』が何を指すか分かったのに、当の本人は墓穴をいそいそと掘るように「何それ?」と明言を求めた。
「本当に知りたい?」
「え? 何? こえぇんだけど」
「お前の幼馴染は誰だよ? 朋喜と、ん? 誰だ?」
すくっと立ち上がった慶史は通常運転。いや、気まずさを隠したくて悠栖に突っかかってるからちょっと違うか……。
「え、それ、は……」
「上野。あいつ、お前の幼馴染だろ? 今も仲良しこよしか? 言ってみ?」
「ち、違う……」
慶史の容赦ない問いかけに古傷を抉られて悶絶する悠栖。
幼馴染だからといって何年たっても仲が良いなんて絶対じゃない。傍にいる時間が長いからこそのわだかまりだってあるというものだ。
そう。例えば、相手にどうしても言えない秘密を抱えてしまったり、相手を好きになってしまったり。と。
「あー……、くっそ、茂斗のせいでめちゃくちゃ気持ちが滅入った!」
「俺はお前のせいで滅入った……」
綺麗に梳かれた髪を掻きむしって荒れる慶史と、胃が痛いと身を屈める悠栖。
僕と朋喜は顔を見合わせ苦笑いだ。
「はいはい。滅入った気持ちも胃が痛い思いも今日は全部聞いてあげるよ。なんと言っても今日は楽しいお泊り会なんだから」
「そうだね。いっぱい、いっぱい喋ろう」
手を叩いてこの場の空気を変えてくれる朋喜は頼りになる。
僕は朋喜の声に頷きを返し、楽しいことも悲しいこともいっぱい喋って良い一日にしようと笑った。
「……分かったよ。四人で集まって喋るのもこれが最後かもしれないしね!」
「慶史君って本当、嫌なこと言うよね」
「本当だよ! クラスが離れても僕はみんなのところに遊びに行くからね!?」
「あああっ、そっか! クラス替えかっ! くっそ! ヒデとはクラス離れますようにっ!!」
中学三年間は運よく四人とも同じクラスだったけど、次も一緒かは分からない。むしろ三年間ずっと一緒だったから離れる方が可能性は高いと思う。
僕は離れても親友だからね! って三人に訴える。だから三人も僕の友達でいてね? と。
「大丈夫だよ、葵と朋喜と俺は一緒のクラスで、悠栖は上野と一緒のクラスだよ」
「! 止めろ! マジで止めろ! 洒落になんねぇーよ!」
教室に居辛いとか不登校になるぞ!
悠栖はそう言うけど、寮生が不登校になるのはちょっと難しいんじゃないかなぁ……。
「そんなに嫌なの? 上野君とクラスメイトになるの」
「あからさまに目を背けられたり無視されたりするのを耐え続けろって言うのかよ!? ただでさえ部活で顔合わすだろうから憂鬱なのに!」
そんなの無理だ! 拷問だ!!
そう打ちひしがれる悠栖だけど、拷問だと思うのはむしろ上野君の方じゃ……? なんて思ってしまう僕。
「いや、自分を振った相手と四六時中一緒に居なくちゃいけない上野の方が悲劇でしょ、どう考えても」
(だよね)
慶史の突っ込みは的確で、朋喜もそれに同意とばかりに「振った相手にウジウジ気にされてるとかフラれた方は本当に惨めだよね」と追い打ちをかけた。
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