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恋しい人
恋しい人 第96話
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「バカな誤解が解けてよかったよ。今後は葵に対する態度、改めろよ?」
「分かってるよ。……つーか、やっぱりキレてたか」
「当たり前だろうが。八つ当たりが過ぎるんだよ、お前は」
今後葵を悲しませたら俺も容赦しない。
そう続いた虎君の凄むような声に、僕はドキドキが止まらなくなる。
茂斗の辛辣な態度に怒ったり悲しんだりしていた僕を虎君はいつも笑顔で宥めてくれていたけど、本当はこんな風に僕のために怒ってくれていたのだ。嬉しいと思わないわけがない。
「分かったからそんな風に凄むなよ。こえぇよ」
怯えたような茂斗の声。
僕は緩む頬を引き締めるように二、三度叩くと早く虎君に逢いたくて堪らなくなった心のままドアノブに再び手を伸ばした。
「お待たせっ」
極力不自然じゃないように振る舞おうとするも、声が少し上擦った。
しまったと思いながらも誤魔化すように笑えば、驚いた表情をしてる虎君と茂斗の顔を見ることができた。
(や、やっぱり変だったかな……?)
テンションが高すぎた? と内心焦る僕。でも、虎君はふっと表情を和らげて「随分ゆっくりだったな」と僕の頬に手を伸ばしてきて、特に気にしている様子はなかった。
さっきまでのドキドキがぶり返したのか、僕を見つめる眼差しに、頬に触れる手に、隣に立っているはずの茂斗の存在が消えてしまう。
「髪がボサボサだぞ?」
「嘘? ちゃんと手で梳かしたのに……」
癖のない直毛のおかげでいつも手で数回梳かすだけで十分な僕の髪。虎君は笑いながら僕の髪を撫でるようにおそらく跳ねているだろう箇所を直してくれる。
僕は恥ずかしいと苦笑いを零してしまうけど、返ってくるのは愛しさに満ちた眼差しで……。
(そんな目で見ないでよ……)
虎君はどんな僕でも好きでいてくれると錯覚してしまいそうになるじゃない。
溢れてくる『大好き』のままついつい熱っぽい眼差しを向ければ、虎君は目尻を下げて身を屈めてくれる。
キスしてもらえる。
そう期待する僕は上を向いて目を閉じる。
でも、僕の中では消えた存在とはいえ茂斗はそこにちゃんといるから、「待て待て待て」と僕と虎君を引き剥がすように間に割って入ってきた。
「流れるようにいちゃつくな!」
「! 邪魔しないでよっ」
「うるせぇ! 兄弟のラブシーンなんて親のラブシーン以上に見たくねぇもんだからな!?」
こればっかりは止めさせてもらう!
そう言って虎君を睨む茂斗は交換条件だと声を荒げ、金輪際八つ当たりしない代わりにラブシーンを見せるなと言ってきた。
「親父のでも鳥肌もんなのに虎のまで追加してくれるな。頼むから」
「分かったよ。でも本当に今後八つ当たりするなよ? もし約束を反故した場合は―――」
「もし約束を破ったら好きなだけいちゃつけばいいさ」
「バカ言うな。なんでわざわざ葵の可愛い姿をお前に見せなきゃならないんだ。俺は『約束を破った場合は凪ちゃんに月一も会えないようにしてやる』って言おうとしたんだよ」
至極真面目な顔で……というか少しムッとした顔をして反論する虎君は、いかなる手段を用いても実行するから肝に銘じておけと茂斗を脅す。
いったいどうやって凪ちゃんの行動を制限する気なのかと疑問に思うも、茂斗はそんな疑問も思いつかない様子。
予想通り、怒りを露わに「そんなことしやがったら葵に近づけねぇーようにしてやる」って虎君の胸倉を掴んでいて、かなり怖い。
僕は茂斗を止めないとって思うんだけど、今不用意に触ったら怒りの矛先がこっちに向いて収拾がつかなくなりそうだ。
(僕に何かあったら虎君、絶対怒るもん)
本気で怒った虎君なんて見たことないけど、でも絶対僕には止めることができない。そして双子だけど茂斗もそうだ。二人が本気で喧嘩を始めたら、僕は父さんか陽琥さんに助けを求めるしか事態を収めることができなくなってしまう。
自分は今は何も動かない方が良いと分かってる。でも、分かっていてもオロオロはしてしまうと言うもので……。
「言っただろう? 『約束を反故した時は』って。茂斗が約束を破らなければいいだけの話だろ?」
そもそもそっちが先に条件を提示してきたんだろうが。
虎君は頭に血がのぼっている茂斗に対して冷静に言い聞かせる。お互いのために約束は守ろうな。と。
「――っ、兄貴面すんなっ」
「兄貴面はしてないけど、年上なんだから多少は仕方ないだろう?」
胸倉から手を放す茂斗。虎君は服の乱れを正し、僕に向き直ると下に降りようと促してきた。
「え……、でも……」
「大丈夫。茂斗はそこまでガキじゃないから。そうだよな?」
「お前本当にいい性格してんなっ」
笑顔の虎君に茂斗は顔を顰める。でも、それ以上は何も言わず、僕達を置いて先に歩き出してしまった。
「分かってるよ。……つーか、やっぱりキレてたか」
「当たり前だろうが。八つ当たりが過ぎるんだよ、お前は」
今後葵を悲しませたら俺も容赦しない。
そう続いた虎君の凄むような声に、僕はドキドキが止まらなくなる。
茂斗の辛辣な態度に怒ったり悲しんだりしていた僕を虎君はいつも笑顔で宥めてくれていたけど、本当はこんな風に僕のために怒ってくれていたのだ。嬉しいと思わないわけがない。
「分かったからそんな風に凄むなよ。こえぇよ」
怯えたような茂斗の声。
僕は緩む頬を引き締めるように二、三度叩くと早く虎君に逢いたくて堪らなくなった心のままドアノブに再び手を伸ばした。
「お待たせっ」
極力不自然じゃないように振る舞おうとするも、声が少し上擦った。
しまったと思いながらも誤魔化すように笑えば、驚いた表情をしてる虎君と茂斗の顔を見ることができた。
(や、やっぱり変だったかな……?)
