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恋しい人
恋しい人 第66話
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虎君に想いを馳せていた僕の耳に届く、カメラのシャッター音。その音に我に返れば斗弛弥さんが携帯をこちらに向けていて、どうやらまた写真を撮られてしまったようだ。
「何で撮るんですか」
「いや、講義に集中していないだろう馬鹿に送ってやろうかと思って」
軽快な指さばきで携帯を弄る斗弛弥さんは恐らく虎君に撮った写真を送ったのだろう。携帯をポケットに片づけると僕に視線を戻してきた。
何ですか? と思わず逃げ腰になっちゃうのは今日の斗弛弥さんが意地悪だからだ。
けど、斗弛弥さんが答えるよりも先にバイブ音が耳に届いて、斗弛弥さんは僕から視線を外して……。
「―――ぷっ」
「! どうしたんですかっ!?」
携帯を確認した斗弛弥さんが笑いを堪えず吹き出して、僕の興味は一気に傾く。だって斗弛弥さんが吹き出すなんて凄く珍しい事なんだもん!
前のめりになって喰いつく僕に斗弛弥さんは咳払いで笑いを誤魔化しながらも携帯を見せてくれた。
携帯はメッセージアプリが起動していて、『絃凉Jr.』と書かれた相手の名前。虎君とのやり取りだ。
僕は携帯を受け取るとやり取りを確認する。
其処にはさっき斗弛弥さんが撮った僕の写真と『お前のこと考えてる顔だぞ』ってメッセージが。これは斗弛弥さんが送ったものだ。
そしてその下には虎君からの返信があって、『見ないでくd』って明らかに途中送信しただろうメッセージ。そして更にその下に『次からは見学料貰いますから』ってメッセージが。
僕はそのメッセージに目を瞬かせてしまう。虎君が僕を想って独占欲を見せてくれていることは分かるんだけど、そもそもどうして独占欲を見せてくれたのか分からないからだ。
「本当に葵のことになるとアイツのIQは一桁に下がるな」
「え? どういうことですか??」
「『どういうこと』って、今見ただろう?」
返信を見なかったのかと確認されるも、見ても分からないから僕はキョトンとしてしまう。
すると斗弛弥さんは僕が分かっていないと察したのか、「アイツの苦労が目に浮かぶ……」と頭を抱えてみせる。
虎君の『苦労』って何!? って僕が慌ててしまうのはそれからすぐの事だ。
「虎は葵が可愛くて仕方ないんだよ。それこそ目に入れても痛くない程お前のことを猫可愛がりしてる」
「そ、それは、伝わってます、けど……」
「だから、そんな葵の『イイ顔』を他人に見せたくないってことだ。葵を子どもとしか見ていない俺にすらな」
これで分かったか?
そう続けらえる言葉に頷く僕だけど、その顔はきっと真っ赤だったに違いない。
(そっか。そっかぁ……。虎君のことを考えていた顔だから、他の人に見せちゃダメだったんだ……)
可愛い顔とかそうじゃないとか、そこは分からない。でも、虎君が僕のことを考えてくいる時の顔を、僕は他の人に見せたくない。
だからきっと虎君の『独占欲』もそういうことなんだろう。
僕のことをすぐに幸せにしちゃう虎君。
離れていてもこんなに幸せな気持ちにしてくれるなんて、虎君は本当は魔法使いなんじゃないかと思ってしまう。
(! 今の無し! 無し無し!!)
虎君を想っていたからか、あり得ないぐらい乙女思考な自分。
僕は我に返って首を振ると、虎君は理想の恋人! と自分自身に訂正を入れた。
「……大丈夫か?」
「全然大丈夫です!!」
「そ、そうか……」
食い気味に返事をすれば、僕の勢いに圧される斗弛弥さんという珍しい構図が。
でも今の僕はそれを認識する余裕なんてなくて、少女漫画のような乙女思考を知られたくないと斗弛弥さんに背を向けて熱くなった顔を冷ますように手で扇いだ。
「そろそろ授業が終わる時間だな。……藤原君、狸寝入りはもういいぞ」
「……寝ようと思ってたのに誰かさんが騒いで煩かったせいでしょ」
狸寝入りをするつもりなんてなかったのに……。
そう言って伸びをする慶史と目が合えば、「葵が先輩大好きなのはもう知ってるから」と誤魔化す前に釘を刺されてしまった。
居た堪れずに手を拱いて俯けば、斗弛弥さんに呼ばれた。
揶揄われるのかも? と身構えて振り返るも、先生に戻った斗弛弥さんはそんなことをするわけがない。
『柊先生』は僕に二枚の紙を手渡すと、サボった授業の担当教諭に渡すよう言ってきた。
手渡された紙を見れば『欠席届』と書かれていて、僕の名前が書かれた方には『体調不良』と、慶史の名前が書かれた方には『三谷君の付き添い』と書かれていた。
「これ……」
「ちゃんとサインもしたから怪しまれることはないはずだ。安心していい」
ただし、見逃すのはこの一回限りだぞ?
