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初めての人
初めての人 第33話
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「虎君は優しいだけじゃないし! ちゃんと僕のために怒ってくれるし、僕が間違った方向に進まないように導いてくれるし!!」
何も知らないのに悪く言わないで! と声を荒げて訴えれば、慶史は頭をポンポンと叩いて「分かったから落ち着いて」と苦笑交じりに僕を宥めてくる。
「……本当は、あの人が甘やかすだけじゃないってこと、ちゃんと理解してるよ」
「ならどうして意地悪言うのっ」
「だってあの人の愛、本当に糞重いんだもん。あんな重い愛情注がれ続けたらいつか絶対葵、しんどくなるし」
今は恋に恋して楽しい状態。相手の悪いところも好きだと言ってしまえるぐらい盲目になっているから平気だと言えるんだよ。
そう言った慶史は、気づいた時には手遅れだから心配してると笑った。それは意地悪な笑い顔じゃなくて、困ったような笑顔。心から僕のこの先を想い、心配していると伝わってきた……。
(そっか。姉さんと同じこと、心配してくれてるんだ……)
思い出すのは、以前姉さんに言われた言葉だ。
『虎を受け入れたら最後、この先他の誰かに心変わりしても虎から逃げられない』
生半可な気持ちで虎君を受け入れると後悔すると言った姉さんと同じことを、慶史は心配している。愛の重さに耐えきれなくなっても、逃げられないよ? って。
じっと僕を見つめる慶史の眼差しを見つめ返す僕は、そこにからかいや茶化す気持ちがないことを感じ取って笑う。大丈夫だよ。と。
「姉さんにも前に同じようなこと言われた」
「! そりゃ桔梗姉も心配するよね。俺以上にあの人の重さ、知ってるんだし」
「だから『重い』って言わないでよ。僕は全然そんな風に思ってないんだから」
そもそも『重い』と感じるのはバランスが取れていないからで、バランスが取れていたら『重い』なんて感じるわけがない。だって均衡が保たれているのだから。
だから僕は慶史に伝える。僕がみんなが言うように虎君の愛を『重い』と感じないのは盲目になっているからじゃなくて、負けず劣らず僕も『重い』からなんだよ。と。
「それは勘違いだよ。あの人がどれほど重い男が葵がまだ知らないだけ」
分かってもらえると思ってないけど聞き流せないから訂正するね。
そう苦笑を漏らす慶史に、僕が覚えるのは醜い感情だった。だって、まるで虎君のことは自分の方がよく理解しているって言われてるみたいなんだもん。
僕の虎君なのに知った顔しないでよ。なんて、そんな薄暗い心を隠しきれずついつい眉を顰めてしまう。
「おい、睨まれてるぞ」
「そんなこと言われなくても見れば分かるって」
「……僕は虎君がどれほど僕のことを大事に想ってくれてるか、他の誰よりもちゃんと知ってるもん……」
あんまり追い詰めてやるなと助け舟を出してくれる那鳥君だけど、「言いたいことはわかるけど」って慶史と同じ意見だと受け取れる言葉を続けるから僕はますます険しい顔になってしまう。
いくら慶史達でも恋人の僕よりも虎君を理解してる口ぶりで話を続けられるのは堪えられない。
虎君が恋しくて俯いてしまう僕。と、いつの間にか太ももの上でぎゅっと握りしめていた手に爪先まで綺麗に手入れされた白い手が重ねられた。
「ごめんね、葵君。そんな悲しい顔しないで? ……意地が悪いよ、慶史君。ちゃんと経緯話さずそういう言い方されたら誰だって気分が悪いって思うに決まってるでしょ?」
「だってぇー」
「『だって』じゃない。本当、いい加減にしないと葵君だって愛想尽かしちゃうんだからね」
行き過ぎたちょっかいだと慶史を窘めるのは朋喜で、怒られた慶史は肩を竦ませ渋々ながらも煽るような言い方をしたことを謝ってきた。
それは不本意と言わんばかりの謝罪。すると、僕よりも先に悠栖から「ちゃんと謝れよ」って呆れ口調で注意が飛んだ。
「マモがとられて寂しいのは分かるけど、それをマモにぶつけるのは違うだろうが」
「っ、わ、分かってるよ……。でも、でも二人も千景君から聞いただろっ」
「聞いたよ。そりゃ確かに『マジか』って思ったけど、『先輩だからな』って納得できたぞ。俺は」
「そうだね。むしろ僕はそんな風に想いを注げる相手がいるってことが羨ましいって思ったかな」
不貞腐れるような面持ちの慶史を子供だと揶揄する悠栖と僕のことが羨ましいと笑う朋喜は一体何を聞いたというのだろう……?
