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my treasure
my treasure 第11話
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茂は『大丈夫だ』と言ったが、本当だろうか?
いや、茂を疑っているわけではない。ただ、今更ながら今朝の自分の判断が間違っている気がしてならないのだ。
(無理させてまで登校させる必要なんてなかったよな? 俺が茂さん達に怒られたら済む話だったんだから)
後先考えずに愛し合って学校を休ませたら葵の両親から信用を失ってしまう。だから多少無理してでも学業を疎かにしてはならないと言い聞かせ、それを二人のためだと送り出した。
だがそれが己の保身に走った詭弁だったと虎は気づいてしまった。
葵のことを一番に考えたのならば、学校を休ませることが正しい判断だったはずだ。それなのに虎が出した結論は―――。
(俺は最低の恋人だ……)
葵だけが大切だと豪語しながら、結局は自分可愛さに一番大切な人を蔑ろにしてしまった。
虎はこんな自分が許せないと己に嫌悪を抱き、それを表情に露わにした。
「ねぇパパ、もしかして葵と虎って……」
「ん? ああ、葵の願い通り事が運んだみたいだ。昨日な」
「! 信じられない! なんで葵、学校に行ってるのよ!?」
意味深に笑った父の言葉に桔梗の怒りのボルテージは一気に最高潮に達したようで、虎の胸倉を掴み「あんた馬鹿なの!?」と言葉では形容できないほど恐ろしい形相で彼に凄んで見せた。
「昨日葵に無理させておいて放り出すって、あんたそれでも葵の彼氏なの!?」
「っ……」
「『葵が一番大切だ』って散々大口叩いといてどういう了見よ!?」
虎が自責していたことを口に出して責め立てる桔梗。
彼女は何一つ間違ったことを言っていないと己の非を認める虎は反論も抵抗もせず桔梗の怒りに身を任せ、むしろ愚かな判断をした自分を殴って欲しいとさえ思っていた。
そんな二人を制すのは保護者である茂だ。
「こらこら、俺の娘はいつからヤクザになったんだ?」
「! だってパパ! 虎が!!」
「桔梗の言い分は分かったから一旦落ち着きなさい。……虎も、その顔を葵が見たら泣かれるぞ?」
興奮冷めやらぬ娘を宥め、後悔に打ちひしがれる息子に喝を入れる茂。
二人はその声に言葉を詰まらせほぼ同時に視線を床に落とした。
「桔梗は先にリビングに戻ってなさい」
「なっ―――」
「桔梗」
「っ、わ、かった……」
父の表情は穏やかなものだ。しかし反論を許さない圧を感じさせる。
桔梗は表情こそ不満を露わにしているが聞き分ける言葉を口にした。言われた通りリビングに戻る桔梗はすれ違いざまに虎を睨みつけ、その目は『許さない』と言わんばかりだ。
視線に籠る殺気を感じ取った虎は己の手を握り締め、後悔に苛まれる。できることならば今朝に時間が戻って欲しいと願うほど。
「虎」
「すみません、茂さん……」
かけられる声に虎の肩がぴくっと反応する。しかし顔は俯いたままで、思いつめているようなその姿に「何に対する謝罪だ?」と茂から静かな声が続いた。
促される『説明』。だが虎は拳に更に力を籠めるだけで何も言わなかった。言えなかった。
葵を抱いたことに後悔はない。葵の身体を第一に考え学校を休ませなかった自分が全面的に悪いという事実も否定する気はない。
だが、謝罪する為に自分にとって唯一の想いを自分自身が否定しなければならないことが苦しくて言葉が出てこなかったのだ。
「お前以上に葵を愛してる奴は居ないと知ってるからそんな思い詰めるな」
「! ……あ、りがとうございます。……でも、俺は、……俺は……」
「分かるよ。相手のことを一番に考えれば今日は休ませるべきだったって自分を責めちまうよな?」
「っ、はい……」
心を見透かした茂の言葉に虎はより深く項垂れ、震える声で今一度謝罪の言葉を口にした。茂からは先と同じくそれが何に対する謝罪なのかと問われる。
虎は指が白くなる程手を強く握り唇を一度噛みしめ、そして『謝罪の真意』を言葉にする。
葵のことを第一に考えているべき自分が保身に走り誰よりも大切にしたい人を蔑ろにしてしまった。
こうやって口にすることで更に重く圧し掛かってくる『己の姿』に、虎はどうやっても今朝の自分を許すことができないでいた。
すると自己嫌悪のループから抜け出せない虎の耳に届くのは茂の笑い声。笑われると思っていなかった虎は目の前で愉快だと笑う男性の姿に困惑してしまう。
「し、茂さん……?」
「悪い悪い。でも、本当にお前は結城の血を引いてるのか疑いたくなるレベルで真面目だな」
思わず上げた顔に伸びてくる茂の手はそのまま虎の髪をぐしゃぐしゃとかき乱すように撫でてくる。
