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恋しい人
恋しい人 第67話
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斗弛弥さんが用意してくれた欠席届のおかげで授業をサボったお説教は免れた。
けどそのかわりに体調を心配してくれる親友達に嘘を吐く羽目になってしまった。
「マモ、昼食べれるか?」
「気分が悪くなったらすぐに言ってね? お弁当も無理そうなら残してね?」
昼休みに入り、購買の袋を片手に駆け寄ってくる悠栖は開口一番に僕の体調を気遣ってくれる。
朋喜も辛いなら保健室で休むよう言ってくれて、本当、優しい友達を持ったと思う。
でもそんな優しい友達に僕は『体調が悪いっていうのは嘘だよ』と本当のことは言えず、二人の優しさに歯切れの悪い言葉で場を濁す。
するとそれを体調が悪いせいだと解釈した悠栖は、僕の手からお弁当を取り上げてしまう。
「悠栖?」
「弁当は俺が食べてやるからマモは休んでろ!」
「え、そんな、大丈夫だよ?」
むしろおなかが空いているから返して欲しい。
取り上げられたお弁当を求めて手を伸ばすも、悠栖は「ダメだ!」とそれを遠ざけて全然返してくれる気配がない。
(どうしよ……素直に体調不良は嘘だって言った方がいいかな……)
おなかが空き過ぎておなかが鳴りそうだ。
ごはんが食べたい僕は、物凄く悩んだ。本当のことを言ってしまおうか。と。
でも、本当のことを話すということは、斗弛弥さんが嘘の書類を作ったとバラすということ。それは流石に不味い気がする。
本当のことを隠してお弁当を取り戻すいい方法は何かないかと考えを巡らせる僕。
でも、おなかが空き過ぎて全然考えられない。このままではお弁当を食べ損ねそうだとちょっぴり泣きそうになってしまう。
すると、そんな僕を見兼ねて助け舟を出してくれるのは僕と同罪の慶史。
慶史は悠栖が僕から遠ざけていたお弁当を奪い取ると、怒る悠栖を他所にお弁当を僕に返してくれた。
「悠栖も朋喜も過保護すぎ。もう大丈夫だって言ったでしょ?」
「でも……」
「柊先生が大丈夫だって判断したんだから大丈夫だって。ね、葵」
笑顔で僕に話を振る慶史。その言葉に棘を感じてしまったのは、きっと慶史が斗弛弥さんのことを『敵』と認識してしまったからだろう。
(うーん……、僕はみんなに仲良くして欲しいだけなのになぁ……)
『みんな』と言いながら実際は慶史と虎君、だよね。
僕は今日帰ったら虎君に慶史にちゃんと謝って欲しいと伝えようと思った。
それで慶史の怒りが治まるとは思えないけど、まずは誠意を示さないとダメだと思ったから。
「三谷、本当に大丈夫なのか? 具合悪そうだけど」
「! あ、うん。大丈夫! ちょっと考え事してただけだから」
考え込んでいた僕の視界に入ってくる、姫神君の綺麗な顔。慶史達のおかげで随分慣れたと思っていたけど、一瞬女の子かと思ってしまった。
(昨日の今日じゃまだ慣れないか……)
ぼーっとしてたら朋喜のこともまだ勘違いしちゃうし、昨日知り合ったばかりの姫神君が相手なら仕方がないのかもしれない。
「そんなビビるなよ。取って喰ったりしないから」
「狂犬がよく言うよ」
「聞こえてるぞ、藤原」
僕の過剰反応に姫神君は苦笑い。
それに勘違いさせてしまったと慌てるんだけど、慶史の鼻で笑うような物言いに姫神君の意識は僕から離れたから訂正することができなかった。
「『狂犬』って……?」
「ああ、昨日の晩御飯の時に姫神君にちょっかい掛けた人がいてね……」
慶史の言葉の意味が分からない僕に、購買で買ってきたおにぎりを袋から出して並べていた朋喜が説明してくれる。
朋喜の話では、昨晩姫神君の容姿を茶化すような言葉で絡んできた同級生が悪ノリをし過ぎて姫神君本人に粛清されたらしい。
その粛清のしかたが明らかにやり過ぎだったらしく、早々に『狂犬』と二つ名が付いてしまったとのことだ。
「姫神君、何したの……?」
「別にちょっと窘めてやっただけだよ。こういうのは最初が肝心だろ?」
「相手のしといて『ちょっと』とか怖すぎるでしょ」
「あれって何? 合気道とかか?」
「いや、クラヴ・マガ」
「「『クラヴ・マガ』??」」
