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恋しい人
恋しい人 第123話
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「僕がちーちゃんのおなか触ったから怒ってたの?」
「口に出して言わないで……。情けなくて死にそうになる」
分かってる。そこに恋愛感情がないってことは理解してる。でも、それでもめちゃくちゃ嫉妬して一瞬我を忘れた。
そう言って項垂れる虎君。僕はそんな虎君に「僕だけ?」と聞いてしまう。愛してるのは僕だけだよね? と。
「? 葵だけだよ? 当然だろ?」
僕の問いかけに虎君はそんな分かり切ったことを今更聞いてどうしたんだ? と首を傾げて見せる。
物凄く不思議そうなその表情に、虎君にとって僕だけを好きなことは本当に『当然のこと』なのだと伝わってくる。
「悠栖のこと、好きにならないでね……?」
不安が残っているわけじゃないけど、それでもこんな風に口に出してしまうのは未来が分からないから。昔も今も僕を愛してくれている虎君がこの先もずっとそうだという確証は誰にも分からないことだから……。
「え? なんで天野?」
「だって、……だって悠栖、虎君のこと好きになっちゃったみたいだから……」
ああ。友達の恋心をこんな風に暴露してしまうなんて僕って本当に性格が悪い。
もしかしたら虎君も同じように思ったかもしれない。でも、それでも想いが育つ前に僕は何とかしたかった。
自己中心的な考えに僕が視線を下げると、虎君は僕の頬を両手で包み込むとそのまま上を向かせ、そして……。
「んっ……」
押し付けられた唇にキスされたかと思ったら、そのままキスは舌を絡める濃厚なものに変わる。
僕は突然の出来事に思考が停止して、『友達の前で止めて』と抗うこともできず、虎君からのキスにうっとりと身を任せてしまった。
「あー……。えっと、俺、これ見てて良いやつ?」
「良いわけないだろうが」
「勝手に見せつけといてキレんなよ。流石に暴君すぎねぇ?」
唇を離す虎君は僕をぎゅっと抱きしめ、胸に埋める。
不機嫌な声でちーちゃんに「今すぐ記憶から消せ」と凄む虎君は、僕の可愛い顔を見ていいのは自分だけだと言い切って……。
「いや、俺だって従兄弟のそういう顔見たくなかったんだけど」
「だから記憶から消せって言ってるだろうが」
「消せって言われて消せるもんじゃねーだろ? 来須君ってまーが絡むと頭悪くなるよな」
いや、知ってたけど。
ちーちゃんはそう呆れ声を漏らすと小さく息を吐き、「萎えたし帰る」とそのまま僕達を通り過ぎた。
「あ。そうだ」
「なんだ。まだ用か?」
「そんな顔顰めんなよ、傷つくじゃん」
「煩い。さっさと用件を言え」
「恋愛脳なのはいいけど、ダチぐらい信用してやれよ。ってまーに言いたかっただけ」
あの馬鹿、ダチなんだろ? そう言ったちーちゃんの言葉に我に返った僕が顔を上げれば、慶史から受け取った上着を背負い、振り向かずに手を振るちーちゃんの後ろ姿が目に入った。
そして、僕達の様子を窺っている慶史達の姿も視界に入って……。
「あ……」
微妙な面持ちの慶史と姫神君。困ったように笑っている朋喜。そして、半泣きでいじけた様子の悠栖。
4人の姿に僕は慌てて虎君から身を放し、「ごめん」と謝った。
「ああ、俺達のこと見えてたんだ? 気にせずいちゃいちゃしてるから透明人間になったかと思ってたけど」
「もう、慶史君はそういう意地悪言わないの」
「いや……、今回は俺も藤原の肩持つぞ。流石に」
「やったー。姫神ゲットー」
完全に機嫌を損ねている慶史の笑顔は引き攣っていて、作り笑いすらできないぐらい呆れさせてしまったのかと僕は眉を下げる。
姫神君もこういうのは二度とごめんだと疲れ切っていて、ますます肩身が狭くなる。
「本当にごめん……」
「そんなに落ち込まないで、葵君。慶史君も姫神君も拗ねてるだけだから。ね?」
「拗ねてないしー」
「俺も拗ねてない」
「二人とも空気読んでよ!」
ツンとそっぽを向く慶史達に朋喜がいい加減にしなさいと怒り出す。
