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my treasure
my treasure 第22話
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傍に居ない愛しい人へと想いを馳せていれば、何やら不穏な気配を感じる虎。考えるよりも先に意識を今に戻せば、眼前に何かが迫っていた。
「っ――、……危ないだろうが」
「完全に油断してたくせになんでキャッチできるんだよ」
「殺気を感じた」
「そこまで物騒な感情は篭めてない」
左手でいなすように払い掴んだのは枕だった。虎は煩わしそうな雰囲気を隠さず手にしたそれを床に投げ捨てる。
確実に当たったと思っていたのは枕を投げた張本人の雲英で、まさかこの距離で気づかれるなんて思ってもいなかったのだろう。
虎の危機察知能力と反射神経は相変わらず常人離れしていると感じた雲英は「こえぇ……」と身を守るように己を抱きしめ後ずさると壁へと上体を預けて大袈裟に怖がって見せた。
「本当、隙無いよな。長い付き合いだけど虎がぼーっとしてる所ほとんど見たことないわ、俺も」
「そういやあんまり気にしたことなかったけど、海音と虎ってつるんでどれぐらいなんだ?」
雲英のオーバーアクションに声を出して笑うのは海音で、特別気を張っているわけではなさそうなのに、と親友へと視線を向けた。
(つーか、虎が呆けてたのってあの時だけかも?)
海音が思い出す『あの時』とは、虎がベタ惚れしている恋人と付き合う前の一悶着。
今では笑い話にすることができるのだが、当時は本気で親友が衰弱死してしまうのではないかと心配したものだ。
「どれぐらいだろ……、少なくとも幼稚舎に入る前からだよな?」
「そうだな」
毎日幸せそうな親友の姿に自然と表情が明るくなる海音。
友達想いな彼が昔を懐かしむように親友に質問を投げれば、その親友は気のない返事をするだけで残念ながら海音の思いは一方通行のように見えた。
「虎さ、これ毎回言ってるけど、心配してくれる貴重な友達を邪険にするのはどうかと思うぞ」
「……邪険にしてるか?」
「いや、むしろ大分優しくなったと思う」
「だよな?」
雲英の注意に驚いた表情を見せる虎は本人に確認する。そして確認を受けた海音も苦言を呈す雲英に不思議そうな顔を見せていて、『邪険にされている』とは全く思っていないようだ。
それどころか、むしろめちゃくちゃ丸くなったと親友の変化を茶化していた。
「昔は言葉よりも先に殴ってきてしなぁ。って、思い返したらお前俺のこと殴り過ぎじゃね? そりゃ俺がドMとか誤解されるわ!」
「無視した方が良かったのか?」
「いや、普通に喋ろうぜ? 無視とかそれはそれで悲しいし!」
親友を大事にしろと喚いている海音と、適当に相手をしながら携帯を弄る虎。
雲英はそんな二人のやり取りを見ながら『これでノンケだから性質が悪い』と頭が痛くなった。勿論これは海音に対してだ。
「親友って言うより、むしろ兄弟みたいだな」
「冗談でも止めてくれ。全然笑えないから」
「俺もこんな手のかかる弟は嫌かなぁ。大体友達だから良いんだよ。虎は。兄弟だったら俺の人生こいつのフォローで終わりそうだし」
昔から一切ブレることなく葵以外に興味を示さなかった男の友好関係は控えめに言っても無に等しい。
親兄弟を経由した友人はかろうじているだろうが、自ら行動して得た友人はゼロのはずだ。
級友達はそんな虎を高嶺の花だと遠巻きにし、過ぎる孤高に反感を覚える者も少なくなかった。
海音はそんな不穏な空気を感じる度にお節介と言われようとも虎と級友達との仲が円滑に進むように尽力してきた。
友人としてですら手を焼いているのに、これがもし血の繋がった弟だったらと考えれば想像だけでも胃が痛くなるというものだ。
「なんで俺が弟なんだよ」
「だって俺の方が誕生日早いじゃん。だから俺の方が兄貴だろ?」
「……そうかよ」
何を当然のことを聞いてくるのかと言わんばかりにきょとんとしている海音。
虎は何か言いたげに口を開いたがそれを止め、一旦言葉を飲み込む素振りを見せた後『納得した』と会話を打ち切った。
海音はそれに特に何も感じていないのか理解してもらえたことに満足気。だが雲英の感想は海音とは異なっていて、二人の奇妙な関係に苦笑いを浮かべていた。
「今の絶対面倒になっただけだろ?」
「何の話か分からないな」
納得なんて微塵もしていないよな?