二人の身長差は大してないのだが、何故か小さな子供が大人に頭を撫でられているような幻覚が見えてしまいそうだった。
いや、茂を疑っているわけではない。ただ、今更ながら今朝の自分の判断が間違っている気がしてならないのだ。
(無理させてまで登校させる必要なんてなかったよな? 俺が茂さん達に怒られたら済む話だったんだから)
後先考えずに愛し合って学校を休ませたら葵の両親から信用を失ってしまう。だから多少無理してでも学業を疎かにしてはならないと言い聞かせ、それを二人のためだと送り出した。
だがそれが己の保身に走った詭弁だったと虎は気づいてしまった。
葵のことを一番に考えたのならば、学校を休ませることが正しい判断だったはずだ。それなのに虎が出した結論は―――。
(俺は最低の恋人だ……)
葵だけが大切だと豪語しながら、結局は自分可愛さに一番大切な人を蔑ろにしてしまった。
虎はこんな自分が許せないと己に嫌悪を抱き、それを表情に露わにした。
「ねぇパパ、もしかして葵と虎って……」
「ん? ああ、葵の願い通り事が運んだみたいだ。昨日な」
「! 信じられない! なんで葵、学校に行ってるのよ!?」
意味深に笑った父の言葉に桔梗の怒りのボルテージは一気に最高潮に達したようで、虎の胸倉を掴み「あんた馬鹿なの!?」と言葉では形容できないほど恐ろしい形相で彼に凄んで見せた。
「昨日葵に無理させておいて放り出すって、あんたそれでも葵の彼氏なの!?」
「っ……」
「『葵が一番大切だ』って散々大口叩いといてどういう了見よ!?」
虎が自責していたことを口に出して責め立てる桔梗。
彼女は何一つ間違ったことを言っていないと己の非を認める虎は反論も抵抗もせず桔梗の怒りに身を任せ、むしろ愚かな判断をした自分を殴って欲しいとさえ思っていた。
そんな二人を制すのは保護者である茂だ。
「こらこら、俺の娘はいつからヤクザになったんだ?」
「! だってパパ! 虎が!!」
「桔梗の言い分は分かったから一旦落ち着きなさい。……虎も、その顔を葵が見たら泣かれるぞ?」
興奮冷めやらぬ娘を宥め、後悔に打ちひしがれる息子に喝を入れる茂。
二人はその声に言葉を詰まらせほぼ同時に視線を床に落とした。
「桔梗は先にリビングに戻ってなさい」
「なっ―――」
「桔梗」
「っ、わ、かった……」
父の表情は穏やかなものだ。しかし反論を許さない圧を感じさせる。
桔梗は表情こそ不満を露わにしているが聞き分ける言葉を口にした。言われた通りリビングに戻る桔梗はすれ違いざまに虎を睨みつけ、その目は『許さない』と言わんばかりだ。
視線に籠る殺気を感じ取った虎は己の手を握り締め、後悔に苛まれる。できることならば今朝に時間が戻って欲しいと願うほど。
「虎」
「すみません、茂さん……」
かけられる声に虎の肩がぴくっと反応する。しかし顔は俯いたままで、思いつめているようなその姿に「何に対する謝罪だ?」と茂から静かな声が続いた。
促される『説明』。だが虎は拳に更に力を籠めるだけで何も言わなかった。言えなかった。
葵を抱いたことに後悔はない。葵の身体を第一に考え学校を休ませなかった自分が全面的に悪いという事実も否定する気はない。
だが、謝罪する為に自分にとって唯一の想いを自分自身が否定しなければならないことが苦しくて言葉が出てこなかったのだ。
「お前以上に葵を愛してる奴は居ないと知ってるからそんな思い詰めるな」
「! ……あ、りがとうございます。……でも、俺は、……俺は……」
「分かるよ。相手のことを一番に考えれば今日は休ませるべきだったって自分を責めちまうよな?」
「っ、はい……」
心を見透かした茂の言葉に虎はより深く項垂れ、震える声で今一度謝罪の言葉を口にした。茂からは先と同じくそれが何に対する謝罪なのかと問われる。
虎は指が白くなる程手を強く握り唇を一度噛みしめ、そして『謝罪の真意』を言葉にする。
葵のことを第一に考えているべき自分が保身に走り誰よりも大切にしたい人を蔑ろにしてしまった。
こうやって口にすることで更に重く圧し掛かってくる『己の姿』に、虎はどうやっても今朝の自分を許すことができないでいた。
すると自己嫌悪のループから抜け出せない虎の耳に届くのは茂の笑い声。笑われると思っていなかった虎は目の前で愉快だと笑う男性の姿に困惑してしまう。
「し、茂さん……?」
「悪い悪い。でも、本当にお前は結城の血を引いてるのか疑いたくなるレベルで真面目だな」
思わず上げた顔に伸びてくる茂の手はそのまま虎の髪をぐしゃぐしゃとかき乱すように撫でてくる。
二人の身長差は大してないのだが、何故か小さな子供が大人に頭を撫でられているような幻覚が見えてしまいそうだった。
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