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初めての人
初めての人 第57話
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「どういう意味だ?」
茂斗の意味不明な言葉を理解できなかったのはめのうと僕だけじゃなくて、虎君もだった。
それでも顔を顰めているのは、良くない話だと理解しているからだろうか?
「いや、藤原から届いてたメッセージが『虎君によろしく』って」
勝手に盗み見た僕宛のメッセージを口にする茂斗。本当、こういうところはいくら家族と言えどマナー違反だと思う!
僕が注意する意味も込めてそのメッセージの何が引っかかるのかと突っかかろうとしたその時、虎君が先に口を開いた。
「あのクソガキ……」
忌々しそうに吐き捨てる虎君を振り返れば、怒りのあまり頭痛がすると言っている。
(え? なんで? なんでそんなに怒ってるの?)
理由が分からない僕は慌てて慶史から届いているだろうメッセージの内容を確認するべくアプリを起動した。
(『ちゃんと追及した?』、『もしかして、俺をダシにイチャイチャしてる?』、『もしそうなら感謝してよね!』、『虎君にもくれぐれもよろしく言っといてね!』って、別に虎君が怒るような内容じゃないよね……?)
いや、慶史が『虎君』と呼ぶことが『嫌がらせ』になる理由を『追及』しないで欲しいと言われたから、追及するよう促してくる慶史のこのメッセージは確かに腹立たしいことかもしれない。
でも茂斗が口にしたのはそのメッセージじゃないから、怒ってる理由とは違う気がする。
いくら考えても分からない僕。
するとそんな僕を他所に茂斗は「全然休戦できてねぇーじゃん」と笑い声をあげている。
「でも、そうだよな。いくら休戦とはいえ、呼ばすわけねぇーよな」
「私はその話を聞いて虎のブレ無い態度に恐怖を感じるわ」
「いやぁ。でも長年死守してきたんだし、当然じゃね?」
茂斗は「藤原にバレたのは痛かったな」と虎君に同情を示し、姉さんは「葵の為に少しは譲歩しなさいよ」と虎君を窘める言葉を口にする。
どうやら二人はまた僕の知らない虎君の秘密を知っているようだ。
どんな理由があろうとも僕がそれを面白くないと思うのは当然。だって僕は虎君の恋人なんだから。
こういう子供じみた独占欲はよくないと分かっているけど、それでも虎君のことを僕だけ知らないなんて耐えられない。
僕は不機嫌を隠さず虎君を振り返り、「どういうこと?」と尋ねた。
「葵……。どうしても聞きたい……?」
「聞きたい」
困ったような表情に良心が痛む。追及して欲しくないと言っていた虎君を思い出し、それを無視して追及している自分が物凄く悪いことをしている気がしてしまった。
虎君は僕に秘密があることを知りながら、僕の心を優先して自分の我儘に蓋をしてくれているのに。
(でも、でも、みんな知ってるのに僕だけ知らないのはやっぱりヤダ……)
虎君のことは誰よりも理解していたい。茂斗にも姉さんにも、誰にも負けたくない……。
自分の感情を優先する横暴な自分が嫌い。『言わなくていいよ』と言ってあげられない我儘な自分が大嫌い。
「そんな顔しないで? ……葵のヤキモチは嬉しいって言ってるだろ?」
「虎君……」
「俺をそう呼ぶのは、葵だけなんだよ」
我儘を言っていいと言ってくれる虎君の優しさに泣きそうになっている僕の耳に届くのは、よく分からない説明だった。
虎君が何の話をしているのかすぐには理解できなくて「え?」と困惑を見せれば、虎君の表情はますます困ったようなものに変わった。
でも、ちゃんと僕に分かるように言葉を続けてくれる優しい虎君。
「俺を『虎君』って呼ぶのは、葵だけなんだよ」
「え……? そ、そんなことないよね……?」
頬に手を添えられ、愛しむように微笑みかけられたらドキドキしちゃう。
僕は自分が感じる程早く鼓動する心臓のリズムを感じながら僕以外にも『虎君』と呼ぶ人はいるでしょ? と尋ねた。
するとそんな僕の問いかけに応えるのは虎君ではなくて……。
「いねぇーよ。他人がそう呼ぼうとしてもなんだかんだ理由付けて違う呼び方させてた奴だぞ」
「昔そう呼んだクラスメイトの女の子に顰め面返して泣かしたことがあるって海斗君に聞いたことがあるわね」
「顰め面なんてしてない。俺はただよく知らない相手に名前を呼ばれる筋合いはないって言っただけだ」
「余計悪いわよ、それ」
「そもそも、葵はなんも疑問に思わなかったのか?」
「な、何を?」
茂斗はニヤニヤ笑いながら話を振ってくる。急に名前を呼ばれた僕はみんなの言葉を理解するだけで精一杯だ。
「俺や姉貴はともかく、めのうが『虎』って呼んでることをだよ」
「え? それは、めのうがまだ小さいから『虎君』って呼べないからでしょ……?」
「ちがうよ? めのう、ちゃんととらくんっていえるよ? あ! いっちゃった! ごめんなさい!」
『虎君』と呼ぶことができるとアピールした妹は、約束を破ってしまったと慌てて両手で口を塞いでみせた。
茂斗の意味不明な言葉を理解できなかったのはめのうと僕だけじゃなくて、虎君もだった。
それでも顔を顰めているのは、良くない話だと理解しているからだろうか?