海音に気づかれないようそう指摘すれば顔色一つ変えずとぼけて見せる虎。息をするように人を欺く男を「可愛くない奴」と言ってしまうのは仕方ない。
「俺を『可愛い奴』と思ってたのか。やっぱり趣味が悪いな」
「一瞬たりとも思ったことねーよ。自惚れんな」
「そりゃ残念だ」
まったく感情の籠っていない返答は棒読みそのものだ。脊髄反射で返事をせずせめて一度頭で考えてから口に出せと雲英が呆れるのはそれからすぐのことだった。
「っ――、……危ないだろうが」
「完全に油断してたくせになんでキャッチできるんだよ」
「殺気を感じた」
「そこまで物騒な感情は篭めてない」
左手でいなすように払い掴んだのは枕だった。虎は煩わしそうな雰囲気を隠さず手にしたそれを床に投げ捨てる。
確実に当たったと思っていたのは枕を投げた張本人の雲英で、まさかこの距離で気づかれるなんて思ってもいなかったのだろう。
虎の危機察知能力と反射神経は相変わらず常人離れしていると感じた雲英は「こえぇ……」と身を守るように己を抱きしめ後ずさると壁へと上体を預けて大袈裟に怖がって見せた。
「本当、隙無いよな。長い付き合いだけど虎がぼーっとしてる所ほとんど見たことないわ、俺も」
「そういやあんまり気にしたことなかったけど、海音と虎ってつるんでどれぐらいなんだ?」
雲英のオーバーアクションに声を出して笑うのは海音で、特別気を張っているわけではなさそうなのに、と親友へと視線を向けた。
(つーか、虎が呆けてたのってあの時だけかも?)
海音が思い出す『あの時』とは、虎がベタ惚れしている恋人と付き合う前の一悶着。
今では笑い話にすることができるのだが、当時は本気で親友が衰弱死してしまうのではないかと心配したものだ。
「どれぐらいだろ……、少なくとも幼稚舎に入る前からだよな?」
「そうだな」
毎日幸せそうな親友の姿に自然と表情が明るくなる海音。
友達想いな彼が昔を懐かしむように親友に質問を投げれば、その親友は気のない返事をするだけで残念ながら海音の思いは一方通行のように見えた。
「虎さ、これ毎回言ってるけど、心配してくれる貴重な友達を邪険にするのはどうかと思うぞ」
「……邪険にしてるか?」
「いや、むしろ大分優しくなったと思う」
「だよな?」
雲英の注意に驚いた表情を見せる虎は本人に確認する。そして確認を受けた海音も苦言を呈す雲英に不思議そうな顔を見せていて、『邪険にされている』とは全く思っていないようだ。
それどころか、むしろめちゃくちゃ丸くなったと親友の変化を茶化していた。
「昔は言葉よりも先に殴ってきてしなぁ。って、思い返したらお前俺のこと殴り過ぎじゃね? そりゃ俺がドMとか誤解されるわ!」
「無視した方が良かったのか?」
「いや、普通に喋ろうぜ? 無視とかそれはそれで悲しいし!」
親友を大事にしろと喚いている海音と、適当に相手をしながら携帯を弄る虎。
雲英はそんな二人のやり取りを見ながら『これでノンケだから性質が悪い』と頭が痛くなった。勿論これは海音に対してだ。
「親友って言うより、むしろ兄弟みたいだな」
「冗談でも止めてくれ。全然笑えないから」
「俺もこんな手のかかる弟は嫌かなぁ。大体友達だから良いんだよ。虎は。兄弟だったら俺の人生こいつのフォローで終わりそうだし」
昔から一切ブレることなく葵以外に興味を示さなかった男の友好関係は控えめに言っても無に等しい。
親兄弟を経由した友人はかろうじているだろうが、自ら行動して得た友人はゼロのはずだ。
級友達はそんな虎を高嶺の花だと遠巻きにし、過ぎる孤高に反感を覚える者も少なくなかった。
海音はそんな不穏な空気を感じる度にお節介と言われようとも虎と級友達との仲が円滑に進むように尽力してきた。
友人としてですら手を焼いているのに、これがもし血の繋がった弟だったらと考えれば想像だけでも胃が痛くなるというものだ。
「なんで俺が弟なんだよ」
「だって俺の方が誕生日早いじゃん。だから俺の方が兄貴だろ?」
「……そうかよ」
何を当然のことを聞いてくるのかと言わんばかりにきょとんとしている海音。
虎は何か言いたげに口を開いたがそれを止め、一旦言葉を飲み込む素振りを見せた後『納得した』と会話を打ち切った。
海音はそれに特に何も感じていないのか理解してもらえたことに満足気。だが雲英の感想は海音とは異なっていて、二人の奇妙な関係に苦笑いを浮かべていた。
「今の絶対面倒になっただけだろ?」
「何の話か分からないな」
納得なんて微塵もしていないよな?
海音に気づかれないようそう指摘すれば顔色一つ変えずとぼけて見せる虎。息をするように人を欺く男を「可愛くない奴」と言ってしまうのは仕方ない。
「俺を『可愛い奴』と思ってたのか。やっぱり趣味が悪いな」
「一瞬たりとも思ったことねーよ。自惚れんな」
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