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大切な人
大切な人 第27話
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姉さん達が買い物から帰ってきたのは、それから少し経った頃だった。
姉さん達の帰宅に庭に出ていた茂斗と凪ちゃんも室内に戻ってきて、リビングにみんないると結構な圧迫感。
でも、それでも姉さん達は何故か慶史達と喋りたいと僕達をリビングから出してくれなくて、結局夕方虎君達が家に戻って来るまでリビングで過ごすことになった。
沢山喋って、笑って、凄く楽しい時間を過ごしたからか、あっという間に時間が過ぎていったと感じたのは僕だけじゃない。
夕食時になったことに悠栖も朋喜も驚いていたから、みんなそれなりに楽しい時間を過ごしてくれていたのだろう。
食事を終えた後、お風呂に入ってもうひと喋りと思っていた僕だけど、
移動にお喋りにと疲れてしまったのか、9時を過ぎるころには悠栖が舟を漕ぎだして、朋喜もそろそろ寝ようと欠伸を見せた。
だから、名残惜しいと思いながらも、僕達はまた明日とそれぞれの部屋に分かれた。
でも僕は楽しいひと時から熱が冷めなかったのか、何故かなかなか寝付けない。
何度も寝返りをうってベッドでもぞもぞしていたけれど、時間だけが過ぎて睡魔は一向に現れなかったのだ。
(ダメだ……、眠れない……)
頑張ったけど、眠れないものは眠れない。
僕はこの高ぶった気持ちを落ち着かせるために何か暖かい飲み物を飲もうとベッドを降り、部屋を後にした。
きっとみんな今頃眠っているはず。だから、普通に歩いて足音が響くわけじゃないけれど、ゆっくり足音を消して歩いてしまうのは仕方ない。
薄暗い廊下を歩き、階段を降りようとした僕は廊下の先に人影を見つけた。それは後ろ姿だったけど、慶史だとすぐに分かった。
(眠れないのかな……)
昼間、楽しそうに笑って軽口を口にしていた慶史だけど、その心が表情と一致していないだろうことは良く知っていた。
だから、もしかしたら昼間慶史は無理をしていたのかもしれないと僕は不安を覚えてしまう。
静かな夜。このまま一人にしてあげるべきか数分悩んだけれど、僕は階段を降りかけていた足を止め、踵を返した。
(こんな時間にあんな所にいるとか、何か不安になってるのかもしれないし……!)
一人になりたいのなら、部屋のバルコニーで十分のはず。
それなのにわざわざ廊下奥のバルコニーに居ると言うことは、一人になりたくないからに違いない。
僕は早く慶史のもとに行かなくちゃと足早に廊下を歩いた。
でも、その足は途中で止まってしまった。
何故なら、近づいて分かったんだ。慶史が何か喋ってるって。そして、角度的に見えていなかったけど慶史の他に誰かいるって気づいたんだ。
(誰……?)
僕は思わず固唾をのみ、慶史に気づかれないようになるべく気配を消して近づいた。一体慶史は誰と話しているのだろう。と。
「ねぇ、いい加減俺のことは放っておいてくれない? 今はあんたと楽しくお喋りする気分じゃないんだからさ」
不機嫌な声色と口調に息が止まる。
だって、慶史がこんな刺々しい喋り方をする相手、僕が知る限り一人しかいない。
「そう言うなら、部屋に戻れ。こんな場所で一人たそがれているとか声を掛けられるのを待っているようなもんだろう?」
慶史の後に聞こえる声。それは虎君のものだった。
僕は一瞬何が起こっているのか分からなくて頭が真っ白になる。どうして二人がこんなところで一緒に居るの? と、血の気が引く思いをした。
虎君は僕の恋人で、慶史は僕の親友。
二人はお世辞にも仲良しとは言えない関係なのに、どうして一緒に居るの……?
頭に巡るのは嫌な想像。
冷静に考えればそれらの想像全てあり得ないと分かることなのに、今の僕はそれが分からない程取り乱していた。
「別にあんたに声を掛けて欲しくて此処にいるわけじゃないし」
この一瞬の間に色んな想像を頭で繰り広げてしまった僕の耳に届く慶史の声は辛辣そのもので、その声は僕が今想像したすべての可能性を一瞬で否定してくれる。
(そうだよ。二人が僕を傷つけること、するわけないじゃないっ……)
冷静さが戻ってきた頭。
浅い呼吸を繰り返して胸元で手を握る僕は、それでも二人の様子を窺ってしまう。
「その言葉を聞いてなおさら放っておけないな」
「……別に葵を待ってるだなんて言ってないんですけど」
「そうだな。でも、限りなくそれに近い感じがするから藤原が部屋に戻るまで付き合わせてもらうぞ」
慶史の忌々しいと言いたげな声と虎君の抑揚のない声。
二人の仲が一日二日で修復できるとは思っていないけど、明らかにいがみ合っていると感じる声色に二人に仲良くして欲しいと望むのは無理なのかと思ってしまう。
僕は初めて聞いた虎君の声に心臓がドキドキと早く鼓動しているのを感じながら、これが不安によるものなのかどうかわからないでいた。
「あんた、昼間の余裕は何処行ったのさ。葵はもうあんたの恋人なんだし威嚇はしないんじゃなかったの?」
「嫉妬はすると言っただろうが。恋人とライバルを二人きりにしてやれるほど俺はお人好しじゃないんだよ」
耳に届く言葉に、治まりかけていたドキドキが再発するのは仕方ない。
姉さん達の帰宅に庭に出ていた茂斗と凪ちゃんも室内に戻ってきて、リビングにみんないると結構な圧迫感。
でも、それでも姉さん達は何故か慶史達と喋りたいと僕達をリビングから出してくれなくて、結局夕方虎君達が家に戻って来るまでリビングで過ごすことになった。
沢山喋って、笑って、凄く楽しい時間を過ごしたからか、あっという間に時間が過ぎていったと感じたのは僕だけじゃない。
夕食時になったことに悠栖も朋喜も驚いていたから、みんなそれなりに楽しい時間を過ごしてくれていたのだろう。
食事を終えた後、お風呂に入ってもうひと喋りと思っていた僕だけど、
移動にお喋りにと疲れてしまったのか、9時を過ぎるころには悠栖が舟を漕ぎだして、朋喜もそろそろ寝ようと欠伸を見せた。
だから、名残惜しいと思いながらも、僕達はまた明日とそれぞれの部屋に分かれた。
でも僕は楽しいひと時から熱が冷めなかったのか、何故かなかなか寝付けない。
何度も寝返りをうってベッドでもぞもぞしていたけれど、時間だけが過ぎて睡魔は一向に現れなかったのだ。
(ダメだ……、眠れない……)
頑張ったけど、眠れないものは眠れない。
僕はこの高ぶった気持ちを落ち着かせるために何か暖かい飲み物を飲もうとベッドを降り、部屋を後にした。
きっとみんな今頃眠っているはず。だから、普通に歩いて足音が響くわけじゃないけれど、ゆっくり足音を消して歩いてしまうのは仕方ない。
薄暗い廊下を歩き、階段を降りようとした僕は廊下の先に人影を見つけた。それは後ろ姿だったけど、慶史だとすぐに分かった。
(眠れないのかな……)
昼間、楽しそうに笑って軽口を口にしていた慶史だけど、その心が表情と一致していないだろうことは良く知っていた。
だから、もしかしたら昼間慶史は無理をしていたのかもしれないと僕は不安を覚えてしまう。
静かな夜。このまま一人にしてあげるべきか数分悩んだけれど、僕は階段を降りかけていた足を止め、踵を返した。
(こんな時間にあんな所にいるとか、何か不安になってるのかもしれないし……!)
一人になりたいのなら、部屋のバルコニーで十分のはず。
それなのにわざわざ廊下奥のバルコニーに居ると言うことは、一人になりたくないからに違いない。
僕は早く慶史のもとに行かなくちゃと足早に廊下を歩いた。
でも、その足は途中で止まってしまった。
何故なら、近づいて分かったんだ。慶史が何か喋ってるって。そして、角度的に見えていなかったけど慶史の他に誰かいるって気づいたんだ。
(誰……?)
僕は思わず固唾をのみ、慶史に気づかれないようになるべく気配を消して近づいた。一体慶史は誰と話しているのだろう。と。
「ねぇ、いい加減俺のことは放っておいてくれない? 今はあんたと楽しくお喋りする気分じゃないんだからさ」
不機嫌な声色と口調に息が止まる。
だって、慶史がこんな刺々しい喋り方をする相手、僕が知る限り一人しかいない。
「そう言うなら、部屋に戻れ。こんな場所で一人たそがれているとか声を掛けられるのを待っているようなもんだろう?」
慶史の後に聞こえる声。それは虎君のものだった。
僕は一瞬何が起こっているのか分からなくて頭が真っ白になる。どうして二人がこんなところで一緒に居るの? と、血の気が引く思いをした。
虎君は僕の恋人で、慶史は僕の親友。
二人はお世辞にも仲良しとは言えない関係なのに、どうして一緒に居るの……?
頭に巡るのは嫌な想像。
冷静に考えればそれらの想像全てあり得ないと分かることなのに、今の僕はそれが分からない程取り乱していた。
「別にあんたに声を掛けて欲しくて此処にいるわけじゃないし」
この一瞬の間に色んな想像を頭で繰り広げてしまった僕の耳に届く慶史の声は辛辣そのもので、その声は僕が今想像したすべての可能性を一瞬で否定してくれる。
(そうだよ。二人が僕を傷つけること、するわけないじゃないっ……)
冷静さが戻ってきた頭。
浅い呼吸を繰り返して胸元で手を握る僕は、それでも二人の様子を窺ってしまう。
「その言葉を聞いてなおさら放っておけないな」
「……別に葵を待ってるだなんて言ってないんですけど」
「そうだな。でも、限りなくそれに近い感じがするから藤原が部屋に戻るまで付き合わせてもらうぞ」
慶史の忌々しいと言いたげな声と虎君の抑揚のない声。
二人の仲が一日二日で修復できるとは思っていないけど、明らかにいがみ合っていると感じる声色に二人に仲良くして欲しいと望むのは無理なのかと思ってしまう。
僕は初めて聞いた虎君の声に心臓がドキドキと早く鼓動しているのを感じながら、これが不安によるものなのかどうかわからないでいた。
「あんた、昼間の余裕は何処行ったのさ。葵はもうあんたの恋人なんだし威嚇はしないんじゃなかったの?」
「嫉妬はすると言っただろうが。恋人とライバルを二人きりにしてやれるほど俺はお人好しじゃないんだよ」
耳に届く言葉に、治まりかけていたドキドキが再発するのは仕方ない。
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