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my treasure
my treasure 第17話
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「ちょっと茂さん!」
「人の性的嗜好に口出しするべきじゃないとは分かっているが、我が子が泣く未来は見たくないんだ。分かってくれるか?」
「いや! 分かるも何も、俺、別にマゾじゃないっすよ!?」
強要のような言葉になってすまないと詫びる年上の男性に全力否定する海音。茂と樹里斗はそれに大層驚いた顔をして見せた。
海音が被虐性愛者だと本気で信じていたと分かるその表情に海音は恐怖を一変させて虎を睨みつけた。
「どうしてくれるんだ! お前がことあるごとに力で解決しようとするからこんな誤解をされるんだぞ!」
「お前にデリカシーがないことがそもそもの原因だろうが。人のせいにするな」
「それ、お前にだけは言われたくねぇーよ!」
デリカシーも思いやりも母親の腹の中に置き忘れてきたのかと疑うレベルの性格をしているくせに!
そう言って応戦する海音に同じことを思っていたのか桔梗も「確かに虎は性格に難ありよね」と深く頷いて見せる。
味方を得たとばかりに「ほらみろ!」とふんぞり返る海音。
虎は二人の反応に眉を顰めた。
「俺は自分が偏った性格をしているときちんと自覚している。自覚のないお前らの方がどう考えても問題だろうが」
「! 『お前ら』って、私も入ってるの!?」
「俺の何処が偏った性格だって言うんだよ?」
一緒にしないでと喚く桔梗とちょっと騒がしいだけだと無自覚の海音。
二人の相手もいい加減面倒になってきた虎はわざと大袈裟にため息を吐くと茂と樹里斗に向き直り「騒いですみません」と頭を下げた。
「俺が居ると休まらないですよね? 今は家に帰って夕方また出直します」
虎が何故わざわざ夕方出直すと言ったかは聞く方が野暮だろう。
茂は苦笑交じりに「門限に間に合えばいい」と放課後は二人でゆっくり過ごすよう遠回しに勧めてくれる。
樹里斗はそんな夫に少し心配そうな表情を向けるが、葵がきっとそれを望むだろうと諭され、複雑な表情を見せながらも理解を示してくれる。
「そうね……。大好きな人の傍に居たいって、今は特にそう思うものよね……」
口ぶりからして樹里斗の経験談だろうか。
恋人と初めて愛し合った日は一層離れ難いと思うものだと物憂げに笑う女性の言葉に虎は無性に葵に会いたくなってしまう。
「今はもうそんな風に思わない?」
「! 兄さんの意地悪。本当は少しも離れたくないんだからね」
離れている時間はいつも寂しいし恋しいと拗ねた表情で呟く樹里斗はやはり少女のようだ。
(これで子供が4人もいてそのうち一人がもう成人してるとか、本当に外見詐欺だよな)
愛する人の本心を聞いた茂の表情は愛しみに満ちたものに変わり、決して自分達には向けられることのない笑みで樹里斗の頬を撫でる彼は「仕事に行きたくなくなるな」と優しい声を紡ぐ。
「それはダメ」
「分かってるよ。……でも、『ダメ』って言うならそんな悲しそうな顔しないでくれ」
責任ある立場だから仕事を投げ出すことは絶対にしない。だがそれでも仕事よりも何が、誰が大切か、分かっているだろう?
愛し気に妻を見つめる茂。樹里斗はそんな夫に恋焦がれるようなまなざしを向ける。
きっと二人はもう自分達の存在を忘れているに違いない。
夫婦としての二人に未だに慣れることができない虎は目のやり場に困って思わず後ろを振り返る。
すると同じく居た堪れないと言わんばかりに顔を背けている海音と呆れ顔の桔梗が目に入った。
「おい、顔」
「煩いわね。親のラブシーンを目の当りにしたら誰だってこうなるわよ」
両親が仲睦まじい。それは実に喜ばしいことだが、せめて我が子の前で睦まじい行為は控えてもらいたい。
親が男の、女の顔をしているところは正直見たくないと肩を竦ませる桔梗。それには確かにと納得する虎。
背後の様子を窺うように視線を戻せば、自分達の声の届かぬ世界に入っている二人の姿が。
(俺ですら居た堪れないんだ、そりゃ桔梗からすれば勘弁してくれって感じだよな)
もう随分顔を合わせていないが実の両親の、特に母の女の顔は見たくないと自分に置き換えて考えた虎は思わず身震いしてしまう。
記憶にある母の姿はどれも男勝りで、世間でもユニセックスなところが魅力だと言われている。
そんな母が、父の前では女の顔をしているかもしれない。
その様はすぐには想像できず、目の前の樹里斗の姿を元に何とか想像を巡らせ、結果鳥肌が立つような悪寒を感じてしまった。
(いや、そもそも母さんと樹里斗さんはタイプが違い過ぎる。これは当然の結果だ)
母に少女のような可憐さがあるとはとてもじゃないが思えない。
ベースイメージのチョイスを間違えたと一人ため息を吐く虎は目の前で盛り上がっている育ての両親に再び背を向け、当分続きそうな甘ったるい空間から逃げるべく一旦家に帰ると桔梗と海音に告げた。
「人の性的嗜好に口出しするべきじゃないとは分かっているが、我が子が泣く未来は見たくないんだ。分かってくれるか?」
「いや! 分かるも何も、俺、別にマゾじゃないっすよ!?」
強要のような言葉になってすまないと詫びる年上の男性に全力否定する海音。茂と樹里斗はそれに大層驚いた顔をして見せた。
海音が被虐性愛者だと本気で信じていたと分かるその表情に海音は恐怖を一変させて虎を睨みつけた。
「どうしてくれるんだ! お前がことあるごとに力で解決しようとするからこんな誤解をされるんだぞ!」
「お前にデリカシーがないことがそもそもの原因だろうが。人のせいにするな」
「それ、お前にだけは言われたくねぇーよ!」
デリカシーも思いやりも母親の腹の中に置き忘れてきたのかと疑うレベルの性格をしているくせに!
そう言って応戦する海音に同じことを思っていたのか桔梗も「確かに虎は性格に難ありよね」と深く頷いて見せる。
味方を得たとばかりに「ほらみろ!」とふんぞり返る海音。
虎は二人の反応に眉を顰めた。
「俺は自分が偏った性格をしているときちんと自覚している。自覚のないお前らの方がどう考えても問題だろうが」
「! 『お前ら』って、私も入ってるの!?」
「俺の何処が偏った性格だって言うんだよ?」
一緒にしないでと喚く桔梗とちょっと騒がしいだけだと無自覚の海音。
二人の相手もいい加減面倒になってきた虎はわざと大袈裟にため息を吐くと茂と樹里斗に向き直り「騒いですみません」と頭を下げた。
「俺が居ると休まらないですよね? 今は家に帰って夕方また出直します」
虎が何故わざわざ夕方出直すと言ったかは聞く方が野暮だろう。
茂は苦笑交じりに「門限に間に合えばいい」と放課後は二人でゆっくり過ごすよう遠回しに勧めてくれる。
樹里斗はそんな夫に少し心配そうな表情を向けるが、葵がきっとそれを望むだろうと諭され、複雑な表情を見せながらも理解を示してくれる。
「そうね……。大好きな人の傍に居たいって、今は特にそう思うものよね……」
口ぶりからして樹里斗の経験談だろうか。
恋人と初めて愛し合った日は一層離れ難いと思うものだと物憂げに笑う女性の言葉に虎は無性に葵に会いたくなってしまう。
「今はもうそんな風に思わない?」
「! 兄さんの意地悪。本当は少しも離れたくないんだからね」
離れている時間はいつも寂しいし恋しいと拗ねた表情で呟く樹里斗はやはり少女のようだ。
(これで子供が4人もいてそのうち一人がもう成人してるとか、本当に外見詐欺だよな)
愛する人の本心を聞いた茂の表情は愛しみに満ちたものに変わり、決して自分達には向けられることのない笑みで樹里斗の頬を撫でる彼は「仕事に行きたくなくなるな」と優しい声を紡ぐ。
「それはダメ」
「分かってるよ。……でも、『ダメ』って言うならそんな悲しそうな顔しないでくれ」
責任ある立場だから仕事を投げ出すことは絶対にしない。だがそれでも仕事よりも何が、誰が大切か、分かっているだろう?
愛し気に妻を見つめる茂。樹里斗はそんな夫に恋焦がれるようなまなざしを向ける。
きっと二人はもう自分達の存在を忘れているに違いない。
夫婦としての二人に未だに慣れることができない虎は目のやり場に困って思わず後ろを振り返る。
すると同じく居た堪れないと言わんばかりに顔を背けている海音と呆れ顔の桔梗が目に入った。
「おい、顔」
「煩いわね。親のラブシーンを目の当りにしたら誰だってこうなるわよ」
両親が仲睦まじい。それは実に喜ばしいことだが、せめて我が子の前で睦まじい行為は控えてもらいたい。
親が男の、女の顔をしているところは正直見たくないと肩を竦ませる桔梗。それには確かにと納得する虎。
背後の様子を窺うように視線を戻せば、自分達の声の届かぬ世界に入っている二人の姿が。
(俺ですら居た堪れないんだ、そりゃ桔梗からすれば勘弁してくれって感じだよな)
もう随分顔を合わせていないが実の両親の、特に母の女の顔は見たくないと自分に置き換えて考えた虎は思わず身震いしてしまう。
記憶にある母の姿はどれも男勝りで、世間でもユニセックスなところが魅力だと言われている。
そんな母が、父の前では女の顔をしているかもしれない。
その様はすぐには想像できず、目の前の樹里斗の姿を元に何とか想像を巡らせ、結果鳥肌が立つような悪寒を感じてしまった。
(いや、そもそも母さんと樹里斗さんはタイプが違い過ぎる。これは当然の結果だ)
母に少女のような可憐さがあるとはとてもじゃないが思えない。
ベースイメージのチョイスを間違えたと一人ため息を吐く虎は目の前で盛り上がっている育ての両親に再び背を向け、当分続きそうな甘ったるい空間から逃げるべく一旦家に帰ると桔梗と海音に告げた。
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