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my treasure
my treasure 第21話
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「お前ら、朝っぱらから勘弁しろよ……」
「悪い雲英、寝てたよな?」
「当たり前だろうが。今何時だと思ってる」
玄関先で寝起き丸出しの顔で海音と虎を出迎えたのはぼさぼさ髪の男で、彼――雲英はサイズの合って無いよれたスエット姿で大欠伸を見せた。
『朝っぱらから』というにはいささか時間が経ちすぎているが、夜の街でバーテンダーをしている雲英とってはまだ十分『早朝』になるようだ。
ふざけるなよと言いながら金髪を掻き毟ると雲英は連なる顔にわざとらしくため息を吐くととりあえず部屋に入れと踵を返した。
通路には脱ぎ捨てられたままの服と空のコンビニ弁当の容器が無造作に詰め込まれたゴミ袋が放置されていて、お世辞にも清潔とはいいがたい。
「お邪魔します」と遠慮気味に呟いて雲英の後ろをついて歩く海音。そしてその後ろには虎が続き、「ゴミぐらい捨てろよ」と呆れたと言いたげな声で家主のズボラな生活具合を窘めた。
「うるせぇ。文句があるなら帰れ」
「文句じゃなくてアドバイスだろ。夏場にゴミ放置とか虫が沸くぞ」
「洗ってあるから大丈夫だ。それにプラゴミの回収は来週だから仕方ないだろうが」
衣類はともかく、ゴミには気を付けていると返す雲英は先程まで自身が眠っていただろうベッドに腰を下ろすと枕元に置いた煙草へと手を伸ばした。
それを見た虎は眉を顰め、「窓を開けてもいいか?」と家主に尋ねた。
「はぁ? そんなことしたら冷気が逃げるだろうが」
9月とはいえまだまだ残暑厳しいこの時期は冷房無しで過ごすには無理がある。
当然雲英の家もエアコンが稼働しており、おかげで蒸し暑さとは無縁の快適な空間になっている。
それなのに虎はわざわざ窓を開けたいと言っており、無駄な電気代がかかると雲英から即座に却下されてしまった。
このクソ暑い中窓を開けて熱気を部屋に取り込もうとする神経が理解できないと言わんばかりの雲英。すると眉間の皺を濃くして難しい顔をしている虎の言動を海音が通訳し始めた。
「ごめん、雲英。アポなしで押しかけてきて勝手な事言ってるのは分かるけど、煙草吸うなら窓開けるとかして換気させてもらえると嬉しい」
「あぁ、そっか。お前ら二人とも吸わないんだっけ?」
「うん。俺も虎も煙草は吸ってない。わがまま言ってごめんな?」
「いや、吸ってないなら煙キツイってよく聞くし、別にいいよ。……ただ、お前は言葉が足りなすぎるぞ。海音に手間かけさせるなよ」
「喜んでるから問題ないだろ」
火を点けようとしていた雲英は煙草を元の場所に戻すと虎を指さし、「煙草が嫌なら嫌って言え!」と一喝する。
しかし虎は悪びれる様子もなく窓際の空いたスペースに座ると家主でもないのに部屋の入り口で突っ立ったままの海音に「座れば?」と促していた。
「お前のそのメンタルの強さ、やべぇな」
俺達、雲英に迷惑かけてる側だぞ?
