476 / 552
初めての人
初めての人 第34話
しおりを挟む
「人の顔見て怯えないでよね。まったく……。葵君、千景先輩はお兄さんの悪口なんて一言も言ってないから、怒ったりしないでね?」
みんな悪ノリが過ぎると呆れ返っている朋喜は僕に向き直り、ちーちゃんへの誤解を解くよう説明してくれる。
なんでも、クライストに編入してきて数か月経った今もほとんど知り合いが居ないちーちゃんは入寮してからは何かと理由をつけて慶史の部屋を訪れてくるらしい。
そして、何故か朋喜達もその場に高確率で居合わせていて、自然と話題は全員が知る人物のものになってしまって、よく僕や虎君の話をしているということだった。
「あ、もちろん毎回葵君やお兄さんの話をしているわけじゃないから、そこは安心して!」
「う、うん……。わ、かった……」
ちーちゃんのフォローをしてくれた朋喜は、隠れて話題に挙げられて僕が嫌な思いをしていないかも気遣ってくれる。本当、朋喜のこういうところ、気が利いて優しくてすごいと思う。
僕はさっきまでの勢いを落ち着かせ、素直に頷き、説明してくれてありがとうって朋喜の気遣いに感謝を伝えた。
「でも、本当にどうしてちーちゃんは寮に入ったんだろう? 話を聞く限りちーちゃんの知り合いって慶史だけなのに」
「俺『だけ』って。昔から思ってたけど、葵って千景君に辛辣だよね」
「え? なんで??」
苦笑を漏らす慶史の言葉にびっくりした。『辛辣』って、どこが? と。
僕は別にちーちゃんに辛く当たっている気なんて全くなかったから、慶史は僕のどの言動を見てそう感じたのだろうか?
「だって葵、千景君に友達いないって思ってるでしょ?」
「? いないから慶史の部屋に遊びに来てるんでしょ? それに、今までちーちゃんが『友達』と遊んでた記憶、ないし……」
ちーちゃんに関する記憶を手繰り寄せてみたけど、どの記憶でも、ちーちゃんの隣にはちーちゃんの弟である千早君ことはーちゃんがいるだけでそれ以外の人の姿は思い出すことができなかった。
「いやいや、千景君にも友達いるから」
「えぇ……? でもちーちゃん、はーちゃんとのこともあって初等部の頃からクラスメイトとも全く口きいてないし……」
「『はーちゃん』? それ誰? ちー先輩のダチ?」
「えっと、はーちゃんはちーちゃんの弟、だよ」
「弟って言っても、同い年の、だけどね」
初めて聞いた名前に興味を示す悠栖に当たり障りなく説明したんだけど、慶史からは隠すことじゃないでしょって呆れられてしまう。悠栖のことだから悪気無く話題に出すよ。と。
確かに悠栖は何も説明しなかったらちーちゃんに『弟』の話題を振りそうだ。
容易に想像できるその様に僕は苦笑いを零し、慶史が言った『同い年』の説明を付け加えた。
「ちーちゃんとはーちゃんは同い年の兄弟だけど、双子とかじゃなくて年子、なんだ」
「え? でも同い年なんだろ? 双子じゃなくて年子ってどういうこと?」
「お前は本当にバカだな。おい那鳥、説明」
「! なんで俺が」
「え? 分からなかったの? 学園創設以来の大天才様なのに?」
煽るような慶史の物言いに、わざとだと分かっていても那鳥君はムッとした様子。
そして、売られた喧嘩は買うと言わんばかりに『双子じゃなくて年子の同い年の兄弟』がどういう存在か雄弁に語ってくれた。分からないわけないだろうが。と。
「ちー先輩の誕生日は4月って聞いてる。つまり、その『はーちゃん』って弟の誕生日はたぶん3月なんだろ」
「マジか!」
「そう。そういうことだ」
「那鳥、お前なんでちー先輩の誕生日知ってるんだよ!?」
「! バカ! そこじゃない!!」
ズレたところに驚いている悠栖に少々激しい突っ込みを入れるのは朋喜だ。
言葉で攻めるタイプの朋喜にしては珍しく手が出てる。まぁ、気持ちはわかるけど。
「ってぇ。なんで殴るんだよ?」
「話が進まなくなるようなこと言うからでしょ! 千景先輩には一年経たずに産まれた弟さんがいるってこと! 分かった!?」
話題を発散させるなら黙ってて。
そう凄む朋喜の迫力に気圧された悠栖は自分の口を手で塞ぎ、何度も頷き『黙っている』と意思表示をする。
朋喜はそれに納得したのか疲れたと言わんばかりに大きく息を吐く。その後、落ち着いた朋喜は「それは色々からかわれそうだね」とちーちゃんの苦労に理解を示してくれた。
僕はそれに二人のやり取りも含めて苦笑しながらも頷き、当時のちーちゃんの荒れ具合を思い出してちょっぴり胸が痛くなった。
「善悪の区別がついてないガキのからかい程加減を知らないもんないよな」
「そー。弟の千早君はそういうの全部スルーしてたんだけど、千景君はあの性格だから全部反応しちゃって結果冷やかしがヒートアップしすぎて殴り合い――千景君の一方的な暴力って言った方がいいかな? まぁそこまで行っちゃったんだよね」
「! マジか」
「うん。骨を折ったり、頭を縫ったりした人もいて、かなり大事になっちゃったんだよね」
あの事件以来、ちーちゃんは友達を作らなくなった。そしてクラスメイトもちーちゃんを『乱暴者』と遠巻きにし、遠ざけた。
(だからちーちゃんには『友達』、いないんだよね)
はーちゃんや茂斗の話ではあの事件以外にも色々あったらしく、他人を遠ざけたちーちゃん。そしてそれは僕が知る限り今も続いているはずだ。
みんな悪ノリが過ぎると呆れ返っている朋喜は僕に向き直り、ちーちゃんへの誤解を解くよう説明してくれる。
なんでも、クライストに編入してきて数か月経った今もほとんど知り合いが居ないちーちゃんは入寮してからは何かと理由をつけて慶史の部屋を訪れてくるらしい。
そして、何故か朋喜達もその場に高確率で居合わせていて、自然と話題は全員が知る人物のものになってしまって、よく僕や虎君の話をしているということだった。
「あ、もちろん毎回葵君やお兄さんの話をしているわけじゃないから、そこは安心して!」
「う、うん……。わ、かった……」
ちーちゃんのフォローをしてくれた朋喜は、隠れて話題に挙げられて僕が嫌な思いをしていないかも気遣ってくれる。本当、朋喜のこういうところ、気が利いて優しくてすごいと思う。
僕はさっきまでの勢いを落ち着かせ、素直に頷き、説明してくれてありがとうって朋喜の気遣いに感謝を伝えた。
「でも、本当にどうしてちーちゃんは寮に入ったんだろう? 話を聞く限りちーちゃんの知り合いって慶史だけなのに」
「俺『だけ』って。昔から思ってたけど、葵って千景君に辛辣だよね」
「え? なんで??」
苦笑を漏らす慶史の言葉にびっくりした。『辛辣』って、どこが? と。
僕は別にちーちゃんに辛く当たっている気なんて全くなかったから、慶史は僕のどの言動を見てそう感じたのだろうか?
