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恋しい人
恋しい人 第65話
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「それで、何が知りたいんだ?」
「斗弛弥さんから見て、僕って酷い奴だった……?」
心臓が凄くドキドキしてるって分かる。正直、聞かなければよかったと言ってすぐに後悔した。
でも、斗弛弥さんは嘘を吐かない人だから、斗弛弥さんにどうしても聞きたかった。ボロボロになった虎君を見て、僕をどう思ったか……。
「そうだな……。葵のことをどうこうっていうのは正直頭の片隅にも出てこなかったかな」
手を握り締めて俯く僕の頭を撫でてくる斗弛弥さんは、こればっかりはどうしようもないことだから仕方ないと思ったと笑った。
「心底惚れてるからといって、それが必ずしも報われるとは限らないだろう?」
「それは、そうだけど……」
「あいつも諦める覚悟はしてるとは言ってたしな」
「! そんなっ」
もう起こりえないことだと分かっているけど、でも、心臓が痛くなる。
虎君がそんな悲しい覚悟をしていたなんて、できることなら過去に戻って虎君が大好きだと伝えたいとさえ思った。
「昔の話だ。落ち着きなさい」
「ご、ごめんなさい……」
「……葵も随分惚れ込んでるんだな」
今はちゃんと虎君に想いが伝わっているから大丈夫。
そう自分に言い聞かせていれば、斗弛弥さんは僕を見て苦笑を漏らす。どうしてそんな笑い方をするのかと眉を顰めてしまうのは仕方ない。
斗弛弥さんは僕の不満を察したのか、「悪い悪い」と苦笑を濃くする。
「報われて本当によかったと思ってな」
「『よかった』ようには見えないです……」
「誤解させて悪かった。予想外に葵からの矢印が出ていて驚いただけだ」
それってつまり、僕の想いが予想以上に大きかったってこと?
僕は斗弛弥さんの誤解に思い切り顰め面をしてしまう。僕はこんなに虎君のことが大好きなのに酷い誤解だ!
「そんな可愛くない顔をするな。俺が悪かったから」
「だって斗弛弥さんが酷い勘違いしてるから!」
「正直、あいつの想いと同じ想いを葵が持つのはまだまだ先だと思っていたんだよ。……ごめんな?」
怒るな怒るなと僕を宥める斗弛弥さん。
僕は膨れ面のまま、虎君の想いと釣り合う想いを感じてもらえたか気になって確認してしまう。
斗弛弥さんから返ってくるのは、「充分だ」って言葉。
「……葵」
「なんですか?」
「あいつのこと、よろしく頼むな」
穏やかな声色で呼ばれた名前。そして、続けられた言葉。
斗弛弥さんにとって虎君は自分の子供同然の存在。いわば虎君のお父さん的存在だ。
そんな人からもらった言葉に、僕の胸は熱くなる。だって僕の想いを信じて託してくれたということだから。
「そんなに何度も頷くな。首がもげるぞ」
込み上げてくる熱いものを耐えて頷きを返せば、斗弛弥さんのそんな笑い声。
動きを止めればちょっぴりクラクラしちゃった。
「言っておくと、絃凉も弓も葵に同情していたぐらいだから何も心配することはないぞ?」
「! それ、どういうことですかっ!?」
一番気になっているのはそこだろう?
そう悪戯に笑う斗弛弥さん。僕は素直に頷き、虎君のお父さんとお母さんは僕のことを認めてくれているのかと詰め寄ってしまう。
「認めるも認めないも、あいつは葵じゃないとダメだろう?」
「僕だって虎君じゃないとダメですっ!」
「おい、今此処で張り合ってくるな。話が進まないだろうが」
話を進めなくていいのかと苦笑され、僕は話を進めて欲しいから余計なことを言わないように自分の口を両手で塞いだ。
「まとまる前は葵に恋人ができて虎が死ぬんじゃないか心配していたし、まとまった今は葵にフラれて虎が犯罪者にならないか心配してるぞ。二人とも」
「『犯罪者』って……。二人とも酷いです……」
「しかたないだろう? 二人は何度も虎と一緒に暮らそうとしたのにその度に『葵と離れたくない』って突っぱねられてたんだぞ。何があっても付いて行かないって拒否し続けられたら執着を心配するのは親として当然だと思うぞ」
虎君のお父さんとお母さんの『心配』に悲しくなる僕だけど、斗弛弥さんの言葉にうってかわって少し同情してしまった。
(僕、本当に虎君にずっとずっと大事にされてたんだ……)
当たり前だと思っていた『大好きなお兄ちゃん』という存在は、虎君の努力のおかげで『当たり前』だっただけなのだと知ることができた。
僕はそれが嬉しかった。
「斗弛弥さんから見て、僕って酷い奴だった……?」
心臓が凄くドキドキしてるって分かる。正直、聞かなければよかったと言ってすぐに後悔した。
でも、斗弛弥さんは嘘を吐かない人だから、斗弛弥さんにどうしても聞きたかった。ボロボロになった虎君を見て、僕をどう思ったか……。
「そうだな……。葵のことをどうこうっていうのは正直頭の片隅にも出てこなかったかな」
手を握り締めて俯く僕の頭を撫でてくる斗弛弥さんは、こればっかりはどうしようもないことだから仕方ないと思ったと笑った。
「心底惚れてるからといって、それが必ずしも報われるとは限らないだろう?」
「それは、そうだけど……」
「あいつも諦める覚悟はしてるとは言ってたしな」
「! そんなっ」
もう起こりえないことだと分かっているけど、でも、心臓が痛くなる。
虎君がそんな悲しい覚悟をしていたなんて、できることなら過去に戻って虎君が大好きだと伝えたいとさえ思った。
「昔の話だ。落ち着きなさい」
「ご、ごめんなさい……」
「……葵も随分惚れ込んでるんだな」
今はちゃんと虎君に想いが伝わっているから大丈夫。
そう自分に言い聞かせていれば、斗弛弥さんは僕を見て苦笑を漏らす。どうしてそんな笑い方をするのかと眉を顰めてしまうのは仕方ない。
斗弛弥さんは僕の不満を察したのか、「悪い悪い」と苦笑を濃くする。
「報われて本当によかったと思ってな」
「『よかった』ようには見えないです……」
「誤解させて悪かった。予想外に葵からの矢印が出ていて驚いただけだ」
それってつまり、僕の想いが予想以上に大きかったってこと?
僕は斗弛弥さんの誤解に思い切り顰め面をしてしまう。僕はこんなに虎君のことが大好きなのに酷い誤解だ!
「そんな可愛くない顔をするな。俺が悪かったから」
「だって斗弛弥さんが酷い勘違いしてるから!」
「正直、あいつの想いと同じ想いを葵が持つのはまだまだ先だと思っていたんだよ。……ごめんな?」
怒るな怒るなと僕を宥める斗弛弥さん。
僕は膨れ面のまま、虎君の想いと釣り合う想いを感じてもらえたか気になって確認してしまう。
斗弛弥さんから返ってくるのは、「充分だ」って言葉。
「……葵」
「なんですか?」
「あいつのこと、よろしく頼むな」
穏やかな声色で呼ばれた名前。そして、続けられた言葉。
斗弛弥さんにとって虎君は自分の子供同然の存在。いわば虎君のお父さん的存在だ。
そんな人からもらった言葉に、僕の胸は熱くなる。だって僕の想いを信じて託してくれたということだから。
「そんなに何度も頷くな。首がもげるぞ」
込み上げてくる熱いものを耐えて頷きを返せば、斗弛弥さんのそんな笑い声。
動きを止めればちょっぴりクラクラしちゃった。
「言っておくと、絃凉も弓も葵に同情していたぐらいだから何も心配することはないぞ?」
「! それ、どういうことですかっ!?」
一番気になっているのはそこだろう?
そう悪戯に笑う斗弛弥さん。僕は素直に頷き、虎君のお父さんとお母さんは僕のことを認めてくれているのかと詰め寄ってしまう。
「認めるも認めないも、あいつは葵じゃないとダメだろう?」
「僕だって虎君じゃないとダメですっ!」
「おい、今此処で張り合ってくるな。話が進まないだろうが」
話を進めなくていいのかと苦笑され、僕は話を進めて欲しいから余計なことを言わないように自分の口を両手で塞いだ。
「まとまる前は葵に恋人ができて虎が死ぬんじゃないか心配していたし、まとまった今は葵にフラれて虎が犯罪者にならないか心配してるぞ。二人とも」
「『犯罪者』って……。二人とも酷いです……」
「しかたないだろう? 二人は何度も虎と一緒に暮らそうとしたのにその度に『葵と離れたくない』って突っぱねられてたんだぞ。何があっても付いて行かないって拒否し続けられたら執着を心配するのは親として当然だと思うぞ」
虎君のお父さんとお母さんの『心配』に悲しくなる僕だけど、斗弛弥さんの言葉にうってかわって少し同情してしまった。
(僕、本当に虎君にずっとずっと大事にされてたんだ……)
当たり前だと思っていた『大好きなお兄ちゃん』という存在は、虎君の努力のおかげで『当たり前』だっただけなのだと知ることができた。
僕はそれが嬉しかった。
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