慶史といい、那鳥君といい、みんなちーちゃんが話した『何か』のせいでこんな風になっているということだけは分かった。
だから僕は突然寮に入ると決めたちーちゃんが連日いったい何を話していたのかとみんなの顔を見渡した。
「まさかちーちゃん、寮に入ってからずっと虎君の悪口言ってたの?」
虎君はちーちゃんにとって大切な幼馴染なはずなのに酷い!
そう顔を顰め、ちーちゃんに文句を言わないと! と鞄から携帯を取り出す僕。するとそれを悠栖と那鳥君が慌てて止めてきて、二人は奪った携帯を朋喜に渡して僕から遠ざけるように言った。
いくらなんでも二人がかりとか卑怯だ!!
「今ちー先輩が来たらややこしくなる!」
「マモが落ち着くまで絶対渡すなよ!?」
「えぇ……。これって僕が葵君に嫌われる役じゃない。そんなの嫌なんだけど」
恨めしく思いながら三人を睨んでいたら、朋喜は肩を竦ませると悠栖達を無視して僕に携帯を返してくれる。
当然、悠栖も那鳥君もそれを声を荒げ怒るんだけど、朋喜は満面の笑みを浮かべ「煩い」と二人を一蹴した。
「ひぃっ……」
「こ、こえぇ……」
朋喜の笑顔はとても綺麗で可愛い。でも、悠栖と那鳥君は怯えたように互いに身を寄せ合い、青ざめて震えていた。
何も知らないのに悪く言わないで! と声を荒げて訴えれば、慶史は頭をポンポンと叩いて「分かったから落ち着いて」と苦笑交じりに僕を宥めてくる。
「……本当は、あの人が甘やかすだけじゃないってこと、ちゃんと理解してるよ」
「ならどうして意地悪言うのっ」
「だってあの人の愛、本当に糞重いんだもん。あんな重い愛情注がれ続けたらいつか絶対葵、しんどくなるし」
今は恋に恋して楽しい状態。相手の悪いところも好きだと言ってしまえるぐらい盲目になっているから平気だと言えるんだよ。
そう言った慶史は、気づいた時には手遅れだから心配してると笑った。それは意地悪な笑い顔じゃなくて、困ったような笑顔。心から僕のこの先を想い、心配していると伝わってきた……。
(そっか。姉さんと同じこと、心配してくれてるんだ……)
思い出すのは、以前姉さんに言われた言葉だ。
『虎を受け入れたら最後、この先他の誰かに心変わりしても虎から逃げられない』
生半可な気持ちで虎君を受け入れると後悔すると言った姉さんと同じことを、慶史は心配している。愛の重さに耐えきれなくなっても、逃げられないよ? って。
じっと僕を見つめる慶史の眼差しを見つめ返す僕は、そこにからかいや茶化す気持ちがないことを感じ取って笑う。大丈夫だよ。と。
「姉さんにも前に同じようなこと言われた」
「! そりゃ桔梗姉も心配するよね。俺以上にあの人の重さ、知ってるんだし」
「だから『重い』って言わないでよ。僕は全然そんな風に思ってないんだから」
そもそも『重い』と感じるのはバランスが取れていないからで、バランスが取れていたら『重い』なんて感じるわけがない。だって均衡が保たれているのだから。
だから僕は慶史に伝える。僕がみんなが言うように虎君の愛を『重い』と感じないのは盲目になっているからじゃなくて、負けず劣らず僕も『重い』からなんだよ。と。
「それは勘違いだよ。あの人がどれほど重い男が葵がまだ知らないだけ」
分かってもらえると思ってないけど聞き流せないから訂正するね。
そう苦笑を漏らす慶史に、僕が覚えるのは醜い感情だった。だって、まるで虎君のことは自分の方がよく理解しているって言われてるみたいなんだもん。