何それ? と首を傾げる悠栖と朋喜。そのシンクロした動きか可愛くて思わず笑みが零れてしまう。
けどそのかわりに体調を心配してくれる親友達に嘘を吐く羽目になってしまった。
「マモ、昼食べれるか?」
「気分が悪くなったらすぐに言ってね? お弁当も無理そうなら残してね?」
昼休みに入り、購買の袋を片手に駆け寄ってくる悠栖は開口一番に僕の体調を気遣ってくれる。
朋喜も辛いなら保健室で休むよう言ってくれて、本当、優しい友達を持ったと思う。
でもそんな優しい友達に僕は『体調が悪いっていうのは嘘だよ』と本当のことは言えず、二人の優しさに歯切れの悪い言葉で場を濁す。
するとそれを体調が悪いせいだと解釈した悠栖は、僕の手からお弁当を取り上げてしまう。
「悠栖?」
「弁当は俺が食べてやるからマモは休んでろ!」
「え、そんな、大丈夫だよ?」
むしろおなかが空いているから返して欲しい。
取り上げられたお弁当を求めて手を伸ばすも、悠栖は「ダメだ!」とそれを遠ざけて全然返してくれる気配がない。
(どうしよ……素直に体調不良は嘘だって言った方がいいかな……)
おなかが空き過ぎておなかが鳴りそうだ。
ごはんが食べたい僕は、物凄く悩んだ。本当のことを言ってしまおうか。と。
でも、本当のことを話すということは、斗弛弥さんが嘘の書類を作ったとバラすということ。それは流石に不味い気がする。
本当のことを隠してお弁当を取り戻すいい方法は何かないかと考えを巡らせる僕。
でも、おなかが空き過ぎて全然考えられない。このままではお弁当を食べ損ねそうだとちょっぴり泣きそうになってしまう。
すると、そんな僕を見兼ねて助け舟を出してくれるのは僕と同罪の慶史。
慶史は悠栖が僕から遠ざけていたお弁当を奪い取ると、怒る悠栖を他所にお弁当を僕に返してくれた。
「悠栖も朋喜も過保護すぎ。もう大丈夫だって言ったでしょ?」
「でも……」
「柊先生が大丈夫だって判断したんだから大丈夫だって。ね、葵」
笑顔で僕に話を振る慶史。その言葉に棘を感じてしまったのは、きっと慶史が斗弛弥さんのことを『敵』と認識してしまったからだろう。
(うーん……、僕はみんなに仲良くして欲しいだけなのになぁ……)
『みんな』と言いながら実際は慶史と虎君、だよね。
僕は今日帰ったら虎君に慶史にちゃんと謝って欲しいと伝えようと思った。
それで慶史の怒りが治まるとは思えないけど、まずは誠意を示さないとダメだと思ったから。
「三谷、本当に大丈夫なのか? 具合悪そうだけど」
「! あ、うん。大丈夫! ちょっと考え事してただけだから」
考え込んでいた僕の視界に入ってくる、姫神君の綺麗な顔。慶史達のおかげで随分慣れたと思っていたけど、一瞬女の子かと思ってしまった。
(昨日の今日じゃまだ慣れないか……)
ぼーっとしてたら朋喜のこともまだ勘違いしちゃうし、昨日知り合ったばかりの姫神君が相手なら仕方がないのかもしれない。
「そんなビビるなよ。取って喰ったりしないから」
「狂犬がよく言うよ」
「聞こえてるぞ、藤原」
僕の過剰反応に姫神君は苦笑い。
それに勘違いさせてしまったと慌てるんだけど、慶史の鼻で笑うような物言いに姫神君の意識は僕から離れたから訂正することができなかった。
「『狂犬』って……?」
「ああ、昨日の晩御飯の時に姫神君にちょっかい掛けた人がいてね……」
慶史の言葉の意味が分からない僕に、購買で買ってきたおにぎりを袋から出して並べていた朋喜が説明してくれる。
朋喜の話では、昨晩姫神君の容姿を茶化すような言葉で絡んできた同級生が悪ノリをし過ぎて姫神君本人に粛清されたらしい。
その粛清のしかたが明らかにやり過ぎだったらしく、早々に『狂犬』と二つ名が付いてしまったとのことだ。
「姫神君、何したの……?」
「別にちょっと窘めてやっただけだよ。こういうのは最初が肝心だろ?」
「相手のしといて『ちょっと』とか怖すぎるでしょ」
「あれって何? 合気道とかか?」
「いや、クラヴ・マガ」
「「『クラヴ・マガ』??」」
何それ? と首を傾げる悠栖と朋喜。そのシンクロした動きか可愛くて思わず笑みが零れてしまう。
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