特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第41話

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「と、虎君、苦しぃ……」
 力いっぱい抱きしめられて、虎君の腕の中で窒息しちゃいそうだ。
 僕は虎君の胸に埋められた顔をもぞもぞと動かし、なんとか空間を作ると死んじゃうと訴えた。
「! ご、ごめんっ! 大丈夫か?」
「だ、いじょ、ぶ」
 気管支に突然流れ込んでくる多くの空気。それに咽てケホケホと咳をすれば、虎君は物凄く慌てて背中を擦ってくれる。本当にごめん。と謝りながら。
「もぅ、ちゃんと力加減してよ」
「悪かった……」
 咳も治まり、呼吸もちゃんとできる。僕は苦しかったと苦笑しながらも、やっぱり虎君は大人の男の人なんだなって実感してちょっぴりドキドキした。
 そんな大人の男の人がしょんぼりと肩を下げて僕に謝ってる。それが堪らなく愛しくて、僕は思わず首を伸ばしてチュッと唇を奪ってしまう。
 虎君の驚いた顔は可愛くて、ますます好きになってしまう。
 僕は虎君に抱き着き、世界で一番安心できる場所でほぅっと息を吐いた。
「……びっくりした?」
「それは、何に対して……?」
「成長、遅すぎて。……みんなもっと前に大人になってるのに、僕だけがずっと子供のままだった……」
 当時は恥ずかしいなんて思ってなかった。本当に。でも、今思えば不安から目を逸らせていただけなのかもしれない。
 初めて口にした当時の不安。虎君は僕の髪を撫で、僕にちゃんと向き合ってくれた。ちゃんと本音で話をしてくれた。
「確かに、ちょっとビックリした、かな。俺は中学に上がる前に、まぁ、あったから……」
「茂斗も初等部の頃だったって言ってた」
「でもこれは早さを競う事じゃないし、成長してないわけでもない。そんな風に後ろめたく思う必要はない事だよ」
 恥ずかしいのに話してくれてありがとう。
 そう抱きしめてくれる虎君の声は穏やかでくすぐったい。僕は無言のまま首を横に振って、虎君に話してよかったと安心することができた。
「……葵」
「何……?」
「さっき、俺に『助けて』って言ったよな……?」
「? うん、言ったよ」
 何かに引っ掛かりを覚えたのか、虎君は僕を見下ろして確認してくる。
 僕は虎君が何を知りたいのか分からないものの、素直に頷き、認めた。虎君に助けて欲しかったよ。と。
 すると、虎君は僕の返答にカッと顔を赤らめ、狼狽えるように視線を逸らして……。
「そ、か……、そうか……」
「虎君?」
「いや、……ごめん、鼻血で出そう……」
「! だ、大丈夫?!」
 顔、真っ赤だし、逆上せちゃったのかな?
 僕は慌てて虎君から離れ、ティッシュを求めて机へと駆け寄った。
 ティッシュケースから2、3枚引っ張り掴むとそれを手に虎君の元へと戻る。すると虎君はティッシュを受け取りながらも鼻血はまだ出てないと苦笑いを見せていて……。
「本当? 氷か何か持って来ようか? 冷やした方がいいよね?」
「大丈夫だよ。……葵の意地悪にちょっと興奮しただけだから」
「僕の『意地悪』って……?」
 意地悪なんて言ってないよ? それに、『興奮』ってどういうこと……?
 意味が分からない僕は何度も瞬きを繰り返してしまう。
 すると虎君は僕の手を握ると身を屈めるように言ってきて、言われるがまましゃがむと虎君は僕の耳元に唇を寄せてきた。
 近くなる距離に、やっぱりドキドキしちゃう……。
「葵は、俺にして欲しいんだろ……?」
 セクシーな声で囁き問いかけられる。俺にやらしく触って欲しかったんだろ? と。
 僕はその問いかけに自分が気づいていなかった願望を突き付けられた気がしてとても恥ずかしかった。
 だって、虎君が言った通りだから。僕は、虎君に触れて欲しいと思ってる。虎君に気持ちよくして欲しいと願ってる……。
 こんなにも当たり前のように、そして無自覚なまでに、僕は虎君とエッチなことをしたいと思っている。
 その虎君に隠れた欲求を自覚させられて、今度は僕が顔を真っ赤にしてしまう。
「ち、ちがっ……」
「違うの?」
「! うぅ……、……ちがわない……」
 咄嗟に否定するも、虎君の真っ直ぐな眼差しに嘘を吐き通せない。
 僕は赤い顔のまま俯き、素直に認めた。虎君に触って欲しい……。と。
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