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大切な人
大切な人 第28話
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「葵は俺の全てだ。奪おうとする奴は―――」
「奪う奪わないの話じゃなくて、それを決めるのは葵でしょ。だいたい、俺相手に嫉妬してる暇あったらしっかり捕まえとけばいいだけの話じゃないの」
「俺に葵を監禁しろって言うのか?」
「! こっわ……。あんたのその執着に葵が早く気づくことを祈るよ、俺は」
身震いして見せる慶史は、埒が明かないとバルコニーの柵に預けていた身体を引いた。僕は慌てて死角を探し柱の陰に隠れて……。
「何処に行くんだ?」
「部屋に戻るんだよ。ちょっと気分転換するつもりだっただけなのにこのままじゃムカついて眠れなくなりそうだから。あ、部屋に入るのを確認するまで付け回すとか止めてくれる? ストーカーするのは葵だけにしてよね」
近づいてくる慶史の声。
僕は何故か気づかれちゃダメだと思って呼吸音すら殺そうと口を塞いだ。
「……分かってると思うけど、葵のこと泣かしたら殺すからね」
「そっくりそのまま返してやるよ。もしも葵を傷つけたら、死ぬより辛い目に遭うと思っとけ」
「怖い怖い。本性駄々洩れ。その顔葵に見られたら二度と笑いかけてもらえないんじゃない?」
「無駄口叩いてないでさっさと寝ろ」
「言われなくても」
辛辣な口調のやり取り。
近づいてくる影はやがて実体を見せ、僕に気づくことなく慶史は足早に廊下を歩くとそのまま部屋に戻って行った。
(慶史、ごめんね)
一度も振り返ることなく姿を消した慶史が心配。でも、それよりも今は……。
(虎君……)
隠れていた柱から顔を出しバルコニーへと視線を向ければ、見つけた姿。
少し前まで慶史が空を眺めていただろう場所で俯く虎君の後ろ姿に、胸が締め付けられる。
虎君が今何を思っているのか、分からない。
でも、あまり良いことじゃないということは分かるから、僕は吸い寄せられるようにバルコニーへと、虎君の背中へと歩き手を伸ばすんだ。
「! ま、葵……?」
ぎゅっと背中に抱き着いたら、驚いただろう虎君の身体がビクッと震えた。
でもすぐに僕だと分かってくれる大切な人は、抱き着いた僕の手に手を重ねてくれる。
「もしかして、聞いてた……?」
「うん……。ごめんなさい……」
僕の返答に虎君の身体が強張る。それは緊張から?
僕を誰よりも大切に想ってくれている虎君は、普段は凛とした大人の男の人。
でも、僕は知っている。虎君が実はとても臆病で怖がりなことを。そしてそうなってしまうのは決まって僕を想ってのことだということも……。
「俺が怖い……?」
「怖くないよ。……怖いなら、こんな風に思わないよ……」
さっきまでとは違い頼りない声。
僕はぎゅっと抱き着く腕に力を込めて伝えた。『怖い』と思っているのに抱き着いたりしないでしょ? と。
「虎君、大好き……」
「葵……」
疑う余地のないほど想ってくれるのが嬉しい。
そう伝えれば、虎君は僕の手を取るとしがみつく腕を緩めさせる。そして、振り返った虎君に抱きしめられる僕。
息を吸い込めば胸いっぱいに虎君の匂いで満たされて、夢見心地になってしまいそうだ。
「不安にさせてごめんね……? でも、慶史は友達だから心配しないでね……?」
「ああ。頭では分かってるよ。……でも、分かっててもどうしても、な……」
ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めてくる虎君。
僕はその腕の中、虎君の背中に手を回して同じようにぎゅっとしがみついて抱き着き返した。
「ねぇ虎君」
「ん? 何?」
顔を上げれば、目の前に優しい笑顔。
胸が締め付けられるというのはこういう時のことを言うんだと僕は体感しながらすこし頬を高揚させながら伝えた。ちょっぴり恥ずかしい本音を。
「僕がキスしたいって、キス、して欲しいって思うの、虎君だけだからね……?」
こうやってくっつきたいって思うのも、抱きしめて欲しいって思うのも、『特別』なことは全部虎君だけ。
だから、不安に思う気持ちは分かるけど、僕の気持ちを信じてね……?