テンションが高すぎた? と内心焦る僕。でも、虎君はふっと表情を和らげて「随分ゆっくりだったな」と僕の頬に手を伸ばしてきて、特に気にしている様子はなかった。
さっきまでのドキドキがぶり返したのか、僕を見つめる眼差しに、頬に触れる手に、隣に立っているはずの茂斗の存在が消えてしまう。
「髪がボサボサだぞ?」
「嘘? ちゃんと手で梳かしたのに……」
癖のない直毛のおかげでいつも手で数回梳かすだけで十分な僕の髪。虎君は笑いながら僕の髪を撫でるようにおそらく跳ねているだろう箇所を直してくれる。
僕は恥ずかしいと苦笑いを零してしまうけど、返ってくるのは愛しさに満ちた眼差しで……。
(そんな目で見ないでよ……)
虎君はどんな僕でも好きでいてくれると錯覚してしまいそうになるじゃない。
溢れてくる『大好き』のままついつい熱っぽい眼差しを向ければ、虎君は目尻を下げて身を屈めてくれる。
キスしてもらえる。
そう期待する僕は上を向いて目を閉じる。
でも、僕の中では消えた存在とはいえ茂斗はそこにちゃんといるから、「待て待て待て」と僕と虎君を引き剥がすように間に割って入ってきた。
「流れるようにいちゃつくな!」
「! 邪魔しないでよっ」
「うるせぇ! 兄弟のラブシーンなんて親のラブシーン以上に見たくねぇもんだからな!?」
こればっかりは止めさせてもらう!
そう言って虎君を睨む茂斗は交換条件だと声を荒げ、金輪際八つ当たりしない代わりにラブシーンを見せるなと言ってきた。
「親父のでも鳥肌もんなのに虎のまで追加してくれるな。頼むから」
「分かったよ。でも本当に今後八つ当たりするなよ? もし約束を反故した場合は―――」
「もし約束を破ったら好きなだけいちゃつけばいいさ」
「バカ言うな。なんでわざわざ葵の可愛い姿をお前に見せなきゃならないんだ。俺は『約束を破った場合は凪ちゃんに月一も会えないようにしてやる』って言おうとしたんだよ」
至極真面目な顔で……というか少しムッとした顔をして反論する虎君は、いかなる手段を用いても実行するから肝に銘じておけと茂斗を脅す。
いったいどうやって凪ちゃんの行動を制限する気なのかと疑問に思うも、茂斗はそんな疑問も思いつかない様子。
予想通り、怒りを露わに「そんなことしやがったら葵に近づけねぇーようにしてやる」って虎君の胸倉を掴んでいて、かなり怖い。
僕は茂斗を止めないとって思うんだけど、今不用意に触ったら怒りの矛先がこっちに向いて収拾がつかなくなりそうだ。
(僕に何かあったら虎君、絶対怒るもん)
本気で怒った虎君なんて見たことないけど、でも絶対僕には止めることができない。そして双子だけど茂斗もそうだ。二人が本気で喧嘩を始めたら、僕は父さんか陽琥さんに助けを求めるしか事態を収めることができなくなってしまう。
自分は今は何も動かない方が良いと分かってる。でも、分かっていてもオロオロはしてしまうと言うもので……。
「言っただろう? 『約束を反故した時は』って。茂斗が約束を破らなければいいだけの話だろ?」
そもそもそっちが先に条件を提示してきたんだろうが。
虎君は頭に血がのぼっている茂斗に対して冷静に言い聞かせる。お互いのために約束は守ろうな。と。
「――っ、兄貴面すんなっ」
「兄貴面はしてないけど、年上なんだから多少は仕方ないだろう?」
胸倉から手を放す茂斗。虎君は服の乱れを正し、僕に向き直ると下に降りようと促してきた。
「え……、でも……」
「大丈夫。茂斗はそこまでガキじゃないから。そうだよな?」
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