「だって葵、千景君に友達いないって思ってるでしょ?」
「? いないから慶史の部屋に遊びに来てるんでしょ? それに、今までちーちゃんが『友達』と遊んでた記憶、ないし……」
ちーちゃんに関する記憶を手繰り寄せてみたけど、どの記憶でも、ちーちゃんの隣にはちーちゃんの弟である千早君ことはーちゃんがいるだけでそれ以外の人の姿は思い出すことができなかった。
「いやいや、千景君にも友達いるから」
「えぇ……? でもちーちゃん、はーちゃんとのこともあって初等部の頃からクラスメイトとも全く口きいてないし……」
「『はーちゃん』? それ誰? ちー先輩のダチ?」
「えっと、はーちゃんはちーちゃんの弟、だよ」
「弟って言っても、同い年の、だけどね」
初めて聞いた名前に興味を示す悠栖に当たり障りなく説明したんだけど、慶史からは隠すことじゃないでしょって呆れられてしまう。悠栖のことだから悪気無く話題に出すよ。と。
確かに悠栖は何も説明しなかったらちーちゃんに『弟』の話題を振りそうだ。
容易に想像できるその様に僕は苦笑いを零し、慶史が言った『同い年』の説明を付け加えた。
「ちーちゃんとはーちゃんは同い年の兄弟だけど、双子とかじゃなくて年子、なんだ」
「え? でも同い年なんだろ? 双子じゃなくて年子ってどういうこと?」
「お前は本当にバカだな。おい那鳥、説明」
「! なんで俺が」
「え? 分からなかったの? 学園創設以来の大天才様なのに?」
煽るような慶史の物言いに、わざとだと分かっていても那鳥君はムッとした様子。
そして、売られた喧嘩は買うと言わんばかりに『双子じゃなくて年子の同い年の兄弟』がどういう存在か雄弁に語ってくれた。分からないわけないだろうが。と。
「ちー先輩の誕生日は4月って聞いてる。つまり、その『はーちゃん』って弟の誕生日はたぶん3月なんだろ」
「マジか!」
「そう。そういうことだ」
「那鳥、お前なんでちー先輩の誕生日知ってるんだよ!?」
「! バカ! そこじゃない!!」
ズレたところに驚いている悠栖に少々激しい突っ込みを入れるのは朋喜だ。
言葉で攻めるタイプの朋喜にしては珍しく手が出てる。まぁ、気持ちはわかるけど。
「ってぇ。なんで殴るんだよ?」
「話が進まなくなるようなこと言うからでしょ! 千景先輩には一年経たずに産まれた弟さんがいるってこと! 分かった!?」
話題を発散させるなら黙ってて。
そう凄む朋喜の迫力に気圧された悠栖は自分の口を手で塞ぎ、何度も頷き『黙っている』と意思表示をする。
朋喜はそれに納得したのか疲れたと言わんばかりに大きく息を吐く。その後、落ち着いた朋喜は「それは色々からかわれそうだね」とちーちゃんの苦労に理解を示してくれた。
僕はそれに二人のやり取りも含めて苦笑しながらも頷き、当時のちーちゃんの荒れ具合を思い出してちょっぴり胸が痛くなった。
「善悪の区別がついてないガキのからかい程加減を知らないもんないよな」
「そー。弟の千早君はそういうの全部スルーしてたんだけど、千景君はあの性格だから全部反応しちゃって結果冷やかしがヒートアップしすぎて殴り合い――千景君の一方的な暴力って言った方がいいかな? まぁそこまで行っちゃったんだよね」
「! マジか」
「うん。骨を折ったり、頭を縫ったりした人もいて、かなり大事になっちゃったんだよね」
あの事件以来、ちーちゃんは友達を作らなくなった。そしてクラスメイトもちーちゃんを『乱暴者』と遠巻きにし、遠ざけた。
(だからちーちゃんには『友達』、いないんだよね)
はーちゃんや茂斗の話ではあの事件以外にも色々あったらしく、他人を遠ざけたちーちゃん。そしてそれは僕が知る限り今も続いているはずだ。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる