499 / 552
初めての人
初めての人 第57話
しおりを挟む
「どういう意味だ?」
茂斗の意味不明な言葉を理解できなかったのはめのうと僕だけじゃなくて、虎君もだった。
それでも顔を顰めているのは、良くない話だと理解しているからだろうか?
「いや、藤原から届いてたメッセージが『虎君によろしく』って」
勝手に盗み見た僕宛のメッセージを口にする茂斗。本当、こういうところはいくら家族と言えどマナー違反だと思う!
僕が注意する意味も込めてそのメッセージの何が引っかかるのかと突っかかろうとしたその時、虎君が先に口を開いた。
「あのクソガキ……」
忌々しそうに吐き捨てる虎君を振り返れば、怒りのあまり頭痛がすると言っている。
(え? なんで? なんでそんなに怒ってるの?)
理由が分からない僕は慌てて慶史から届いているだろうメッセージの内容を確認するべくアプリを起動した。
(『ちゃんと追及した?』、『もしかして、俺をダシにイチャイチャしてる?』、『もしそうなら感謝してよね!』、『虎君にもくれぐれもよろしく言っといてね!』って、別に虎君が怒るような内容じゃないよね……?)
いや、慶史が『虎君』と呼ぶことが『嫌がらせ』になる理由を『追及』しないで欲しいと言われたから、追及するよう促してくる慶史のこのメッセージは確かに腹立たしいことかもしれない。
でも茂斗が口にしたのはそのメッセージじゃないから、怒ってる理由とは違う気がする。
いくら考えても分からない僕。
するとそんな僕を他所に茂斗は「全然休戦できてねぇーじゃん」と笑い声をあげている。
「でも、そうだよな。いくら休戦とはいえ、呼ばすわけねぇーよな」
「私はその話を聞いて虎のブレ無い態度に恐怖を感じるわ」
「いやぁ。でも長年死守してきたんだし、当然じゃね?」
茂斗は「藤原にバレたのは痛かったな」と虎君に同情を示し、姉さんは「葵の為に少しは譲歩しなさいよ」と虎君を窘める言葉を口にする。
どうやら二人はまた僕の知らない虎君の秘密を知っているようだ。
どんな理由があろうとも僕がそれを面白くないと思うのは当然。だって僕は虎君の恋人なんだから。
こういう子供じみた独占欲はよくないと分かっているけど、それでも虎君のことを僕だけ知らないなんて耐えられない。
僕は不機嫌を隠さず虎君を振り返り、「どういうこと?」と尋ねた。
「葵……。どうしても聞きたい……?」
「聞きたい」
困ったような表情に良心が痛む。追及して欲しくないと言っていた虎君を思い出し、それを無視して追及している自分が物凄く悪いことをしている気がしてしまった。
虎君は僕に秘密があることを知りながら、僕の心を優先して自分の我儘に蓋をしてくれているのに。
(でも、でも、みんな知ってるのに僕だけ知らないのはやっぱりヤダ……)
虎君のことは誰よりも理解していたい。茂斗にも姉さんにも、誰にも負けたくない……。
自分の感情を優先する横暴な自分が嫌い。『言わなくていいよ』と言ってあげられない我儘な自分が大嫌い。
「そんな顔しないで? ……葵のヤキモチは嬉しいって言ってるだろ?」
「虎君……」
「俺をそう呼ぶのは、葵だけなんだよ」
我儘を言っていいと言ってくれる虎君の優しさに泣きそうになっている僕の耳に届くのは、よく分からない説明だった。
虎君が何の話をしているのかすぐには理解できなくて「え?」と困惑を見せれば、虎君の表情はますます困ったようなものに変わった。
でも、ちゃんと僕に分かるように言葉を続けてくれる優しい虎君。
「俺を『虎君』って呼ぶのは、葵だけなんだよ」
「え……? そ、そんなことないよね……?」
頬に手を添えられ、愛しむように微笑みかけられたらドキドキしちゃう。
僕は自分が感じる程早く鼓動する心臓のリズムを感じながら僕以外にも『虎君』と呼ぶ人はいるでしょ? と尋ねた。
するとそんな僕の問いかけに応えるのは虎君ではなくて……。
「いねぇーよ。他人がそう呼ぼうとしてもなんだかんだ理由付けて違う呼び方させてた奴だぞ」
「昔そう呼んだクラスメイトの女の子に顰め面返して泣かしたことがあるって海斗君に聞いたことがあるわね」
「顰め面なんてしてない。俺はただよく知らない相手に名前を呼ばれる筋合いはないって言っただけだ」
「余計悪いわよ、それ」
「そもそも、葵はなんも疑問に思わなかったのか?」
「な、何を?」
茂斗はニヤニヤ笑いながら話を振ってくる。急に名前を呼ばれた僕はみんなの言葉を理解するだけで精一杯だ。
「俺や姉貴はともかく、めのうが『虎』って呼んでることをだよ」
「え? それは、めのうがまだ小さいから『虎君』って呼べないからでしょ……?」
「ちがうよ? めのう、ちゃんととらくんっていえるよ? あ! いっちゃった! ごめんなさい!」
『虎君』と呼ぶことができるとアピールした妹は、約束を破ってしまったと慌てて両手で口を塞いでみせた。
茂斗の意味不明な言葉を理解できなかったのはめのうと僕だけじゃなくて、虎君もだった。
それでも顔を顰めているのは、良くない話だと理解しているからだろうか?
「いや、藤原から届いてたメッセージが『虎君によろしく』って」
勝手に盗み見た僕宛のメッセージを口にする茂斗。本当、こういうところはいくら家族と言えどマナー違反だと思う!
僕が注意する意味も込めてそのメッセージの何が引っかかるのかと突っかかろうとしたその時、虎君が先に口を開いた。
「あのクソガキ……」
忌々しそうに吐き捨てる虎君を振り返れば、怒りのあまり頭痛がすると言っている。
(え? なんで? なんでそんなに怒ってるの?)
理由が分からない僕は慌てて慶史から届いているだろうメッセージの内容を確認するべくアプリを起動した。
(『ちゃんと追及した?』、『もしかして、俺をダシにイチャイチャしてる?』、『もしそうなら感謝してよね!』、『虎君にもくれぐれもよろしく言っといてね!』って、別に虎君が怒るような内容じゃないよね……?)
いや、慶史が『虎君』と呼ぶことが『嫌がらせ』になる理由を『追及』しないで欲しいと言われたから、追及するよう促してくる慶史のこのメッセージは確かに腹立たしいことかもしれない。
でも茂斗が口にしたのはそのメッセージじゃないから、怒ってる理由とは違う気がする。
いくら考えても分からない僕。
するとそんな僕を他所に茂斗は「全然休戦できてねぇーじゃん」と笑い声をあげている。
「でも、そうだよな。いくら休戦とはいえ、呼ばすわけねぇーよな」
「私はその話を聞いて虎のブレ無い態度に恐怖を感じるわ」
「いやぁ。でも長年死守してきたんだし、当然じゃね?」
茂斗は「藤原にバレたのは痛かったな」と虎君に同情を示し、姉さんは「葵の為に少しは譲歩しなさいよ」と虎君を窘める言葉を口にする。
どうやら二人はまた僕の知らない虎君の秘密を知っているようだ。
どんな理由があろうとも僕がそれを面白くないと思うのは当然。だって僕は虎君の恋人なんだから。
こういう子供じみた独占欲はよくないと分かっているけど、それでも虎君のことを僕だけ知らないなんて耐えられない。
僕は不機嫌を隠さず虎君を振り返り、「どういうこと?」と尋ねた。
「葵……。どうしても聞きたい……?」
「聞きたい」
困ったような表情に良心が痛む。追及して欲しくないと言っていた虎君を思い出し、それを無視して追及している自分が物凄く悪いことをしている気がしてしまった。
虎君は僕に秘密があることを知りながら、僕の心を優先して自分の我儘に蓋をしてくれているのに。
(でも、でも、みんな知ってるのに僕だけ知らないのはやっぱりヤダ……)
虎君のことは誰よりも理解していたい。茂斗にも姉さんにも、誰にも負けたくない……。
自分の感情を優先する横暴な自分が嫌い。『言わなくていいよ』と言ってあげられない我儘な自分が大嫌い。
「そんな顔しないで? ……葵のヤキモチは嬉しいって言ってるだろ?」
「虎君……」
「俺をそう呼ぶのは、葵だけなんだよ」
我儘を言っていいと言ってくれる虎君の優しさに泣きそうになっている僕の耳に届くのは、よく分からない説明だった。
虎君が何の話をしているのかすぐには理解できなくて「え?」と困惑を見せれば、虎君の表情はますます困ったようなものに変わった。
でも、ちゃんと僕に分かるように言葉を続けてくれる優しい虎君。
「俺を『虎君』って呼ぶのは、葵だけなんだよ」
「え……? そ、そんなことないよね……?」
頬に手を添えられ、愛しむように微笑みかけられたらドキドキしちゃう。
僕は自分が感じる程早く鼓動する心臓のリズムを感じながら僕以外にも『虎君』と呼ぶ人はいるでしょ? と尋ねた。
するとそんな僕の問いかけに応えるのは虎君ではなくて……。
「いねぇーよ。他人がそう呼ぼうとしてもなんだかんだ理由付けて違う呼び方させてた奴だぞ」
「昔そう呼んだクラスメイトの女の子に顰め面返して泣かしたことがあるって海斗君に聞いたことがあるわね」
「顰め面なんてしてない。俺はただよく知らない相手に名前を呼ばれる筋合いはないって言っただけだ」
「余計悪いわよ、それ」
「そもそも、葵はなんも疑問に思わなかったのか?」
「な、何を?」
茂斗はニヤニヤ笑いながら話を振ってくる。急に名前を呼ばれた僕はみんなの言葉を理解するだけで精一杯だ。
「俺や姉貴はともかく、めのうが『虎』って呼んでることをだよ」
「え? それは、めのうがまだ小さいから『虎君』って呼べないからでしょ……?」
「ちがうよ? めのう、ちゃんととらくんっていえるよ? あ! いっちゃった! ごめんなさい!」
『虎君』と呼ぶことができるとアピールした妹は、約束を破ってしまったと慌てて両手で口を塞いでみせた。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる