特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第140話

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 お互い裸だから抱き合えば鮮明な温もりを感じる。僕は自分とは違う体温に物凄くドキドキしている自分を感じながら虎君とキスを交わす。
「葵は温かいな……」
「虎君も温かいよ……?」
「俺は興奮してるからだよ。……一度出したのに全然治まらないからな……」
 実物の破壊力は絶大だ。
 僕を見つめ頬を撫でてくる虎君は身体の奥底にまで響く低い声で告白を零す。それはとても嬉しいけど、とても恥ずかしいことだった。
「ずっとこうやって葵に触ることを考えてシてたけど、やっぱり妄想よりも現実が一番だってことだな」
「それって、僕のことを考えて、その、あの……」
「そうだよ。……ずっと葵のことを考えながらオナニーしてた」
 恥ずかしすぎて明確な言葉を口にできなかった僕に変わって耳元で囁く虎君はちょっぴり意地悪。
 唇を寄せたまま頭の中でもう何度も僕を抱いたと言葉を続けられたら、身体が期待にまたおかしくなってしまうのは当然だ。
「んっ……とらくん……」
「俺には葵だけだよ。……葵以外で反応したことなんて今まで一度もないから、浮気の心配はしなくていいからな?」
 オナニーしてる時はもちろん、夢精した時も葵の夢を見ていた。だから自分の想いを疑わないで欲しい。
 そう伝えてくれる虎君に、僕は恥ずかしさを耐えて僕も一緒だと伝えた。僕も虎君だけだよ。と。
「僕も虎君に触ってもらう夢、見てた……」
 何度か経験した夢精の際見ていた夢は、全部こうやって虎君と愛し合っている夢だった。
 最初に見たその夢で自分の気持ちに気づいたこともすべて話せば、虎君は驚いた顔を見せる。でも、驚いた顔の後、目じりを下げてとても愛しげに笑ってくれた。
「なら、夢と比べてどう……?」
「現実の方がずっとずっと幸せ。それに、ずっとずっと気持ちいぃ……」
「同感だ」
 愛してると口づけをくれる虎君の腕の中、伝わる虎君の熱に期待するなと言う方が無理な話だ。
(僕は男なのに、なんでこんなに虎君が欲しいって思うんだろ……)
 相手を求めるだけなら男性的な欲求と言えなくはない。
 でも僕が欲しているのは、虎君に抱かれること。虎君に抱かれ、愛を注がれること。それは男性的というよりもむしろ女性的な欲求で、もしも僕が女の子だったら虎君の赤ちゃんが欲しいと願っていただろう。
「僕、おかしいのかも……」
「葵?」
「虎君、お願い……はやく抱いて……」
 何故こんな欲を抱くのか分からない。自分は異常なのかもしれないと思うぐらい、虎君と愛し合いたくて堪らなかった。
 虎君は僕にキスを落としながら、さっきと同じように触ってくれる。愛してると何度も囁いてくれる。
 僕は虎君が触れるたび甘ったるい声を漏らし、もっと深く求めて欲しいと強請った。
 首筋に、胸元にキスを落とされ、熱を帯びた下肢を扱かれ、快楽に頭がおかしくなりそうだ。
「葵、葵っ」
 僕の名前を何度も呼んでくれる虎君の声はいつもよりもずっと苦し気。でもそれは本当に苦しいわけじゃないってちゃんと分かっているから、僕も虎君を呼び続けるんだ……。
(虎君のと僕のが擦れてきもちぃ……それに、一緒に気持ちよくなるって凄く幸せだ……)
 快楽に思考は鈍っている自覚はあるけど、さっきよりもまだ理性は残っているから虎君がくれる幸せを全身で感じることができる。
 僕は虎君の手の動きに身悶え嬌声を漏らしながら、僕に夢中になってくれている虎君を見つめ、身も心も満たされると切れ切れの声で伝えた。
「―――っ、ま、もるっ」
 虎君が大好きだと抱きしめれば虎君の身体がビクッと震え、下腹部から胸にかけて温かい液体が付着したのを感じた。それはきっと虎君の精液で、僕は弾んだ息のまま大好き人を呼んだ。
「っ、ごめんっ……、イった……」
「気持ちよかった……?」
「ああ……。凄く気持ちよかった……」
 ちゅっちゅっと頬にキスをくれる虎君は抱き合っていた身体を離し、拭くものを取ってくるとベッドを降りてしまう。
 夢見心地の僕はそれをぼんやりとした頭で見送りながらも自分の身体に放たれた虎君の『欲』に触れるように手を伸ばした。
「これが、虎君の……」
「! こら、何してるんだ」
 指でそれに触れて虎君の想いを実感していたら、怒られてしまう。汚いから触っちゃダメだろ。と。
 ティッシュボックスを手にベッドに戻ってきた虎君はなおも精液に触れている僕の手首を掴むと、お腹から引き剥がしてしまう。
「なんで怒るの? なんで触っちゃダメなの……?」
「汚いからに決まってるだろ?」
「汚くなんかないよ……?」
 虎君が気持ちよくなってくれて嬉しいと伝えれば、虎君は無言のまま僕の手を拭いて、お腹を拭いて虎君の『想い』を拭い去ってしまう。
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