僕の虎君なのに知った顔しないでよ。なんて、そんな薄暗い心を隠しきれずついつい眉を顰めてしまう。
「おい、睨まれてるぞ」
「そんなこと言われなくても見れば分かるって」
「……僕は虎君がどれほど僕のことを大事に想ってくれてるか、他の誰よりもちゃんと知ってるもん……」
あんまり追い詰めてやるなと助け舟を出してくれる那鳥君だけど、「言いたいことはわかるけど」って慶史と同じ意見だと受け取れる言葉を続けるから僕はますます険しい顔になってしまう。
いくら慶史達でも恋人の僕よりも虎君を理解してる口ぶりで話を続けられるのは堪えられない。
虎君が恋しくて俯いてしまう僕。と、いつの間にか太ももの上でぎゅっと握りしめていた手に爪先まで綺麗に手入れされた白い手が重ねられた。
「ごめんね、葵君。そんな悲しい顔しないで? ……意地が悪いよ、慶史君。ちゃんと経緯話さずそういう言い方されたら誰だって気分が悪いって思うに決まってるでしょ?」
「だってぇー」
「『だって』じゃない。本当、いい加減にしないと葵君だって愛想尽かしちゃうんだからね」
行き過ぎたちょっかいだと慶史を窘めるのは朋喜で、怒られた慶史は肩を竦ませ渋々ながらも煽るような言い方をしたことを謝ってきた。
それは不本意と言わんばかりの謝罪。すると、僕よりも先に悠栖から「ちゃんと謝れよ」って呆れ口調で注意が飛んだ。
「マモがとられて寂しいのは分かるけど、それをマモにぶつけるのは違うだろうが」
「っ、わ、分かってるよ……。でも、でも二人も千景君から聞いただろっ」
「聞いたよ。そりゃ確かに『マジか』って思ったけど、『先輩だからな』って納得できたぞ。俺は」
「そうだね。むしろ僕はそんな風に想いを注げる相手がいるってことが羨ましいって思ったかな」
不貞腐れるような面持ちの慶史を子供だと揶揄する悠栖と僕のことが羨ましいと笑う朋喜は一体何を聞いたというのだろう……?
慶史といい、那鳥君といい、みんなちーちゃんが話した『何か』のせいでこんな風になっているということだけは分かった。
だから僕は突然寮に入ると決めたちーちゃんが連日いったい何を話していたのかとみんなの顔を見渡した。
「まさかちーちゃん、寮に入ってからずっと虎君の悪口言ってたの?」
虎君はちーちゃんにとって大切な幼馴染なはずなのに酷い!
そう顔を顰め、ちーちゃんに文句を言わないと! と鞄から携帯を取り出す僕。するとそれを悠栖と那鳥君が慌てて止めてきて、二人は奪った携帯を朋喜に渡して僕から遠ざけるように言った。
いくらなんでも二人がかりとか卑怯だ!!
「今ちー先輩が来たらややこしくなる!」
「マモが落ち着くまで絶対渡すなよ!?」
「えぇ……。これって僕が葵君に嫌われる役じゃない。そんなの嫌なんだけど」
恨めしく思いながら三人を睨んでいたら、朋喜は肩を竦ませると悠栖達を無視して僕に携帯を返してくれる。
当然、悠栖も那鳥君もそれを声を荒げ怒るんだけど、朋喜は満面の笑みを浮かべ「煩い」と二人を一蹴した。
「ひぃっ……」
「こ、こえぇ……」
朋喜の笑顔はとても綺麗で可愛い。でも、悠栖と那鳥君は怯えたように互いに身を寄せ合い、青ざめて震えていた。
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