「奪う奪わないの話じゃなくて、それを決めるのは葵でしょ。だいたい、俺相手に嫉妬してる暇あったらしっかり捕まえとけばいいだけの話じゃないの」
「俺に葵を監禁しろって言うのか?」
「! こっわ……。あんたのその執着に葵が早く気づくことを祈るよ、俺は」
身震いして見せる慶史は、埒が明かないとバルコニーの柵に預けていた身体を引いた。僕は慌てて死角を探し柱の陰に隠れて……。
「何処に行くんだ?」
「部屋に戻るんだよ。ちょっと気分転換するつもりだっただけなのにこのままじゃムカついて眠れなくなりそうだから。あ、部屋に入るのを確認するまで付け回すとか止めてくれる? ストーカーするのは葵だけにしてよね」
近づいてくる慶史の声。
僕は何故か気づかれちゃダメだと思って呼吸音すら殺そうと口を塞いだ。
「……分かってると思うけど、葵のこと泣かしたら殺すからね」
「そっくりそのまま返してやるよ。もしも葵を傷つけたら、死ぬより辛い目に遭うと思っとけ」
「怖い怖い。本性駄々洩れ。その顔葵に見られたら二度と笑いかけてもらえないんじゃない?」
「無駄口叩いてないでさっさと寝ろ」
「言われなくても」
辛辣な口調のやり取り。
近づいてくる影はやがて実体を見せ、僕に気づくことなく慶史は足早に廊下を歩くとそのまま部屋に戻って行った。
(慶史、ごめんね)
一度も振り返ることなく姿を消した慶史が心配。でも、それよりも今は……。
(虎君……)
隠れていた柱から顔を出しバルコニーへと視線を向ければ、見つけた姿。
少し前まで慶史が空を眺めていただろう場所で俯く虎君の後ろ姿に、胸が締め付けられる。
虎君が今何を思っているのか、分からない。
でも、あまり良いことじゃないということは分かるから、僕は吸い寄せられるようにバルコニーへと、虎君の背中へと歩き手を伸ばすんだ。
「! ま、葵……?」
ぎゅっと背中に抱き着いたら、驚いただろう虎君の身体がビクッと震えた。
でもすぐに僕だと分かってくれる大切な人は、抱き着いた僕の手に手を重ねてくれる。
「もしかして、聞いてた……?」
「うん……。ごめんなさい……」
僕の返答に虎君の身体が強張る。それは緊張から?
僕を誰よりも大切に想ってくれている虎君は、普段は凛とした大人の男の人。
でも、僕は知っている。虎君が実はとても臆病で怖がりなことを。そしてそうなってしまうのは決まって僕を想ってのことだということも……。
「俺が怖い……?」
「怖くないよ。……怖いなら、こんな風に思わないよ……」
さっきまでとは違い頼りない声。
僕はぎゅっと抱き着く腕に力を込めて伝えた。『怖い』と思っているのに抱き着いたりしないでしょ? と。
「虎君、大好き……」
「葵……」
疑う余地のないほど想ってくれるのが嬉しい。
そう伝えれば、虎君は僕の手を取るとしがみつく腕を緩めさせる。そして、振り返った虎君に抱きしめられる僕。
息を吸い込めば胸いっぱいに虎君の匂いで満たされて、夢見心地になってしまいそうだ。
「不安にさせてごめんね……? でも、慶史は友達だから心配しないでね……?」
「ああ。頭では分かってるよ。……でも、分かっててもどうしても、な……」
ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めてくる虎君。
僕はその腕の中、虎君の背中に手を回して同じようにぎゅっとしがみついて抱き着き返した。
「ねぇ虎君」
「ん? 何?」
顔を上げれば、目の前に優しい笑顔。
胸が締め付けられるというのはこういう時のことを言うんだと僕は体感しながらすこし頬を高揚させながら伝えた。ちょっぴり恥ずかしい本音を。
「僕がキスしたいって、キス、して欲しいって思うの、虎君だけだからね……?」
こうやってくっつきたいって思うのも、抱きしめて欲しいって思うのも、『特別』なことは全部虎君だけ。
だから、不安に思う気持ちは分かるけど、僕の気持ちを信じてね……?
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