そう苦笑する海音の言葉に虎は少し考える素振りを見せるとそのまま今度は雲英へと視線を移し、「本当に迷惑なら家に上げたりしないよな?」と返事はYES以外無いと確信している様子だった。
虎は今のこの状況を雲英が『迷惑だ』と思っているわけがないと知っている。しかし海音がそれを知らない理由も知っているから多少面倒でも小芝居を打つのだ。
(好きな人と過ごせるチャンスを棒に振る奴がいるわけないんだよ。まぁ海音は鈍いからその辺分からないだろうけど)
虎はこれまで生きてきて海音以上に恋愛面で疎い男には出会ったことがない。
海音は良く自分のことを『モテない』と、『彼氏にしたいと思われない』と悲観しているが、それは上辺しか見ていない女性とばかり付き合っているからだ。
皆に優しい彼の長所を『特別扱い』を求めて短所にしてしまうような相手と付き合うから自己肯定感が下がってしまうのだ。
海音の『親友』である虎はその恋愛遍歴を間近で見てきたわけだが、彼の歴代の恋人は全員『自己中女』でとてもじゃないが好感を持てる人物ではなかった。中には海音と付き合いながら虎にアプローチをかけてくる輩もいたから、女を見る目が無いと思ってしまうのも無理はない。
しかし、何が楽しいのか理解し難い男女のやり取りに巻き込まれている最中、いじらしい存在が居たことを虎は知っていた。
遠くから海音を見つめるだけの者もいれば、自分の友人が海音の恋人になったため無理して笑っている者もいた。
彼女達は海音が海音らしく過ごしていることに喜びを感じているようだったから、ああいった女性と付き合っていれば明後日の方向に勘違いもしなかっただろうにと親友を憐れに思う。
(でも全員『見てるだけ』で告白するつもりはなさそうだったし、言われなきゃこいつは絶対気づかないぐらい鈍いからある意味どっちも自業自得、か)
そんなことを考えながら虎が視線を雲英から海音に向けると「迷惑かけてないならいいんだけどさぁ……」とまだ多少遠慮を残しつつもベッドの近くにあった座椅子に腰を降ろす親友の姿を見ることができた。
(雲英の暑苦しい視線にも全く気付いてないんだよな、あのバカ)
いうなれば『恋する乙女』的な眼差しをしているアラサーの男を横目に、雲英を少しでも知っている人物なら誰だって気づくだろうにと虎は深い息を吐いた。
(『絶対に報われない片想い』か……)
雲英が『海音に想いを伝えるつもりはない』と言ったのはいつのことだっただろうか。過去を回想していれば、懐古のせいか少し胸が苦しくなった。
虎は深い息を繰り返し、乱れそうになる感情を戻そうと努めた。
これは記憶がもたらす痛みと悲しみであり、今それらを感じる必要はない。そう己に言い聞かせながらも一〇年を超える恋慕が記憶となって巡り、自分にとって唯一の人の笑顔が恋しくて堪らなくなる。
手を伸ばせば届く距離に居ながらも見てることしかできなかった日々も、何度も己に負けそうになりながらも募る想いを秘め続けた日々も、もう過去のこと。
今は、手を伸ばし抱きしめることができ、溢れる想いのまま愛おしさを伝えることができる。
そして、『幸せ』という言葉が無くとも幸福に満ちた笑みを浮かべ、愛しい人は背中に手を回してくれる……。
(葵に逢いたい……)
逢って、抱きしめて、キスをしたい。誰よりも愛していると伝え、この腕の中に閉じ込めてしまいたい。そしてこれは夢ではないのだと早く実感したかった。
「悪い雲英、寝てたよな?」
「当たり前だろうが。今何時だと思ってる」
玄関先で寝起き丸出しの顔で海音と虎を出迎えたのはぼさぼさ髪の男で、彼――雲英はサイズの合って無いよれたスエット姿で大欠伸を見せた。
『朝っぱらから』というにはいささか時間が経ちすぎているが、夜の街でバーテンダーをしている雲英とってはまだ十分『早朝』になるようだ。
ふざけるなよと言いながら金髪を掻き毟ると雲英は連なる顔にわざとらしくため息を吐くととりあえず部屋に入れと踵を返した。
通路には脱ぎ捨てられたままの服と空のコンビニ弁当の容器が無造作に詰め込まれたゴミ袋が放置されていて、お世辞にも清潔とはいいがたい。
「お邪魔します」と遠慮気味に呟いて雲英の後ろをついて歩く海音。そしてその後ろには虎が続き、「ゴミぐらい捨てろよ」と呆れたと言いたげな声で家主のズボラな生活具合を窘めた。
「うるせぇ。文句があるなら帰れ」
「文句じゃなくてアドバイスだろ。夏場にゴミ放置とか虫が沸くぞ」
「洗ってあるから大丈夫だ。それにプラゴミの回収は来週だから仕方ないだろうが」
衣類はともかく、ゴミには気を付けていると返す雲英は先程まで自身が眠っていただろうベッドに腰を下ろすと枕元に置いた煙草へと手を伸ばした。
それを見た虎は眉を顰め、「窓を開けてもいいか?」と家主に尋ねた。
「はぁ? そんなことしたら冷気が逃げるだろうが」
9月とはいえまだまだ残暑厳しいこの時期は冷房無しで過ごすには無理がある。
当然雲英の家もエアコンが稼働しており、おかげで蒸し暑さとは無縁の快適な空間になっている。
それなのに虎はわざわざ窓を開けたいと言っており、無駄な電気代がかかると雲英から即座に却下されてしまった。
このクソ暑い中窓を開けて熱気を部屋に取り込もうとする神経が理解できないと言わんばかりの雲英。すると眉間の皺を濃くして難しい顔をしている虎の言動を海音が通訳し始めた。
「ごめん、雲英。アポなしで押しかけてきて勝手な事言ってるのは分かるけど、煙草吸うなら窓開けるとかして換気させてもらえると嬉しい」
「あぁ、そっか。お前ら二人とも吸わないんだっけ?」
「うん。俺も虎も煙草は吸ってない。わがまま言ってごめんな?」
「いや、吸ってないなら煙キツイってよく聞くし、別にいいよ。……ただ、お前は言葉が足りなすぎるぞ。海音に手間かけさせるなよ」
「喜んでるから問題ないだろ」
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しかし虎は悪びれる様子もなく窓際の空いたスペースに座ると家主でもないのに部屋の入り口で突っ立ったままの海音に「座れば?」と促していた。
「お前のそのメンタルの強さ、やべぇな」
俺達、雲英に迷惑かけてる側だぞ?
