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my treasure
my treasure 第18話
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「それは狡くない?」
「別に狡くないだろうが。そもそもお前、特別俺に用があったわけじゃないんだろう?」
今自分が此処に居るのは桔梗からの呼び出しに応じたからでそれ以上の理由はない。
いや、本当はちょうどいい時間潰しだと思ったから応じただけなのだが、そこは伏せておこう。
「用がないなら俺が帰るのも当たり前だろう?」
「何その言い方。まるで私が呼んだからわざわざ来てくれたみたいに聞こえるんだけど」
流石幼馴染というべきか、桔梗には虎が今此処に居る意図等お見通しのようだ。恩着せがましい言い方だと恨めしそうな眼差しを向けられてしまった。
虎は肩を竦ませ、彼女の隣に立つ親友に視線を向けて「俺は邪魔だろう?」と尋ねた。
海音がわざわざ朝から訪ねてきた理由は桔梗と喜びを分かち合う為だ。『喜び』の内容に関しては頭を抱えたくなるものだったが、耳に入れない限りは無害だと割り切った虎は「ゆっくり語り合ってくれ」と二人の横を通り過ぎようとした。
しかし親友を祝いたい男がそれを見逃すわけもなく、「待て待て」とその腕を掴むと満面の笑みを向けてきた。
「お前の脱童貞を祝うためのサプライズ計画を立てに来たんだよ、俺は」
「『サプライズ』の意味を理解してないのか、お前は」
「してるしてる。でもどうせお前、もう察してるんだろ? ならサプライズにならないサプライズ計画を立てるより本人の希望を聞こうと思って」
笑顔で肩を組んでくる海音に虎は大きなため息を吐いた。
「分かった。俺の希望はたった一つだ。親友なら叶えてくれるよな?」
「! 当たり前じゃねーか! よし! なんだ? なんでも言ってくれ!! あ、でもあんまり高価な物は避けてくれると嬉しいかな!」
「大丈夫だ。金はかからない」
「なんだなんだ!?」
海音は興奮気味に『お祝い』のリクエストを聞いてくる。虎から『親友』と呼ばれてよほど嬉しかったのだろう。
桔梗は幼馴染がご主人様に尻尾を振ってじゃれる大型犬に見えると自身の目を擦ってしまう。
「二度とその手の妄想をするな」
「ん??」
「この下世話な話が葵の耳に少しでも入ったら俺は自分を抑える自信がないから覚悟しとけよ?」
端正な顔立ちをしている虎の微笑みは彼に想いを寄せる女の子じゃなくともトキメキを覚えてしまうほど破壊力がある。
虎を『兄』としてしか見ていない桔梗ですら少し落ち着かない心中になる程だ。まさにその笑顔は人の心を奪うと称するのがぴったりだった。
しかしそんな甘美な微笑みとは裏腹に言葉は物騒極まりない。むしろ笑顔が言葉の凶悪さを引き立てていると思われる。
(『偽物』だと、まぁそんなものよね)
幼馴染であるが故、虎の笑顔は見慣れたものだ。だからこそ桔梗は知っている。虎が見せる笑顔は大半が『造り物』だと。
きっとそれを本人に言えば心外だと反論されるだろう。他人相手ならまだしも、家族や友人達の前でわざわざ作り笑いなんてしないとかなんとか言いながら。
そんなやり取りを想像する桔梗は海音を絞めている虎を眺めて頭が良いのにこんな簡単なことも分からないなんて残念過ぎると若干の憐れみを覚えた。
(葵と一緒にいる虎を見たら何が『本物』かなんて誰でも分かるのに)
弟と一緒にいる兄の笑顔は、本当に優しくて穏やかでそれでいて幸せそうなものだ。それこそ『傍に居るだけで満たされる』と言葉なく伝わってくる。
その表情を一度でも見れば誰だって分かる。彼の心からの笑みはきっとこれなのだろう。と。
幼馴染として妹としてそれに少しの悔しさを覚える。だが、同時に心から良かったとも思うから、人の心とは複雑だ。
「本当、ブレないわね」
「何の話だ?」
「何でもない。ただの独り言。それより、海音君が落ちそうよ」
しみじみと兄の一途さを実感していれば訝しまれた。
目敏さに感心しながらも兄の腕の中で今にも意識を失いそうな幼馴染に助け舟を出してやれば、寸前で解放されてまた騒がしくなる。
暴力反対! とか、息ができなかったぞ! とか虎に文句を言ってる海音。
桔梗はそんな幼馴染に苦笑を漏らし、海音がこれからしたいだろう話題について言及した。
「海音君。海音君が嬉しいのは分かったけど、流石に今回の話は別の人として欲しいな」
「え!? なんで!?」
「兄弟のその手の話は聞きたくないものなの。それに男女でその手の話はあまりしないと思うし。だからごめんね」
話を聞きたくない理由をいくつか挙げて辞退を申し出れば、不満の声を漏らしながらも理解してくれた。
海音は基本良き『兄』だから、相手に無理強いしたりせず、きちんと意見や要望を聞き入れる柔軟さを持っている。
普段は頼りになる存在だと思っているからこそ、目の前で親友とじゃれつく姿のギャップに苦笑が濃くなってしまう。
「今後は女の子相手にその手の話題を振らない様に気を付けてね」
「ん。分かった。ごめんな?」
「ううん。海音君が虎のこと大好きなことは分かってるから大丈夫だよ。私こそ聞いてあげられなくてごめんね?」
他の女の子に同じ話題を振ろうものならセクハラだと非難されると桔梗から注意され、素直に聞き分ける海音は気を付けると苦笑を漏らした。
「別に狡くないだろうが。そもそもお前、特別俺に用があったわけじゃないんだろう?」
今自分が此処に居るのは桔梗からの呼び出しに応じたからでそれ以上の理由はない。
いや、本当はちょうどいい時間潰しだと思ったから応じただけなのだが、そこは伏せておこう。
「用がないなら俺が帰るのも当たり前だろう?」
「何その言い方。まるで私が呼んだからわざわざ来てくれたみたいに聞こえるんだけど」
流石幼馴染というべきか、桔梗には虎が今此処に居る意図等お見通しのようだ。恩着せがましい言い方だと恨めしそうな眼差しを向けられてしまった。
虎は肩を竦ませ、彼女の隣に立つ親友に視線を向けて「俺は邪魔だろう?」と尋ねた。
海音がわざわざ朝から訪ねてきた理由は桔梗と喜びを分かち合う為だ。『喜び』の内容に関しては頭を抱えたくなるものだったが、耳に入れない限りは無害だと割り切った虎は「ゆっくり語り合ってくれ」と二人の横を通り過ぎようとした。
しかし親友を祝いたい男がそれを見逃すわけもなく、「待て待て」とその腕を掴むと満面の笑みを向けてきた。
「お前の脱童貞を祝うためのサプライズ計画を立てに来たんだよ、俺は」
「『サプライズ』の意味を理解してないのか、お前は」
「してるしてる。でもどうせお前、もう察してるんだろ? ならサプライズにならないサプライズ計画を立てるより本人の希望を聞こうと思って」
笑顔で肩を組んでくる海音に虎は大きなため息を吐いた。
「分かった。俺の希望はたった一つだ。親友なら叶えてくれるよな?」
「! 当たり前じゃねーか! よし! なんだ? なんでも言ってくれ!! あ、でもあんまり高価な物は避けてくれると嬉しいかな!」
「大丈夫だ。金はかからない」
「なんだなんだ!?」
海音は興奮気味に『お祝い』のリクエストを聞いてくる。虎から『親友』と呼ばれてよほど嬉しかったのだろう。
桔梗は幼馴染がご主人様に尻尾を振ってじゃれる大型犬に見えると自身の目を擦ってしまう。
「二度とその手の妄想をするな」
「ん??」
「この下世話な話が葵の耳に少しでも入ったら俺は自分を抑える自信がないから覚悟しとけよ?」
端正な顔立ちをしている虎の微笑みは彼に想いを寄せる女の子じゃなくともトキメキを覚えてしまうほど破壊力がある。
虎を『兄』としてしか見ていない桔梗ですら少し落ち着かない心中になる程だ。まさにその笑顔は人の心を奪うと称するのがぴったりだった。
しかしそんな甘美な微笑みとは裏腹に言葉は物騒極まりない。むしろ笑顔が言葉の凶悪さを引き立てていると思われる。
(『偽物』だと、まぁそんなものよね)
幼馴染であるが故、虎の笑顔は見慣れたものだ。だからこそ桔梗は知っている。虎が見せる笑顔は大半が『造り物』だと。
きっとそれを本人に言えば心外だと反論されるだろう。他人相手ならまだしも、家族や友人達の前でわざわざ作り笑いなんてしないとかなんとか言いながら。
そんなやり取りを想像する桔梗は海音を絞めている虎を眺めて頭が良いのにこんな簡単なことも分からないなんて残念過ぎると若干の憐れみを覚えた。
(葵と一緒にいる虎を見たら何が『本物』かなんて誰でも分かるのに)
弟と一緒にいる兄の笑顔は、本当に優しくて穏やかでそれでいて幸せそうなものだ。それこそ『傍に居るだけで満たされる』と言葉なく伝わってくる。
その表情を一度でも見れば誰だって分かる。彼の心からの笑みはきっとこれなのだろう。と。
幼馴染として妹としてそれに少しの悔しさを覚える。だが、同時に心から良かったとも思うから、人の心とは複雑だ。
「本当、ブレないわね」
「何の話だ?」
「何でもない。ただの独り言。それより、海音君が落ちそうよ」
しみじみと兄の一途さを実感していれば訝しまれた。
目敏さに感心しながらも兄の腕の中で今にも意識を失いそうな幼馴染に助け舟を出してやれば、寸前で解放されてまた騒がしくなる。
暴力反対! とか、息ができなかったぞ! とか虎に文句を言ってる海音。
桔梗はそんな幼馴染に苦笑を漏らし、海音がこれからしたいだろう話題について言及した。
「海音君。海音君が嬉しいのは分かったけど、流石に今回の話は別の人として欲しいな」
「え!? なんで!?」
「兄弟のその手の話は聞きたくないものなの。それに男女でその手の話はあまりしないと思うし。だからごめんね」
話を聞きたくない理由をいくつか挙げて辞退を申し出れば、不満の声を漏らしながらも理解してくれた。
海音は基本良き『兄』だから、相手に無理強いしたりせず、きちんと意見や要望を聞き入れる柔軟さを持っている。
普段は頼りになる存在だと思っているからこそ、目の前で親友とじゃれつく姿のギャップに苦笑が濃くなってしまう。
「今後は女の子相手にその手の話題を振らない様に気を付けてね」
「ん。分かった。ごめんな?」
「ううん。海音君が虎のこと大好きなことは分かってるから大丈夫だよ。私こそ聞いてあげられなくてごめんね?」
他の女の子に同じ話題を振ろうものならセクハラだと非難されると桔梗から注意され、素直に聞き分ける海音は気を付けると苦笑を漏らした。
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