「いや、藤原から届いてたメッセージが『虎君によろしく』って」
勝手に盗み見た僕宛のメッセージを口にする茂斗。本当、こういうところはいくら家族と言えどマナー違反だと思う!
僕が注意する意味も込めてそのメッセージの何が引っかかるのかと突っかかろうとしたその時、虎君が先に口を開いた。
「あのクソガキ……」
忌々しそうに吐き捨てる虎君を振り返れば、怒りのあまり頭痛がすると言っている。
(え? なんで? なんでそんなに怒ってるの?)
理由が分からない僕は慌てて慶史から届いているだろうメッセージの内容を確認するべくアプリを起動した。
(『ちゃんと追及した?』、『もしかして、俺をダシにイチャイチャしてる?』、『もしそうなら感謝してよね!』、『虎君にもくれぐれもよろしく言っといてね!』って、別に虎君が怒るような内容じゃないよね……?)
いや、慶史が『虎君』と呼ぶことが『嫌がらせ』になる理由を『追及』しないで欲しいと言われたから、追及するよう促してくる慶史のこのメッセージは確かに腹立たしいことかもしれない。
でも茂斗が口にしたのはそのメッセージじゃないから、怒ってる理由とは違う気がする。
いくら考えても分からない僕。
するとそんな僕を他所に茂斗は「全然休戦できてねぇーじゃん」と笑い声をあげている。
「でも、そうだよな。いくら休戦とはいえ、呼ばすわけねぇーよな」
「私はその話を聞いて虎のブレ無い態度に恐怖を感じるわ」
「いやぁ。でも長年死守してきたんだし、当然じゃね?」
茂斗は「藤原にバレたのは痛かったな」と虎君に同情を示し、姉さんは「葵の為に少しは譲歩しなさいよ」と虎君を窘める言葉を口にする。
どうやら二人はまた僕の知らない虎君の秘密を知っているようだ。
どんな理由があろうとも僕がそれを面白くないと思うのは当然。だって僕は虎君の恋人なんだから。
こういう子供じみた独占欲はよくないと分かっているけど、それでも虎君のことを僕だけ知らないなんて耐えられない。
僕は不機嫌を隠さず虎君を振り返り、「どういうこと?」と尋ねた。
「葵……。どうしても聞きたい……?」
「聞きたい」
困ったような表情に良心が痛む。追及して欲しくないと言っていた虎君を思い出し、それを無視して追及している自分が物凄く悪いことをしている気がしてしまった。
虎君は僕に秘密があることを知りながら、僕の心を優先して自分の我儘に蓋をしてくれているのに。
(でも、でも、みんな知ってるのに僕だけ知らないのはやっぱりヤダ……)
虎君のことは誰よりも理解していたい。茂斗にも姉さんにも、誰にも負けたくない……。
自分の感情を優先する横暴な自分が嫌い。『言わなくていいよ』と言ってあげられない我儘な自分が大嫌い。
「そんな顔しないで? ……葵のヤキモチは嬉しいって言ってるだろ?」
「虎君……」
「俺をそう呼ぶのは、葵だけなんだよ」
我儘を言っていいと言ってくれる虎君の優しさに泣きそうになっている僕の耳に届くのは、よく分からない説明だった。
虎君が何の話をしているのかすぐには理解できなくて「え?」と困惑を見せれば、虎君の表情はますます困ったようなものに変わった。
でも、ちゃんと僕に分かるように言葉を続けてくれる優しい虎君。
「俺を『虎君』って呼ぶのは、葵だけなんだよ」
「え……? そ、そんなことないよね……?」
頬に手を添えられ、愛しむように微笑みかけられたらドキドキしちゃう。
僕は自分が感じる程早く鼓動する心臓のリズムを感じながら僕以外にも『虎君』と呼ぶ人はいるでしょ? と尋ねた。
するとそんな僕の問いかけに応えるのは虎君ではなくて……。
「いねぇーよ。他人がそう呼ぼうとしてもなんだかんだ理由付けて違う呼び方させてた奴だぞ」
「昔そう呼んだクラスメイトの女の子に顰め面返して泣かしたことがあるって海斗君に聞いたことがあるわね」
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「余計悪いわよ、それ」
「そもそも、葵はなんも疑問に思わなかったのか?」
「な、何を?」
茂斗はニヤニヤ笑いながら話を振ってくる。急に名前を呼ばれた僕はみんなの言葉を理解するだけで精一杯だ。
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「え? それは、めのうがまだ小さいから『虎君』って呼べないからでしょ……?」
「ちがうよ? めのう、ちゃんととらくんっていえるよ? あ! いっちゃった! ごめんなさい!」
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