そう苦笑する海音の言葉に虎は少し考える素振りを見せるとそのまま今度は雲英へと視線を移し、「本当に迷惑なら家に上げたりしないよな?」と返事はYES以外無いと確信している様子だった。
虎は今のこの状況を雲英が『迷惑だ』と思っているわけがないと知っている。しかし海音がそれを知らない理由も知っているから多少面倒でも小芝居を打つのだ。
(好きな人と過ごせるチャンスを棒に振る奴がいるわけないんだよ。まぁ海音は鈍いからその辺分からないだろうけど)
虎はこれまで生きてきて海音以上に恋愛面で疎い男には出会ったことがない。
海音は良く自分のことを『モテない』と、『彼氏にしたいと思われない』と悲観しているが、それは上辺しか見ていない女性とばかり付き合っているからだ。
皆に優しい彼の長所を『特別扱い』を求めて短所にしてしまうような相手と付き合うから自己肯定感が下がってしまうのだ。
海音の『親友』である虎はその恋愛遍歴を間近で見てきたわけだが、彼の歴代の恋人は全員『自己中女』でとてもじゃないが好感を持てる人物ではなかった。中には海音と付き合いながら虎にアプローチをかけてくる輩もいたから、女を見る目が無いと思ってしまうのも無理はない。
しかし、何が楽しいのか理解し難い男女のやり取りに巻き込まれている最中、いじらしい存在が居たことを虎は知っていた。
遠くから海音を見つめるだけの者もいれば、自分の友人が海音の恋人になったため無理して笑っている者もいた。
彼女達は海音が海音らしく過ごしていることに喜びを感じているようだったから、ああいった女性と付き合っていれば明後日の方向に勘違いもしなかっただろうにと親友を憐れに思う。
(でも全員『見てるだけ』で告白するつもりはなさそうだったし、言われなきゃこいつは絶対気づかないぐらい鈍いからある意味どっちも自業自得、か)
そんなことを考えながら虎が視線を雲英から海音に向けると「迷惑かけてないならいいんだけどさぁ……」とまだ多少遠慮を残しつつもベッドの近くにあった座椅子に腰を降ろす親友の姿を見ることができた。
(雲英の暑苦しい視線にも全く気付いてないんだよな、あのバカ)
いうなれば『恋する乙女』的な眼差しをしているアラサーの男を横目に、雲英を少しでも知っている人物なら誰だって気づくだろうにと虎は深い息を吐いた。
(『絶対に報われない片想い』か……)
雲英が『海音に想いを伝えるつもりはない』と言ったのはいつのことだっただろうか。過去を回想していれば、懐古のせいか少し胸が苦しくなった。
虎は深い息を繰り返し、乱れそうになる感情を戻そうと努めた。
これは記憶がもたらす痛みと悲しみであり、今それらを感じる必要はない。そう己に言い聞かせながらも一〇年を超える恋慕が記憶となって巡り、自分にとって唯一の人の笑顔が恋しくて堪らなくなる。
手を伸ばせば届く距離に居ながらも見てることしかできなかった日々も、何度も己に負けそうになりながらも募る想いを秘め続けた日々も、もう過去のこと。
今は、手を伸ばし抱きしめることができ、溢れる想いのまま愛おしさを伝えることができる。
そして、『幸せ』という言葉が無くとも幸福に満ちた笑みを浮かべ、愛しい人は背中に手を回してくれる……。
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