朋喜の優しさに涙が出そうだったけど、でもこれは僕の自業自得だから庇ってもらうわけにはいかないと言うものだ。
「口に出して言わないで……。情けなくて死にそうになる」
分かってる。そこに恋愛感情がないってことは理解してる。でも、それでもめちゃくちゃ嫉妬して一瞬我を忘れた。
そう言って項垂れる虎君。僕はそんな虎君に「僕だけ?」と聞いてしまう。愛してるのは僕だけだよね? と。
「? 葵だけだよ? 当然だろ?」
僕の問いかけに虎君はそんな分かり切ったことを今更聞いてどうしたんだ? と首を傾げて見せる。
物凄く不思議そうなその表情に、虎君にとって僕だけを好きなことは本当に『当然のこと』なのだと伝わってくる。
「悠栖のこと、好きにならないでね……?」
不安が残っているわけじゃないけど、それでもこんな風に口に出してしまうのは未来が分からないから。昔も今も僕を愛してくれている虎君がこの先もずっとそうだという確証は誰にも分からないことだから……。
「え? なんで天野?」
「だって、……だって悠栖、虎君のこと好きになっちゃったみたいだから……」
ああ。友達の恋心をこんな風に暴露してしまうなんて僕って本当に性格が悪い。
もしかしたら虎君も同じように思ったかもしれない。でも、それでも想いが育つ前に僕は何とかしたかった。
自己中心的な考えに僕が視線を下げると、虎君は僕の頬を両手で包み込むとそのまま上を向かせ、そして……。
「んっ……」
押し付けられた唇にキスされたかと思ったら、そのままキスは舌を絡める濃厚なものに変わる。
僕は突然の出来事に思考が停止して、『友達の前で止めて』と抗うこともできず、虎君からのキスにうっとりと身を任せてしまった。
「あー……。えっと、俺、これ見てて良いやつ?」
「良いわけないだろうが」
「勝手に見せつけといてキレんなよ。流石に暴君すぎねぇ?」
唇を離す虎君は僕をぎゅっと抱きしめ、胸に埋める。
不機嫌な声でちーちゃんに「今すぐ記憶から消せ」と凄む虎君は、僕の可愛い顔を見ていいのは自分だけだと言い切って……。
「いや、俺だって従兄弟のそういう顔見たくなかったんだけど」
「だから記憶から消せって言ってるだろうが」
「消せって言われて消せるもんじゃねーだろ? 来須君ってまーが絡むと頭悪くなるよな」
いや、知ってたけど。
ちーちゃんはそう呆れ声を漏らすと小さく息を吐き、「萎えたし帰る」とそのまま僕達を通り過ぎた。
「あ。そうだ」
「なんだ。まだ用か?」
「そんな顔顰めんなよ、傷つくじゃん」
「煩い。さっさと用件を言え」
「恋愛脳なのはいいけど、ダチぐらい信用してやれよ。ってまーに言いたかっただけ」
あの馬鹿、ダチなんだろ? そう言ったちーちゃんの言葉に我に返った僕が顔を上げれば、慶史から受け取った上着を背負い、振り向かずに手を振るちーちゃんの後ろ姿が目に入った。
そして、僕達の様子を窺っている慶史達の姿も視界に入って……。
「あ……」
微妙な面持ちの慶史と姫神君。困ったように笑っている朋喜。そして、半泣きでいじけた様子の悠栖。
4人の姿に僕は慌てて虎君から身を放し、「ごめん」と謝った。
「ああ、俺達のこと見えてたんだ? 気にせずいちゃいちゃしてるから透明人間になったかと思ってたけど」
「もう、慶史君はそういう意地悪言わないの」
「いや……、今回は俺も藤原の肩持つぞ。流石に」
「やったー。姫神ゲットー」
完全に機嫌を損ねている慶史の笑顔は引き攣っていて、作り笑いすらできないぐらい呆れさせてしまったのかと僕は眉を下げる。
姫神君もこういうのは二度とごめんだと疲れ切っていて、ますます肩身が狭くなる。
「本当にごめん……」
「そんなに落ち込まないで、葵君。慶史君も姫神君も拗ねてるだけだから。ね?」
「拗ねてないしー」
「俺も拗ねてない」
「二人とも空気読んでよ!」
ツンとそっぽを向く慶史達に朋喜がいい加減にしなさいと怒り出す。
朋喜の優しさに涙が出そうだったけど、でもこれは僕の自業自得だから庇ってもらうわけにはいかないと言うものだ。
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