斗弛弥さんがそう言ったとほぼ同時に授業終了を告げるチャイムが鳴って、僕と慶史は仕事に戻る『柊先生』に追い出されるように保健室を後にした。
「何で撮るんですか」
「いや、講義に集中していないだろう馬鹿に送ってやろうかと思って」
軽快な指さばきで携帯を弄る斗弛弥さんは恐らく虎君に撮った写真を送ったのだろう。携帯をポケットに片づけると僕に視線を戻してきた。
何ですか? と思わず逃げ腰になっちゃうのは今日の斗弛弥さんが意地悪だからだ。
けど、斗弛弥さんが答えるよりも先にバイブ音が耳に届いて、斗弛弥さんは僕から視線を外して……。
「―――ぷっ」
「! どうしたんですかっ!?」
携帯を確認した斗弛弥さんが笑いを堪えず吹き出して、僕の興味は一気に傾く。だって斗弛弥さんが吹き出すなんて凄く珍しい事なんだもん!
前のめりになって喰いつく僕に斗弛弥さんは咳払いで笑いを誤魔化しながらも携帯を見せてくれた。
携帯はメッセージアプリが起動していて、『絃凉Jr.』と書かれた相手の名前。虎君とのやり取りだ。
僕は携帯を受け取るとやり取りを確認する。
其処にはさっき斗弛弥さんが撮った僕の写真と『お前のこと考えてる顔だぞ』ってメッセージが。これは斗弛弥さんが送ったものだ。
そしてその下には虎君からの返信があって、『見ないでくd』って明らかに途中送信しただろうメッセージ。そして更にその下に『次からは見学料貰いますから』ってメッセージが。
僕はそのメッセージに目を瞬かせてしまう。虎君が僕を想って独占欲を見せてくれていることは分かるんだけど、そもそもどうして独占欲を見せてくれたのか分からないからだ。
「本当に葵のことになるとアイツのIQは一桁に下がるな」
「え? どういうことですか??」
「『どういうこと』って、今見ただろう?」
返信を見なかったのかと確認されるも、見ても分からないから僕はキョトンとしてしまう。
すると斗弛弥さんは僕が分かっていないと察したのか、「アイツの苦労が目に浮かぶ……」と頭を抱えてみせる。
虎君の『苦労』って何!? って僕が慌ててしまうのはそれからすぐの事だ。
「虎は葵が可愛くて仕方ないんだよ。それこそ目に入れても痛くない程お前のことを猫可愛がりしてる」
「そ、それは、伝わってます、けど……」
「だから、そんな葵の『イイ顔』を他人に見せたくないってことだ。葵を子どもとしか見ていない俺にすらな」
これで分かったか?
そう続けらえる言葉に頷く僕だけど、その顔はきっと真っ赤だったに違いない。
(そっか。そっかぁ……。虎君のことを考えていた顔だから、他の人に見せちゃダメだったんだ……)
可愛い顔とかそうじゃないとか、そこは分からない。でも、虎君が僕のことを考えてくいる時の顔を、僕は他の人に見せたくない。
だからきっと虎君の『独占欲』もそういうことなんだろう。
僕のことをすぐに幸せにしちゃう虎君。
離れていてもこんなに幸せな気持ちにしてくれるなんて、虎君は本当は魔法使いなんじゃないかと思ってしまう。
(! 今の無し! 無し無し!!)
虎君を想っていたからか、あり得ないぐらい乙女思考な自分。
僕は我に返って首を振ると、虎君は理想の恋人! と自分自身に訂正を入れた。
「……大丈夫か?」
「全然大丈夫です!!」
「そ、そうか……」
食い気味に返事をすれば、僕の勢いに圧される斗弛弥さんという珍しい構図が。
でも今の僕はそれを認識する余裕なんてなくて、少女漫画のような乙女思考を知られたくないと斗弛弥さんに背を向けて熱くなった顔を冷ますように手で扇いだ。
「そろそろ授業が終わる時間だな。……藤原君、狸寝入りはもういいぞ」
「……寝ようと思ってたのに誰かさんが騒いで煩かったせいでしょ」
狸寝入りをするつもりなんてなかったのに……。
そう言って伸びをする慶史と目が合えば、「葵が先輩大好きなのはもう知ってるから」と誤魔化す前に釘を刺されてしまった。
居た堪れずに手を拱いて俯けば、斗弛弥さんに呼ばれた。
揶揄われるのかも? と身構えて振り返るも、先生に戻った斗弛弥さんはそんなことをするわけがない。
『柊先生』は僕に二枚の紙を手渡すと、サボった授業の担当教諭に渡すよう言ってきた。
手渡された紙を見れば『欠席届』と書かれていて、僕の名前が書かれた方には『体調不良』と、慶史の名前が書かれた方には『三谷君の付き添い』と書かれていた。
「これ……」
「ちゃんとサインもしたから怪しまれることはないはずだ。安心していい」
ただし、見逃すのはこの一回限りだぞ?
斗弛弥さんがそう言ったとほぼ同時に授業終了を告げるチャイムが鳴って、僕と慶史は仕事に戻る『柊先生』に追い出されるように保健室を後にした。
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